ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第94話 響き渡る悲鳴
この迷宮区の奥へと消えていく軍。
その姿を見送るリュウキ。まだ、何処か複雑そうな表情をリュウキは隠せなかった。
「……幾らなんでも、ぶっつけ本番であのBOSSに挑んだりしないって思うよ?」
リュウキにアスナもそう言った。
心配しているんだ……と、その背中を見たらよく解るから。
「……だよね? あの人数でBOSS戦するなんて……ちょっと少なすぎるよ。せめて倍……3倍の人数は必要だと思うし。初見だったら、尚更……、どんな攻撃パターンをしてくるかも判らないから」
レイナもアスナと同感だったようだ。だけど……、あのリーダー中佐のコーバッツのことを考えると一概にそうは言えないんだ。……だからこそ、場に残された皆には不安は募るようだ。否定的だった2人も……言葉では、それは無いと言っていても……やはり不安なのは不安のようだ。
「だが、あの男……コーバッツの言動を訊いたら何処か無謀さを感じさせられるからな……」
「だよなぁ、なんだってあんなに頭が固いんだか……、自分のキャラ作るにしてももちっとマシな部類の中佐ってヤツを演じりゃいいものを。死亡フラグを立てる様なキャラしやがって!」
キリトやクラインも、そう言うとリュウキの直ぐ横についた。そして、キリトは軽く耳打ちをする。
「……一応様子だけでも見に行くか?」
そうリュウキに、そして皆に十分に聞こえる程の声量でそう言ったのだ。
すると、リュウキは頷き そしてアスナ、レイナは勿論 クラインの仲間5人も相次いで首肯した。……どうやら、ここに集まっているのはお人良しばかりのようだ。リュウキは本来なら、 1人ででも、理由を何かつけて行くつもりだった。
だが、それは皆は決して許さいないだろう。
これだけの長い付き合いであれば、リュウキの事ならもう十分に解っているから。特にレイナはそうだ。
「……あいつらにああ言った手前、ここで行動しないで後悔するのはカンベンだからな」
リュウキはそう付け加えた。そう……、軍の彼らと出会ったのはあの時が最後だった。未帰還だと言う事が後で知れたりすれば、リュウキが言うように目覚めが悪すぎる。それが例え赤の他人で、殆ど面識が無いプレイヤーだったとしても、同じ世界、此処に、アインクラッドに囚われていると言う意味では決して他人ではありえないのだから。
手早くキリトは装備を確認。
リュウキはもう既に一歩歩き出している。それを負けじと追う感じでキリトがリュウキに追いついていた。
そして、2人との間があいた所で。
「あー……その、アスナさん。レイナさん」
アスナとレイナの2人に声をかけた。2人は殆ど同時に、まるでその声にシンクロする様に、反応してクラインの方を向いたそれを見たら……ちょっと笑ってしまいそうになるが……、今はクラインはそれは考えていられなかった。
これから滅多に言わない様な事を言うからだ。
「その……キリトのこと、リュウキのこと、よろしく頼んます。キリトは口下手で、無愛想。んでもって、リュウキは良くも悪くもストレートだし、キリト以上に口下手、無愛想だ。……そして何より超がつく戦闘マニアのバカタレ共ですが」
そう言い、クラインは頭を掻きながら改めてリュウキたち、2人の方を見ていた。今、2人は何かを話しているようだ。十中八九、戦闘面に関して。 この層のボス戦のことだろう。
仮に戦闘になったとしたら、と言う事を想定しているのだと思える。その隣り合っている2人を見たら少し笑えるのはクラインだ。
はじまりの街で、第1層でキリトが見ていたリュウキの視線は『絶対に追いついてみせる!』と言った決意が多く感じたが今はそれ程でもない。
口ではそうは言っているだろうが、気配が違うんだ。
まぁ、状況は変わっているがリュウキ自身も昔の様に唯我独尊と言った様子も身を伏せている。……リュウキの場合は無自覚だろうけれど。でもそれは、レイナのおかげであると、クラインはよく解った。リュウキの事を変えてくれたのは彼女のおかげだと。
(ははっ……。やっと、追いついたみてえじゃねーか。……キリの字よ)
クラインは、そう思うと、鼻で笑っていた。
「ふふふ……」
アスナはそのクラインの言葉を聞いて、そしてクラインの様にキリトを見た。
「あははっ……」
レイナもそれは同様だ。レイナはリュウキを見て笑った。クラインという人は自分達より2人と付き合いが長い。確かにプレイする事、戦闘面では超がつくほどの一流の2人だけれど……ほっとけないんだ。
でも……、内面を心配するような人は……。クラインの様なプレイヤーなんて滅多にいないだろう。……それだけ、とても友人想いだと言うのはわかる。
随分と軽い性格……って気もするけれど、決して憎めない人だというのもよく解った。
「はい!」
「うんっ!」
2人は共に頷きあい……、笑顔を見せて。
「「任されました!」」
そう、笑顔で答えていた。
キリトとリュウキ。その2人の事はこれからもずっと見ている。必ず隣で、アスナとレイナは、そう心に誓ったのだった
その後、ギルド・風林火山の数名と自分達4人。BOSS戦をする程のパーティ構成とは程遠いが、一度はこのフロアを踏破しているメンバーが4人、そしてクラインのギルドのメンバー。
BOSSの部屋まで行く事は造作も無い事だった。掛かる時間も、初見の時より大幅にカットする事も出来た。
「……クラインも随分と腕を上げたな」
リュウキは、つい先ほど、リザードマンロードを難なく倒したクラインを見てそう言った。
「そらーな! これでもギルドの頭はってるしよぉ!!」
リュウキにそう言われてクラインは鼻だか~~!!!っとなっている。ここ、アインクラッドにおいて、様々な話題が飛んでいるリュウキ。彼にそう言われる事は悪い気は全くしないようだった。
だけど、すぐさまキリトが……。
「初めはボアなんかに苦戦してたんだけどな~~」
軽くそうツッコミに入る。ログインした当初の時の事を思い出しながら。
「うぐっっ!!」
クラインはその当時の事、もう随分前の事だけれど……思い出したようで顔を赤くさせていた様だ。……判るとおり、黒歴史と言っていい事、あまりいい思い出じゃない様だから。
「あ、あんときゃ、おれぁ まだ初心者だったんだぞっ!!」
「それでも、相手はボア……、所謂スラ○ムクラスだぞ? どーやって苦戦すんだよ?」
「だーーーー!!! それ以上、言うんじゃねええええ!!!」
クラインとキリトの、じゃれ合いがエスカレートしていってる。リュウキはその2人を見て軽くため息を吐いた。
「……随分とうるさくしてしまったな」
リュウキの話から始まったから……若干後悔してるのだろうか。だが、その表情は笑顔だから……なんとも言えない。
「あははは………」
レイナも傍に来て苦笑いをしていた。
「何度でも言うけど……やっぱし本当に仲良いね~?」
アスナも2人を見て笑っていた。この場所は危険地帯なんだけど……とギルドの副団長としては叱責の1つや2つは言うべきだと思えるが、今はプライベートの様なモノだからとアスナは思った様だ。
それに、この空気は嫌いじゃないから。
「あはは、お姉ちゃんも、頑張らないと! クラインさんみたいにさ?」
レイナはクラインを見ながらそう言う。
何度キリトに言われても、食らいついていくクラインを見てそう思ったのだ。押しが強かったら、もっともっとキリトと話せるんだと。
「ッ///ちょっとっ レイっ!」
アスナはその言葉を聞いてやっぱり赤くなるのは止められない。
「……そんなに好きなら好きと言ってしまえば良いんじゃないか?」
そんなアスナを見てリュウキは思わずそう言ってしまった。アスナの気持ちを判った今は……2人にも幸せになって欲しいと思ったから。それだけ、今の自分は多幸感で満ちている。
だから、2人にも……と。
「っ~~~~///」
ついに、リュウキにまで、鈍感君だった彼にまで言われてしまったアスナはもう返すことが出来なかった。
「あははっ!女の子は大変なんだよ? リュウキ君っ!」
「……そのようだな」
リュウキはレイナにそう言われすぐ納得していた。
「……りゅーき君にはわかんないよっ……。だって、キリト君とリュウキ君じゃ、タイプ……違うもん。」
アスナはそっぽ向きそう呟いていた。
アスナも、随分と大変みたいです。
だからこそ、両想いになって結婚まで出来たレイナの事が凄く羨ましい……って思っていた。そして、自分もいつかは必ず……と。
そして一行は、迷宮区の更に奥へと進む。
立ちふさがるモンスターたちを一蹴しながら。暫く入り組んだ迷宮を進み、後はこの先の角を曲がった先にあるBOSS部屋への一本道のみとなった。
「ふぅ……この先はもうBOSSの部屋だけなんだろ?ひょっとして、もう転移結晶で帰っちまったんじゃねー?」
クラインは刀を鞘にしまいながらそう言う。確かにそれが一番の理想だ。あのBOSSを目の当たりにして、変なちょっかいを出すより遥かに聡明な判断だろう。
「だが、……それは、希望的観測だろう?」
リュウキもそう思いたいと思っていたが。彼の嫌な予感は的中する事になる。
『うわあああああああああああああ!!!!!!!!』
この先から……悲鳴が聞こえてきたのだ。ただの悲鳴じゃない。絶望感が、聞いただけでも判る様な……そんな叫び声だった。
そして、この類の悲鳴は聞いた事はある。
……リュウキは勿論、キリトも。
「「「「!!!」」」」
その場にいた全員がどう状況かを即座に理解した。此処から先は、BOSS部屋しかない。その先から悲鳴なのだから。
「クソっ! アイツらっ!!!」
リュウキは、即座に反応し皆を置き去りに走り出した!
「リュウキ君っ!!!」
レイナも続いて走り出し。
「アスナ!!」
「うんっ!!」
2人に続いてアスナとキリトも向かった。
「お、おいっ!! ……くそっ!! こんな時に湧きやがって!!」
最後にクライン達だが、運悪くモンスターがPoPされてしまい直ぐには向かえなかった。
『うわああああああああああ!!!』
4人が走って向かっている時も悲鳴が止まる事は無く、その絶叫が辺りに響き渡っていた。
「も、もう!なんでよっ!!」
「ばかっ!!!」
アスナとレイナはその悲鳴を聞いて思わずそう言ってしまっていた。
なぜ、BOSSに向かっていったのか!?、そして何故、あの時にもっと強く止めなかったのか?とだ。
あの時のキリトの言葉や、何よりリュウキの言葉。……何も感じなかったのかと。
「ッ……!」
リュウキ自身は、後悔をしていた。あの時のメンバーの疲労感は目に見えていた。リーダーだけだ、彼らの事が……それがわかっていないのは。
でも、後悔してももう遅い。
だから皆は走り続けるしかなかった。この悲鳴の先へと。 悪魔の元へと。
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