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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第118話 愛してくれて ありがとう



その光景は正に震天動地の言葉が相応しいと言える。
 まるでこの部屋はおろか、アインクラッドそのものが揺れているかの様な衝撃に見舞われていた。

 皆は、リュウキが劣勢の時は、体感時間はとても長く感じていた。だけど 彼の神業とも言える剣舞の時間はまさに一瞬の出来事だった。力強くも美しい、夜空に瞬く流星の輝きの様だった。

 最初こそは、その場にいる誰もが状況についていけない、頭が追いつかない状態だったが、だんだんと、解ってきた。

「……りゅうきくん?」

 爆煙が立ち上り、視界ははっきりしていなかったが。


――……判る。判った。彼が、勝ったんだ。


 レイナの頭の中ではそれらが浮かんでいた。リュウキが危険だった時は、本当に生きた心地がしなかったのに、今は違った。強烈な安堵感が押し寄せてきたのだ。


「……おまたせ」

 そして、聞こえた。声が……聞こえてきた。爆炎の砂埃の先から、愛しい人の声が。

「う……」

 その姿を見た瞬間、レイナの視界はぼやけた。そして、その表情も崩れてゆく。
 まだ、麻痺作用が効いているためか、その場から動けてなかったけれど、その呪縛も表情までは、縛る事はできない。

「……オレ、そんなに信用無かったかな……?」

 リュウキは、わざとらしく肩を落とすような仕草をした。もう、完全に姿が見えた。愛する人の顔が見えた。そして、傍にきてくれた。

「そんなわけないよ……。もう……体が動いたら、想いっきり抱きしめるのに……」

 レイナの目からは涙が零れ落ちていた。

「そっか……」

 リュウキの方から、傍にまで寄った。そして……震えているレイナを抱きしめる。レイナは……目を瞑り、リュウキが目の前にいるんだと……。心から感じていた。

「おいおい……いちゃいちゃはその辺にしておけよ?」

 直ぐ傍で動けなくなっていたキリトは否応でもその姿を見てしまうから思わずそう言っていた。

「あははっ……私達も負けてられないね……?」

 アスナは、最愛の妹の姿を見て、レイナとリュウキの姿を見て。……幸せそうなその姿を見て、思わず、微笑んでいた。

「ははは……」

 キリトも同様だったようだ。本当に微笑ましい。
 自分もアスナと一緒にいる時、恥ずかしいとは思えるかもしれないが、こう、あれば良いと思っていた。

「へ……へへっ……。けぇぇ~~っ!」

 クラインは、毒吐きそうな表情だったが……。直ぐに微笑む。勇者は戦った後、戦いに勝利した後。お姫様の抱擁を得るのは当然の権利。……その為に戦ったのだから。

「終わったんだな……。本当に大した奴だ」

 エギルも、2人を見たら、こそばゆいモノがあるけれど、微笑ましく……笑っていた。
 現実感がない、だけど それだけの事をしたんだから。

「ねぇ? リュウキ君。」
「ん?」

 リュウキは彼女の体を抱き起こしていた。

「これで……帰れるんだね……? 現実に」

 レイナは涙を浮かべながら改めてリュウキに聞いた。この75層BOSS攻略の前に。ゲームクリアに関わらず存在するタイムリミットの話をして。

 本当に辛かった。
 自分で言ったのに……とても、怖かった。

 死んでしまうこと……そのことじゃない。リュウキ君と会えなくなるかもしれないと言う事。
 それが何よりも悲しかった。死よりも……ずっと怖い事だった。

「……ああ、そうだな……ッ!」

 最後まで言い終えたその時、リュウキはレイナを抱きしめる力が緩まり……、そして膝をついた。

「リュウキ君っ!」

 突然の事で、レイナは驚き目を見開く。

「あ……ああ、大丈夫……だ。ちょっと無理をしたから……な」

 リュウキは、そう言うと同時に、その手に持っていた双斬剣を。……武器を落とした。無理もない事だろう。

 ヒースクリフが言ったように、システムに頼らない独自の攻撃手段を用いた。

 それだけならまだしも、オリジナルのスキルをも使った。
 全て自身の力でだ。システムアシストを全く使わずに制御したんだ。出来るかどうか判らなかった。正直 まだ、実践で使うには早すぎた事は否めなかった。

 あの骸百足との一戦では、これまでにない程までに消耗したのだから。

 レイナが推測していたリュウキの言葉に隠されていた《はやい》と言う言葉。レイナの推測は正しかったのだ。

 その力の代償。それが今、彼の全身を襲っているだろう。

 極度の疲労感が。そして、頭が割れそうになる程の激痛が。

「し……しっかり! ……ッ! もう、なんで体、動かないのっ!」

 レイナは、半狂乱になりかねなかった。
 目の前でリュウキが苦しそうにしているのに、手を差し伸べる事も抱きしめる事もできないのだ。一番支えなきゃいけないときなのに、手の1つも伸ばせない。

「大丈夫……大丈夫だ、レイナ……」

 リュウキは、しきりにそう言う。
 どう見ても大丈夫に見えないないんだけど、それでも、強がりでもなんでも使ってレイナを安心させたかったんだ。

「っ……一体、いつになったら、麻痺が解けるんだよ……!」

 キリトは、地に這った状態でそう呟く。
 確かにリュウキも心配だが、HPが減らない以上は、最悪な状態にはならないだろう。

 彼の命は保障されているんだから。

 だが、ヒースクリフが、茅場が負けた以上、もう ログアウトしてもいいはずなんだが……、一向に起きる気配もない。そう考えていたその時った。




 《悪夢の光景》が、目の前に広がったのは。




 それは、突然。本当に突然だった。まるで、意識の外から 突如現れたかの様に、リュウキの体から、剣が出てきた。

 まるで……、リュウキの身体から、生えてきた様に その切先は、レイナに当たる寸前で止まっていた。




「……えっ…………?」



 レイナは、突然の事で……訳が判らない。一体何が起きているのか?

 この場にいる全員……、状況を理解する事が出来なかった。

 目の前にいたレイナさえも、判らなかったのだ。……この目の前での光景が。理解できるのは……、彼の、目の前のリュウキのHPが見る見る内に減少していくと言う、悪夢の光景だった。

 元々危険値(レッド)にまで達していたのに……更に下がり、消滅していく。



「……いや危なかったよ、リュウキ君。」



 そんな中で、聞き覚えのある声だけが辺りに響き渡った。
 誰ひとり声を発する事ができない状況の中、たった1人だけ、その声が周囲に木霊する。

 リュウキの後ろに、いつの間にか あの男が立っていたのだ。

 紅衣を身に纏っている聖騎士の男。いや、暗黒騎士と言うのが正しいだろう。

 あの男……茅場晶彦(ヒースクリフ)が。

「……もう少しで私のHPが尽きるところだった。恐れいったよリュウキ君。君のもっている全てか、……成る程、侮っていた様だ。先入観に囚われるのはよくない事だな」

 茅場はリュウキに剣を刺したまま……、ぐいっとリュウキの体を持ち上げるようにリュウキを立たせた。

「かや……ば……」

 リュウキは……この時、漸く自分が刺された事に気づいた。ヒースクリフに刺されたのだと理解した。

 だが……、それでも理解できないところもある。
 
 確かに……あの時、
 この男のHPゲージは、イエローからレッド……そして尽きたはずなのだ。敵前で生死を確認しないまま、背を向けるような愚かな事は決してしない。リュウキほどの百戦錬磨ならば、そんな愚考は起こさない。
 だから……確認したはずなのだ。この男は……あの最後の一撃で全損した筈だった。

「……わからない、と言った様子のようだ。それも無理はない事だよ。……あの瞬間、私は神聖剣のスキルである《リレイズ》を発動した。如何に様々な情報を持っている君でも、これは知らなかったようだね?」

 混乱をしているリュウキとは対照的に、茅場は、淡々とした表情でそう続けた。


《リレイズ》


 その効力は一度失った命を、魂を再び現世、この世界へと戻す。単純な話、RPGであれば、この手の術、呪文、魔法は無数に存在する。だが、この世界(SAO)で存在するとは……、思いもしなかった。

 剣の世界で、魔法の様なものが。

 デスゲームにおいて、《生き返り》や《二度の生》などと言うスキル。
 そんな、アンフェアと言っていい代物(スキル)があるとは思いもしなかったんだ。

 以前のクリスマスでの《イベントアイテム》と言う例外は除いておいたとしても。


「君も同じじゃあないか。君にしか知らぬスキル、武器をこの世界で創造したのだから……。……が、そうであっても私は卑怯な手などは使わないさ。勿論システム上のスキルのもの。聖なる神の剣だ。それくらいのスキルはあるのだよ。だが、それも、たった一度しか使えないスキルだがね。それに……言っただろう? リュウキ君。守れないものもあるのだ。……諦めたまえ。だが、大丈夫なんじゃないか」

 ヒースクリフは、今だ、混乱で思考がまとまっていないメンバーの方を見る。その中で……キリトだけが。驚愕の表情はしていたが、彼だけが。はっきり現実を見ていた。

「そこにいるキリト君ならば、100層……私のところにまでこられるだろう。前にも言ったが、本来そのリュウキ君のスキル以外の≪二刀流≫は最も反応速度が優れているプレイヤーに与えられるスキル。私が考えていた勇者となれるものが持つことが出来るものなのだ。反応速度においては、リュウキ君を凌駕するキリト君。……彼ならば君亡き後、やっていけるだろう。そして、彼らも、私が育ててきた血盟騎士団も90層クラスのモンスターにも簡単に負けないように育ててきたつもりだと言う事に嘘偽りは無い」

 ヒースクリフは、薄ら笑みを浮かべ、リュウキから剣を引き抜いた。

「がっ……はっ………」

 リュウキは……デジタル世界なのだが、鈍い痛みが走るのがわかる。身体の内側から、まるで焼かれているかの様な感覚も同時に起こる。息をする事さえ、苦しい。

 そして、訪れるものも……理解できる。

 視界の左端に存在する命の数字が、……それが確実に下がっていっているのが判るから。

 それは、本当にゆっくりだった。ゆっくり、ゆっくりと……。時間が凝縮されている事に気づく。

 それは、まるで 死の直前に見るという……走馬灯の様に。







「……ごめん、な………。」





 リュウキは、辛うじて身体を動かし、ヒースクリフを視ずに、レイナの方へ。……レイナの目を見つめて、そう呟いた。

 もう自分に、残された時間は少ない。……限られた時間。その時間で自分に何が出来るのか、何も出来ないかもしれない。 だけど、何をすればいいのか、後少ない時間で、何をすればいいのか。……それには、考えたらこれしかなかった。

 その何よりも大切な時間を……ヒースクリフになんか、使えない。全ては……愛する人に遺したかった。

 自分を救ってくれた愛する人に、自分の残された時間の全てを捧げたかった。そして、何よりも穏やかな表情で、安心させてあげたかった。




「りゅう……き……くん……?」



 レイナは、まだ 受け入れられない。
 目の前で起こっているその悪夢が現実のものであると、理解する事ができない。今確実に存在している愛しい人がもう数秒後には。……愛しい人の身体が、魂が、四散してしまうなんて……。
 そんな事、考えられなかった。

 ……だけど、リュウキは続けた。この時の彼は、本当に辛そうな顔をしていた。だけど、それは死ぬ事を畏れていたり、受けた一撃に苦しんでいたり、そんな表情じゃない。
 

「オレが……還してあげるって、きっとあの世界へ還してあげるって言ったのに……はは。……勇者なんて、きっと、そんなガラじゃないんだな……」

 
 ただただ、レイナに対する事、それだけだった。
 そして、リュウキはまるで最後の力を振り絞る様に、手を伸ばし、そしてレイナの頭を、頬を、一撫でする。

 そして、表情が再び変わった。いや、戻った、と言えるだろう。いつも、レイナを、彼女を見ているその表情。

 本当に変わらない表情。穏やかで、愛しい顔で。



「……オレの事、……今まで、愛してくれて、ありがとう。……レイ、ナ。」



 リュウキは、麻痺で動けずにいるレイナをぎゅ……っと抱きしめた。
 その感触を忘れないように、最後の最後まで、忘れない様に、強く……強く……。

「そんな………やだ……やだよぉぉ……りゅうっ………」

 レイナは涙で……、目の前が見えなかった。リュウキの顔が見れない。大好きな人の顔が、視界がぼやけてしまって見えない。それは、認めたくないからこそ、彼女自身の拒絶反応だったのかもしれない。
そして、身体も動かない。

 そして、今 最も動いて欲しいときなのに、それなのに動けないのだ。


「キリト……」


 リュウキは、まだ確かにそこに存在している。
 なぜ……彼が致死的なダメージを受けて、まだHPがつきないのか。それは、わからない。ヒースクリフにでさえわからない。

 もう消滅してもおかしくなかったが、彼はまだ、確かにこの世界に存在していた。


――……本当に最後の最後で……人間の持つ意思がシステムに、絶対的な死を抗ったと言うのだろうか……?


 ヒースクリフは、この時ばかりは、口を挟まずに 彼らを見ていた。


「リュウ……キ……」

 キリトも、理解していた筈なのに、いや理解できたからこそ、……表情が歪むのを止められなかった。

 あの時……目の前で失った仲間。その時のことが脳裏に過ぎる。あの時は、この目の前の男が自分を救ってくれた。絶望に沈みそうなとき、救ってくれた。

 アスナが最も愛する女性なら……リュウキは、大切な親友だった。

 たった、2年の事だったけれど、親友だったんだ。そんな……男が……。掛け替えのない親友が……。




「あんな事、言って……、情けないが……、勇者……お前だ。オレじゃない。………アスナのこと、レイナの事……皆のこと、頼んだ……」



 リュウキがそう言ったと殆ど同時に、彼の身体が輝き始めた。

 もう、《その時》が来たのだろうか。リュウキの体が青く鮮やかに光を放ち続ける。

 その最後の瞬間。彼は苦しそうな姿を、一切見せなかった。自分が消滅してしまう、現実世界でも死が待っている。普通であれば、発狂しかねない恐怖に見舞われるだろう。

 だけど、彼は最後の最後まで笑顔を絶やさなかった。

 誰もが振り返りそうになるような……、《白銀の勇者》に相応しい安心できる笑顔を残していた。


「やだっ……やだぁぁ……!いかないでぇぇぇ!!」


 レイナは、必死に手を伸ばした。

 麻痺で……動けない、視線くらいしか動かせれない筈なのだが、彼女は手を伸ばす事が出来ていた。

 そのシステムを本当に最後で打破したのだ。想いの力。誰かを想うその力は、時として大きな力をも凌駕する。

 それを見たヒースクリフは、そう感じていた。否……良い物を見れた程度にしか思っていないだろう。

 リュウキとレイナ、その2人を。その程度にしか考えていないだろう。

 そして……リュウキは、レイナの方を見て、最後の力を振り絞った。目の前に鮮やかな青色のそれが浮かび上がり、その時を悟ったから。


 最後に、笑顔の質を上げて、微笑んだ。


 いつもと変わらないその笑顔で。レイナを虜にしてしまったその笑顔で。一番レイナが大好きなその笑顔のまま。


 彼の身体は、鮮やかな硝子片へと姿を変えた。青ではなく、銀色に輝きを放ちながら。
 

 現実は残酷だった。レイナの、最後の最後でみせる事が出来た想い……、それは届く事は無かったのだから。

 

 彼は、白銀の勇者 リュウキは笑顔のまま、いつもと変わらないその笑顔のまま……、レイナを見つめて……リュウキの魂は四散した。









 誰もが言葉を失っていた中。
 そんな中で、あの男の声だけが低く響いてきた。

「ふむ……おかしいな。HPが尽きるのが遅すぎたな。あのダメージであれば、本来は10秒あれば、アバターは四散するはずなのだがな。まぁ、こんなこともあるのだろう」

 ヒースクリフは、両手を広げそう言っていた。……研究対象にしか見ていない。そう感じさせるのには、十分すぎる物言いだった。

「さて……私は紅玉宮で待つとするよ。ああ、その麻痺は後10分程度で回復するから、安心し給え。……また会おう。攻略組の諸君」

 ヒースクリフは、マントを翻し、麻痺作用で殆ど動けない攻略組のメンバーを後にする……が。

「まてよ……」

 誰もが立ち上がれない空間の中で、1人の男が立ち上がった。その声は黒く塗りつぶされそうな声。自分の何処にこんな声があったのかと思えるほど、重く黒い声だ。

「……ほう?」

 ヒースクリフは歩みを止め、振り返った。立ち上がっていたのは……。

「……やはり、キリト君、君か。誰かが何かを起こし得る十分すぎる状況だったから、何かを期待もしたのだが……予想通りだったな」

 黒の剣士。

 二刀流使いキリトだった。
 その立ち上がったキリトを見て、ヒースクリフは更に面白いものを見たと言わんばかりに、手を広げた。


「リュウキ………ッ! リュウキッッ!!」

 キリトは、視線を四散したリュウキの方に向けた。……そして、いろんな記憶が頭の中を巡る。




――……初めて会ったときの事。



『……誰だお前は?』

 当時のリュウキは、本当に無愛想だった。再開した時、アバターが変わってなかったから、こっちは直ぐに判った。……自分も変えてないから、βテストの時には、共にBOSS攻略をした仲?だというのに、覚えていないような仕草だった。悔しくも思えていたが、それでも 強さは群を抜いていたから興味を強くもったんだった。



――……そして、二刀のスキルを見せた時の事。



『速度が尋常じゃないな……。オレもお前とデュエルするのは遠慮したい。想像以上に疲れそうだ。』

 リュウキはそう言って笑っていた。
 心に仮面をしていた男がその仮面を破った時に見せた歳相応のものの笑顔。それを見るのは……なんだろう?……好きだったって思えた。変な意味では決してないが、この素顔のリュウキが一番いいと思ったのだ。
 ……おそらく、アスナやレイナ……リュウキを知るメンバーは皆同じ意見だろう。


 その男(リュウキ)を……。この男(ヒースクリフ)は……。




――……卑怯な手は使ってない?



 神の権利を存分に使い1つしかないはずの命を2つに変えた事のどこが卑怯じゃないのか!



――……リュウキと同じ?



 断じて違う……!
 あの男は、皆を守る為に、……最愛の人を守る為に、自分を削って、極限まで削って戦ったんだ。左手の操作1つで全てを操れるお前とはまるで違う!



 様々な想いを張り巡らせながら、キリトは鋭い眼光でヒースクリフを睨みつけた。


「このまま……ただで帰すと思っているのか!」

 感情をむき出しに……二刀の剣を取り出す。

《エリュシデータ》《ダークリパルサー》その2つの剣を構えた。


「……麻痺が解けるのはまだ、少し先だが。仕様がない。キリト君と戦うのに10分は短すぎるだろう」

 ヒースクリフは、再び操作をした。どうやら、麻痺効果時間を伸ばしたようだ。そしてキリトの方を向いて、歩み寄った。

「キリト……くんっ、だめ……だめだよっ……!」

 アスナは、キリトを必死に止めようと声を……可能な限り上げた。目の前で大切な人が消えた。
 ……死んでしまった。それは、アスナにとっても……。辛い悲しい事だった。心が引き裂かれてしまう感じがした。
 ……それは、口に、言葉ではあらわせれない。

 友達が、いや家族が目の前で死んでしまったのだから。

 そして、それ以上に……妹も心配だった。
 自分にしてみれば……キリトを失う事それと同様の悲しみが……彼女を襲っている。……自分の立場だったら。

 《自殺》を絶対に考えるから。

 それは、キリトにも言った言葉だった。
 
 キリトは、この戦いの前に……『参加せずに待っていてくれないか?』とアスナに言っていた。だけど、アスナは拒否をした。

 ……自分だけ安全な場所で隠れているなんてできないと。

 そして、もしキリトが死んでしまえば、『自殺する』と言ったのだ。

 ……自分の愛する人が死んでしまったら?もう、生きている意味なんかないって思える。それ程愛しているんだから。きっと、レイナだってそんな気持ちだったんだと思う。

 レイナは、あの瞬間から……身動きをとっていない。体は……震えている、それはわかるのだが、呼びかけても……反応が全く無い。そんな時、キリトが立ち上がった。
 彼もまた、この麻痺作用を凌駕したのだ。
 
 でも、相手は、リュウキですら、敵わなかった男。

 強大な能力(スキル)を有する悪魔……、この世界を総べる魔王だ。

 単独で挑むのは……もう、それこそ自殺行為だと思えたから。

「だ、だめっ……、ここは、一度引いてっ、お願い……!」

 アスナは、懇願するように、そう言うが、
 キリトは全く周りが見えていない、聞こえていない様だった。そして、その目は狂気で満ちているかの様だ。

 いや、暴走しているとも取れるだろう。

 そんな状態で、向かっていったら?
 どうなってしまうのか……火を見るより明らかだって思ったんだ。

「いくぞ……! ぶっ殺してやる!!!」

 狂気に満ちたキリトの表情。それを見たヒースクリフは、ため息を一つし、剣を構えた。



 ここに……再び《キリトvsヒースクリフ》の戦いが始まったのだった。


 
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