ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第91話 青眼の悪魔≪The Gleameyes≫
その後も4人は、この74層の未踏破のエリアを突き進んで行く。
その先は、《リザードマンロード》以外にも、《ボーン・ザ・デッド》 アンデット系のモンスターも多数表れ、難易度は奥に進むにつれて上昇して行く。
だが、それでも4人の敵ではなかった。個々の能力も素晴らしいが息の合った連携もそれに増して素晴らしいものがあるのだから。
因みに、アンデット系のモンスターが現れた時女性陣は完全に後衛に回ったのはご愛嬌だ。
色々とあるが、4人の戦い、それを見ていたら、間違いなくこのアインクラッドで最高、最強のパーティだろう。
まぁ 皆基本的にシャイだから、そう言う事は認めそうに無いけれど。
そして、一行はある通路へとたどり着く。背景は、今まで歩いてきたフィールドと変わりないのだが。
「皆……」
リュウキは脚を止め 声をかけた。低く……押し殺したような声で。
「……うん」
「ああ」
「間違いない、ね……」
3人もすぐさま理解した。この特徴的な直線の通路。
そこは迷宮区と言う名に相応しくないほど一直線の通路。……だからこそ判る。
その先に《何》があるのか。
その場にいた皆は、もう判っていた。通路の最奥には、巨大な扉が待ち構えていたのだ。
「74層のBOSS部屋……か。まさか もう74層のBOSS部屋に辿り着くとは、……正直想定外だったな」
リュウキは、その巨大な扉を前にしてそう呟く。攻略、迷宮区のマッピングは何度か行っているが、今日ほど最短で走破した事は今まででは無い事だった。間違いなく最高新記録というヤツだろう。
「あはは……、リュウキ君が驚いてる姿みるのって、すっごく珍しい事……だね?」
レイナがリュウキの頬をつんっと突いてそう言う。リュウキは、レイナの方を見ると……微笑んだ。
「緊張感無いな~……、お前ら。BOSS部屋前なんだから、もうちょっとくらいはなぁ?」
キリトは呆れつつも、2人に釣られて、終始笑顔だった。
「ああ、そーんなこと言っても駄目駄目っ。この2人ってば、結構なバカップルなんだから。私なんて、傍で見てるだけで お腹いっぱいになるもん」
アスナは、笑いながらそう言っていた。その言葉で2人は同時に膨れている。そんな仕草の1つ1つ、息が合っている。そう言われても、仕方ないってキリトは思っていた。
その後、それは数分後の事。
4人はBOSSを一目見て行く事に決めていた。
BOSSモンスターは通常のモンスターと違い、その守護する部屋からは絶対に出る事は無い。故に戸を開け、中を覗くくらいならば特に問題は無いと判断したのだ。しかし、万全を期しその4人の手には転移結晶が握られていた。
こんな時でもマイペースだったリュウキは初めは転移結晶を持ってなかったが、というか、リュウキは持ってきてすらいなかったけれど、アイテムストレージがレイナと共通化している今はレイナが持っているものはリュウキにも使うことができる。
リュウキの腕を疑うわけでは無いけれど……、レイナは『駄目だよっ! 絶対!! 持っててよっ!』
と、そう言い、半ば強引にリュウキに結晶を持たせたのだ。……それだけ自分のことを気にかけてくれている、というはよく解るからリュウキは直ぐに微笑みながら了承した。
そして、約束もしていた。
『決して無理はしない』
リュウキは、そうレイナと約束をしたんだ。
「よし……あけるぞ?」
「うん……」
「わかった……」
「………」
4人は表情を強張らせながらも、右手には武器を持ち空いた左手で扉を押す。明らかに巨大な扉だ。普通、人力なら到底あけるのは不可能だと思うけれど、それはゲーム仕様。
《プレイヤーが開けた》、そう扉は認識したのか、まるで自動ドアだったかの様に少しだけ開いた扉は一気に開き左右に割れた。
そして……。
『ッ……』
誰の生唾を飲み込む音なのかわからない。いや、その場にいた全員だろう。誰もが息を飲み部屋の奥に意識を集中させていた。
その時だ。
突如、誰かが通ったと認識したのだろうか、部屋の四隅が青く光る。2つの青い炎、それが部屋を照らすかのように灯った。その炎でステージの大体の広さを把握できた。
その炎に連動し続けて ボボボボボボッ!!!っと部屋の中央に向けて炎の道が出来上がっていた。
如何にもBOSS仕様の展開だったが、余裕は微塵も無い。
レイナはリュウキに、アスナはキリトに。緊張に耐えかねたように右腕にぎゅっとしがみついた。キリトはそれを愉しむことなどは出来無い。何故なら、部屋の奥で巨大な何かが動くのが見えたからだ。リュウキも、極長剣の柄を握る力を一段階上げた。
その見上げる体躯は全身縄の如く盛り上がった筋肉に包まれている、っその肌は炎に負けぬほどの深い青、分厚い胸板の上に乗った頭は人間のものじゃない。アタマの両側からは、捻じれた太い角が後方にそそり立つ、眼は……これも部屋を象徴する青。青白く燃えているかのような輝きを放っていた。まるで、頭の中にBGMが流れ出ているかのようだ。
それも 爽快なものじゃない。おどろおどろしい、魔界に来たかのような不吉なBGMが頭の中を過ぎる。
レイナも恐る恐る視線を凝らした。
そして、それを確認する。……皆にも見えただろう。
その巨体の頭上には《The Gleameyes》とカーソルが出ているのが。それだけで十分に解る。
間違いなくこの層のBOSSモンスターだと言う事が。名前に定冠詞がつくのはその証なのだから。
その綴りの読み方は《グリームアイズ》、直訳で輝く目。
「……姿を視れば直訳よりも相応しい名がありそうだな」
リュウキは引き抜いた極長剣を肩に担いだ。
「……青眼の悪魔、か」
リュウキがそう呟いたそれと殆ど同時だった。炎の行列が突然激しく揺らぎ、びりびりと振動が床にまで伝ってきた。その原因はヤツだ。
リュウキが言うように、《輝く目》と呼ぶよりは 《青い目をした悪魔》と呼ぶ方が相応しいだろう、その巨大な魔物が雄叫びを上げ、その巨体に似合わない速度で走り、距離をつめてきたのだ。
「うわああああ!!!」
「「きゃああああああ!!!」」
今回ばかりは、仕方が無い。
こんな迫力ある悪魔の姿・格好をしたモンスターなどRPGでは使い古して来たものだが、実際に体感してみれば、その迫力は無尽蔵だ。古来より人が恐れてきた悪魔が具現化しているのだから。アスナ、キリトはすかさず戦術的撤退。開いたままになっているその巨大な扉から逃げる!
だが、1人だけは違った。
「フッ……」
そうリュウキだ。彼はにやりと笑い、突進しながら大型の剣を振り上げてくるヤツを視て受けて経つ構えだったのだ。
「こい……青眼の悪魔」
リュウキにとっては歴戦の血が騒ぐと言わんばかりの表情だ。強敵であれば強敵であるほど、燃え上がる、そう極限まで。……だけど、そのBOSSと手合わせする事は叶わなかった。
何故なら……。
「きゃっ!きゃあああああ!!!!」
「ッッ!!れ、れいっ……!!!」
リュウキはまるで、連れ去られた?と錯覚してしまうかの様に、思いっきり引っ張られてしまったのだ。
そのリュウキの腕を思い切りつかみ引っ張るのはレイナだ。彼女の筋力値では考えられない程の力がこの時右手に宿っていた。スピード、力、全てバランスよく成長させて来たリュウキでさえ、掴まれた腕を外す事が全く出来ず、為す術なくレイナに従うしかない程の力だった。
(……火事場の馬鹿力という言葉があるが……、デジタルの世界でそんなものあるのか?明らかにレイナのステータス以上だって、思うけど……)
リュウキはそう頭を過ぎっていた。レイナは、もう慌てて無我夢中で引っ張ってるから何言っても恐らくは離してくれない。だから、素直にレイナの手を握り返し、自分の脚で来た道を引き返して言った。
一目散に逃げたアスナとキリトは、迷宮区の中に設けられた安全エリアに並んで壁際にずるずるとへたり込んでいた。
「はぁ……ぷっ!」
「ぷっ!!」
2人は息を整えていたが……、どちらとも鳴く笑いがこみ上げてきた。冷静にマップなりで確認すれば、やはりあの巨大悪魔が部屋から出てこないのは直ぐにわかったはずだが、どうしても立ち止まる気にならなかったのだ。
「あーははは! やー逃げた逃げたっ! こんなに一生懸命走ったのはすっごい久しぶりだね~。まっ、私よりキリト君のほうが凄かったけどね~? ねぇ? レイ?」
アスナは愉快そうに笑いながらそう言う。キリトは、否定できないから憮然とした表情をしていた……。だけど、愉快なアスナの表情は直ぐに一変する。
「あれっ?あれっ!?レイ!?レイっ!??」
辺りを見渡してみてもレイナがいないのだ。隣に居た筈なのに……。
「た、たしか……一緒に走ってたのにっ! れ、レイっっ!!」
アスナはかなり動揺していた。隣でいた妹が……、戻って来れてないのだから。
「きっ、キリトくんっ!!レイがっ……レイがっ!!」
慌ててキリトに掴みかかるようにそう言った。アスナは、迷宮区では決してなってはならない状態であるパニック状態になってしまっている。
だが、それも仕方が無い事だ。最愛の妹がいないのだから。
青眼の悪魔を見た後にいなくなってしまったんだから。
「お、落ち着けって! ……見たところリュウキもいないみたいだ。アイツと一緒なら、まず大丈夫だって!」
震えるアスナの両肩を抑えながらそう言い落ち着かせた。レイナがいない事で頭がいっぱいになってしまって、リュウキもいない事に気づいていなかった様だ。確かにキリトの言うとおり、リュウキと一緒なら大丈夫だろうと、普段ならば思えるが、今はそうはいかない。
「で、でも~~……、あんなの見た後じゃ落ち着けないよ……」
そう、巨大な悪魔を目の当たりにしてしまったのだから。……それを見て、一目散に逃げたんだから。もし……、万が一でも逃げ遅れたらって考えたらと、どうしても頭の中を過ぎってしまう。そんな悪い想像が頭の中に流れていた時だ。
『大丈夫か?』
入口の方から声が聞こえてきた。
『う、うんっ!大丈夫……///だから もう良いよ?ありがとっ//』
それは凄く聞き覚えのある……声だ!その声を聞いた瞬間、アスナは動き出した。あのBOSSから逃げた時よりもずっと早い速度で。
「レイっ!! リュウキ君っ!」
……アスナは、さっきまで崩れ落ちるように座り込んでいたんだけれど、即座に立ち上がり、ダッシュした。
入口のすぐ横で見たのは。
「………」
「ん?ああ……、やっぱりここで合ってたか」
「ぁ……」
待ちわびてたレイナの姿とリュウキ。でも……。
「わあああ////お、お、お姉ちゃんっっ!!!」
レイナは、対照的に大慌てだった。
「どうしたんだ? 突然暴れて……」
リュウキは、いきなり暴れたレイナに少し驚いて、彼女をゆっくりと降ろしてあげた。レイナは、リュウキに……そう。
《お姫様抱っこ》をしてもらっていたのだ。
あの後、逃げる時。暫くはアスナとキリトを追いかけて、逃げていた。その道中での事だ。
恐らくはキリトとアスナをターゲットにしていたモンスター、《ストーン・ローゼス》が逃げ道の真ん中にいたのだ。普段は、隅の方に岩に擬態しているモンスターなのだが……、偶然なのかタゲを外れた為、位置がずれてしまったのか判らないが、その《ストーン・ローゼス》に足を引っ掛けてしまい、レイナは倒れてしまったのだ。
接触し、完全にレイナをターゲットにして襲い掛かったのだが……。そこは、共に逃げていた百戦錬磨であるリュウキ。レイナに襲い掛かる、モンスターを一蹴。弾き飛ばして、そのまま倒れていたレイナを抱え上げた。
それが、リュウキの《お姫様抱っこ》始まりだった。
別にリュウキは狙ってやったわけじゃないだろう。でも、レイナにとっては憧れていたシチュレーションだ。何より……、『大丈夫か?』と笑いかけてくれるリュウキの顔。
とても嬉しくて……、そしてくすぐったくて……、恥ずかしくって……、そうレイナは悶えていると。
アスナにばったりと出会い、そして今に至る。
「やー ほんっと、仲が良いよね~?」
アスナは、これ見よがしにレイナとリュウキをからかいだした。
「ッ~~~///」
アスナにそう言われて、レイナは真っ赤になっちゃっていた。
その後は、当分からかわれっぱなしになっていた。とっても心配をかけたんだから~!って事で、暫くは止まなかった。
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