ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第103話 血盟騎士団・リュウキ
~第22層・コラル~
キリトとアスナが家でテンパって?いた時。
リュウキとレイナは第22層・コラルにいた。
時刻は遅いけれど、ここは夜でもオープンしている。2人でプレイヤーホームを見にいっていたんだ。
ホームを買うには、現実と同じく不動産屋に行く必要があり、22層の街の不動産屋へと向かった。今は夜だが、時間制限 即ち、何時から何時までが開店時間と言った決まりはNPCの経営している不動産屋だから、そういった事はない。
そこで、NPCに話しかけ、プレイヤーホームの購入を申し出るとリュウキの言うとおり湖畔のログハウスが数件見せてくれた。
この層では一等地と言う事もあり、ログハウスは他の物件と比べると値段は遥かに高かったが、それは下層での値段の話だ。殆ど同じ条件で、位置が湖を挟んだ向こう側というだけの物件が他にも多数あったけれど、値段的にはほぼ同等でリュウキとレイナの所持金で十分に買える値段だった。
――だけど、リュウキは値段なんか初めから見ていない。
レイナが気に入る場所があれば何処でも……とリュウキは考えていたのだ。……レイナは、見せられたその家を一目見た瞬間目を輝かせていたのは見て取れた。子供の様に、声を上げて喜ぶその姿。本当に可愛いと思うし愛しさも膨れ上がってくる。
NPCとは言え、人前だったけれど、愛おしさのあまり、リュウキはすっと……レイナを抱き寄せた。
「……ここにしよう」
「う、うんっ!」
2人は、迷わず一括購入を即断した。ここが……2人の新居となった瞬間だった。
~湖畔のログハウス~
購入したのは夜だったけれど、時間は別に関係ない。即決したその瞬間に、購入した家の鍵がオブジェクト化される。その鍵を持った瞬間から、利用する事が出来るのだ。
それは翌日の事。
ここの湖畔からの眺めは 照らしてくれる太陽、そして広がる森林とその湖畔の風景が絶景だとの事で、訪れるのは翌日、日が昇ってからにしたのだ。
そして、購入したと同時に現れた家の鍵を手に、レイナはゆっくりとそのログハウスの扉を開いた。
「わぁぁぁっ!」
ログハウスの中へと脚を踏み入れ、レイナは足早に駆け出し 寝室の南側に位置する窓を大きく開け放って身を乗り出した。
そして、胸いっぱい息を吸い込む。……広がるのは草木の香り、ログハウスの木の香り、数十種類はあろう香りが体中に満ち広がってくるようだった。
「……うんっ。良い香り。それに良い眺めだねぇ!?」
レイナの言葉には リュウキも素直に同意するしかない。恐らくは誰が見てもそう思ってしまうと、確信する程にだ。絶景の二文字が似合う景色。
外周部が間近にあるため、輝く湖畔と能力の木々の向こうに大きく開けた空を一望する事ができるんだ。……ギルド本部のある層、《第55層・グランザム》によくいるから、空をこんなに一望するなんてあまり無い事だった。
あの層は、鉄に囲まれており、冷たいとすら感じる層だから。
「……確かに、な。凄く綺麗だ。……ここが仮想世界だと忘れさせてくれる程だよ」
リュウキはレイナの隣に立った。
「うんっ!」
レイナは隣に立ったリュウキの腕を取る。
「ねっ! リュウキ君、見て見てっ! ほら! 小鳥がいっぱいだよっ! わぁぁ……可愛いなぁ!」
レイナは本当に嬉しそうに指をさした。その指さした先にある木々の枝に止まっている小鳥達。それは数羽いる、小柄な小鳥と一回り大きな小鳥。……親子だろうか?楽しそうに木の枝に並んでおり、そして、子供にエサを与えていた。家族を持つ幸せ、見ているだけでそれを教えてくれるかのようだった。
「ほんとだな。……でも、あまり身を乗り出して落ちるなよ? レイナ。結構ここは、高いからな?」
「んもうっ 大丈夫だよっ!」
レイナは、子供扱いをされてしまった為か、ちょっと赤くさせながらそう言っていた。そしてレイナは景色を見回した。色んな角度から見てみるその風景。何処を見ても色んな発見が出来るから、楽しくて仕方ないのだ。
そして……、多分 この景色 レイナは知っている気がした。
なんだろう……どこでだろう……と一瞬考えたが、今の幸せを噛み締めたかった彼女は考えるのを直ぐにやめた。リュウキはそんな彼女の背に回り……、背後からレイナの身体に両腕を回した。
―――……目の前の愛おしい女性が自分の妻なんだ。
リュウキはそう思うと、冬の陽だまりのような暖かさと同時に不思議な感慨、そして何よりも以前の自分であれば持ち得なかっただろうと確信してしまえるこの感情を得て、一体何処まで遠くへ来てしまったんだろうと言う驚きに似た気持ちが湧き上がっていた。
リュウキはこの世界に囚われるまでは、ただただ只管に、仕事だけをしてきた。
経済的負担は一切無く、そして金銭さえあれば、近代社会では生活も殆ど問題は無いと言える。だから、リュウキは他人とは殆ど関わりを持たず、仕事も電子メールを含め殆どがネット上でのやり取りのみだったんだ。……唯一、関わりを持つのは家族は爺や1人だけだった、彼がいたからこそ、今のリュウキがいるといってもいい。だけど、それ以外の人とは直接的な関わりを殆ど持っていなかった。
それが、あの時からの……自分の中の世界だった。現実の世界で14年生きてきた自分の世界の全てだった。その事を考えたら、今で如何に小さな世界で膝を抱えていたのかと思う程だ。
――……世界はこんなにも輝いていると言う事、それを知れたんだ。
でも……、そんな中でも時折思う事はあった。この世界に来て……色々な事があった。
初めて、仲間が出来た事の喜び、様々な事をして得られた楽しい事。レイナと言う女性に出会えたと言うかけがえの無い事。……そして辛い事も然りだ。
――……まるで夢の中にいる様な感覚。
眼を凝らせば、確かに視えるんだけれど、時折、世界が、大切な人たちの姿が、まるでピントがズレたかの様になる。≪世界≫そのものがピンボケをしているかの様な感覚に陥る事があったんだ。
戦闘中にそんな事になれば、問題があるが、それは幸いながら無かった。
その現象が起こるのは……、特に、自分が幸せだと感じている時。まるでこれが、現実ではない、現実感が無いと、とふと思ってしまった時。つまり、レイナと共にいる時によく起こっていたんだ。
「……リュウキ君?」
レイナは、自分の腰の辺りに手を回し抱きしめてくれているリュウキの手を取った。その手は僅かだけれど……震えている事にレイナは気がついたんだ。
「その、どうかしたの……?」
でもそれは、本当に震えていたかどうか、解らない程のものだった。僅かな揺らぎであり、血が脈打つその震えよりも小さいものだった。だけど、確かにレイナには感じ取れたんだ。僅かだけど、リュウキが震えている事に。
「……え?」
リュウキ自身には自覚があるが、震えている事には気づいていなかった。なのに、彼女にはわかったようだった。
「リュウキ君……、何か悩みがあるの?」
レイナは、リュウキの顔を覗き込んだ。そのリュウキの顔を見て、レイナは自分が感じた事が間違いないと確信した。それを確信したと同時に。
「私……、リュウキ君に不安にさせる事……やっぱりしてるのかな」
レイナは、少し不安そうにそう聞いていた。
リュウキの事をおいて、自分だけ、はしゃいでいたから。自分だけが楽しんでいただけだと思ってしまったから。
「……違う。違うよ。そんな事無いさ」
リュウキはそのレイナの言葉を聞いて直ぐに否定した。笑顔を見せて。
「ほんと……? でも、リュウキ君少し震えているみたいだったから、心配になって……」
レイナは、リュウキの頬にそっと手を宛てがいながらそう呟く。リュウキは、レイナからそう聞いて、目を見開いていた。
――……彼女の前では隠し事は出来ない。何でもお見通しなのだろうか。
リュウキはこの時心底そう思っていた。自分の心の僅かな機微をも感じ取ってくれているんだから。
心まで見てくれている、心配をしてくれている、その事が本当に嬉しかったから。
――……でも、それ以上に怖い事があると、今自分自身を見つめ直せられてもいた。
「……違うんだレイナ」
リュウキは左右に首を振る。必死に作っていた笑顔を、少し崩して。
「……ただ、たまに、本当に思うんだ。ここであった事。出会った初めての仲間達。……そして、レイナと出会えた事、それが全て……、全て儚い夢だったんじゃないか、……眼が覚めたら、全て無くなってしまう。……また、前の自分に戻ってしまうんじゃないかって。 知れたこの感情、この手に留めておきたい、いつまでも心に留めておきたいってずっと思っているんだ。 ……でも、それが泡の様に消えたりしないか……。本当にたまにそう思うんだ。だから……」
レイナが感じたリュウキの身体の僅かな震え、それはここから来ているようだった。……リュウキは、以前も震えていた事がある。それは、レイナを失いたくないと強く思ったあの時、強く震えた。
好きになったと、間違いなく想った彼女を、自分から遠ざけたい思う程に。
でも、今のそれは種類が違う。
それは、この世界が全て夢であって……、そして今あるこの大切な感情も泡の様に消えてなくなってしまうんじゃないのか?と頭の片隅に残ってしまった。
でも、そんな事は無い。
今日も一日が始まるし、攻略も始まっている。レイナやアスナ、キリト達との物語もつづいているんだ。これまでも、そう強く思ってそんな気持ちを一蹴してきたけれど、頭の片隅にはどうしても、その恐怖が残っているんだ。
彼女を失いたくないと言う気持ちと共に。
「んっ……」
レイナはリュウキの唇にそっと自分の唇を当てた。短いけれど……それはとても優しいキス。
「……リュウキ君。私はここにいるよ。……ずっとずっと、貴方の傍にいる。……それにリュウキ君の言うとおりで、この世界が例え夢だったとしても……。夢が醒めてしまったとしても、私は貴方の事、思い続けるよ。そして、夢から覚めても絶対にリュウキ君に会いに行く。絶対に……っ。リュウキ君を探し出してみせるから……」
真っ直ぐな瞳でと自分の瞳を覗き込む彼女の眼はとても美しかった。そうだ……、彼女はとても強い女性なんだ。自分を救ってくれたかけがえの無い女性。自分にとっての光。
例え……暗闇の中に放り出されたとしても……、この光を見失う事なんてありえないんだ。これまでも、きっと、これからも……。
「……そう、だね」
だから、リュウキも彼女に微笑みかけた。心からの笑顔で。
「やっぱり、レイナは光だよ。優しく包み込んでくれる光」
レイナの身体をぎゅっ……と抱きしめた。見失わないように、……彼女の存在を忘れない様に。夢から醒める様な事があっても、絶対に思い出せる様に。
「ありがとう。……ほんとに心が弱くなってるみたいだな。オレは」
「……いくらリュウキ君だって、ひとりの人間だもん。不安になったりすること、絶対にあるって思う。私だって同じだよ。……私はリュウキ君が傍にいてくれるから、安心出来るんだよ」
レイナはそう微笑みながら言うと。
「それに……私は何だか嬉しい」
「え?」
リュウキはその言葉の意味は理解できてなかった。
「私の前で……、リュウキ君は全部見せてくれるもん。強さも弱さも。それって……、私の事をいっぱい、いっぱい信頼してくれてるって事、でしょ?」
レイナは微笑みながらそう言った。自分自身の全てを見せてくれている。
強さだけじゃなく……弱さも。それが出来るのは、最大限に信頼してくれている証だって、わかる。この世界において、それは何よりの励みになるんだ。信じて、信じられているという関係は。
「………」
リュウキは、少しぽかんとしていた。でも、直ぐに笑って。
「……当然。最愛の人、だから。レイナは。大切な感情を教えてくれた…… 大好きな人、だから」
そう言うと、レイナを抱きしめる力を少し上げた。強く感じる。彼の想い、愛情が。……口にしたり、それどころか、思うだけで恥かしくなるけれど、
「私も……大好きだよ。リュウキ君」
抱きしめてくれているリュウキの手を、愛おしそうにレイナは?んだ。お互いにこの温もりを忘れない。……この世界で生まれた絆を決して忘れない。心を通じ合わせているのか、2人は同時にそう思っていた。
その温もりを強く感じていたその時。 リュウキの震えは露と消え去っていた。
~第22層・コラル~
場所は、第22層・コラルにあるログハウス、リュウキとレイナの新居兼別荘。今日から新婚・新居生活のはじまりはじまり……と言った所だと思えたが、生憎そこにいるのはリュウキとレイナだけじゃなかった。
「奇遇……、と言えばそうだな。偶然とは言え、同じ層の同じエリアでの家なんてな」
「ああ、……確かにそう、だな」
リュウキの前に、キリトがいたのだ。それまでの経緯を説明すると。
初めはレイナが、暫く……ギルドをお休みすると言う旨をヒースクリフに伝えに第55層のグランザム、血盟騎士団本部へと行っていた。……実を言うと、ヒースクリフはレイナが来る数十分前にアスナが一時退団の申し出をしているのを聞いていたんだ。ギルドでも屈指の実力者が3人も一時的にでも同時に抜けられるのは流石にキツイと思っていたようだ。
そこでヒースクリフが出した一時脱退の条件の内の1つがリュウキだった。
彼のギルドへの全面的な協力。……即ち、リュウキ自身もキリト同様に血盟騎士団へと入る事が条件、絶対条件だった。あの時の様に剣で語ると言う様な事は言わなかったけれど。
レイナは、この条件を聞いて表情が曇った。リュウキが、ギルドと言うものを少なからず拒絶している事、その根源を知っているから。……彼は昔、酷い裏切りに似た事があったんだから。
でも、ヒースクリフ……団長はこれ譲歩はしなかった。その事もよく判る。戦力が減ってしまうのだから。巨大ギルドの長、人々の命を背負っていると言ってもいいんだから、ヒースクリフの決定に異議を真っ向から答える事ができなかった。
レイナは、少なくとも、リュウキと話し合ってから決めると言う旨を伝えて、ギルドを後にした。
その後、レイナは重い足取りでホーム、22層へと戻って行った。その道中で、キリトとアスナの2人に出会ったんだ。姉とは連絡は取り合っていたけれど、暫くは2人きりにしてあげたいと思っていたレイナ。
……だけど、まーさか この層でばったり会うなんて思っても無かった。
75層まで開通している状態だから、極論すれば確率は1/75の確率だった。
そして……、出会ったこの時に知ったのだ。お互いの新居が直ぐ傍にあると言う事を。
同じ22層の湖畔の傍にあるログハウスだと言う事を。
「やー、本当に奇遇だね? 同じ層なんてさ? 時期だって同じだし♪」
「だね? でも、ここって凄く良い所だから……必然だったかもね? レイと私がここを選ぶのは」
「うんっ」
レイナは、笑顔を見せながらそう言う。2人はやっぱり、仲が良い姉妹だから。新婚生活ともなると、やはり離れて暮らすことになるのは当然だとは思う。でも、やっぱり傍にいたいと2人とも思っていたんだ。同居……までとは言わずともだ。
アスナとレイナは、偶然が重なって、この層に腰を下ろした2人には感謝をしていた。
「まぁ……、根底を言えば、よくよく考えたら、オレ達の情報の提供者が互いに同じだった。って事を考えたら強ち偶然とも言い切れないがな」
「あー、まあそうだな。確かに、オレもここの情報は≪アイツ≫から貰ったものだ」
リュウキの言葉にキリトは頷いた。
この層の物件は、キリトが言う≪アイツ≫。鼠のアルゴからの情報だった。落ち着けて、戦いを忘れさせるようなのどかな場所。それが、この森と湖畔に囲まれた22層。
流石のリュウキも、アルゴ程、幅広く情報を持っているわけでは無いから、アルゴにこの場所を進められたのだった。
「一先ず……」
リュウキは、軽く咳払いをしアスナとキリトの方を向いた。
「結婚、おめでとう2人とも」
それはリュウキからの精一杯の祝いの言葉……だった。やはり慣れていない事だったから、少しぎこちなかったけれど。
「あ、ああ……。ありがとう」
キリトも少し表情を赤らめながらリュウキにそう言う。こちらも、慣れない言葉を貰ってやっぱりぎこちない。本当に似たもの同士だ、と思えるシーンだった。
「あはは……。どうもありがとう。リュウキ君」
アスナはそんな2人を見て少し笑うと……、自分達のことを祝福してくれているのだから、リュウキにお礼を言っていた。そして、レイナは2人とも想いが伝わり、一緒になれた事を改めて実感して。
「……ほんとだねっ。……私達2人とも、願い……叶って良かったよ……。お姉ちゃん。おめでとうっ!」
レイナは、アスナの背中から両手を回し抱きしめた。
「う、うんっ///ありがと、レイ。そうだよね……。私達……の目標……だったもんね?」
アスナはレイナの手を取った。
それは、あの第1層BOSS攻略の後の事だった。2人の背中を見て追いついてみせるって思っていた。
目指すべきものが出来たと。
でも……、時を重ねるごとにその認識は変わっていた。
いつか……、追いついてみせるじゃない。いつか……いつか……。
『彼の隣にいたい。』
彼女達はそう強く想いだしていたんだ。だから、この世界で夢が叶ったとレイナは言っていて、アスナも頬を赤くさせながら頷いていた。本当に幸せをかみしめていたのだった。
暫く、キリトとリュウキ。アスナとレイナに分かれて談笑をしていた。
主に、キリト達が75層の攻略状況について。キリトとアスナが抜けることは、リュウキ自身も知っていたし、レイナの希望から自分達も一時前線から離れる事を決めていた。自分達の事を過大評価をしている訳ではないが、攻略スピードが変わってくると言う懸念も多数から聞こえてくる。因みに、4人の一時前線離脱の情報発信者はアルゴだった。
全く余計な事を……とも思ったが、思った以上に引き止めたりする声は無いのがせめてもの救いだった。キリトとアスナの事は、様々な憶測が飛ぶ段階だったが、レイナとリュウキは公認だ。それでも、あまりそういった声が飛んでこないのは、これまでの貢献、そして他のギルドの主要メンバーのサポートもあるだろう。
風林火山・聖竜連合・血盟騎士団。
アインクラッドのトップ3と言ってもいいギルドには其々に彼らの理解者がいる事も大きい事だった。
その事に関しては嬉しい事なのだが、やはり他の皆に負担がかかってしまう事を考えれば、複雑と言えば複雑だ。
「……皆なら大丈夫だろう。逆に、あまり心配しすぎたら彼らに対する侮辱になる」
リュウキはそう答えた。
74層のBOSS戦においては少人数での攻略だったが、それ以前はちゃんと上限までレイドを組み、共に攻略をしている。BOSS戦に参加するメンバーは、レベルにしても何にしても文句なしの実力者達だから。
「……そうだな」
キリトも頷いた。だが……、キリトはもう1つ思うところがあった。それは、あの時のヒースクリフの言葉。アスナと共に一時脱退の申し出をした時の事だ。
『君達は必ず直ぐに戦線に帰ってくる。勿論、あの2人も……』
そういわれたのだ。まるで未来を見通せているかの様な物言いだった。それも、自分達だけじゃなく、リュウキとレイナの事も。まだ、2人は一時脱退届を出した訳じゃなかったのに。
「……? 何か不安があるのか?」
リュウキが考え込むキリトに聞くが。
「いや、何も無いさ。……暫くはアスナと穏やかに過ごしたいって強く思ってるのも事実だからな。不安なんて何も無い。……心配をかけるわけにもいかないから」
キリトは、穏やかな表情でそう言うと、アスナたちのほうを見た。彼女達は、キリトの視線には気づいていないようだ。楽しそうに姉妹で話をしている。
森や湖……大自然。こんな穏やかな層に来たのに、あのまるで血生臭さが漂ってきているかのような最前線の話しを今するのは酷と言うものだろう。
「……その点に関しては同意だ」
リュウキもレイナの方を見て、微笑みながら同意した。奇遇にも同じ層・エリアで家を購入したんだ。
今は、戦いの事より、これからのことを互いにアドバイスしあう方が、よっぽど有効な時間の使い方だろう。
そして、互いにこの層についてを話し合い、暫くして互いのパートナー。アスナとレイナの話になった。
「……な、なぁ、リュウキ」
「ん?」
キリトは、少し表情を赤くさせながら聞く。そして、アスナ・レイナの方をしきりに向いており、聞いていない事を確認をしていた。その行動を見たリュウキはこの時何を聞くつもりなのか解らなかったが。次の言葉を聞いてはっきりと判った。
「お前は……その、レイナとは、、、その、シ、シたのか?」
「…………」
キリトのその言葉を聞いて、思わず固まってしまうのはリュウキ。想定外の質問であった為だ……
キリトはと言うと、口ごもり、表情は赤くはなってはいるものの、それは真剣そのものだった。
そして、その意味、以前のリュウキなら『何を?』と真顔で返せれていたが、流石に経験した以上はわかる事だった。
「……そ、それは妄りに話すことじゃない だろう」
リュウキも恥かしそうにそう答える。キリトはその反応だけでも十分だった。間違いなく……経験たと言う事が判った。
「い、いや……、その……すまん。ふざけてるわけじゃ……ない。本当に大真面目なつもりで……その、別に変な意味じゃないんだ!あの……、どの位の周期でって言うか……何って言うか……」
キリトも、赤らめている。傍から見たら、一体なんなんだ?男同士で赤くして……ホモか?っとツッコみたい。
ああ……ツッコみたい。
でも、男であれば、年頃の男の子であればその手の話をするのは極々普通だ。……でも、2人ともそういうのじゃなかったから。
「……オレは……えっと、い、一度、だけだ。だから……周期と言われても……」
バカ正直に答えるリュウキもリュウキだけど。
「な、なるほど……、やっぱしガッツくようなのは……駄目か。止めておいた方が……」
キリトは脳内のメモ帳に刻むようにそう呟いた。キリトは、アスナの事が好きだ。自分の半分は彼女のものだと言えるほどに。
そして……あの夜。
夜の営みも経験して……、あの温もりが忘れられないんだ。でもそれ以上に彼女を傷つけたくないとも思っているから。
だから、暴走する~~!!っとまでは行かないけれど、付き合ったことなど一度も無く経験不足な自分だから、自分より経験者に聞くのが一番だと思いリュウキに聞いたのだ。
そして、どうやら、リュウキは一度だけ……との事。
こんな会話聞かれてしまったら、あの2人から閃光を超える速度の拳で貫かれかねないから聞かれて無い事を何度もキリトは確認していた。
「………///」
リュウキもあの夜の事、思い出したようだった。如何に超が付くほどの鈍感な彼だが、年齢的には年頃の男の子だ。性欲だって勿論ある。
だが、キリト同様に、リュウキにも勿論 彼女を傷つけたくないと言う想いもそれ以上にあるから……。
2人は、この次の瞬間には瞬時に頭の中を切り替えようとして、話題変更へと精を出した。
どうやら、2人共が同じ考えだったようだから、それはスムーズに行けていたようだった。
ところで、女性陣のお2人も似たり寄ったりな状況でした。
『リュウキ君とその後はどうなの~?』とか、『え~……っと、キリト君とは?どう??』とか。
2人も赤くなっているが、男性陣とは違う様だ。アスナとレイナは、男性陣よりも長く、そしてガールズトークを十分に楽しんでいる様だったのだから。
そしてその後、今日団長に言われた事レイナはリュウキに伝えていた。
「………」
それを全て伝えたレイナは表情が暗かった。……何故なら、レイナはリュウキを苦しめたくなんかないと思っていたから。ギルドと言うコミュニティ。彼は過去にそこで辛い経験をしたんだ。
その話をしていた時の彼の顔は……、もう見たくないってずっと思っていた。
自分と一緒に、ずっと笑顔でって思っていたから。
「はは……」
リュウキはそんなレイナを見て、笑顔になりながらその頭を撫でた。柔らかな感触の栗色の髪はとても心地よく感じる。……レイナの香りがするんだ。
「……ずっと辛い思いをさせていたんだな。……俺のせいで」
そして、リュウキはレイナに謝罪をしていた。自身の過去の事……そこまで彼女が考え、そして悔やんでくれている事。ここまで想ってくれている事で嬉しくもある反面、申し訳なくも想っているんだ。
それだけ、苦しんでいたと言う事なのだから。
「そ、そんなっ!そんな事ないよっ、だって、だって……リュウキ君……は……」
レイナはそれ以上は何も言えなかった。ただ、ずっと思っていたから。リュウキが苦しんでいる所なんて見たくないとずっとずっと思っていたんだから。……あの姿を見たその時から。
「……オレは、レイナと一緒だったら何処にいてもでも良いんだ。それに、あの時の事はもう過去の事だよ。オレはもう大丈夫だ。過去より、未来が大切だよ。レイナと一緒にいる未来が……。……ありがとう」
「リュウキ君……」
リュウキは笑顔でそう答えた。もう血盟騎士団に入る事も吝かではない。
彼女の傍にいられるなら何処でも良い……彼女を守れるのなら、何処でも良いんだから……と。
「んー……やっぱり、ちょっぴり妬けちゃう……かな?」
妹と彼を見ていて、アスナはキリトの傍でそうつぶやいていた。またまた、二人だけの世界作っちゃって……っとか一瞬思ったけれど。2人の信頼、そして深い愛情はみて取れるんだ。
初めのうちはずっとずっと、バカップル!とか茶化していたんだけれど……、もう、そんな次元じゃない。心の底から支えあっているからこそなのだから、見ていて心底そう想んだ。
キリトも、アスナ同様2人を見て微笑むと。
「オレも全く同じだ。……それにオレの命はアスナのものなんだから。その…、妬く事なんか無いさ。……アスナとオレもずっと一緒にいたい」
そう言いながらアスナの肩に手を添えた。自分のアスナに対する想いは、リュウキにも負けないと言わんばかりにだ。 やっぱり、恥ずかしそうだから、少しぎこちなかったけれど、はっきりと言えた。
「う……うん//私も……同じだよ。キリト君」
その手を取り……愛おしそうにその手をそっと?み頬ずりをした。
ほんっと、似たもの夫婦が二組いて其々が自分達の世界、作っちゃってるから……。万が一でもこの場に、リズやクラインがいなくて良かったな?とも思える。
いたら盛大に地団駄を踏みそうだから。それこそ家に穴を開ける勢いで……。
「私は、この世界でひとつだけ覚えたことがある。それは諦めないで最後まで頑張る事。……もし元の世界に戻れたら、こうやって、皆で会いたいよね。……レイとリュウキ君。そして私とキリト君の4人で……。でも、やっぱり最初はキリト君と会いたいかな? ふふ、殆ど同時の様な気がするけどね」
アスナはそう言うと、くるりと長い栗色の髪を靡かせながら回ると。
「……私は、勿論……もう一度会ってキリト君のこと、また好きになるよ。絶対に」
そう言い、ニコリと微笑んだ。
「ああ……、オレも同じだ」
キリトもそう返した。
そして、その後はキリト達は新婚だと言う事もあり、自分達の家へと戻って、そんな感じで今日の一日が終わりを告げた。
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