零から始める恋の方法
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
紗宮京の記憶の欠片
「ハウンドβ。状況を報告しなさい」
『ハッ!現在八名のハウンド部隊によって凛堂家の周りを包囲しました。隙はありません』
・・・だが、あのガキはものともせずに突破するだろう。
ハウンド部隊は所詮流れ傭兵の集まりでしかない。
訓練された一流の兵士一人にも勝てない雑魚の相手だ。
・・・だけど私は違う。
あの場所で何年も生き延びた私は・・・違う・・・。
最初は無力に泣きじゃくる戦争孤児の一人だった・・・。
だけど、私はあるとき銃を手にし、我が身かわいさに人を一人殺した。
殺した人間は私と同じ少女だった。
ただ、彼女は一切れのパンしか持っていなかった。
だけど、私には武器があった。
私は上と戦場独特の狂気からためらいもなくその少女を撃った。
今まで脳裏に散々焼き付けてきた光景から人間は一発じゃ死なないことは理解していた。
だから、弾丸が尽きるまで打ち込んでやった。
少女は途中まで弱弱しく命乞いしていたが、やがてすぐに死んだ。
私はそのパンのおかげで数日生き延びた。
そして、次はまた武器を手に入れた。
銃なんてその辺にいくらでも転がっている。
だが、食糧は違う。
食糧は命より価値が大きい。
パン一切れのために子供を売る親だっている。
あの場所では子供なんて武器を握らせることか、食糧を買う通貨として使うしか利用価値がなかった。
次の日、今度は親子を殺した。
その親子は私を少年兵ならぬ少女兵だとでも思ったのか、泣いて命乞いをしたが、やがてそれもかなわないと知ると突然襲い掛かってきた。
だが、この程度のことはいつものことだった。
子供は男であろうと女であろうと兵士として使えるが、快楽を得るための道具としても使える。
この狂気のせいですでに理性が吹っ飛んでいるのだ。もっとも簡単に現実逃避をする手段として有用なのが、自殺か快楽を得ることだ。
私はそれを知っていたから迷わず殺した。
同族を殺す、という罪の意識は最初からなかった。これも戦場独特の狂気のせいか、はたまた私に人を殺す才能があったのか。今となっては分からない。
親子は食糧をいくらかため込んでいた。
必要以上に食糧を溜めこんでいると格好の的になるので、私は誰かのポーチに詰めれるだけ食料を詰めるとあとは全部燃やした。
きっとそれは、両親を亡くし、孤独の身となってしまった私のささやかな腹いせだったのだろう。
その晩、私は適当にねぐらを作り、泣いた。
まだ顔もよく覚えていない両親のことを思って泣いた。
何時この狂気の世界が終わるのだろう、何時両親が戻ってきてくれるのだろう、と現実から目をそむけようとしたことさえあった。
この戦争は後から知ったのだが、もともとは政府と革命軍の内乱から起きたものだったらしい。
そして、革命軍が敵対国に働きかけ、国家間の戦争にまで発展したのだという。
当然政府側も周辺諸国に働きかけて援軍を要請、そして敵対国も援軍を要請し・・・とネズミ算式に膨れ上がることは最早明白だった。
そして、それから数年の月日が流れた。
既に六か国以上での争いが続けられている中、次第に戦争はピークを越え、徐々に沈静化しつつあるものだとだれもが思っていた。
しかし、地方では政府軍や革命軍が略奪をおこない、民衆を搾取していた。
政府軍は「暴動を繰り返す革命軍を鎮圧するための物資提供」をうたい、革命軍は「自分たちが勝利した暁には国中に今よりももっと大きな富を授けること」を約束し、それぞれ搾取を繰り返していた。
そんなある日私は一人の少女と出会った。
その少女は強姦され、子供を連れていた。
日本でいう高校生になるぐらいの年齢の少女が赤ん坊を連れていた。
私はなんとなくその少女たちに食糧を分け与えていた。
どうせ、ありあまっているんだ。少しぐらいはいいだろう。
ある日、偶然だがミルクの粉を手に入れた。
もっとも水は貴重で手に入らなかったため、唾液でうまくとかし、口移しで飲ませていた。
・・・正直、ここまでしたのはその少女が私と同じ日本人だったからなのかもしれない。
だが、それ以上にきまぐれ、という面が大きかった。
いざとなれば、こいつに爆弾でも任せて突撃させれば戦車の一台ぐらいは吹き飛ばせるし、食糧と交換するのにも役立つ。
私にとっては所詮その程度でしかなかった。
その数か月後。
再び戦争は激化し始めた。
しかし、他国が関与することはなく、文字通り政府軍と革命軍の一騎打ちだった。
革命軍はこの数か月と力をつけた。
対する政府軍はこの数か月、周辺諸国などとの交渉などにより、疲弊していた。
そこを狙ってのこの行動なのだろう。
そんな日に私は撃たれてしまった。
何度も撃たれたことはあったが、今回は足を撃たれてしまった。
近場からの狙撃だった。
すぐに位置を特定し、しとめはしたもののおそらくしばらくは不自由な生活が続くものだと思った。
足を負傷したのは大きい。
いざ、逃げようと思っても逃げることが困難になるからだ。
隠れてやり過ごそうと思うのは大ばか者のすることだ。
戦車は大砲を撃ってくるし、兵士だって手榴弾を投げてくる。
爆発に巻き込まれて死ぬか、隠れていた瓦礫に押しつぶされて死ぬかの二択しかない。
そんな最悪な状況で私は足を負傷してしまった。
ページ上へ戻る