ラテン=ヴァンパイア
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第二章
「これではな」
「場違いですね」
「しかしだ」
それでもとだ、モスコヴィッチは言った。
「これもだ」
「仕方がないというのですね」
「このバルセロナで最も素晴らしいという屋敷を買ったのだ」
「それならば」
「ここに住もう」
渋々ながら妥協するという言葉だった。
「これからな」
「では」
ハスキルも頷いて応えた、やはり渋々だが。
そして二人で住みはじめたがだ、やはり明るく。
モスコヴィッチは眉を顰めさせてだ、自分の部屋の中でハスキルにこう言った。
「日光がな」
「明るいですね」
「これではだ」
「服もですね」
「自然とだ」
今自分が着ている服も見た、確かに見事な服だが。
それはこれまで着ていたタキシードにマントではない、スペインの薄い生地のラフな服だ。色も鮮やかだ。
その服を見つつだ、ハスキルに言うのだ。
「こうしたものになる」
「そうですね」
「何だこの鮮やかさは」
「空はいつも明るく」
「青い」
「どんよりとしたものがないですね」
「全くな」
ルーマニアとは違い、というのだ。
「しかもだ」
「はい、夜の時間も短いですね」
「ルーマニアと比べてな」
「全くです」
「しかも庭にだ」
その緑の草木と色とりどりの花達に囲まれたその庭にというのだ。
「プールがあるが」
「そこもですね」
「何なのだ」
「我等は泳ぎません」
「流れる水は苦手だ」
まさにその為にだ、吸血鬼は泳がないのだ。
「プールなぞあってもな」
「意味がありませんね」
「そしてだ」
「はい、料理も」
それも問題だった。
「ルーマニアのものとは違い」
「やたらトマトが多くな」
そしてだった。
「大蒜がいつも入っている」
「オリーブに」
「私は血しか飲まないが」
だが、というのだ。それでも。
「こうまで大蒜が多いとな」
「辛いですね」
「この国の人間は大蒜をやたら食べる」
「その点も厄介ですね」
「教会も異様に多いしな」
このことにも言及したモスコヴィッチだった、黒髪をオールバックにしているがそのオールバックも右手で撫でつつ言う。
「それもな」
「嫌なことですね」
「見ていて気分がいいものではない」
「我々にとっては」
「十字の形自体がな」
「賛美歌も不愉快な音でしかありませんし」
「とかくだ」
このスペインという国がというのだ。
「いていいものではない」
「全く以て」
「全く、王からスペインを任されて来たが」
「苦労する場所ですね」
「ここまで吸血鬼に都合の悪い国とはな」
「思いませんでしたね」
「やれやれだ」
全く以てという言葉だった。
「これではな、しかし」
「王からのご命令ですので」
「ここにいよう」
「それしかありませんね」
「そうだ」
こう苦々しい顔で言ってだ、そしてだ。
二人で渋々ながらもスペインに住み続けた、その中で夜に活動するのだが。
夜のバルセロナをスペインの服を着て歩きつつだ、モスコヴィッチはその中でもハスキルに苦い顔で言うのだった。
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