| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

SAO編
  第105話 料理への想いと鼠の初恋


~第55層 グランザム~

 そこは、鉄の都と別名称で呼ばれている層。
 最早言うまでもないが、ここにはアインクラッドのトップギルド、血盟騎士団の本部がある層だ。リュウキもレイナと一緒にいたいと言う想いから、嘗てのトラウマとも言えるギルドと言うものに入る事になった。確かに、ギルドと言うものに入る事、それを聞いた時、僅かだが抵抗は合った。
 でも、それがレイナの為、彼女と一緒にいられるならと、考えた瞬間、……不思議とそんな気持ちは直ぐに露と消えていたのだ。

 とまぁ、色々と説明をしたが、この層に来たのは、血盟騎士団に用があった訳ではない。リュウキは、ある人物に合う為に来た。グランザムへ到着し、転移門広場から辺りをゆっくりと見渡す。
勿論、フードはしっかりと被って。

 その時だった。

「ア、オーイ! リュー! こっち、こっちダヨ!」

 茶色の地味なレザー装備、フードの隙間から出ている金褐色の巻き毛。
 そして、トレードマークと言っていい、その両頬に付けられたフェイスペイントで付けられた髭。ここまでの説明ではっきりと誰なのかは判るだろう。
 そう、鼠のアルゴだ。

「悪いな、アルゴ。急に呼び出して」

 リュウキはアルゴを見つけると、一言謝罪をしていた。珍しく、今回はリュウキがアルゴに連絡をしたのだ。それを聞いたアルゴはニカッと笑いながら答える。

「良イって事サ! それニ、リューが呼んでクレる事何て、レアだしナ? ンで、このおネーさんに何かヨウかな? レーちゃんは一緒じゃないみたいダガ何か合ったのカ?」

 アルゴは、リュウキの傍に誰もいない事を疑問に思っていたのだ。最近じゃあ、レイナと一緒の2人の時が多かったから。少し前までは、レイナの方は血盟騎士団の副団長補佐の地位にいる、重要人物だから、ギルド関係で色々と時間が合わなくて、単独だった事も多かったのだ。だけど、今ではリュウキとレイナのゴールインしているのはアインクラッドでは周知の事実だ。

「ん。今日はアスナの所に言ってるよ。何か話があるんだって」

 リュウキは、アルゴにそう説明。アルゴは、それを顎に手を当てて、ふむふむ と頷きながら聞くと、ニヤ~っと笑う。

「ソーカソーカ、てっきリ、オレっチは、結婚1週間目ニして 倦怠期にでも途中シタかと思ったヨ」
「ん? ……倦怠期?」

 リュウキは、頭の中にある辞書をペラペラと捲る。そして、意味が把握した所で、ため息をして……。

「……なんでそうなるんだよ」
「ハハぁ~ リューは博識だネ~ 意味判ったカ?」
「一般常識。意味くらい判るわ」

 リュウキは呆れつつもそうツッコミを入れた。アルゴはアルゴにからかってるのが楽しいのか、ケラケラと笑っている。

「まっ、レーちゃんに限ってそんなノは、無イだろうネ。あんな娘、なかなか居ナイんだヨ~? 大事にシナきャダヨ」
「判ってる。大切な人だ。レイナは」

 アルゴの言葉に大真面目で、そう返すリュウキ。本人はからかう気満々だったんだけど……、そう返されてしまったら、ちょっと苦笑いもするし、複雑な気分だ。アルゴとリュウキの付き合いはそこそこ長い。情報屋と情報提供者の関係だからだ。この世界で、レイナ、アスナ、キリトの次長いと言ってもいいだろう。(描写無かったけど……)正直、アルゴの中に、リュウキに関する何かが芽生えていてもおかしくないんだ。

「ん? どうしたんだ?」
「ンヤ! 何でもナイさ!」

 アルゴは、リュウキの言葉を聞いて、思わず赤くさせつつ ぷいっとそっぽ向いた。

(ハァ~……やっぱ鈍感ダナ。当時のレーちゃんの気持ちがよく判ルと言っタものダヨ)

 レイナのリュウキに対する追っかけは本当に見てて微笑ましいものだったのだ。リュウキに関する情報をよく聞きにアルゴの所へと何度も足を運ぶくらいだから。そして、勿論ギルド関係の仕事も手を抜いていないときたら更に驚愕だ。どれだけの精神力(体力?)なのだ?と思えるのだが、所謂、恋する乙女、愛の力と言うヤツだろう。
 
 思ってて恥ずかしいものだけど、あの神がかり的な行動力の原動力はそこから来てるとしか思えないから。

「アハハ、ソー言えば知ってルか? リュー。レーちゃんの料理スキル獲得エピソードを!」
「ん? エピソード? ……ん、味覚エンジンを全部解析したり、コンプリートさせたり……ん、その程度しか知らないかな」

 リュウキはアルゴの言葉を聴いてそう答えた。コンプリートした当初は、本当に驚愕したし、料理を極めてると言う話を聞いた時、正直……必要か?とも思ったものだけど、料理の美味しさ、NPCが経営するレストランとは比べ物にならない事を知った今、認識をリュウキは改めていた。

『本当に美味しい料理、教えてあげる』

 レイナにそう言われて、教えてもらえたんだ。大切なものだと言う事を、この世界においても。

「ムフフ~っ 格安でいいヨ。5千でどうだ?」
「……ん、興味はあるんだ。だけど今はちょっと金欠でな。ん……ツケといてくれ」
「ホイホイ、リューは信頼出来るからナ。ソレでOKOK。ニヒヒ~あれはいつだったかナ~」







~第35層 ミーチェ~



 多分……1年くらいは前の話。
 レイナは、アルゴにある情報を聞くために、待ち合わせをしていた。

「レーちゃん? 今日は何ダ? リューの情報ナラ、昨日あげタヤツが最新だシ、更新はマダだぞ?」
「え、えっとね? 今日は違うんだー……えっと、その……」

 レイナは少しオドオドしながら、アルゴに聞いた。

 その内容は、料理スキル情報についてだった。スキルは、着々と上がっているけれど、速度が滞ってしまっていて、何か情報がないか?と思ったのだ。

「料理スキルの情報? レーちゃんはモウ大分鍛えらレテるって来てるシ、必要なのカ?」

 アルゴは、それを聞いて首を傾げた。レイナやアスナ、血盟騎士団の双・閃光の2人が料理のスキルを得るために頑張ってるのは周知の事実だ。そんなスキルを上げてるプレイヤー自体少ないし、2人は有名だから色々と出回っているのだ。……一応言っておくが、リュウキやキリトがアルゴに売ったわけではない。

「えーっとね……、スキル熟練度自体は上がってるんだけど……ほ、ほら? レアな料理道具とか、イベントで、手に入る様なスキル、エクストラスキルとか、無いかな~? って思って。もっともっと上達したいから……」
 
 レイナは少し顔を赤くさせながらそう言う。
 間違いなく、誰かの為に頑張ろうとしているのは一目見ただけで明らかである。アルゴはそんなレイナを見て、ニヤリっと笑い。

「ふっふーん♪ レーちゃんは欲張リだナ^^  既にソンナにあるのに、まだ求めルとはネー」
「う~、な、なんで笑うのよっ! 私だって、料理が上手になりたいって思うんだよっ! 女の子なんだからっ!」
「誰カの為にっ……いやー、イイね。青春ダネー、おネーさん、羨ましいヨ! 悶えちゃうヨ」
「も、もうっ! 何よ~!! 情報が無いなら無いで良いよっ! 情報屋でも判らないことが合ったって不思議じゃないしっ! 地道にがんば……ッ!?」

 レイナが最後まで言う前に、アルゴは人差し指でレイナの口元に宛てがった。そして、真剣な表情をしてレイナに言う。

「おおっと、流石のおネーさんも、そいつハ聞き捨てナラないネ? 誰も無い、なんて言ってないヨ」
「えっ?? ほんとっ?」

 レイナの表情はぱーっと明るくなる。それを見たアルゴは頷き、そして椅子に座ると。

「教えても良イけど、レーちゃん。アーちゃんは良いのカナ? 一緒に鍛えテルンだろう?」
「あ、お姉ちゃん? ん~……お姉ちゃんはギルドの仕事がちょくちょく入ってて、今は時間が合わないんだ。だから、私がやってみてから教えてあげるつもりだよ」
「オー成る程、アーちゃんも頑張ってルんだネ。青春青春♪」

 勿論、アルゴはアスナがキリトの事を少なからず想っている事は知ってる。レイナ程、あからさまでは無いにしても……流石は姉妹。見たら一目瞭然な所もあるから。

「それで? お金なら払いますよ。幾らですか?」
「イヤイヤ、情報代は要らなイ。その代わり、オレっちも連れて行って欲しいんダ」
「え? アルゴさんも?」

 これまでに、クエストの情報、マップ情報等をアルゴに聞いた事はあっても、一緒に行動する様な事は無かったからレイナは少なからず驚いた様だ。だけど、それは全く問題なかった。情報屋を生業としているアルゴだが、その情報を得る為に、危険地帯である前線に赴くことだってある。

 Lv自体も攻略組程では無いが十分あるのだ。

「それデネ。東の山脈を越えた先にアル、小さな村に《料理の奥義》みたいな物を伝授してもらえるクエストがあるらしいんダ。ま、現段階ではかなり胡散臭い案件だけど情報屋としてはネ、一応確認しておきたいんだヨ。ただ、1人で行くには危険な距離だシ……、その点はレーちゃんの様なコがいてくれたら最適なのサ!」
「あー、成る程、私がボディーガードをしたら良いって訳だね? うんっ! 良いよ」
「流石、レーちゃん!話が判るネ~」

 レイナは2つ返事でOKを出して、アルゴとハイタッチを交わした。

 ……その後、アルゴの言う小さな村にある《レストラン・DON》でその情報を取得。オーナーシェフの依頼を受けて、クエストフラグが立ち、スタートしたのだ。

「ビンゴっ! だね?」
「オー。ここまで順調ダ」

 勿論、2人はそのクエストを受ける。クエスト名はアルゴの情報通りの《料理の奥義》。



           □         □          □



            【収集】料理の奥義、幻のキノコを求めて

 危険地帯である西の森の奥地にある滝の傍にある幻と言われているキノコを取って来てもらいたい。
十分なお礼をするので宜しく頼みます。

               コプリーヌ・キノコ 0/3


           □         □          □



「ん~、それにしてもサ。料理のスキル上達、もしくは料理関係アイテムの取得クエストがこんなにメンドイとはネ、レーちゃんと一緒に来て正解だったヨ」
「そーですね。ここのMobも結構厄介なのが多いですし。でも キノコですからね、それを取ってきて料理したら……スキルが上がるのかな?もしくはお礼も、って言ってたから、何かレアな料理道具的な物をくれたりするのかな?」
「さぁ?」
「むー、さぁって! 情報屋じゃん! アルゴさんは!」

 アルゴのあっけらかんとした返答に思わず苦言を言ってしまうレイナ。だが、アルゴは当然だといった様に続ける。

「キノコだからネー、多分料理でしょ? って感じダネ。正直なトコロ。それに《コプリーヌ》って名前からしてもそうダロ?」
「んー、それは確かにね。日本語名《ササクレヒトヨタケ》。ヨーロッパでは高級キノコとして知られてるけど、日本じゃ、栽培してるところ、少ないから正に幻だよね。うん、それを聞いただけでも期待できるっ!」
「あー、確かに期待出来るアイテム名ダケド、情報なんて大半は眉唾ダし、その中から本物を探り当てるのガ情報屋の仕事、無償提供なんだシ、スキルに関してハ、空振りでも怒らないでクレよ?」
「う~ん……まぁ、でも美味しいキノコを手に入れられるのなら……」

 レイナは返答に迷っていた時。すぐ後ろにモンスターが現れていた。

 昆虫タイプのモンスター《アーマー・ビー》

 アルゴとの会話で、キノコに夢中になっていたレイナは気づくのが一瞬遅れてしまったのだ。
 だが。

「フッ!!」

 アルゴは、素早く自分の武器であるナックル系の装備。
 《クレイモア・クロー》
 三本の鉤爪が、アーマー・ビーの胴体を貫き、それがカウンターアタック、クリティカル・ヒットとなって、一撃で四散した。

「ウーム、ここの敵はなかなか隠蔽スキルが高いネ。コリャ」

 アルゴは、獲得経験値、コルを確認しながらそう呟く。攻略組のトップクラスであるレイナが気付かなかったくらいだ。一撃の威力は少なそうだが、状態異常の攻撃であれば、油断はできないのだ。

「ご、ごめんなさい、アルゴさん……油断してた」
「良いっテ良いってテ! ……ん~、そうダナ? 今後のリューとの関係の変化を逐一、他のプレイヤーへの売り物にサセテくれたら「ダメぇぇ!!」ジョーダンジョーダン♪」

 レイナはブンブンと首を振った。
 自分としては、こっそり?とリュウキの事を想い……そして 行動をしているつもりなのに、そんな事を公開された日には、恥ずかしすぎてどうにかなりそうだと思っている様だ。……相変わらずだ、と思ってしますのはアルゴである。レイナが相変わらず、可愛いのである。

「アハハ、アーちゃん、レーちゃんの姉妹とは色々合った仲ダシナ? アーちゃんに関してはオッパイ見せた仲だシ!」
「うぇぇ!? な、なんで?? お姉ちゃんが??」
「アッハッハ! キー坊の前に、オレっちに見せてくれたんダヨ。レーちゃんにも頼もうかナ? リューの前に、オレっちに」
「だ、だ、ダメですっっ!! そ、そんなの嫌ですっ!!」

 レイナは更に首を横に振る。それを見たアルゴは、更にニカリと笑い……。

「じゃ、リューの次に予約ヲ!」
「ダメですっっ!!」

 そんな感じで、楽しそうに森の奥の滝を、幻のキノコを目指して、奥へと進んでいったのだった。そして、進む事1時間。目的の場所、大きな滝のある場所に到着した。

「おー、アソコっぽいね」

 アルゴが覗きながらつぶやく。
 位置情報的には間違いなく、滝を思い切り主張しているかの様な場所だ。

「早速キノコ、探すカ「待ってっ!!」ワっ!?」

 アルゴは、進もうと歩を進め様とした時、レイナは思い切りアルゴの手を引いた。

「ちょっ、レーちゃん!?」
「しっ……、何か、何かいるよ」
「んん?」

 アルゴは目を凝らすが……特に何も見当たらない。索敵スキルはそこそこ上げているし、この層程度なら、全く問題ないのだが見えないのだ。

「何もないゾ?」
「……聞こえるの」
「滝の音じゃないカ??」
「違う……、これは、羽音の様な……」

 レイナが更に目を凝らした先。それは、滝の裏から出てきた。滝のその音に紛れ込ませている様だが、間違いなく出てきた。先ほどの《アーマー・ビー》よりも遥かに大きいもの。

 その頭上には、《The Queen insect》とカーソルが出ていた。

「アルゴさん……あのモンスター見た事ある?」
「……いや、無いネ」

 情報屋であるアルゴ、そして血盟騎士団であるレイナでも知らない未知のモンスター。その全容が全く判らない。
 
 アルゴは、それを見てすぐに決めた。

「撤退しよウ!」

 そう、初見でBOSSクラスの相手をするのは危険が伴う。色んな意味で、リスクが高すぎるのだ。その行動の傾向や、行動パターン、攻撃手段等の全てが判らないのだ。
 このデス・ゲームにおいて、情報不足は正に命に関わるのだから。

「クエスト絡みの未知のモンスター、それもBOSSの定冠詞を冠している相手に情報なしで挑むのは危険ダ。例え下~中層クラスだとしてモ!」
「……でも、あのくらいの大きさならいけそうじゃない?索敵スキルで確認しても、レベルを見る限りじゃ大丈夫そう」
「いや! 駄目ダ!」
「い、痛ッ!」

 アルゴは強くレイナの腕を掴み、そして引っ張った。アルゴは、そう言って、この世界で命を落としたプレイヤーを数多く知っている。彼らの殆どは ベテランのMMOプレイヤー。
 自身の経験だけでプレイして、引くべき点を見誤ったからだ。

「BOSS攻略ならまだしも、こんなくだらないクエの為ニ、命の危険を冒すなんテ、有り得ないヨ! 撤退ダ!」
「………」

 レイナは、黙っていた。だけど……、それは一瞬。アルゴの手をそっと掴むと。

「……くだらなくなんかないよ。私は、私達はこの世界で生きていくって決めたんだ。毎日を精一杯、この世界で。そうと決めた以上は絶対に妥協なんてしたくない。……それに、料理を作ること、誰かに美味しい……って言ってもらえる料理。本当に美味しい料理を作ることは私にとって、とても大切なこと、だから。……だから、お願いアルゴさん!」
「レーちゃん……、って、駄目ダヨ! 2人でなんテ!!」
「アルゴさんっ! わ、私、頑張るからっ!」
「しっかり、準備をして出直そウッ! アーちゃんだって手を貸してクレルだろ? 寧ろ、アーちゃんは、レーちゃん想い何だかラ、コンナ無茶したら、怒られルゾ!?」

 レイナはそれを聞いて少し、考える。それは、アルゴの言うとおりで、間違いない。だけど……姉は今はちょっと大変なのだ。
 ギルドの副団長として 色々と。補佐である自分がよく判ってるから。それに、姉のおかげで……その、あの人と会おうとする時間を増やすことができたんだ。だから、その恩返しもしたい。

「若しくは、キー坊やリューも連れて来t「それは駄目っ!」??」

 レイナは強く拒否をした。

「??」
「……だ、だって、リュウキくんには私が教えてあげるって、あんな啖呵切ったんだもん……、そ、それにキリト君に知られたらきっと、お姉ちゃんの事だって……ば、バレて……」
「………ププっ?」
「っっ!? な、なんで笑うんですかっ!?」

 アルゴが、顔を過剰に赤くさせながら笑っているのを見てレイナは思わずそう聞いた。アルゴは、その後身体を不自然にくねらせながら。

「いやー、可愛いネ~、本当に、おネーさん、恥ずかしすぎて、悶絶死しちゃいそうだったヨ」
「っ~~~~!!」
「アー、デモ リューは攻略不能相手って言われてルゾ? これは直にオレっちが確認したからナ~、ンでもって、キー坊は鈍感意気地なしダシ。ア~、姉妹2人して茨の道ダネ。頑張りナヨー?」
「う~~~っっ///!?」

 もう、いたたまれなくなって……、だから 思わずイベントBOSSモンスターに突っ込んでいってしまった。

「え、援護をお願いしますっっ!!」
「ンナっ!?」

 アルゴは手を伸ばしたがそれは空を切ってしまった。当然だろう、レイナは血盟騎士団所属にして、双・閃光の異名も持つ。アルゴの敏捷性をもってしても、捕まえる事が出来なかったのだ。



「やぁっ!!」
「ぎぃぃっ!!」

 レイナの閃光が煌く如き速度の細剣スキル《リニアー》が胴体を穿つ。それを受けた《The Queen Insect》だったが、即座に空中高くに飛び上がると。

「ギィギィギィ!!!」

 甲高い叫びをあげながらレイナに突進をした。
 敵の武器は、蜂の様な針による攻撃、もしくは多数の手による掴みかかりだろう。レイナは、その攻撃を読み切り、躱しながら再びスキルを当てようと、狙いを定めた。

 使うスキルは、“細剣 中位範囲剣技”《スウィーブ》

 範囲攻撃であり、更に攻撃がHitすると高確率で相手の命中精度を下げる優秀なスキルだ。BOSS相手にその手のスキルは効きにくいが、成功した場合の報酬は高い。敵の命中率を下げるから、攻撃を回避しやすい、つまり一方的に攻撃を当てる事が出来るから。

「よしっ! もらっ……っっ!?」

 見誤ったのは、敵の攻撃手段の1つにあった。相手は、羽を思い切り羽ばたかせ、周囲に突風に似た風を生み出したのだ。それを近距離で受けてしまったレイナは、一時行動不能状態となってしまった。

 そして、その隙を逃してはくれない。
 《The Queen Insect》の目に光りが灯る。それはスキル発動の合図だ。

「し、しまっ!」

――……直撃してしまう!

 まだ、こちらの命中率を下げるスキルを当ててないから、ミスをする事は有り得ないだろう。レイナは思わず目を閉じてしまったその時。
 ドスドスドス!! と、鈍い音が響く。

「ギィィッ!!」

 羽ばたかせてる両の羽、そして胴体部分に、投剣3本が突き刺さったのだ。

「アルゴさんっ!?」
「まったく、もうっ!!」

 アルゴの放った投剣スキル “シングルシュート”は、敵のスキルをキャンセルし、更に増悪値(ヘイト)をアルゴへと向ける事に成功し、レイナへ向けられていたタゲを外す事が出来た。

「やぁっ!!」
「っりゃぁーー!!」

 レイナの細剣とアルゴのクロウが、羽を切り落とし、空に、回避が出来ない、飛べなくさせて。

「レーちゃん! 今だ!」
「うんっ!! やあぁぁぁぁぁっっ!!!」

 裂帛の気合と共に繰り出したスキル。

 “細剣 最上位剣技”《フラッシング・ペネトレイター》

 9連擊による目にも止まらない突き。閃光の異名を持つ名に相応しい速度だ。最後の一撃がHitした瞬間……『ギィ、ギィ……』と機械が擦れる様な声を発しながら、その巨体を四散させた。

 倒したのを確認したレイナは、安堵感からか地面に座り込んだ。

「は、はぁ……や、やった……」

『まさかここまでの強敵だとは、思ってなかった。』
 正にレイナの印象がそれだろう。確かに、アルゴの言うことも頭にあったが、ここは35層であり、前線よりも遥かに下の層なのだから。

「モウ!! ホント、ムチャクチャだヨ!! この件、無料だったけど、料金、発生させるからナ!!」

 一息ついていたところで、アルゴから盛大に文句を受けた。……当然だろう、準備も無し、更に情報も無し、人数も少ない。最悪三拍子で、無理に参加させられたも同然だからだ。
 ……でも、レイナであれば、そのくらいの危機は判ると思えたのだけど。

「あ、はは……ごめんなさい、アルゴさん」

 レイナは、謝罪をした。アルゴはその顔を見てとりあえず怒りは抑えて、別の感情が沸々と湧いて出る。

「まぁ……アレだナ。愛のなせるワザってヤツカ?」
「っ……!?」
「でも、リュー相手ダシナー? 恋愛の道は険シイ所じゃ無いゾ? 山道~どころか、断崖絶壁も良い所ダ」
「うぅ~~! アルゴさーーんっ!!!」
「まっ! 余計な仕事を増やしてくれタんだシ、これ位は我慢シテよ! サッ絶壁を登る前にキノコ取っちゃいなッテ」
「うぅ……が、頑張るもん……」

 レイナはしょぼんとしながらも、アルゴの言っている事は十分に身にしみている為、思わずそう呟いていたのだ。そして、目的のアイテム採取を行う。……それを横目で見たアルゴは。

「……ははぁ、ホント可愛いナァ、アーちゃんもこの位、ショージキだったら、キー坊位落とせルと思うんだガナぁ?」

 そう ニヤニヤとぼやいているのだった。



~第55層 グランザム~


 場面は、再びアルゴとリュウキに戻る。
 黙って聞いていたリュウキだったが……、無理をし過ぎだと感じていた様だ。……その感情が、恐らく自分にも向けれていたと思うと、申し訳ない気持ちも出てくる。これまで、自分も何度も無茶と言われる様な事をしてきているのだから。

「……とまぁ、こんな事ガあったんだヨ」
「成る程……な。無茶し過ぎだ」
「どーかんダ。それに、結局アレは、料理の奥義を極める様なクエじゃ、なかったんだけどネ。残念ながラ」

 あのクエストの報酬が、キノコそのものだったのだ。普通に滝に行っても採取る事は出来ないが、あのイベントを介することによって入手が可能となる。食材レベルはA級。高級食材入手クエストと言った所だろう。直接料理スキルに関係するものではなかった。

「ま、全てはリューの為だったんだゾ? それを考えたラ、リューにも責任アルだろ~? 最後までちゃんとレーちゃんの事、シッカリとしなヨ」
「……そうだな。勿論だ」

 リュウキは、笑顔でそう返した。
 アルゴはそれを見て、久しぶりにリュウキの笑顔を見れてよかったと、笑うのだった。

「料理か。……確かにレイナの作る料理は美味しい。この世界で随一だよ。ひょっとしたら、現実での味覚を合わせてもトップクラスだって思える」
「ダローね~。何セ、リューの為の料理だからネ。ソリャ美味しい筈サ」
「……っ。アルゴはどうなんだ?」
「んにゃ?」

 リュウキはアルゴの言葉を聞いて顔を赤らめながらも、アルゴに聞き返していた。それは……。

「アルゴも誰かの為に料理をしたい、振る舞いたいと思うことがあるのか? アスナやレイナの様に」
「へ? ………っっ!!!!」

 それを聞いた途端。アルゴの頬は赤く、赤く染まる。リュウキとは比べ物にならない程に。ただ、リュウキもアルゴに言われていて、やや顔を逸らしていたから、その顔を見ていなかった。
 アルゴにとっては僥倖だろう。

 そして、アルゴは、フードを深くかぶり直して、表情を見られない様にし。

「……そうだナ、その情報は1千万コル、って言った所かナ」
「……馬鹿な料金を請求するな。法外すぎるだろ」

 リュウキも流石にふざけていると思ったのか、ため息を吐きながらそう言う。アルゴは、大真面目なのである。

 特にあの第2層ウルバスの西平原。

 リュウキに助けられたあの時から、僅かずつ芽生えたあの感情。……でも、レイナの想いもリュウキ自身の想いも知った今は、この感情は自分の胸に秘めていなければならないだろう。


 だからこその法外な値段だ。


 比喩抜きに、墓場にまで持っていくつもりの情報だから。

「あ、リューキくーん!?」

 そんな時、レイナの声が聞こえてきた。

「ん? あれ、レイナ。……アスナの所へいってるんじゃなかったのか?」
「あ、うん。終わったよ? それで、リュウキくんの位置情報を確認したらここだったから。何してるのかな~って……あれ? アルゴさん?」
「オス! レーちゃん。暫くだったナ?」


――……この2人を、ずっと見ている。それだけでもう十分だし、お腹いっぱいだ。

 アルゴはそう強く想い直すのだった。自身の初恋を胸の内に秘めて……。


「ってな訳で、リュー! ツケた情報代はちゃんと払ってくれヨ?」
「ん?ああ。払うよ」
「ええ!? な、何?? リュウキくん、何を聞いたのっ??」
「にゃはははっ! レーちゃんには心当たりが多すギだったカ??」
「ちょっ!? あ、アルゴさーーんっっ!!」
「ははは……」


 ……楽しそうに絡んでいる2人を見ながら、リュウキは笑っているのだった。


 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧