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オリジナルストーリー

作者:
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情報進機-インフォメイザー-
  第0機 zero -戦いの序章-

 
前書き
どうも、蛹です。
最近、本編が全く書けていないので
その代わりに、前からじわじわと書いていた
オリジナル作品を投稿します。
暇な人は一度読んでみてください。

それではどうぞ!! 

 
20××年。一体の巨大生物が発見された。

それは、北極の氷塊の中から偶然見つかったらしい。

科学者たちはその生物の構造を徹底的に調べ上げた。

そして、この生物を利用して我々が抱える問題を
解決していこうというプロジェクトが発案された。

これは、それから十数年後の話である。


ー西暦20△□年

「ふあぁぁ~~~‥‥‥‥んん‥‥‥」

僕は両腕を上げて背伸びをした。
そして、ゆっくりと立ち上がると
台所に向かい、パンを片手にトースターの前に立った。

「今日もいい天気だなぁ」

そんな事をつぶやきながらパンを二枚
網の上に置いて扉を閉め、焼き時間を
3分に設定してからスイッチを押した。
そして、テレビのスイッチを入れた。

〖続いてのニュースです。昨日、午後11時半、戸鳴市(となりし)で――――――〗

テレビのど真ん中で男性キャスターが原稿を淡々と読んでいるが
それを無視して、僕はテレビの左上に表示されている時計を見た。
そこには、6時34分とあった。

「あー、"もう朝"のじゃんけん押せなかった。
 押さないとポイント入らないのにな‥‥‥‥」

別のテレビ局で放送されている"NEWSもう朝"で
6時半と7時半にあるリモコンの3色ボタンを押して
じゃんけんをするという企画で、30ポイント貯めると
二週間ごとに変わるが、今週は"もう朝くん"のぬいぐるみと
最新式炊飯器がもらえるのだ。しかも、なんと無料で。

「でも七時半にはもういないしな‥‥‥今日は諦め――――――」

 チーーンッ♪

「‥‥‥‥‥‥‥」

丁度いいタイミングでトースターが鳴った。
こういう時には若干苛立ちを覚えるが
それを我慢して、扉を開けてトースターから
軽く焦げ目の付いたパン二枚を取り出して
チラシの上に置いて、テーブルの上まで運んだ。

「‥‥‥お、あの犯人捕まったんだ」

両方のパンにいちごジャムを塗りながら
轢き逃げ事件の犯人についてのニュースを見ていた。
油断して指にジャムが付いたので、舐めとった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

焼けたパンのサクサクとした食感を感じながら
テレビをボーっと眺めていた。
そんな感じで、いつの間にか二枚とも
食べつくしてしまっていた。

「‥‥‥‥‥さてと、学校行くか」

僕はチラシの上に乗ったパンの欠片を
ゴミ箱の上でチラシの裏を叩いて落とした。
そして、チラシを元の位置に戻すと
俺は部屋に戻って、制服に着替えた。

「あ、もうこんな時間か」

テレビの時計はもうすぐ7時を示そうとしていた。
僕は鞄の中を一度確認して、テレビの電源を切った。
そして、玄関に座り込んで白のスニーカーを履いた。

「戸締りは‥‥‥‥‥」

僕はそうつぶやきながら首を曲げて
電気が消えて暗くなった室内を玄関から見渡した。
正直、ここから全て見渡せるわけではないのだが
寝る前に戸締りをした昨日の自分を信じることにした。

「行ってきます」

誰もいない室内に見かってそう言うと
僕は扉を開けて外に出て、鍵を閉めた。



    **********



「ふわあぁぁ~~~‥‥‥‥‥‥」

僕は大欠伸をした。とりあえず口は押さえた。
やはり、まだ起きたばかりなので少し眠たい。
だが、学校に着くまでにはおそらく覚めるだろう。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

僕は辺りを見渡した。
通行人が何人も僕の隣を前から通り過ぎていく。
後ろから自転車に乗ったサラリーマンが抜き去って行った。
電柱の上をハトが飛んで行く。あ、スズメもいるようだ。
車道では、軽自動車やトラック、バイクなどが
いつもと同じように規則正しい方向へと走っている。
読者もご存知の、ごく普通の風景だ。
だが、一つだけ大きく違う点がある。それは―――――――



―――――――この世界は"情報社会"であるということだ。



情報化社会ではない。"情報社会"である。
例えば、あの男性を見てみよう。

「よいしょっと」

 ガチャ

ハンドル付近とケーブルで繋がっている
腕輪のような物を手首に取り付けた。
シートに掛けていたヘルメットをかぶると
ポケットからバイクのキーを取り出して
鍵穴に差し込み、右に回した。

 ブルルルルル‥‥‥‥

バイクにエンジンがかかり
歩道から車道に入り込むと
そのままどこかへと走り去って行った。


これでは、分かりにくかっただろうか。


それならば、向こうにいる女性を見てみよう。

「あっ、充電切れかかってる」

そう言いながら彼女は電話ボックスに入った。
いや、正確にはあのよく見る緑色の電話は中にはない。
その代わりに、中にはガラス製の大きな箱があった。
それはマンションのポストのように区切られていて
その中の"携帯機器用"と書いた紙が貼られている所から
先にプラグの付いているコードが伸びた腕輪を取り出した。
盗難防止の為か腕輪とケースはワイヤーで繋がっていた。

 カチッ

彼女はそれを手首に取り付けると
コードの先のプラグに携帯電話を差し込んだ。
すると、みるみるうちに電池の残量が増えていき
あっという間に満タンになった。

「次からは気を付けとこ」

それを確認すると、彼女は先にプラグを外し
手首から腕輪を外してケースに直し込んだ。
そして、携帯電話を操作しながら歩いて行った。


これを見ると、今度は人間の生命力か何かを
機械のエネルギー源にしているかのように誤解されそうだ。


これ以上、何かの例えを出しても
時間を食うだけなので、答えを言おう。

この世にある機械製品の95%(残りの5%は入れ替えが間に合っていない)は
人間が溜め込んだ"情報エネルギー"を使って動いているのだ。

このエネルギーは石油や石炭を使う度に二酸化炭素が増加するとか
有害な物質を排出するなどの、環境への影響は一切なく
我々が抱える問題を解決するために必要なものなのである。
これにより、エネルギーはほぼ自給自足できるようになっている。



「って、もう着いてるし」

いつの間にか学校に着いていた。

「よおっ!」

 バシッ!

後ろから僕の背中を叩きながら挨拶をしてきた。
まぁ、それが誰なのかはすでに分かっているのだが。

「痛っ!なんだケージか」
「おいおい、今日は朝から元気ねぇなぁ。
 もしかして"もう朝"のじゃんけん、寝過ごしたのか?」

この朝の元気を奪って原因を当てて見せた男は
僕のクラスメイトの"朝倉 慧二(あさくら けいじ)"。
中学からの友人で、趣味は筋トレとどこの学校でも
必ず一人はいる典型的な馬鹿キャラである。

「おい、今心の中で俺の事バカにしなかったか?」

そして、何故か妙に鋭い。心でも読めるのかと問いたいぐらいである。
僕はそれを誤魔化しながら教室まで向かって行った。



    **********



ここは、十有県(とあるけん)内にある海沿いの町、十有市(とあるし)
僕らは、そこに建てられた新しい学校、十有高校(とあるこうこう)
第一期生として、ここに四月から通っている。
町そのものが海に近いので、最初は学校の建設が見送られていたが
とある会社の強い意志によって、近年ようやく建てられたらしい。
資金もほとんどその会社が負担してくれたものだという。
山の途中にあるので、避難場所としても利用される予定になっている。

「一限は社会かぁ‥‥‥‥めんどくせぇなぁ」

朝のHRが終わり、一時限目まで10分間休憩。
僕はケージと席に座って向き合って話をしている。
入学の時の席で運よく隣の席になったのだ。
ちなみに僕の席は、窓側の一番後ろの席。
僕はまだいいが、ケージはいつか前の席に
強制的に移動させられそうだ。

 キーンコーンカーンコーン♪

「始めるぞー、席に着けー」

社会担当の"仰木(おうぎ)"先生が入って来た。
僕とケージは話を止めて、席にしっかりと座り込んだ。
そして、毎度おなじみの起立と礼をしてから
朝からでは少し眠たい社会の授業が始められた。




    **********



「次は生物か。佐山(さやま)先生って
 小っちゃくてかわいいよなぁ」

2時限目が終わり、休み時間になったので
ケージは僕の方に身体を向けて言った。
先程の授業は隣の席で眠っていたのを見たので
元気があり余ってるんだろう。

「そうだな」

僕は笑いながらそう答えた。
そんな感じでどうでもいい話をしていると
あっという間に時間は経って行き
チャイムが教室中に鳴り響いた。

 ガラッ!

「始めますよー」

生物の授業担当であり、僕らのクラス1年4組の担任である
"佐山 早苗(さやま さなえ)"先生が前のドアを開けて入って来た。
背がかなり低いので、教卓からぴょこっと頭と肩だけ出ている姿が
男女ともに可愛いと密かに癒しの対象とされているらしい。
もう習慣と化しつつある起立と礼をして着席すると、授業が始められた。

「今日は、みんなも中学とかに習ったと思うけど
 人類の進化の歴史をもう一回学んでいきましょう♪」

佐山先生は、優しい笑顔を見せて言った。



人間は、旧人から新人に進化する際に
ある一つの能力を身に付けていた。
それは、別次元にあるもう一つの空間に
少しずつ情報を溜め込んでいくというものである。

そこに溜め込まれたエネルギーの最大量は
個人差はあるが、こちらの世界の物で例えると
重機を10時間以上動かせるほどのものらしい。

しかし、人類は2000年以上の歴史の中で
ごく最近からしか、このエネルギーを使用していない。

それは何故か。理由は非常に簡単である。

人間の持つこの能力の存在に気が付いたのが
つい数年前の事だからである。

さらに、神の設計ミスとでもいうべきか
人間は情報エネルギーを溜め込む空間を持っていても
それを使用するための機能を備えていないからである。
いわゆる、宝の持ち腐れ状態だったのだ。

しかし、十数年前に北極で発見された一体の巨大生物が
人類の進化を大きく促すことになったのだ。

その個体の構造を調べていくうちに様々なことが分かった。

・体長は約40m。
・体細胞は人間と非常に酷似している。
・黒い人間のような容姿をしている。
・仮死状態とでも呼ぶべきなのか、代謝が全く行われていない。
・表皮は通常兵器では傷一つ付けられない。
・体内には内臓も骨格も神経も脳もなく、そもそも空洞がない。
・生物としての反応が全くない。

なのに、これを"生物"と呼ぶ理由は、誰も知らない。

学者が最も注目したのは、それの体細胞を人間に触れた瞬間に
謎のエネルギー体が発生したことである。これにより
最初はその生物の体細胞が、空気中などにいる微生物に分解される際に
エネルギーを発していると推測されていたが、それならば
ここに運ぶまでに消滅しているはずなので、その結論は却下された。
調べてみた結果、それが人間の溜め込んだ情報エネルギーと分かったのだ。
つまり、この生物の体細胞は別空間に溜め込まれたエネルギーを
こちらの世界に出現させることが出来るのである。

そして、その"情報エネルギー"の名称は、現在もその存在が確認されていない
超高速で動くと仮定される粒子と同じ名称、"タキオン"と呼ばれている。

"タキオン"こと別空間に溜め込まれた情報エネルギーは
こちらの世界に出現する際に、現在までに見つかっている
全てのエネルギーに変化することができる。
しかし、変換時のエネルギー効率には個人差がある。

その変化を一つのエネルギーに限定化させるための機械が
行く途中にも何度か見かけた"腕輪型エネルギー変換器" 
通称、"ICブレス"である。
これはバイクのエンジンを動かすガソリンの代わりや
携帯電話の充電器としても使用することができるのだ。



「"ICブレス"のICはいんふぉめーしょんちぇんじ。
 つまり、情報変換と言う意味です」

佐山先生は英語が昔からとても苦手だったらしく
発音の仕方がカタカナよりひらがなに近く聞こえた。
ちなみにスペルは-infomation change-。
正直、英語だけなら佐山先生に負けない自信がある。

 キーンコーンカーンコーン♪

「それでは、終わりましょう。号令」

起立と礼をして、授業はいつも通り終了した。



    **********



4時限目の授業も終わり、ようやく昼休みになった。

「いやー、やっぱり授業受けた後のメシはうめぇなぁ!!」

ケージは食堂でカツ丼を頬張りながら言った。
生物以外の授業をほとんど眠って受けていた男が
一体どういう自信をもって、こんな事を言えるのだろうか。

「なぁ、お前の唐揚げ一つくれないか?」
「やるか」

ケージのおねだりを僕は速攻で断った。
彼が食べているのは、カツ丼+Aセット(合計660円税込)。
名前の通りカツ丼に、味噌汁と漬物が付いている組み合わせだ。
値段のわりに意外と大きいが、ケージの食欲の前では
一般人が並盛を食べるのと変わらないスピードで食べ尽くす。
ちなみに、Bセットを選ぶとサラダが付いてくる。
(が、ドレッシングが口に合わないらしく、彼は選ばない)

「だいたい、お前の方が多いだろ」

僕が食べているのは、唐揚げ定食(590円税込)。
ご飯と唐揚げと千切りにしたキャベツと味噌汁の組み合わせだ。
唐揚げはジューシーで、出来たては本当に美味しい。
それとレタスを一緒に食べると、また違う顔を見せる。
唐揚げの総量は、ケージのカツ丼の上の肉よりやや少ない。
それなのに、肉を奪われたらたまったものではない。

「ぶはーっ、うまかったぁ!」

ケージは箸を器の上に置いてから言った。
僕の方はまだ半分ほど残っている。

「‥‥‥‥食うの手伝ってやろうか?」
「いらん」

この男はどんだけ食い意地を張ってるんだ。
ケージは両手でカツ丼のお膳を持ち上げて立ち上がった。

「じゃあ、先に戻ってるぜ」

返却口の方向に笑顔で歩きながらそう言った。
ようやく、静かに昼ご飯を食べられる。
そう思いながら、僕はコップを取って水を飲んだ。
(ちなみに、水は無料)



    **********



あっという間に時間は過ぎていき
いつの間にか放課後になっている。
今日は何だか時間が経つのが妙に早い気がする。

「じゃあ、また明日な!」

学校の校門を出ると、ケージは僕と反対の方向に曲がって行った。
家まではそっちから言った方が近いとのことだ。
ケージは3人兄弟で、下に小学生の弟と妹といる。
両親は共働きで忙しいらしく、彼が夕食を作っているらしい。
そのため彼は料理が上手く、中学の時も家庭科の授業で
主婦顔負けの、もはや芸術的な料理を作り上げた。
(無論、それもあり評価は5だった)
栄養についてもけっこう考えていて、野菜が足りない日は
野菜サラダを自前で作って持ってくることもたまにあった。
ケージは、学校では馬鹿キャラを貫いているが
それは、家での兄弟の世話に忙しいからで
彼は意外とやればできる馬鹿なのだ(性格は天然バカだが)

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

僕は河川敷の上の歩道をゆっくりと歩いている。
本当は遠回りなのだが、今日は風が気持ちいいので
ゆっくりと帰ることにしたのだ。
家族が待っているなどと心配する必要はない。
何故なら、僕はケージとは正反対で、家族がいないからだ。
どうして両親がいないかもわかっていない。
いつもは特に気にせずに生活しているが
ときどき、今の現状を改めて突き付けられる時がある。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥ハァ‥‥‥‥」

僕はため息をついた。
こういう時は、家に帰る前に河川敷に寄っている。
川からの涼風を浴びていると、何となく落ち着くからである。

「‥‥‥‥あれ?そう言えば‥‥‥‥‥‥」

考え事をしながら歩いていたので気付かなかったが
周りを見てみると、通行人が一人も見当たらなかった。
前に来た時は、沢山とは言わないが、買い物帰りの主婦や
日が傾いた涼しい時間に散歩をするおじいさんなどが
たまに前を通り過ぎていく事があったが
今日は本当に一人も通っていない。

「ん、あれ‥‥‥‥何だ?」

いつもは川しか見ていなかったが
その延長線上には海が見えるのだ。
そんな普通の海に、二つの影が見えた。
すると、一つの影が急にこちらに飛んで来た。


 ズドオオオオオオォォォォォォォオオオオオオオンッ!!!


「うわあァッ!?」

何か巨大な人型のものが飛んで来て、川に倒れこんだ。
衝撃で川の水が勢いよく弾けて、それが僕にかかった。
僕はズブ濡れになったが、それよりも目の前の事が
あまりにも非現実すぎて動けなかった。

〖痛たたたた‥‥‥‥‥〗

その人型の生物が河川敷の上の歩道に乗っていた頭を
ゆっくりと起こしながらつぶやいた。
拡声器を通したかのようで、女の子の声だった。

〖え?何でこんなところに人がいるの!?〗

人型の生物が僕を見下ろしながらそう言った。
僕はもはや訳が分からなさ過ぎて、頭が働かなかった。

〖そっか、こんな所まで投げられちゃったのか‥‥‥‥‥〗

人型の生物はそうつぶやきながら立ち上がった。
改めて見てみると、本当に大きかった。
この市内にある建物と比べても、はるかに大きかった。

〖‥‥‥危ないから隠れてて!〗

そう僕に言うと、向こうから歩いて来ている
もう一つの巨大な何かに向かって走って行った。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

僕はその場にしばらく立ち尽くしていた。










僕は口を開けている。開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だ。
何だろうか。これは夢なのだろうか。

目の前に謎の巨大生物が二体。
いや、目の前と言っても実際はかなり距離があるのだが
二体の巨大生物があまりにも巨大すぎて
かなり近くにいるように感じたからそう言ってしまったのだ。
よくは分からないが、やばいと言う事だけは分かる。
戦隊ヒーローが巨大ロボで敵の怪人と戦っているのを
真下から眺めているような気分だ。
しかも、これは特撮ではなく本当に起こっているのだ。
この時の動揺は本人にしかわからないだろう。









〖はぁっ!!〗

先程、ここに突っ込んできた方、つまり
僕の事を気遣ってくれた女の子(?)は
何だかどこかで見たことのある姿をしている。
あえて例えるなら、トカゲ‥‥‥いや、爬虫類よりは
両生類のサンショウウオに近い姿をしていた。
全体的に丸いデザインだが、意外と容姿は細身で
"某汎用人型決戦兵器"にそっくりだった。
色は全体的に明るみのある青で、所々に白と黄色。
全身が透明な粘液に覆われており、光沢があった。
そんな彼女は右手を大きく振りかぶった。

〖‥‥‥‥‥‥‥‥‥〗

対する彼女を投げ飛ばしてきた方は
何と言うか、カメ?に似ていた。
甲羅のような物があるし、肌も硬そうだ。
彼女が女性寄りのスレンダーな体型なら
こっちは男性的な、レスリング選手のような
ガッチリとした筋肉質な体型をしていた。
その姿は、まるで"歩く要塞"を思わせた。

 ガンッ!!

彼女はカメ型生物(?)を殴った。
意外と良い音がした。そのすぐ後に。

〖痛ッ!!〗

彼女は拳を押さえながら
カメ型と距離を置いた。

〖痛たたた‥‥‥やっぱり硬い〗

それは当然だろう。見ればわかる。
例えるなら、一般人が岩石を殴るような感覚だ。
絶対に壊せそうにないのが予想がつく。
拳を押さえる指の間から、そう言う成分なのかは
よく分からないが、青い血が流れ出ていた。
柔らかそうな彼女の身体では
物理的に打撃の破壊は無理そうに見えた。

〖ガアッ!!〗

カメ型が右腕を大きく振りかぶった。
彼女はそれに対応するために構えを取った。

 ザクッ!

振り抜いた腕の先の鉤爪が、彼女の
右の脇腹の柔らかそうな肌に傷を入れた。
身を反らしてかわしたことで
そこまで深くは切られなかったようだが
流れ出る血の量は意外と多かった。

〖あぐっ‥‥‥!!〗

彼女は左手で脇腹を押さえた。
顔の表情に大きな変化は見られないが
声からして、かなり痛かったようだ。

〖身体は硬くて重そうだけど
 意外と素早く動けるなんてズルイな‥‥‥‥〗

彼女が脇腹を押さえていた手を離した。
なんと、もうすでに血が止まっており、
痛々しかった傷も塞がりかけている。
拳の傷もいつの間にかほとんど治っていた。
肌が柔らかい分、再生能力があるのだろうか。
彼女はカメ型の方を向いた。

〖でも、それならこっちにも――――――〗

彼女は腰を曲げて、海に両手を着け
四つん這いの体勢になった。
何だか、その様子を遠くから見ていると
余計に"某汎用人型決戦兵器"の姿が頭にちらついた。

〖―――――考えがあるよ〗

よく見ると、両腕に何やら模様があった。
腕から肩にかけてまっすぐに伸びる線は
そのまま胴体にまで広がっていた。
線の色は真っ黒だった。

「何をする気だ‥‥‥‥‥?」

僕がそうつぶやくと同時に異変が起こった。
彼女の腕のラインが黄色に染まっていく。
それは手首から少しずつ上っていっていた。
そして、両腕のライン全体が黄色に染まりきった。

〖えいッ!!〗

 ピシュッッ!!

彼女は素早く首を振りながら、口から何かを発射した。
それはカメ型の身体を右から左へ斜めに通り過ぎて行った。

〖‥‥‥‥‥‥‥ガハッ!!〗

カメ型が口から血を吐き出した。
そして、彼女が発射したものが通った線に沿って
身体の上側だけが傾いていき、川に音を立てて落下した。
下半身もバランスを崩してそのまま川に倒れこんだ。
赤い血が川の中に滲むように広がっていった。
この出血量、おそらく死んでしまったのだろう。
半分になったカメ型はピクリとも動かなくなった。

彼女が発射した物の正体だが、僕の予想では
おそらく今ここにある海水だと思われる。
どういう構造なのかは分からないが、両腕から吸い上げた海水を
胴体に溜め込んで、それを口から高圧力で発射したようである。
さらに、海の底にある細かい岩石の欠片ごと吸引したことで
文字通り"水圧カッター"ともいえる威力を発揮したのだろう。
実際、水に研磨材を添加した状態で噴射することで
鉄筋コンクリートやガラス、ダイヤモンドまでも
切断したり加工することができるらしい。

〖ふぅ、終わった‥‥‥‥〗

彼女は額を拭うような動作を取ってつぶやいた。
そして、首を曲げて急に僕の方を向いた。
こちらまではかなりの距離があると思っていたが
彼女は10歩ぐらいでここまでたどり着いた。
すると、少しずつ身体が小さくなっていった。

〖まったく、どうして逃げなかったの?〗

僕と同じぐらいの大きさになると
身体を覆っていた外装のような物が剥がれて
中から人間の女の子が現れた。

 スタッ

「こんな所にいたら危ないんだよ?」

彼女は腰に手を当てて怒っていた。
先程までの大きさの迫力とは一転して
とても可愛らしい怒り方をしている。
背は僕より頭半分低くて
長めの髪を後頭部で束ねている。
そして、学校の制服を着ていた。

「君は‥‥‥‥一体‥‥‥‥‥‥?」

僕は頭の中が半ば真っ白になっていて
こう訊く事しか出来なかった。

「アレを見たんだよね‥‥‥‥‥しょうがないか‥‥‥‥」

彼女は一回ため息をつくと言った。

「私は"河守 葵(かわもり あおい)"。
 この十有市(とあるし)を護っているある組織の一員で
 "インフォメイザー"の適合操縦者です」
「い、いんふぉめいざー‥‥‥‥?」

僕の頭には?が飛び交っていた。
今までの15年間でインフォメーション(情報)の単語は
この情報社会の中で飽きるほど聞いてきたが
"インフォメイザー"なんて名称の物は聞いたことがない。
操縦者って事は、あれに乗って操作していた事は分かるが
まるで空間に溶けるかのように消えていったあの現象は
この社会の中でも一度として見たことないぞ。
本当にこの子の言う事を信用していいのか。
僕は動揺している頭を回転させながら思った。

「まぁ、来てみれば分かるから」
「ま、待って!」

そう言ってどこかへ行こうとした彼女を僕は引き止めた。

「あ、アレはあのままでいいの?」

僕はもはや巨大な漂流物とも言えるような状態になった
骸と化したカメ型の化け物を指さしながら訊いた。
彼女はその質問を想定していたかのようにすぐに答えた。

「それなら大丈夫よ。ほら、あれ見える?」

彼女はカメ型の方向を指さした。そこには先程と同じ様子の‥‥‥いや
よく見てみると、カメ型の身体に異変が起こっていた。
身体が少しずつ分解して、キラキラと光る何かに変わっていっていた。
この光が僕にはどこかで見たことのある何かと同じものに見えた。

「身体を構成していた"タキオン"の管制が無くなったから
 徐々に身体の構成が分解されて自然に還っているの。
 たぶん、明日にはおそらく跡形もなくなっているはずよ」

そうだ、あれは科学の授業で見た変換されていない純粋な"タキオン"の光だ。
純粋な"タキオン"はこの世界に出現するとまず最初に光エネルギーになる。
そして、そのまま地球のエネルギーへと補充されて行くのである。
あれ程の大きさならば、発電所数基分のエネルギー量なのではないだろうか。

「だから、あれについては何も心配することはないわ」

彼女は僕を安心させるためか穏やかな笑顔で言った。
僕は内心ほっとした。こんなのが来ていたことが知れたら
十有市にはテレビ記者等が殺到していただろう。
市内も怪獣の話題で大騒ぎになっていたかもしれない。

「そう言えば、きみ、ずぶ濡れだけど大丈夫なの?」
「へくしゅッ!」

それを聞いて身体が思い出したかのようにくしゃみが出た。
さっきまでの緊張が無くなった途端、急に体が寒くなってきた。
夏が近づいていると言っても、まだ水遊びの時期ではない。
濡れてから少し時間が経った分、体温が奪われたのだろう。

「とりあえず、もう少しだけ我慢してくれる?
 今からあなたを私たちの組織へ案内するから」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥へ?」

僕は矢継ぎ早な展開について行けなかった。
先刻の壮絶な戦いの次は僕を組織へ案内する?
そんな漫画みたいなことがあるのか?
色々考えようとしてみるが頭が全く回らなかった。

「心配しなくても大丈夫よ。ただ順番が逆になっただけだから」

不安げな僕を見て、彼女は言った。
そして、僕の方へと振り向きながら続けた。

「私たちはあなたを組織へ勧誘するつもりだったの。
 でも、予想外な事に随分早くにあなたはこのことを知ってしまった」

彼女は僕の元へと歩み寄って目を合わせて来た。
一見すると穏やかだが、その両目からは何か強い圧力を感じた。
このとき僕は何故か、彼女から目を離すことが出来なかった。

「"篠原 牧人(しのはら まきと)"くん。私たちの組織には
 あなたの力が必要なの」

これは僕、"篠原 牧人"が大いなる戦いへと身を投じていくまでの物語である。 
 

 
後書き
十有市に隠されていた巨大な組織。そこで知る巨大生物の正体。
牧人が彼らと共に戦わなければならない理由。
そして、攻めて来る怪物たちの目的とは。

次回、第1話 first -初めての戦場- 




いかがでしたでしょうか。漫画の読み切り感が溢れて
いや、どちらかというと少し長めの第一話的な感じですね。
次回予告をしましたが、おそらく続きません。
第0話にしたのは、もちろん次回の題名をこれにするためです。
インフォメイザーの説明は話の都合上出来ませんでした。
読んでみて、書く気力が湧いたら感想を下さい。作者が喜びます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 
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