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メイド

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第一章

                       メイド
 奥沢夏樹には嫌な思い出があった。
 幼い頃花江彩奈にずっと虐められていたのだ、恵美は所謂お転婆ですぐに手を出す様な女の子だった。
 何かあるとすぐに夏樹をからかい虐めていた、何度泣かされたかわからない。
 幼稚園や小学校低学年の頃の話だ、だが。
 その話をだ、彼は大学生になった今でも友人達に話した。
「本当にさ」
「その娘にか」
「虐められててか」
「それで今もか」
「覚えてるんだな」
「忘れられないよ」
 その細面で細い目としっかりした横に広い鼻を持つ顔で言った。髪は少し茶色くさせて癖のあるのをそのままにさせてショートにしている。
 背は小柄だ、その彼がこう言ったのだ。
「絶対に」
「相当に虐められたんだな、その娘に」
「今も覚えている位にっていうと」
「そうだよ、本当にさ」
 また言った夏樹だった。
「あの娘のことは」
「それでその娘どうしてるんだ?」
 友人の一人が恵美の今のことをだ、夏樹に尋ねた。
「一体」
「さあ」
 夏樹は彼の問いにまずはこう返した。
「どうしてるんだろうな」
「おい、知らないのかよ」
「いや、幼稚園の年少年長組と一緒で」
 つまり一緒のクラスだったというのだ。
「それで小学校の一年二年も一緒だったけれど」
「それからはか」
「クラスが離れて。僕中学校は私立だったから」
 それで、というのだ。
「別々になって」
「それでか」
「小学校卒業してから一度も会ってないよ」
 それこそというのだ。
「小学校でも三年から別のクラスになって殆ど話もしなかったし」
「知らないか」
「生きてるとは思うけれどね」
「家は近所だろ?」
「いや、同じ幼稚園だけれど」
「離れてるのか」
「そうなんだ、歩いて行けない距離でもないけれど」
 それでもというのだ。
「行こうとも思わないし」
「だから知らないんだな」
「うん、そういえばどうしてるかな」
 夏樹はあらためて彩奈のことを考えた。
「本当に」
「何処かで偶然会うとかな」
「そうなるかもな」
 友人達はここでこんなことを言った。
「結構そうしたことあるからな」
「だよな、世の中って」
「だからな」
「奥沢も会うんじゃないか?」
「何処かでな」
「いや、会いたくないよ」 
 夏樹は友人達の言葉に嫌な顔になって即答した。
「あの娘とは」
「やっぱり虐められたからか」
「だからか」
「それでか」
「会いたくないんだな」
「今も」
「そうだよ、あの時いつもずっと虐められてきたから」
 それで、というのだ。 
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