ロンリーファイター
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第一章
ロンリーファイター
絶体絶命の状況だった、まさに。
戦線は完全に崩壊していた、敵の攻撃はあまりにも激しかった。
「おい、こんな話聞いてねえぞ」
「ドイツ軍はもう力がなかったんじゃないのか?」
「空襲と東部戦線で散々叩かれて力がないんだろ」
「それで何でこんなに強いんだ」
「見たこともない戦車までいるぞ」
かろうじて徹底した兵士達は何とか助かった自分達のことを確認してから話した、アメリカ軍の多くはほうほうのていといった有様だった。
その彼等はだ、さらに話した。
「天気も悪いしな」
「航空隊も出られないぞ、今は」
「こんな状況だとな」
「このままどんどん攻められるぞ」
「逃げ遅れた奴も多いみたいだな」
「部隊ごとな」
「どうすればいいんだ」
また言う彼等だった、だが。
彼等とて手をこまねいている訳ではなかった、戦線は確かに崩壊してアメリカ軍はドイツ軍に攻められている。
しかしそれで逃げるつもりはアメリカ軍にもない、それでパリの東に新たに建設したその天気が悪く出撃出来ない航空隊の空港においてだ。
司令が基地の参謀から報告を聞いてだ、苦い顔で言った。
「じゃあ出てもらうか」
「チャーリー=ブロッサム中尉の機体にですね」
「そうしてもらう」
「わかりました、では中尉に命令を出します」
「そうしてくれ、しかしな」
「はい、今我が基地にはです」
「出撃出来る機体は中尉の機体だけか」
苦い顔と声でだ、司令は言うのだった。
「昼で天候がいいのならな」
「Pー47を出せますが」
「夜となるとな」
「Pー61しかありません」
夜間戦闘機であるこの機体だけだというのだ。
「しかも悪天候なので」
「それでも機体を動かせるとなるとな」
「中尉しかいません」
「中尉だけか」
「我が基地では」
「辛いな」
「はい、しかし」
参謀は司令にあえて言った。
「戦線はより辛いです」
「この基地よりもな」
「少なくとも基地は昼に天候がよくなれば」
「出撃させられるな」
「しかし前線は」
「どんどん押されているな」
「今ドイツ軍は流れに乗っています」
攻勢に出てそれがというのだ。
「このまま押されますと」
「かなり辛いな」
「はい、ですから」
「一機でも出せる状況ならだな」
「出すしかありません」
参謀は司令に苦い顔で話した。
「ここは」
「そうか、ではな」
「はい、出しましょう」
そのPー61をというのだ。
「夜に、まだドイツ軍には夜間戦闘機も残っていますが」
「出てもらうか」
「昼に晴れるまでは」
それしかないとだ、参謀は言うのだった。
こうしてだった、彼に出撃命令が下った。
彼はすぐに共にそのPー61に乗るアーサー=エリック少尉とミッキー=クローリー伍長を集めてだった。
そのうえでだ、彼はその青い目を持っている彫の深い顔でだ、短く刈った硬い金髪に手をやりつつ言った。
「俺達が出撃してだ」
「それで、ですね」
「ドイツの連中に一泡食わせるんですね」
「そうなった」
こう二人に話すのだった。
「今夜から暴れるぞ」
「そのリミットは」
クローリーはその黒い目を光らせてブロッサムに問うた。
「何時までですか?」
「晴れるまでだ」
「昼に、ですね」
「そうだ、昼に晴れて普通に出撃出来たらな」
「俺達はお役御免ですか」
「そういうことだ、わかったな」
「よくわかりました」
その浅黒い、白人の顔だがいささかそうなっている顔をにやりとさせてだ、クローリーは答えた。見れば髪は赤茶色だ。
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