真田十勇士
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巻ノ六 根津甚八その十四
「よいな」
「わかりました、そして信濃の国人ですが」
「誰かいたか」
「かつて武田家に仕えていた真田家ですが」
「真田か」
「はい、あの武田家の中でも智勇兼備の者揃いでしたが」
「同じじゃ」
家康は真田家についてだ、こう酒井に答えた。
「あの家もな」
「従えばよし、ですか」
「そうでないのならな」
「攻めまするな」
「それだけじゃ」
「かなり強いですが」
「強いといっても所詮十万石」
家康は真田家についてはこう言った。
「力が違う、だからな」
「我等の相手にはなりませぬか」
「一気に攻めてじゃ」
そしてというのだ。
「降すぞ」
「我等の力で」
「わしには見事な多くの兵と御主達がおる」
家康は笑ってこうも言った。
「幾ら真田が強くとも真田家の者達だけ、兵も少ない」
「数が違いますな」
「優れた者がおっても少ない」
それが真田家だというのだ。
「家臣には加えたいがな」
「殿、その真田家の中でもです」
ここで家臣達の席の奥の方にいる精悍な顔の者が言って来た。
「ご次男の幸村殿のことですが」
「その者がどうかしたか」
「近頃信濃で若いながらも優れた者と言われ」
そしてというのだ。
「上田から出てご自身の家臣を集めておるとか」
「左様か」
「この御仁はどうされますか」
「どうでもよいであろう」
家康は男の問いにあっさりと答えた。
「別にな」
「捨ておかれますか」
「うむ、その者が幾ら優れた者を集めてもな」
「真田家の力ではですか」
「知れておる、むしろ真田を降した時に優れた者が入る」
家康はこう考えていた。
「だからよい」
「そうですか」
「真田家は当家の重臣にしたい」
真田昌幸、彼をというのだ。
「天下の智将、その智謀で羽柴家にも対したい」
「では甲斐、信濃の後は」
「だから御主の手の者達に近畿や東海も調べてもらっておるのじゃ」
家康はこう男に答えた。
「だからじゃ」
「左様ですか」
「うむ、それで半蔵よ」
家康はここで男、服部半蔵保長の名を呼んだ。
「伊賀者達にまずは近畿、東海まで調べさせてな」
「そして、ですな」
「それが済めばじゃ」
「我等伊賀者達も」
「甲斐、信濃攻めに加わってもらう」
そうしてもらうというのだ。
「とりあえずは今駿府に残っている伊賀者達を連れて行く」
「十二神将は今は、ですな」
「よい、あの者達は後でな」
「甲斐、そして信濃の南までは」
「よいであろう、甲斐の東から来る北条の風魔達には御主があたれ」
他ならぬ半蔵自身がというのだ。
「頼んだぞ」
「畏まりました、さすれば」
「それでは我等は甲斐に向かう」
家康はあらためて重臣達に告げた。
「岡崎、浜松の者達は信濃を攻める様に伝えよ」
「ではその様に」
「二つの城にも伝えて」
「出陣しようぞ、甲斐と信濃の民達には一切手出しはするな」
このことは念を押してだった、そのうえで。
家康は手勢を率いて北に兵を進めた、本能寺の変は甲斐そして信濃においても戦乱を再び引き起こしていた。
巻ノ六 完
2015・5・17
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