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零から始める恋の方法

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チェックメイト

 少し眠っていたようだ。
 おかげで思い出したくもない過去を思い出してしまった。
 そうだ、ハウンド部隊はもともと革命軍の部隊の一つだった。
 そして、戦争の狂気から抜け出せない者たちが集まりはじめ、今のような形になった。


 いや、今はそんなことはどうでもいいか。
 優先すべきは凛堂家を落とすことだ。


 「状況を報告して」


 「ハッ!現在凛堂家の包囲網が完成しました。すぐに突入できます」


 突入準備が完了したようだ。
 今最も警戒すべきはあのガキ一人。
 しかし、あの程度なら物量でおせばいともたやすく崩れる。


 所詮は雑魚どもだ。


 「わかったわ。五分後に突入させて」


 「ハッ!」




















 つい数分ほど前に電気がきれた。
 おそらく、敵が電気の供給をストップしたのだろう。
 さっき窓から屋敷の外に人がいるのが見えた。
 おそらくあれが敵だろう。
 今は明かりやらが煌々と照らされていて、まるで隠れる気配がない。
 紗由利さんは動ける程度に回復したのか、屋敷のいたるところにバリケードを施している最中だ。
 なんでも、もうすぐ突入してくるとか。


 「んしょ・・・やっぱり重たいですね・・・」


 「そりゃあな。しかし、利英のやつ遅いな・・・」


 確かに利英さんと連絡が途切れてからもう三十分もたつ。
 想夢ちゃんは連絡した段階では平道川近くの下水道にいるといっていた。
 そこからなら十五分程度で到達できるとも言っていたのに・・・。


 バキン!


 その時だった。
 突然何かが割れるような音がした。
 これって・・・。


 「上元さん・・・きっと敵が窓を破ったんです!」


 「・・・まずいな。まだバリケードは完成していない。相手は武器だって持ってる可能性がある。ここは隠れてやり過ごそう」


 はたしてそれができるだろうか?
 だが、作りかけのバリケードを完成させる暇もないし、なによりここから逃げようとすれば敵の真正面に出なくてはならない。
 なら、一か八か隠れてやり過ごすのが得策か。


 「・・・?おかしいな。全然足音がしない・・・」


 確かになんの気配もしない。
 アレだけの重装備なのだからそんな隠れる必要はないはずなのに・・・。


 ん?煙・・・?


 「た・・・大変です!火事です!きっと屋敷に火をつけられたんです!」


 「なんだと!?クソッ!逃げるぞ!」


 私は急いで紗由利さんに放火されたことを伝えようと連絡を入れる。
 しかし、この時は焦っていた。
 何故窓が割れたのか。
 そもそも物が燃えたりするにおいがしないということにさえも気づいていなかった。


 「紗由利さん、大変です!放火されてます!」


 『放火・・・?いえ・・・そのようなことはないはずですが・・・。とにかく、敵からの何らかの攻撃を受けている可能性があります。いますぐその場から逃げてください』


 「はい!上元先輩、逃げましょう!このままだと焼死んじゃいます!」


 「そうだな。逃げよう」


 私たちは廊下を走る。
 後ろからは煙が迫ってくる。
 確か煙を吸い込むと酸欠状態になり、わずか数分ほどで意識を失うらしい。
 ・・・危なかった。
 とりあえず、ハンカチで口を多い、少しでも煙を吸い込まないようにする。


 「ケホッケホッ・・・」


 「大丈夫か!?クソッ!急げ!」


 「だ・・・大丈夫・・・ケホッ!・・・です・・・」


 その時、目の前の窓ガラスが割れて、全身重装備の人が現れる。
 ここにきて敵が・・・!


 「クソッ!おらああああああああああああああ!」


 上元先輩が鉄パイプで敵に殴りかかるが、敵はそれをかわす。
 そして、蹴りを入れ、地面に転ばす。


 「上元先輩!」


 私が上元先輩を助けようと近寄ろうとしたが、再び窓ガラスを突き破って敵が攻め込んでくる。
 私はそのまま敵に勢いよく押さえつけられ、何もできずに地面に這いつくばることになる。


 「離して!放してください!」


 「上元京介、持上雪菜の両名を確保完了。残り二名です」


 『よくやったわ、ハウンド2。とりあえず、後の二人はハウンド3がおっているからその二人をこっちに連れてきて」


 「ハッ!」


 あの声は紗宮先輩!?


 「どうして紗宮先輩が!?放してください!放して!」


 『・・・その声は持上雪菜ね。こっちに来たら話をさせてあげる。つれてこい!」


 そうして、私たち二人はあっけなくて気につかまってしまった。
 すみません、紗由利さん・・・想夢ちゃん・・・。



















 「・・・お姉ちゃん」


 「わかってる・・・。わかってるから・・・」


 雪菜さまたちがつかまった・・・。
 私は守りきれなかった悔しさから拳を強く握る。
 肉に爪が食い込み、少し血が出てきた。


 この屋敷の門や塀にはいくつか監視カメラが仕掛けてある。
 そうだというのに、あいつらは堂々と作戦会議をしている。
 しかも、こちらは何もできずにいる。
 そして、雪菜さまたちを捕まえたことを一通りアピールすると、カメラに向かって発砲してきた。
 ・・・映像は途絶えた。


 他のカメラもすべて破壊された。
 ・・・完全に孤立状態だ。
 この部屋など一部のものは予備電力で可動できるが、それももう限界だ。
 下水道の門を開くぶんにも電力はとっておかなければならないし・・・。
 完全に手詰まりだ。
 ここで全軍突入でもされたら終わる。


 「お姉ちゃん、私がいくらか片づけてくるよ!あの程度なら私一人で・・・」


 「ダメ!いっちゃダメ!」


 「なんで!?このままだと私たちもつかまっちゃうんだよ!?利英さまだってまだ帰ってきてないし、少しでも数を減らさないと・・・!」


 「いいから・・・ここにいて・・・。今打開策を考えてるから・・・」


 どうすればいい・・・。
 屋敷内のカメラはもう機能しない。
 塀の外のカメラも機能していないから突入のタイミングに合わせることもできない。
 故にいくつか仕掛けておいたリモコン式の罠は無力化された。


 あとは古典的なワイヤートラップなどだが、あの程度に引っかかるような相手でもないはず。
 しかも、屋敷内のいたるところにガスがまかれている。
 あれはおそらく制圧用のガスで、即効性の睡眠ガスなどだろう。
 相手は防護服にガスマスク、それにサブマシンガンと完全装備だ。
 対して、こちらは槍と護身用のナイフのみ。


 分が悪すぎる・・・。
 駄目だ、何も思いつかない・・・。


 「ごめん・・・想夢・・・。お姉ちゃん・・・もう無理だよ・・・」


 「・・・わかった。お姉ちゃん、私がそばにいるから安心してね・・・?」


 どうせつかまるんだ。
 それならば、短いときを最愛の妹と過ごすことにしよう。
 幸い、ここに来るまでの時間はいくらか稼げるだろう。
 ・・・それまでに悔いが残らないようにしよう。


















 数十分後。
 凛堂家の制圧は完全に完了した。
 黒城姉妹は自決していた。
 持上雪菜と上元京介はその光景にショックを受け、もうすべてがどうでもよくなったようだ。
 凛堂利英は既に死んだ。
 今頃は川底で惨めに転がっていることだろう。
 万が一に生きていたとしてももうすべてが遅い。


 これで、チェックメイトだ。

 
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