零から始める恋の方法
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クラブ活動
「で・・・でかい・・・」
利英さんの第一声がそれだった。
・・・どこ見て言ってるんだか。
「そう?私ってそんなに身長高かったかしら・・・」
いやいや・・・京先輩、貴方の胸のことを言ってるんだと思います・・・。
「私って慎重低いですから」
利英さんも便乗しないの。
正直に言うと、胸なんてあっても邪魔なだけだ。
大きくなってからは運動面でかなり不便になった。
上半身と下半身とのバランスを保つのにすごい苦労した覚えがある。
「ところで、美術部がどーのこーの言ってたけど見学?」
「え・・・ええ・・・。今部活を一通り見学しようと思って・・・」
「うちは部活多いからねえ・・・。パンフレット見て、適当に絞ってから見て回るのがいいと思うよ」
うぅ・・・それも考えたけど・・・。
「できれば全部見て回りたいんです。実際に見てみないとどんな部活かわからないので」
お、利英さんいいこと言うね。
その通りだよ。
私も便乗しよ。
「そうなんです。私もそう思って・・・」
「なるほどなるほど。よい心がけだわ。じゃ、美術室こっちだからついてきて」
・・・そういえば、なんで地図と美術室の位置が違うんだろ。
「あの・・・」
「何?」
「なんで地図に書いてある美術室と場所が違うんですか?」
「ん?ああ、今年からいろいろあって場所が変わったのよ。その地図は二年前から同じらしくてね。たぶんそれが反映されてないからじゃないかしら?」
案外適当なんだな・・・。
名門なんだからもう少し・・・こう・・・しっかりしてるのかと・・・。
「先輩はどこに所属しているんですか?」
「私は美術部」
「ああ、それで!」
利英さん・・・気づこうよ・・・。
「さ、ここ。ちょっと一年生の教室からは離れるけど・・・まあ、楽しいところだよ」
そう言って、扉を開け・・・ようとしたけど開かなかった。
「あ・・・あはは・・・。恥ずかしいところ見せちゃったね・・・。ちょっと建てつけ悪くて・・・。ん・・・んしょ・・・!」
力いっぱい引いてる者の開かない。
・・・そんなに固いのかな?
「あ、私やってみます」
ちょっと試しに開けようとして見る。
これは硬い・・・けど、これなら・・・。
「おお!開いた!あなた凄いねえ!」
「・・・ねえ、これってただ鍵がかかってただけじゃないの?」
「・・・え?」
「嘘・・・。やば・・・。あ、私で何とかしておくからさ・・・あはは・・・。ま、まあ、中でも見て言ってよ!!」
うぅ・・・すみません・・・。
美術室の中はパンフレットに移っている奴よりちょっと薄暗い雰囲気がした。
私たち三人だけだからちょっと不気味・・・。
なんかあの首だけの彫像とか急にしゃべりだしそうで・・・。
って、それだとただのお化け屋敷か。
「ちょっと怖いねえ・・・」
「で・・・電気つけたら少しは・・・」
「・・・そんなに怖いの?雪菜ちゃん」
「こ・・・怖くないですよ!こ・・・これぐらい別に何とも!あ・・・あはは!あははははははははは!!」
「・・・ふーん。あ、見て・・・!あの彫像・・・今こっち見て舌を・・・」
「う・・・嘘・・・ですよね・・・?」
「本当だって・・・。ほら・・・あの彫像だって・・・」
「いやああああああああああああああああああああああああああ!!」
いやいやいやいやいやいやいやいやああああああ!
怖い怖い怖い怖い怖い!
怖いもの嫌い嫌い!
「あ、ちょ・・・待って・・・って・・・あー・・・」
「・・・からかいすぎたわね」
「いやー・・・すみません」
「行ってあげたら?友達なんでしょ?」
「はい!」
もうあんなところ行かない。
あんな恐怖空間いってたまるか。
幸い、この学校は美術は選択制、別にとらなくてもいいらしい。
絶対とらない。
何が何でもとらない。
私は音楽を選ぶ。
「雪菜ちゃーん」
「・・・ぶー」
「ふてくされないでよー。悪かったからさー・・・」
もとはと言えば、利英さんがあんなところに行こうとか言わなければ私はあんな怖い思いをせずに済んだのに・・・。
おこるぞ!?
「じゃあ、明日のお弁当海苔食べないでくださいね」
「え!?それは私にとっては拷問だよー・・・」
「ふーんだ!」
利英さんも味わうがいいよ。
この苦しみを!
「つ・・・次はー・・・何か行きたいところある?」
・・・自分で選んでまたさっきみたいなことおこると面倒なことになるからって私に選ばせる気ですね。
なんと卑劣な!
「じゃあ・・・このピアノ同好会なんてどうですか?」
「雪菜ちゃんピアノ弾けるの?」
「ヴァイオリンが少々・・・」
「・・・雪菜ちゃんって何でもやってるんだね」
「いうほど何でもやってるわけじゃないですよ」
ただ、何故か家にあったからついででやってただけだし。
そもそも、独学だからちゃんとできているかどうかも分からない。
「でも、なんでピアノ?」
「えー、憧れるじゃないですか!」
「そ・・・そうなんだ・・・」
目をキラキラと輝かせつつ迫る私の剣幕に少し引く利英さん。
ひどいですねー。
でも、こう・・・ピアノを弾いている女の人ってコンサートで見ると格好いいですし。
いつか私もあんな風に・・・ってCM見て思ってた時期もありましたしね。
「利英さんはあこがれないんですか?」
「うーん・・・どっちかっていうと巨木を三秒で両断できる人に憧れるかなー・・・」
・・・どういう基準で人を見ているんだろう。
そもそも、日常的に巨木を斬る人ってそんないないよね?
しかも三秒って・・・人間業じゃないでしょ。
「は・・・はあ・・・。とりあえず、行きましょうか!!」
ピアノ同好会は同好会というだけあって、去年で来たものらしい。
しかし、部員は皆精鋭ぞろい。
みんながみんな聞く人を感動させるような素晴らしい演奏を披露してくれた。
「弾いてみますか?」
「え?いいんですか?」
「ええ、もちろん。ちょっと鍵盤重いから注意してくださいね」
本当だ・・・。
重・・・。
えーと・・・ここがドで・・・確か八個先の白い鍵盤がもう一個高いドで・・・。
なんとなく音階をなぞって引いてみる。
しかし、ソからラに移るのが難しい。
「そこはミのところまで中指を使った後、ファで親指に切り替えるとうまくいきますよ」
へえ・・・。
って、難しすぎ・・・!
そんなの出来ないよー・・・。
・・・で、隣で引いている利英さんなんだけど。
「ふう」
なんでそんなうまいの!?
「すごい・・・何かやってたの?」
「いえ・・・見よう見まねで」
「さ・・・才能を感じるわ・・・。あなた!ぜひピアノ同好会に入部しない!?」
「え・・・まだ見てないものもあるんだけど・・・」
「じゃあ、全部見終わってからでもいいから!いい返事期待してるからね!!」
利英さんが熱烈な歓迎を受けている。
なんかちょっとうらやましいなー・・・。
「そうそう!上手じゃない!」
私もなんとか音階をなぞれる程度には成長できた。
「利英さんって何でもできるんですねー・・・」
「そんなじとーっとした目で見ないでよー・・・」
因みにピアノ同好会からは見学者に先着でピアノの鍵盤柄のかわいらしいクリアファイルがもらえる。
あと数枚しかなかったらしいから運がよかった。
「見よう見まねでアレとか・・・。うらやましいです」
「雪菜ちゃん嫉妬?」
「べ・・・別に嫉妬なんてしてないですよ!」
「そー?いいんだよー?手取り足取り教えてあげてもー」
「手取り足取りって・・・利英さんも初心者じゃないですか!!」
「・・・バレたか。せっかく二人っきりの教室でキャッきゃうふふってしたかったのに・・・」
どんどん最初のイメージから遠ざかっていくんですけど。
こんな人だったっけ?
「利英さんって最初あった時と大分キャラ変わってますよね」
「最初からこんなんだったら友達出来ないしねー」
こいつ・・・できる・・・!
・・・私もそれぐらいあざとくなった方がいいのかなー。
まあ、そこは気楽に考えておけばいいか。
友達・・・一人はできたんだし。
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