ロザリオとバンパイア〜Another story〜
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第35話 もう1人の大妖
ジャックの腕の中には、あの少女がいる。あの男が狙ってくる事は判っていたから、直ぐに抱え上げたのだ。まだ、落ち着きを取り戻せていない様だ。腕の中で、絶えず震えているから。
そして、前方からは巨大な津波が意思を持って襲い掛かってくる。後方には逃げ場はない。
一応 危険な状況だ。
勿論、ジャックにこの子を見捨てると言う選択肢などは最初から無い。
『心配するな。 必ず守ってやるさ』
まだ、震えが止まらぬ少女を、やさしく包み込むように、腕に力を入れた。ぐっと自分の身体に抱き寄せる。
「ッ! …………あ………」
ジャックの腕に強く抱かれた女の子は、どうやら正気を取り戻した様だ。女の子はジャックを見上げた。
『心配ないさ。全部、オレに任せておけ。直ぐに片付ける』
顔を見て、ジャックは優しく笑いかけた。
「あ………。」
その笑顔を見て安心したのか落ち着いたようだ。そして、驚いたのはその後のことだ。先ほどまで震えていた女の子から、突然強い妖気を感じたのだ。それも並ではない。下手をすれば、あの男よりも強大な妖気。
『えっ?』
当然、ジャックもあまりの突然の事に驚きを隠せられなかった。突如現れた妖気を見て。
「なんだ?? この妖気は?アイツじゃない。まさか……」
セドナである、神無木も同様に驚いていた。妖気が感じるのはあの男の傍からなのだ。そして、その妖気の質も、あの男のものではなかった。
となれば、答えは1つしか無かった。この強大な妖気は、あの女が放っているのだという事。
「―――――――♪」
強大な妖気を纏っているのだろう美しい歌声が、この山に響き渡った。それは、安心できるような、心地良い様。まるで、天使の歌。
そして、歌が響き渡った次の瞬間だ。
迫ってきた大波が、弾けて飛んだのだ。まるで小波を大波で掻き消す様な、そんな勢いだった。
『これは……なんて綺麗な歌声……。 こんな事が出来るのは、確か、セイレーンの歌…か? ……って言うか君ってもしかして』
ジャックは、そこであることに気がついた。今、腕の中で必死に歌っている女の子の姿。確かにまだ幼いが、遠い過去に見たことのある容姿。美しい背中に生えている翼。
そして、何よりも彼女の名前だ。あの神無木が言っていた名前。『そしてこの子の名前は《燦》って言うんだけど。この子も素晴らしい力を秘めていてね』。
(《燦》……ってその名前! あああ!!! 今思い出した)
この少女の正体、それは、《音曲の大妖セイレーン》だと言う事、そして 後に陽海学園生徒となる《音無 燦》だった。
それも、歴代最強とも称される豪の者に。
(……思い出したんだけど、……あれ? でも、なんで この子がここにいるんだ?? あの学園の施設じゃなかったっけ? 確か……??)
この世界について、自分が知っているあの世界と同じか? っと言えばはっきりとは、もう言えないだろう。基本的なことは…同じである。だけど、此処は《平行世界》と呼べる世界だろう。つまり、もう1つの世界、故に全てが絶対と言うものはおそらく無い。
だから、彼女がこの場にいても不思議ではな。と、結論をつけたのは暫く後の事である。
(ふ~む…… 何でだろう? オレが、元々存在しないオレが、ここに来た事で、って事か。……だとしたら、燦に悪いことしたな……)
知っているからこそ、少し……申し訳なくも思ってしまっていた。親から、と言う件は同じだろう。だけど、こんな所で襲われているとは思えないから。
「あ あの……」
完全に敵の攻撃を防ぎ終わった後 ジャックを見つめた。
『……あはは。どうもありがとな。それにしても、こんな事できるのなら、オレ、ちょっとでしゃばった真似……したかな?』
ジャックが、笑いながら話すと。
“ふるふるふる!”
燦は、頭を左右に必死に振って、否定してくれた。
『ははは!』
燦が慌てて首を振る姿、そして大きくて、くりっとした眼。実際に見てみると凄く可愛い。ちょっと感動するくらいだ。暫く、和やかな空気が続いたのだったが。
「貴様らーーー俺を無視するな!!」
忘れ去られていた男がそれをぶち壊した。折角会えたこの感動がぶち壊された、と思った。
『…………………』
だからこそ、怒りがさらに湧き起こると言うものだ。 ぶち壊したこともそうだが、この子を、燦を傷つけようとしたことにも。かなり好きだったから、と言う理由もある。この姿を見たら、誰でも好意を持つに決まっているだろう。
そんな子を、襲う、殺す、そんな結論をした、あの男には然るべき報いを受けさせなければならない。
(…………ぶっ飛ばす……)
殺気を思い切りだした。勿論、まだ腕の中にいる燦には 伝わらない様に。怯えさせない様に。男に向き直した。
『………じゃあ えっと、燦ちゃん……だね? 後は大丈夫だ。……俺に任せて』
そういい自分の後ろに燦を隠した。これ以上、攻撃を受けさせない様に。まだ幼く小さな身体に無理をさせない様にと。
相手の攻撃が、全て自分にくるようにと。そして、その上で。報いを受けさせる為に。
『もう殺るか……。 ……さて、開放しよう。 闇の力・自然形態』
ジャックは、闇の力を解放した。以前使用したのは、2世紀以上昔の事。禁忌とも言える闇の業。使用法を誤れば自分自身を滅ぼす諸刃の力。
だが、無限の力でもある。
『さて……今回は……使いこなせるかな』
使いこなせるか、とジャックは、危険な力だと言うのに、何処か楽しんでいる様だった。
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