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零から始める恋の方法

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繰り返される時の中で

 ここは・・・?
 俺は・・・たしか武装集団に襲撃されて・・・それで・・・クソッ!
 記憶が混濁している・・・。


 だが、ここは並木道。
 そう、あの時、あの瞬間見たのと全く同じ・・・。


 ・・・おもえば俺はあの時持上を助けたからああなったのかもしれない。
 少し心苦しいが、お互いの幸せのためだ。


 俺たちはもう出会わないほうがいいだろう。



















 それから数か月がたった。
 俺は今京と交際している。
 持上との日々が最初は忘れられなかった。
 だが、落ち込んだ俺を京は慰めてくれた。
 京はあの事件にかかわっていると想夢たちは言っていた。
 だが、それは嘘だったのかもしれない。
 いや、多少はかかわっていたのかもしれないが、今となってはどうでもいい。
 想夢や紗由利さん、持上に利英。
 みんな生きている。
 あんな不幸なことは怒らなかったんだ。


 それでいいじゃないか。
 それだけでいいじゃないか。


 だというのに、お前は俺に何を求めているんだ。


 利英。
















 

 利英が俺に話しかけてきたのは時間が戻って?から数日のことだった。
 俺は利英に呼び出され、放課後近所のファミレスで話をすることになった。


 「上元先輩、あなた困っている人を見捨てたそうですね」


 「・・・何の話だ?」


 利英は怒りからかテーブルをたたき、立ち上がる。
 表情は怒りに染まっている。
 こんな顔は初めて見た。
 こいつはいつもニコニコして、楽しげに過ごしていた。


 ・・・やめろ。
 お前は幸せそうに・・・あのまま笑っていてくれればそれでよかったんだ・・・!
 なのに・・・!
 なのに・・・・・・・!


 「・・・雪ちゃんはあの後不良女としてクラスの女子に目を付けられ、いじめの対象になりました」


 「!?」


 うそ・・・だ・・・。


 「雪ちゃんは毎日が地獄です。あなたが思っているような幸せは決して訪れません」


 うそだ・・・。


 「貴方は前以上に雪ちゃんを不幸にした」


 「嘘だッ!」


 ガン、と俺は利英以上にテーブルを強くたたく。
 ウェイトレスが運んできてくれたコップが転がり、床に落ち、割れた。
 あたりは静まり返り、ウェイトレスがこぼれた水とガラス片を片付けようとやってくる。


 「本当ですよ。貴方は間違えたんです。最悪の結果を選んだ。この後どうなるかわかりますか?」


 「・・・知らねえよ、そんなこと」


 俺はバツの悪さから少しいじけるようにして椅子に座る。
 はたから見ても態度の悪い奴だ。
 周りからはどう見えてるのだろうか?


 「雪ちゃんに『もしも』ということで、前の状況を話しました」


 だからなんだっていうんだ。
 こんなのは所詮夢なんだよ。
 お前は死んだ。
 紗由利さんも死んだ。
 想夢も死んだ。
 俺と持上は今囚われの身で殺されかけてる。
 京は俺たちを殺そうとしている。
 なら、ちょっとぐらい夢を見させろよ・・・。
 もう・・・あんな現実はいやなんだよ・・・!


 「雪ちゃんは喜んでその状況を受け入れました。『何も肯定されず、認めてもらえなかった自分がほんの数日の間でもそうなれたのならとても幸せだ』とさえも言いました」


 「ッ・・・!」


 「・・・あなたはそれでもまだ雪ちゃんを不幸にしますか?あなたはそれでもまだ逃げることができますか?」


 「お・・・俺は・・・ッ!」


 「・・・以上です。もうこの機会では私はあなたの前に現れることはないでしょう。・・・数日後、チャンスがまた訪れると思います。その時はちゃんと雪ちゃんと向き合ってあげてください」


 それだけ言って利英は去って行った。
 自分が頼んだ分と俺が頼んだ分の金を置いて行った。
 ハッ・・・せめてもの情けってかよ・・・。


 「こんなもの・・・!」


 俺は・・・また人を踏みにじるのか?
 これが利英の最後の情けなのだろう。
 俺はそこまでひどい男なのか?
 そうだ、俺はひどい奴だ。
 自分さえよければそれでいいんだ。


 「・・・クソッ!」


 俺はその振り上げた手を戻す。
 結局俺はどうしようもないクズだった。
 臆病なやつでしかない最低のクズだ、ゴミだ、虫野郎だ。


 金を払い、店を出る。
 そういえば、最近央山との仲も壊れた。
 おかしいな、あいつと俺は親友のはずなのに。
 京と付き合い始めてから・・・いや、あの瞬間雪菜を無視してから全てが狂いだした。
 みんながみんな苦しんでいる。
 利英も。
 俺も。


 もちろん雪菜も。


 すべて俺のせいだというのか?
 何もかも俺のせいなのか?


 ・・・そうなのかもしれない。
 利英は虐められているという雪菜を元気づけようと頑張っているようだ。
 ちゃんと現実に立ち向かっている。利英もつらそうだった。いじめられた雪菜のことを話すとき、とてもつらそうにしていた。きっと、見ているのもつらいんだろう。
 いじめを止められるだけの力がなく、ただただ慰めることしかできない自分が嫌なのだろう。


 雪菜も立ち向かっているはずだ。
 ちゃんと毎日学校に通って、いじめられてもめげずに利英と頑張っているのだろう。
 幸せなほんのわずかな瞬間でさえも、絶望しかない、死の未来しか待っていないというのに、そんなわずかな瞬間でさえも雪菜は受け入れるといった。
 だとしたら、今という瞬間がどれほどつらいのだろうか。
 俺には想像がつかない。


 俺はどうだ?
 逃げてばかりだ。
 結局喧嘩した央山とはそのままだ。
 京ともつきあったとはいえ、成り行きでそうなったから・・・というだけだ。
 別に会いたいとさえも思わない。
 いればいるでいいし、いなければいないでいい。
 そんな感じだ。
 何もかもが消極的で逃げ続けている。
 それが今の俺だ。


 「うぅ・・・くっ・・・クソッ!クソッ!!」


 近くの電柱に拳をぶつけ、八つ当たりをする。
 ハハハ・・・痛みさえも感じはしねえ。
 それが今の俺かよ・・・。


 「なんで・・・なんで・・・こうなるんだよ・・・。俺はただ・・・ただみんなが幸せになるように・・・!あんな未来が来ないようにと思ったから!!」


 俺はその場に崩れ落ちる。
 昨日まで・・・いや、つい先ほどまで俺は『ここが幸せな場所なんだ』と思い込んでいた。
 違う。
 思い込もうとしていたんだ。
 自分に無理やりそう思い込ませ、少しでも現実から逃げようとしていたんだ。


 ここは間違いなく現実だ。
 何のいたずらかは知らないが、確実に時間が遡っている。
 それはあの日、あの並木道にいた瞬間に覚った。


 だから逃げた。
 だから雪菜を無視して先に進んだ。


 「・・・ごめん」


 そう思うと自然と言葉が漏れてきた。
 今、雪菜は俺のことを覚えていない・・・いや、知らないといったほうが的確か。
 知っていたら、俺のところに来るはずだ。
 来なかったとしても、利英が話した『もしも』のことが『もしも』のことではないのだから、その時点でもう雪菜は俺のことを知らないことは確実だろう。


 そう思うと涙が出てきた。
 雪菜は俺のことを覚えていない。
 あの幸せだった・・・ほんのわずかな、瞬きすれば過ぎてしまうようなわずかな瞬間でさえも覚えていないのだ。
 ほんのわずかも覚えていない。
 それがとてつもなく悲しくて、俺はついに声を上げて泣き出す。
 地面に拳を当てて泣き叫ぶ。
 悲しさから自分に対して罵倒の言葉を投げかける。


 「馬鹿野郎!バカ野郎が!なんで・・・なんで俺はあそこで雪菜を見捨てた・・・!もっと方法はあっただろ・・・!もっと遠くに引っ越すとか・・・!京を説得するとか・・・!なのに・・・なんで!なんで俺はあんなことを・・・!!」


 『上元先輩!』


 脳裏に雪菜の声が響く。
 次第に声だけでなく、あの時の瞬間がよみがえってくる。


 『上元先輩!』


 『むぅ・・・上元先輩はいじわるです・・・』


 『上元先輩の声も格好良かったです!』


 『えへへ・・・ファーストキスです・・・』


 「雪菜・・・雪菜あああああああああああああ!!」


 俺は未知のど真ん中でだらしなく泣き叫ぶ。
 そうして、数十分が過ぎた。


 俺はついに覚悟を決めた。

 
 

 
後書き
 次回から扱い的には二章です。
 と、いうわけで次回は9月6日の0時に更新します。 
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