Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-
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A's編
第百一話 春の穏やかな一日 前編
晴れた空、満開の桜、風で舞う花弁。
その中央で一点の迷いも無く鍛え上げられた技術を振るう銀髪の少年。
そして、その少年の周りには花見の参加者の半分以上が集まっていた。
正しくは少年、衛宮士郎が作り上げた料理にだが。
さて、何でこんなことになっているかというと、今回のお花見の料理だが、調理を完了し会場に持ち込まれたものと、現地で調理する食材とが持ち込まれている。
そして、その腕を振るうのは一部の管理局局員には有名な士郎である。
とはいえ士郎自身、管理局嘱託になり顔見知りになった局員もいるので、まずは挨拶回りをする予定であった。
ちなみに地球での知り合い、正しくは魔術関連で改めてアリサとすずかの家族に挨拶を予定なのだが、管理局の面子がいる中で行うわけにもいかないので、花見後に予定しているため、この場で挨拶は無い。
だが、そこにいたアルフから
「士郎、これが食べたい!」
との言葉を皮切りに他の面子からも要望というなの注文がとび、結局、最低限の挨拶は出来上がった料理を配りながら行っている状況なのである。
それにしても
「はい、刺身の盛り合わせお待ち」
クーラーボックスにて鮮魚まで持ち込まれているはやりすぎだと思う。
魚を捌く方も捌く方だが
こうして料理をしながら士郎が、自身の背後、食材の横にある簡易テーブルと椅子での人物に振り返り声をかけた。
「ところで、貴方程の階級の人間がこんなところにいて大丈夫なんですか?
クラウン中将」
そこには高町士郎達と酒を酌み交わすクラウン・ハーカー中将の姿があった。
「今日はプライベートなんだから階級とかなしだよ。
それにこうして縁が出来た世界の方達との交流なんだから参加しなければもったいないだろう」
「そういう考えもあるとは思いますが、他の仕事は大丈夫なんですか?」
「うちの補佐官は優秀だからね。
ちゃんと調整してくれたよ」
クラウンの言葉に、少し離れてリンディ達の傍にいるエステートに視線を向けるとちょうどこちらを見ていたようで視線が交差する。
呆れたようなエステートの表情に同情するようにわずかに頷くと、向こうも頷き返した。
「さ、せっかくのお花見だ。
堅い話は無しで楽しもうじゃないか。
ついでに焼き鳥の追加を頼むよ」
「了解です」
あとでエステートに料理を運ぼうと決めて、とりあえず
「はい、追加お待ち」
追加で焼けた肉をアルフ達に渡す。
「サンキュー、士郎。
肉、肉~」
士郎から肉を受け取り、元の位置に戻るなり、そのまま食べ始めるアルフ。
「アルフ、そのまま食べるな!」
「そうだ! 俺達にも少しは」
「がうっ!! うるさい、お前ら人間なんだから野菜を食え。
私は狼だから肉を食う」
ランディとアレックスの文句も威嚇して食べようとする。
その様子にため息と共に肩を落とす士郎。
そんな時
「アルフ、だめだよ。
ちゃんと皆で分けなくちゃ」
主人であるフェイトが登場し、ランディとアレックスは安堵する。
フェイトが諌めればアルフはちゃんと言うこと聞くのだから、全部食べられる心配はなくなったのだから。
「そうだぞ、アルフ。
まったく花見の前にあれほど注意したのに」
「げっ、士郎」
いつの間にかアルフの背後に立つ士郎に嫌そうな顔をするアルフ。
アルフにとってはフェイトの想い人であり、恩があるので当然嫌ってはいない。
とはいえ主ではないので従う必要も無いのだが、四月になってからは状況が変わった。
「とりあえず一週間肉抜きでいいか」
「ちょっ!?」
士郎の一言に慌てるアルフ。
当たり前といえば当たり前のことだが、士郎の家なのだから台所権限の一番上位は士郎である。
つまりはアルフの兵糧は士郎に握られているというわけである。
「や、やだな~、冗談だってば。
さ、皆で食おう」
「嘘だな」
「ああ、アレは野生の眼だった」
アルフにとってはランディとアレックスの言葉に威嚇したいところだが、士郎とフェイトの前ではそうもいかないので大人しくしておく。
「フェイトは一通り挨拶は終わったのか?」
「うん、一通り終わったよ」
「ならまた追加を持ってくるから、アルフを頼む」
「はい、任されました。
でも士郎の挨拶はいいの?」
士郎の状況に心配そうにするフェイトだが
「まあ、料理を渡す時にしてるから。
出来てない人には後でまわるよ」
士郎の苦笑しながらの言葉に納得し
「じゃあ、士郎の言葉に甘えて」
「ああ、じゃあ、待っててくれ」
アルフの横に改めて座ることにした。
少し前のフェイトなら手伝うと言い出すところだが、士郎の家に引っ越した夜にプレシアから
「フェイト、士郎の優しさに少し甘えなさい。
甘えすぎはだめだけど、少しフェイトは甘えなさ過ぎよ。
フェイトが甘えれば、士郎は嬉しいんだからわかった」
との言葉があり、少しずつ実践中なのだ。
プレシアにとってはなのはも、はやても可愛い良い娘達なのだが、やはり娘がリードするのはうれしいことらしい。
そんな時、少し離れたところで、エイミィ達を中心としたメンバーで盛り上がっているところがあった。
「なんだろう?」
「カラオケやってるみたいだね」
「フェイトちゃん、歌ってくれば」
「え?」
フェイトにとってはふとした疑問だったのだが、まさか勧められるとは思わず一瞬固まってしまう。
「おお~、良いじゃん、フェイト。
リニス直伝の歌」
「そ、そんな恥ずかしいよ」
さらに予想外のアルフからの言葉に頬を赤く染める。
使い魔のアルフが味方なら問題ないとランディとアレックスもフェイトの歌に興味を持ち、さらに勧める。
その状況にアワアワし始めるフェイトだったが
「子供をいじめているのはアレックスとランディか」
「同居人をいじめるのは遠慮してもらいたいな」
「シグナム、リインフォース」
挨拶が落ち着き、食事をしに来たのか、現れたシグナムとリンフォースに振り返るフェイト。
「や、やだな~、滅相も無い」
「ちょっと歌を勧めただけですよ」
対して焦ったのはアレックスとランディである。
夜天の書の守護騎士ヴォルケンリッターの将であるシグナム
元夜天の書の管制融合騎にして魔術師兼魔導師の衛宮士郎が守護騎士であるリインフォース
共に古代ベルカの騎士に相応しい実力であり二人まとめて相手にするなど無謀を通り越して自殺行為でしかない。
多少、強引な勧め方だったかもしれないが、いじめてなどいないとしっかり主張しないと命に関わると少し引き攣った笑顔で主張する。
もっともシグナムとリインフォースも本気ではないのですぐにカラオケのほうに視線を向ける。
「ああ、あの音楽端末と拡声器が一体化したデバイスか」
「……将、その表現はどうなんだ?」
カラオケ機器のシグナムのあまりの表現にさすがのリインフォースも苦笑する。
「そうなのよ。
リインフォースからも言ってあげて、いい加減こっちの用語を覚えてって言ってるのに」
料理を手にシャマルもシグナム達より少し遅れてやってくる。
シグナムはシャマルの言葉にわずかに首を竦めて見せて、改めて盛り上がっているほうを見つめる。
「……歌か」
ふと、そんなことを呟くと今度はフェイトに視線を向ける。
わずかに続く沈黙。
「あの、シグナム……なんで私をじっと、見るの?」
逸らされることの無い真っ直ぐなシグナムの視線に困惑気味なフェイトの年相応な姿にわずかに笑い
「いいじゃないか、聞かせてくれ。
テスタロッサ」
「ええっ!?」
シグナムのあっさりとしたお願いに驚きの声を上げるフェイト。
まさかシグナムにまで勧められるとは思ってもいなかったのだろう。
さらに
「あ、なのはちゃんとユーノ君がいた。
なのはちゃん、ユーノ君、フェイトちゃんの歌聞きたい?」
「聞きたいです!」
「僕も!」
「だそうだ」
シャマルが少し離れたところにいた、なのはとユーノにそんなことを大きな声で言うものだから、回りの面々も既にフェイトが歌うものだと思っている。
それに畳み掛けるように
「次、フェイトが歌うって!」
「「は~い!」」
アルフがカラオケのところにいたエイミィと美由希に声をかけたものだから、完全に外堀が埋まってしまった。
もはやここまで来てしまったらと諦め、わずかに肩を落とすが、覚悟を決めるフェイト。
「皆、下手でも笑わないでね」
恥ずかしがりながらも歌う気になったフェイトに周りの面々が拍手で迎える。
「楽しみに聴かせてもらおう」
シグナムがフェイトにわずかに届くぐらいの声で呟かれた楽しそうな言葉に頷いて、カラオケ機器の近くに移動し、マイクを握る。
そして、フェイトの歌がその場を支配した。
奏でられる歌声は今日という穏やかな日を表すような春の歌。
耳を傾けているのは、先ほどと違いカラオケの周りの面々だけではなかった。
満開の桜という舞台で、風に舞う花びらと共に金色の髪を靡かせ歌う少女の声に、今日、この日集まったすべての者が耳を傾けていた。
後書き
というわけで案の定、一話でまとまりませんでした。
まずは更新がしばらく遅れてしまい、ごめんなさい。
リアルでバタバタと忙しく、また夏の疲れなのか、スランプ状態に落ち込んでしまい全然執筆が出来てませんでした。
F/mgの執筆は出来ないのにオリジナルの新作の執筆は出来ていたりよくわからない状況・・・・
掲載未定の産物なのだがが・・・・
シルバーウィークで一話分は書き上げましたが、まだスランプとリアルのバタバタが落ち着ききれていませんので、少し更新がまちまちになるかと思いますのでご了承ください。
次回は後編になるのか、それとも中編になるのか、どっちかな・・・・
それではまた次話でお会いしましょう。
ではでは
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