ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第113話 猫耳の呪い?
~第22層・コラル 湖畔のログハウス(リュウキとレイナ宅)~
本日も快晴だ。朝日が家を照らし 部屋に光が溢れてくる。
日が昇ると同時に一日が始まった。ゆっくりと、身体を起こすと、もうそこには笑顔で朝のお迎えをしてくれる存在がいる。
「おはよう。レイナ」
「う……ん、おは、よう……リューキくん……」
目をゴシゴシと擦り、少し欠伸をしながらも、レイナは必死に意識を覚醒させた。
覚醒させようとするのだが……、やっぱり睡魔と言うものは、中々の手練であり、抗うのも高難易度。だからこそ、よく『後5分~……』って言っちゃう人がいるんだろう。レイナは正にそれであり、今日はやや負けてしまって、身体をおこしかけたが、ぽすっ とリュウキの胸の中に顔を埋めた。
「眠い……よ……」
「はは。まあまだ8時前だ。特に予定も無いし、……ゆっくりで良いよ」
眠そうにするレイナにリュウキがそう答える。
だが、そう言われればレイナは必死に起きずにはいられないのだ。寝てしまったら、一日と言うのは直ぐにたってしまう。5分なんて、あっという間にたってしまうのと同義だ。
「う~ん……、起き、る」
「ん? ゆっくりで良いんだぞ?」
「だって……勿体無いんだもん……、リュウキ君と遊ぶ時間が短くなっちゃう……」
レイナは、何度も目を擦り必死に身体を起こした。そんなレイナの言葉を聴いてリュウキは苦笑いをした。
「はは…、昨日だって沢山遊んだだろうに」
そう言いながら、ふと視線を前にした。
視線の先にある壁かけには、プリントアウトした写真が貼り付けられており、レイナと一緒のもの、そしてあのリズベット武具店で撮った写真。キリトやアスナたちと撮った写真。もう、壁かけに貼るスペースがもう無い程だった。
――……一枚一枚事に、確実に、そして沢山増えていく思い出。
リュウキは、嬉しかった。……きっとレイナも同じだろう。
「えー……、リューキくんは、もっと、もっと、遊びたくないんだ……」
「……ははは、違う違う。ほら」
リュウキは、レイナの頭を軽く撫で、そして一緒に身体を起こした。自分の力だけでなくリュウキの力も加わって随分と楽に身体を起こすことが出来たレイナ。顔をうつらうつらとまださせているが、ともかく起き上がる事が出来た。
「……ありがとっ。ん~~……起きたっとっ!!」
レイナは、ぐっと力を入れると、両頬を軽く手のひらで叩き、朝の気付けをする。そして、リュウキの方を見て改めて互いに一日のはじまりの挨拶をするのだった。
それは、朝食を作っている時の事。
レイナは、少しだけ不満があったのだった。
(う~ん……今日もリュウキ君の寝顔見れなかったなぁ……)
レイナの不満。
それは、彼女の日課とも言える空白の10分間、リュウキの寝顔を斜め横から眺める事。
……最近では、なぜかリュウキの方が早く目を覚ましており、出来なくなってしまったのだ。当初は、起床設定を変えたのかな?と想ったが、別にそうはしてない様であり、自分の設定も間違いは無かった。一日くらいはあっても不思議じゃないか、と思ったレイナは また明日があるさ!と言う事で特に気にしてなかったんだけど、その後はこの日課が尽く遂行出来なくなってしまったのだ。
……不満だったけれど、その不満を吹き飛ばしてくれる様な事もある。
自分が目を覚ますと愛する人が笑顔で迎えてくれてるのだから。これ以上の朝の至福はないと、レイナは少しばかりヤミつきになってしまったのだ。
そして、今に至る。
「どうした? レイナ」
「ん?? んーん、何でもないよっ」
少し、考え事をしていた所で、リュウキに気づかれた様で、慌てて手を振る。そして、ポットとマグカップを呼び出し、モーニングタイムを開始したのだ。
「アスティアの葉のハーブティ……やっぱり美味しいね?」
「そうだな。これはオレもずっと愛用しているから」
リュウキは、色合いを楽しみながらそう答えた。この世界での飲料物は、見た目と味が一致していない物がとにかく多い。……ゲーム仕様だから仕方ないとも思えるが、現実において、殆ど紫色の飲みもの?など、誰が手を付けようものか。だが、そう言うものに限って、不思議と美味しかったりする。
レイナやアスナが作っている調味料も、その部類だ。『これなんだ?』と思ってしまう第一印象で、口の中に入れて、味覚情報を確かめた後に判明する。視覚情報と味覚情報は一致しにくいかな?と思えるのだが、《アスティアの葉》で作ったハーブティは、違う。
色合いも、現実のハーブティとなんら遜色なく、それを楽しむことだって出来る。そして、何よりレイナは、このハーブティが大好きなのだ。
「ふふ、リュウキ君が教えてくれたもんね?この美味しさをさ?」
「ん。……そうだったか?」
「もー! 忘れちゃったの?リュウキ君っ」
リュウキの回答にレイナは軽く頬を膨らませた。レイナは思い返す。
……まるで、昨日のことの様に鮮明に覚えている。後悔、自責の念に溺れていた自分に。この世界を偽りの世界だと思って、食事だって取っても取らなくても同じだと思っていた自分に、美味しいと感じさせてくれて、落ち着かせてくれたんだ。レイナにとって、このハーブティは忘れられない味の1つになっているのだから。
「ん……。ああ、思い出したよ。あの時だったな。オレが勧めたんだった」
リュウキは、少し考えて……思い出せた様で、ニコリと笑った。
「うんっ! 大変良く思い出せました~♪」
その言葉を、表情を聞いたレイナは、リュウキと同じようにニコリと笑った。そして、もう一口、口に含み……喉を通した所でリュウキの方を見て。
「これは、優しい味。……リュウキ君と一緒でとっても優しい味だからね」
「っ……//」
朝からの会心の一言を言われて流石にやや赤くなってしまうのは仕方ない。レイナは、ハーブティを楽しんでいた様だから、リュウキの表情を見れてなかった。
……残念。
「……そうか。なら、オレにとっての優しい味は、レイナの手料理を初めて食べた時のこと、だな」
「え?」
「……正直、食事をなんとも思ってなかったオレの根底を覆してくれたんだから。……それに、一緒に食べる時と一緒に食べない時の味が変わるのも知れたよ。……断然前者の方が美味しいと感じられる」
「っ///も、もうっ……、でもありがとう、リュウキ君」
「……こちらこそ」
自然に感謝の言葉を交わし合えるのは素敵な事だとレイナは強く思えた。想いが伝わって、互いに両想いになって半年以上立ったけれど、それは全く色褪せる事は無い事だった。
そして、暫くしての事。レイナに一通のメッセージが寄せられた。
差出人はアスナからだ。
「へ~……、何だか面白そうだね」
レイナは、その内容を見てくすっ、と笑った。リュウキも気づいたようで。
「ん? どうした?」
レイナの方へと寄っていた。
「お姉ちゃんからでね?何でも、釣り大会をするんだって! ここの湖畔で」
レイナが笑いながら答えた。
確かにこの層は比較的モンスターも少なく安全地帯だと言える。だからこそ、のどかなイベントが行なえると言ったものだろう。
「ん、成る程……、確かあの一番大きな湖は、高難易度設定になってたな。多分そこでするんじゃないか?」
「うん!そのとーり。でも、ちょっと違うのがね~、ただの釣りじゃないみたいなんだ」
「?」
レイナの言葉にリュウキは首をかしげる。釣りは釣りじゃないか?と思ったからだ。レイナは、目を輝かせて。
「主だって! それも、とってもおっきい主が居るらしいんだ! この湖で!」
両手をいっぱいに広げながらそう豪語するレイナ。まるで、自分が見てきたと言わんばかりの表情だ。
「へー……主か、何かイベントが起きそうな予感がするな? その大会で」
リュウキは、少し考えてそう答えた。
この世界での娯楽の1つである釣り。デス・ゲームになってから、極めようと思えるプレイヤーは恐らく少ないだろう。だからこそ、見落としているイベントがあったり、釣り上げた主からレアなアイテムを得たりしてもおかしくないだろう。
「えっへへ~、でも何だか楽しそうじゃん?わたし達も行ってみようよ! 何でも、キリト君が《スイッチ》をするんだって!」
「……?? 流石に話が判らない。釣りでなんでスイッチをするんだ?」
リュウキは苦笑いをしながらレイナにそういった。
レイナも当初は、よく判らなかったが、よくよく見てみて理解したのだ。元々、主を釣ろうとしているのは、別のニシダと言うプレイヤーであり、一度はヒットをさせたのだけど、釣り上げる事は叶わなかった。……それどころか、竿ごと引きずり込まれたらしいのだ。
「……成る程、釣りスキルは、満足にあっても、筋力パラメータが心許ない。だから、キリトとスイッチして、釣り上げる。と言った作戦か」
「うん!随分と考えたみたいだね~?……あ、いやでも思いつきかな?単なる」
レイナは、笑いながらメッセージを再度読みながらそう言っていた。
「理には適ってる。互いの短所を補っているんだからな。……見に行ってみるか。それで、いつの予定なんだ?」
「わっ! ほんと? え~っとね……、話によれば、2~3日には声をかけてくれるだって! 楽しみだね~!」
「そうだな。……ん、一応考えとかないと……」
リュウキは、レイナの姿をみて笑ったが……、直ぐに表情をやや引き締め直していた。
「ん? どうしたの? リュウキ君」
「いや……、この層なら大丈夫とは思うが……、大会の名をつける以上は、多くの観客がいてもおかしくないだろう? ……だから、顔を、隠したほうが良いか? って……」
前髪を指でくるくると巻きつける様に弄りながらリュウキは答える。そう言えば、ここ最近、あの《フード》は装備していなかった。
「あはははっ!」
「……笑わないでくれよ。一応気にしてるんだから」
「あーはは……とと、ゴメンゴメン。リュウキ君もだけど、私も同じだよ? 引いてはお姉ちゃん達だって。情報屋とか、その……粘着質な人たちから身を隠す、って意味もあったしね?」
「……そう言えばそうだったな」
情報屋とは何もアルゴだけではなく、他にも色んなプレイヤーが生業としている。
勿論、その中の頂点がアルゴだが、アルゴはリュウキ関係の情報をむやみに晒さないのは周知の事実なのだ。……が、その他の連中はそうはいかない。別に契約をした訳でも無いから当然といえばそうだから。
そして、粘着質な連中も勿論いた。
アスナとレイナはそれだけ有名人だからだ。……リュウキも色々とあったが、2人には遠く及ばない。
だけど、『レイナと一緒にいる』と言う事実が更に呼び寄せる話題になってしまうのは言うまでもない事だ。
……男にも女にも。
「当日は色々と準備しといた方が良いよね?」
「……だな」
レイナの言葉にリュウキは頷いた。そして、その後は色々とコーディネートするのだった。(リュウキの事も?)
「ん?」
そして、暫くして 今度はリュウキの方にメッセージが届いた。差出人は、キリト……ではなく。
「……アルゴからか」
情報屋のアルゴからのメッセージだ。どうやら、少しばかり頼みたい事があるとの事。
「レイナ。アルゴから頼まれた事があるんだが……一緒に行くか?」
「うぇっ!? あ、アルゴさんからっ??」
レイナは、その名前を聴いて、身体をぴくんっ!と反応させていた。
……アルゴは、リュウキと同じで恐らくSっ気を持っている。この間だって、色々とからかわれたばかりなのだ。
最近では、自身の何かを暴露された事だって……。
「えー……っとぉ! 今日は、リューキくんに、任せていーかな? かな??」
「……ん。成る程な」
「あうぅ……」
挙動不審なレイナをみて一発で理解したのはリュウキだった。
確かに、自分もアルゴを苦手意識をしていた事は希にあったから判らない事もないのだ。
「ん~……レイナと一緒に、と書かれているが……」
「うぇっ!? な、なんで私もっ!? また私、アルゴさんに何か抜かれちゃったっけっ!??」
レイナは、慌ててリュウキに飛びつくように、表示されているメッセージウインドウを覗き込んだ。……だが、そこには自分の名前はおろか、レイナの『レ』の字すらない。
「………もぉーーっ! リューキくんっ!!」
「ははは、ごめんごめん」
またまた、からかわれた事に気づいたレイナは、ぽかぽか!っとリュウキの胸の部分を叩いた。
「ふんっだ! リューキくんなんか知らなーい!」
「ゴメンゴメン。冗談だよ」
「もぅ! ご飯抜きにするんだからねっ!」
「う゛……、そ、それは勘弁してくれないか……?」
「……へ?」
いつものリアクションじゃないリュウキを見て、レイナは少し戸惑った。何やらリュウキの表情は、すごく慌てている様だった。
「えへへ……、そんなに大変なんだ? ご飯抜きは?」
「う……まぁ、だってレイナが教えてくれたんだから。美味しい料理。楽しい食事を」
「う~ん、それは私にも責任あるかなぁ~? どーしよっかなぁ~?」
「………」
「あははっ! 冗談だよ! ……でも、私をいぢめるの、ほどほどにしてよー」
ほどほどで良いんだろうか?とも思えてしまうが……とりあえず、それはおいておこう。リュウキがいぢめている、と言う意識はあまり無いし、何よりも、その後に言ってくれている可愛いと言うセリフが嬉しかったりしてるのだ。
「はぁ……良かった」
リュウキは安堵感を出していた。
その姿を見たら、リュウキこそが可愛いと思ってしまうレイナだった。
~第59層 ダナク~
この層は色々な思い出が特にある層。
レイナとアスナ、キリトの4人で昼寝をして、そしてこの層の料理屋に行って巻き込まれた。……それが、あの黄金林檎の県内殺人の件での事。歪んだ愛情ゆえに、生きる事を断ち切られてしまった女性の物語を目の当たりにした事。そして、リュウキは好きになる、愛すると言う気持ち、感情を知れた事もあった。
その後の葛藤は多数あったものの、レイナとは両想いだと言う事を知れたから良かった。
「オーイ! リュ~っ! コッチだ、コッチ!」
聞き覚えのある声が町中に響く……。周囲を見た所、ここの町中で歩いているのはNPCのみであり、プレイヤーの姿は今のところはなかった。……一安心をしてその声の主の方へと向かう。そこは、カフェテラスで1人のプレイヤーが座っていた。
「……町中では遠慮してくれ、アルゴ」
「あー、イヤ~ゴメンゴメン。リューを見たラ、ツイね?」
胡散臭い言葉だが、とにかく中央広場に面しているカフェテラスに腰掛けるリュウキ。
「それで? 話とは何だ?」
「んニャ。リューに頼みが合ってネ」
アルゴはリュウキに話を切り出した。それは、あるクエストの真偽を確かめて欲しいと言うもの。
クエストアイテム名は《輪廻転生の書》。簡潔に言えば、嘗て、キリトと共に攻略したクリスマスイベントの1つだった《背教者 ニコラス》の討伐。そして得たアイテムは、《還魂の聖結晶》それと似たようなものだ。
つまりは蘇生アイテム獲得のクエスト。
「……成る程な。確か、あのイベントのアイテムは死亡時 10秒以内に、使えれば魂を救える、即ち蘇生させると言うもの、だったか」
「ウム、確かニ、アノ時の事は知っテル。……リュー達ガ落胆シテシまったのも、オレっちに責任がアルってものダヨ」
「何、真偽は兎も角、それを承知でオレ達は承諾したんだ。……逆に感謝してるよ。情報がまわらない様に計らってくれた事に関してはな」
「………」
ニコリと笑うリュウキの顔を見てしまったアルゴは、思わず自分も赤くなってしまうのを必死にこらえていた。
この男は、本当にレイナと出会って表情が柔らかくなった。
……いや、本来の自分に戻り得た、と言うのだろうか?それほどまでに、自然な、とても自然な笑顔なのだから。
「……ッたク。おネーさんには キツイヨ。その笑ミ」
「ん?」
「いや、何でも無イ」
アルゴはブンブンと首を振った。
そして、本題に戻る。
……今回も、ある程度先の層まで踏破したら、解禁されるものらしく、この層で新たなダンジョンが生まれたらしいのだ。しかもそれは町のすぐ傍にある、巨大石。何かのモニュメントだろう、と思っていたその巨大石はダンジョンへの入口へと早変わりしていたらしいのだ。
「……アルゴ、以前の話は覚えているよな?」
「ああ、第1層 はじまりの街に現れタ、ダンジョンの事カ?」
「そうだ。……かなりの危険が伴う。安易に情報を流すのは進めないぞ。第1層でさえ、あれ程危険な目にあったんだからな」
「まさかシステムにアクセス出来るコンソールが有る何テ、誰も思わナイヨ」
「……危険な事はしないでくれと、レイナと約束しているからな。今はその情報は封印してくれ。もう公開してるなら、危険を煽って安易に入らないように計らってくれないか。もうちょっと整えてから、確認してみたい。それで良いか?」
「オー、全然OKダヨ。リューに返答を貰エタだけで大収穫ダ。この世界での最高級ブランド名みたいなモンだからネ?リューの名は」
「……人の名で変な商売はやめてくれ」
アルゴの言葉を聞いて、リュウキはため息を吐いた。これまでに、何度もアルゴに情報を渡したから仕方がないと言えばそうだが。
「ムフフ~ではでは、リューガ欲しがりソウな、情報、イルか?」
「ん? 何の話だ?」
「アハハ、レイにゃん、アスにゃんの話サ!」
「?? ……にゃん?」
リュウキは首を傾げる。それが話の開始の合図だったかのように、アルゴは話し始めた。
~第64層 アルベリント~
それは、迷宮区での事。
アスナとレイナは、あるアイテムをドロップしたのだ。丁度、2つの装備アイテム。
「これって……」
「猫耳、だよね?」
2人はまじまじとそれを見つめた。とても、感触がよくて、触ると癖になりそうなくらいふかふかとしている。いまは丁度2人で迷宮区に来ており、他には誰もいないのだ。
「……付けてみよーよ?」
「うえっ? ほ、本気で??」
「うん……、ここなら、誰もいないし、いまはふたりっきりだし……ね? 可愛いよ。これ」
「うーん……レイがそう言うなら……」
と言いつつも、アスナもまんざらではない様子。ニコニコしながら装着したアスナとレイナ。
「あははっ、やっぱり、お姉ちゃん可愛い!」
「そ、そうかにゃん?」
「そーにゃって……」
違和感を感じたのはその直ぐ後の事。
「ん?」
「あれ?」
突然、身体に変化が現れたのだ。
「ふにゃっ!」
「にゃ、にゃにこれー!」
語尾ににゃんが付き、更に尻尾が生えてきたのだ。呆然としてしまうふたり。
「……こ、これ、取れないかにゃ?」
「う、うう……えいっ! ふにゃぁっ!!」
自分で自分の尻尾を握って引っ張ってみたけど……、すっごい変な感じがして、直ぐに離した。その後、暫く色々と試してみたけれど、取れる気配がない。
「お、お姉ちゃん……ご、ごめんにゃさい……」
レイナが、謝った時に同時に、耳がぺこっと下がり、そして、尻尾もへなへなへな~っと垂れ下がった。普段なら、とっても可愛い仕草として、愛用したいとさえ思ってしまうが、いまはそれどころではない。
「だ、大丈夫にゃよ! そ、それよりも、こんにゃ格好誰かに見られたら……」
「あれ? アスナ? レイナ?」
「っっ!!」
そこを、まるで狙ってました!と言わんばかりに現れたのがキリトだった。
ダブル猫パンチが炸裂しそうになったが、ここは圏内ではなく、攻撃になってしまうから、何とか抑える事が出来たのだ。
そして、色々とキリトに経緯を説明して……。
場所は一先ず圏内の宿屋へと逃げる様に帰った。自分たちの家に帰る方が確実だったけれど、61層にあるセルムブルグは、プレイヤーの往来も多く、目撃されてしまう可能性が非常に高いのだ。だから、宿屋、しかも格安宿にしたのだ。
「成る程……んで、ふたりとも、なんでそんな所にいるんだ?」
「う~ん……判んにゃいの。何にゃか……ね? お姉ちゃん」
「う……落ち着かにゃいの……隙間とか、箱とか見ると……」
2人いるのは、箱の中だったり、家具と家具の間。頭だけひょこっと出していた。
「猫の習性だな。ははは……、大変だな」
「あ、あの……キリト君……」
「ん?」
「あの、リュウキ君……には、にゃいしょにしてて……くれにゃいかな?」
「あ、ああ。大丈夫だ。今はあいつは最前線の迷宮区にいるらしいから、ここには来ないだろう」
レイナは、ほっとした様子だった。だが、アスナはそうはいかない。
「うぅ……、キリト君に見にゃれた……」
そう、見られてしまったからだ。恥ずかしい所を。
「ん~……ちょっと試してみたい……」
キリトは、何かを思ったようで、ひょいっとあるアイテムをオブジェクト化した。一体なんの役に立つんだ?とも思えたが、この時の為だったんだ!と無理やり思った。
「にゃによ……それ?」
「猫じゃらし」
左右にふりふり~っとさせるキリト。比較的、遠くにいたレイナはまだ我慢できたけれど……、アスナは目の前でされちゃったから。
我慢できずに……ゆっくりとキリトに近づいて……。
「おっ?」
「キリト君の………」
キッ!っと目を細めた!まるで、得物を狙う肉食獣の様に。
「ばかぁぁぁぁ!!!!」
アスナの叫びと左右のパンチが飛ぶ!
アスナのソードスキルと猫の身体能力が合わさり、更に強力な二連激。
「うぎゃあっ!!」
「……今のは キリト君が悪いと思うにゃ……。」
レイナは、苦笑いをしながら、それでも楽しそうな2人を見て笑っていた。
……その後、解呪?条件をアルゴから聞いて、更に大変だった。
外すためには、恥ずかしいポーズをしながら、解除ワードを言わなければならないとの事。恥ずかしさを懸命に圧し殺しながら……、何とかクリアした。
ちゃっかりと、キリトはその時の光景を映像晶石に録画。因みにちゃんと キリトをフォローすると、それがアルゴの条件だったりする。その旨を2人にちゃんと説明してから、同意の上だったけれど……。最終的にアスナがやっぱり却下と言う事で、取り上げられてしまったらしい。
~第59層 ダナク~
「成る程な……、その手のアイテムか。何度か視た事はあるが、鑑定もなしで付けるのは危険だろうに」
「アッハッハッハ!女の子ダシネ~。そう言うのニ興味あるモンだヨ」
「そう言うもの、なのか……」
リュウキは、アルゴの話を聞いて理解した様だ。だが、話しを思い出すと、確かその件はアスナとレイナがアルゴに情報が渡らない様にしたらしいけど。
「アルゴ、情報の細部は破棄されたんじゃなかったのか? 話しによれば」
「ニャハハ……、このアルゴ様がそう簡単ニ極上の情報を諦めルと御思いカナ?」
「……思わない」
「リューだったら、気付きそうダったケド、キー坊ハ、気付いてなかったナァ」
アルゴが、指を加えて指笛を吹き鳴らす。すると、後ろの木の上から黒い影がぴょんっ!と降りてきて、素早くアルゴの肩の上に乗った。
その正体は……。
「……猫?」
「そ、ただの猫じゃナイゾ! コイツはオレっちの使い魔ダ。情報収集には欠かせナイ存在!」
「何で鼠のお前が猫を使い魔にしてるんだよ……。まぁ、それは置いといて……」
リュウキは、鼠と猫の関係がおかしい!とツッコミをいれたが、とりあえず その黒猫を視てみた。
そして、大体察する。なぜ、この猫が情報収集に欠かせない存在なのかを。
「この猫の目が記録するのか。《動物型 録画結晶》と言う事か、かなりのレアだな? ビーストテイマーよりも」
「さーすが、リューダネ~? その通りダヨ。見聞きシタ情報を全て動画データとして保存サれるノサ。キー坊に教エル時に隠蔽スキルで後を付ケテ、放ったんダヨ。コレは秘密ダゾ? プレイヤーは弾かれル宿屋のシステムだが、猫は入り込メルんだ。何せ、猫ダシネ?」
「……キリトの索敵スキルを掻い潜るか?流石は、アルゴと言った所か。盗撮は感心しないが」
アルゴの話しを聞いてため息を吐くリュウキ。アルゴは、ニヤニヤと笑いながら、首輪に手を伸ばした。
「サ~テ、このタグを捻れバ上映されるヨ? 観てみるカイ?」
「……はぁ、レイナの事なら見てみたい気もするが、盗撮だろう? ……それは気が引けるな」
「固い事言いっこ無シダッテ!ソ~ンナ、際どい動画じゃ無いシ。ソレに、情報と言うモノは、突き詰めれば、そう言うモノだ! ホレホレ、必見ダヨ~」
「……何か騙されてる気がするが、まぁ 良いか」
……その後、レイナとアスナの猫耳、猫尻尾姿を大画面で見た(見せられた?)。確かに、取れそうに無い耳と尻尾だったが、ある踊り?の様なモノをするとあっという間に取れたのだ。
その踊りが『にゃんこ!こにゃんこ!まごにゃんこ!!』と言いながらポーズを取る2人。
そして、撮影するキリト。……その後は。
「……キリトも 猫になったのか」
「ニャハハハ! アーちゃんレーちゃんの餌食ニなっちゃったみたいダネ~??」
そう、キリトも何故か、耳を装備させられ、その上逆に録画までさせられたのだ。そして、キリトもアスナ達のように狭い場所、箱を見ると落ち着かなくなったり、語尾や言葉がおかしくなったりしていた。そこを楽しそうに撮影しているのが姉妹の2人だった。
「……オレにも使うつもりだったのか、コレ」
レイナが、リュウキにも装備を!とか言っている所もばっちりあったのだ。でも、どうやら3度アイテムを使って、解呪すると使え無くなる様でそれでリュウキには当たらなかった。
これは幸運と言えるだろう。そんな時だ。
「……アルゴさんッッ~~~!!!」
突然、後ろから声が聞こえてきたのだ。
「ワぉ? アーちゃんじゃなイカ! 奇遇ダナ?」
いつの間にか現れたのはアスナだった。
別に隠蔽を使ってる訳でもないのに、大分接近を許したみたいだ。……そもそも、こんな街中のカフェテラスで大々的にしていたら、バレても不思議じゃないが。
「『奇遇だな?』じゃないっ! 何でそんな動画を持ってるのよーー!!」
「ホレ、いつだッタか紹介したダロウ? オレっちの使い魔『キー坊』ダヨ」
「あーー!! その猫ッッ!!」
アスナは、その黒猫に身に覚えがあったようだ。……というか、使い魔キー坊って何だ?
「……んじゃあ、オレはこれで」
「オー、又この動画が欲しかっタラ、リュー割引、格安で取引シちゃうヨー」
「ダメ!! そんなのっ!! リューキ君も!! 買わないでよっっ!! 絶対にっ!!」
「一度見たからな、もう良いさ」
「うう! それも納得いかないっ! んもーー、レイにも言っちゃうんだからね!」
「何でそうなる!? オレは見せられた側なのに??」
「最終的には、リュウキ君も見たいから、見てたんでしょっ!?」
そう言われれば、確かにそうなので、グウの音も出ないのである。
その後……、アスナは、レイナに勿論今回の事を報告されて……色々と家でも一悶着あったのでした。
リュウキは、レイナを宥めつつ、あの映像を頭の中で何度か再生させていた。基本的に、記憶力は良い方であり、印象的に残ったものであれば、忘れない。
リュウキは、アスナもそうだが、特にレイナが本当に可愛かったから、何度か思い出して、頬を赤く染めているのだった。
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