黒魔術師松本沙耶香 紅雪篇
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20部分:第二十章
第二十章
光は赤いものに当たった。するとそれだけで消し去り元の白いシーツにしてしまったのであった。それだけであった。
「今ので」
「そうよ、今ので終わりよ」
沙耶香は述べる。
「私はね。貴女みたいな娘を何人も抱いてきているのよ」
「はあ」
何気なく自身の背徳の功績を述べる沙耶香であった。
「それでもね。証拠は残さないのよ。こうやってね」
「そうしてですか」
「そうよ。大抵はこうして血が出てしまうから」
交わったならば当然のことであった。そうして少女は大人の女になるのだ。その血を今沙耶香は教えたのである。
しかしここで。ふと沙耶香は気付いた。
「んっ」
そして思わず声を漏らした。
「赤・・・・・・紅・・・・・・」
赤、即ち紅である。今それが心の中で合わさった。
赤いその血は少女の血、ならば紅は。今彼女は頭の中で全てを理解したのであった。
「そうだったのね」
下に目をやり呟いた。
「だから紅だったのね。そうだったのね」
「!?」
しかしその言葉は佳澄にはわからない。沙耶香の横できょとんとした顔をしているだけであった。
「あの」
「何かしら」
ふと彼女の声に気付き顔をそちらにやる。見れば彼女はまだ沙耶香の横で身体を寝かせていた。
「何かあったんですか。赤や紅がどうとか」
「ええ、これはね」
誤魔化すことにした。流石にこれを言うわけにはいかなかった。
「今度買う服のことなのよ」
「服の」
「ええ、ネクタイのね」
自分の赤いネクタイについて言及した。沙耶香はいつも赤いネクタイをしている。黒と赤を愛する彼女にとってはまたとない色なのである。
「今度はどんな赤にしようと思って」
「そうだったんですか」
「そうなのよ」
こう述べて誤魔化した。それは上手くいった。
「けれどね。後でゆっくり考えることにしたわ」
「そうなんですか」
「ええ。それより今は」
目を細めて佳澄を見てきた。
「貴女と一緒にいるから。少しいい?」
「何でしょうか」
「今は眼鏡をかけていたわよね」
「はい」
その言葉にこくりと頷く。眼鏡をかけたその顔は清楚さと知的さを同時に現わしていて実にいいものである。ベッドの中に横たわるまだ幼い白の裸身がそれをさらに艶やかなものとしていた。
だが沙耶香はここで。もう一つの顔と艶を見てみたくなったのである。
「眼鏡をね」
「眼鏡を」
「今度は外してみて欲しいのよ」
それが沙耶香の彼女への願いであった。
「眼鏡をつけた貴女の顔もいいわ。それでも眼鏡を外した貴女はどうかと思って」
「眼鏡を外した私をですか」
「そう、その貴女を」
さらに言葉を踏み込んだものにしてきた。それで佳澄をさらに追い詰める形になった。
「どう?私の我儘だけれど」
「それでしたら」
大したことはないと思った。ただ眼鏡を外すだけである。佳澄はそこに断る理由も見せずに応えたのであった。
眼鏡に自分の両手を添える。外してベッドの横に置く。それだけであるがその動作だけで今褥に素顔の佳澄が姿を現わした。それは何の護りもない無防備な無垢さを露わにした少女の顔であった。
「ふふふ」
沙耶香はそんな彼女の顔を見て妖艶に笑ってきた。
「いいわ。さっきとはまた違って」
「そうなんですか」
「一つ覚えておくといいわ」
沙耶香はその眼鏡を外した佳澄に対して言う。
「女はね。簡単に仮面を着けることができるのよ」
「仮面を」
「そうよ。例えば貴女の眼鏡がそうね」
「眼鏡だけで」
「ただ何かを着けているだけでそれは仮面になるのよ。覚えておくといいわ」
「そうなのですか。何か」
「わかってくることになるわ」
また佳澄に対して述べた。
「少しずつね。けれど今は」
少女の上に覆い被さってきた。その脚と脚の間に身体を潜り込ませてきた。
「今度で完全になおしてあげるわ」
「完全に」
「そうよ。そして」
少女のあどけない顔を見下ろしこれまで以上に妖しい笑みを浮かべてきた。それはまるでこの世には咲いてはならない漆黒の花の様に美しかった。異形の美がそこにあった。
「また貴女をね」
そのまま少女を抱く。昼まで二人きりの世界を楽しんだ。それが終わり沙耶香はそのまま上野の道を進みやがて誰も知らない謎の小路へと入ったのであった。
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