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真田十勇士

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巻ノ六 根津甚八その十一

「まさに弁慶か」
「いえ、別に大きくはありませぬが」
「違うのか」
「拳と火の術を使いまして」
「刀等は使わぬか」
「はい」
 そうだというのだ。
「その武芸者は」
「左様か」
「しかしその強さは相当で」
 親父はその者についてさらに話した。
「これまで負け知らず」
「そこまで強いのじゃな」
「左様です」
「それは面白い、ではな」 
 清海はここまで聞いて楽しげに笑って言うのだった。
「いっちょわしが相手をしてやろうか」
「いや待て、わしじゃ」
 その清海に穴山が言って来た。
「わしが行く」
「小助、御主がか」
「そうじゃ、わしも柔術等が出来るしな」
「御主は鉄砲が一番であろう」
「それでもじゃ、腕が立つ者とは勝負をせねばな」
 強い者と手合わせしたい、そう言うのだ。
「御主と同じだと思うが」
「確かに、わしも同じ考えじゃ」
「ではわかるな」
「わかってもわからぬ」
 これが清海の返事だった、団子と次から次にと大きな口の中に入れて頬張りながらそのうえで穴山に答えた。
「勝負をするのはわしじゃ」
「いや、わしじゃ」
 今度は由利が言って来た。
「わしの鎖鎌を見せてやる」
「御主もそう言うのか」
「そうじゃ、ここ暫く鎖鎌は使っておらなかった」
「忍術で狩りをしておるから充分であろう」
「わしは鎖鎌じゃ、鎖鎌を使わねば気が済まぬ」
「それを言うとわしもじゃ」
 海野も出て来た。
「わしも勝負がしたいぞ」
「何と、御主まで言うのか」 
 清海は海野も参戦してきて戸惑って返した。
「全く、どの者も」
「そう言うがな、わしもこれで中々勝負が好きでな」
「武芸者がそんなことをしておるとか」
「勝負せねば気が済まぬ」
 海野もこうした考えだった。
「だからわしが行く」
「ううむ、拙者も」
 最後に根津が言うのだった。
「武芸者とは手合わせを」
「何だかんだで五人皆ではないか」
 清海は根津の言葉も聞いてたまりかねた様な顔になった。
「全く、どの者も勝負が好きじゃな」
「当たり前じゃ、強い者と勝負することこそ最高の楽しみじゃぞ」
「弱い者をいたぶっても面白くなかろう」
「全力で手合わせしてこそではないか」
「それこそ真に強き者のすること」
「武に生きる者ではないか」
「それはそうじゃ、しかし勝負をするのはわしじゃ」
 清海は一歩も引かなかった、仲間達に対して。
「これでもわしが殿の一の家臣じゃからな」
「わしが一番最初に殿にお仕えしたぞ」
「忠義はわしが一番じゃ」
「いや、わしこそが殿の一の家臣ぞ」
「拙者も新参ながらも」
「まあ待て」
 言い合いに埓が明かないと見てだ、幸村が五人を止めた。 
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