戦国異伝
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第二百十九話 九州に入りその四
その信忠は軍勢にだ、こう命じた。彼は信長の名代でもあるのでそうしたことも出来るのだ。
「よいか、整然としてじゃ」
「軍勢を並べ」
「そのうえで」
「島津家からの使者を迎えよ」
こう命じたのである。
「具足や武器の手入れもしてな」
「鉄砲も長槍も」
「それもですな」
「そうじゃ、無論これまで通り何も奪っても乱してもならぬ」
乱暴狼藉は禁じるというのだ。
「一銭でも盗めば、おなごの傘の中を覗いてもじゃ」
「その時は、ですな」
「これまで通り」
「その場で打ち首とする」
織田家の法度通りというのだ。
「わかっておるな」
「わかっております」
「そのこともまた」
「ではな」
「はい、義弘殿を」
「お迎えしましょうぞ」
こうしてだった、信忠も指示を出してだった。
義弘を迎える用意をした、ただ軍勢を整えただけでなくだ。
太宰府も払い清めた。その整った大宰府に入ってだった。
義弘は馬上においてだ、後ろにいる家臣達に言った。
「見事じゃな」
「はい、実に」
「恐ろしいまでの大軍ですな」
家臣達も義弘に答えた。
「武具もよく手入れされていますし」
「整然としております」
「数だけでなく」
「規律もよいですな」
「思った以上に」
「織田家は」
「噂は聞いておった」
義弘はこう言った。
「織田家の法は厳しくな」
「兵の一人一人がですな」
「一銭たりとも盗まない」
「若し一銭でも盗めば打ち首」
「それが織田家でしたな」
「そうじゃ、それは聞いておったが」
予想以上にというのだ。
「よく整っておるわ」
「数だけでなく」
「そうしたことまで」
「実にですな」
「整然とさえしていて」
「しかも鉄砲もな」
今度は武器を見た義弘だった。
「多いのう」
「三人に一人が持っていますな」
「相当な多さです」
「その割合は我等以上」
「相当ですな」
「うむ、しかも弓矢も見事でじゃ」
それも多かった、実に。
「槍も噂通り長いな」
「雄岳の長槍ですな」
「他の家のどの槍よりも長い」
「あの槍で敵を寄せ付けぬ」
「その長槍ですな」
「勿論当家の槍よりずっと長い」
義弘は一目でこのことも見抜いていた。
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