EFFECT
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友人 4-1
「リーマス!」
次の授業がある教室へと向かう途中、やや猫背の少年に声を掛ける。振り向いた少年の顔色は悪く、俺とは違った青白い肌をしていた。
呼び掛けたのが俺であると気付いたらしく、少年は安堵の表情を見せた。
「トール...どうしたの?」
「姿が見えたからな。ついでに状態観察でもしておこうかと」
「だいぶ楽だよ。この間は二百まで数を数えられたし...」
爺様との交渉から既に三ヶ月が経つ。
リーマス自身、最初は抵抗が見られたが一度目の実験結果が思ったよりも良かった事から、しだいに彼から声を掛けて来るようになった。
今では、互いにファーストネームを呼び合う仲だ。
さて、リーマスの言葉を疑うわけではないが、脳や神経に耳を傾けてみる。彼自身が気付いていない事柄を知る為には必要なのだ。
リーマスもそれを嫌がりはしない。結果的に自身の体への負担を軽減する事に繋がると理解しているからである。
「......なるほど。お前の言う通り、経過は順調のようだな」
「本当に!? よかった...。ねえ、トール。その...薬の味は...変えられないのかな......」
「時間が無くて試してはいないが、苦味を抑えられるか実験してみようと思ってはいた。なんだ? 苦いのは嫌いか?」
「......うん」
消え入りそうな声で頷く姿に、思わず吹き出してしまった。
それとほぼ同時に予鈴の鐘が鳴り、一旦別れてそれぞれの教室へと足を早めた。
今週はスリザリン生との授業。
グリフィンドールでは相変わらず眼鏡の少年が大暴れしているらしく、あまり顔を合わせる事が無い。
勝負を申し込まれるのは毎度の事だが、そもそも何故俺との勝負にこだわるのかが分からん。
少年の名前さえ知らん状況だ。今度、リーマスに尋ねてみるとしよう。
さて、次の授業は魔法薬学だったか。
先週の授業では別の寮生での参加だったが、なかなかに面白かった。
独自開発した薬品があるとはいえ、独学だけでは些か頼りない。リーマスを危険な目に合わせる気は無いし、俺自身がそれに巻き込まれるつもりも無い。
一年生の内は基本的な事しか習わないが、無知であるよりいくらかマシだ。
「失礼だが、隣は空いているだろうか」
「ああ...」
教室に入るなり空いている席を探す。だが、残念ながら一人になれそうな席は空いておらず、通路側の席を大幅に空けて座る少年に声を掛けた。
誰かと待ち合わせでもしているのかとも思ったが、あっさりと相席を許す辺りそうではなかったらしい。
さて...。隣の少年、先程から睨んで来るのだが。
何かしてしまったのだろうか?
それを尋ねてみようとすると、体中から「関わってくんな」と拒絶のオーラが溢れ出す。......まあ、いいか。
「はい! 皆さん揃っていますか? 揃っていなくても始めます。では、28頁(ページ)を開いて!!」
28頁...。先週習ったばかりだな。項目は“地上と水中の薬草の見分け方と採取方と使用方”。
50頁に渡り薬草の種類が詳細に記されており、その生息地、採取方、使用方が簡潔に記されている。見分け方については、項目のすぐ下に「地上にあるか、水中にあるかである」とだけ...。
もっと他に言いようがあっただろうに。
そう言えば、38頁に気になる植物があったな。確か...苦味を消す効果のある薬草だった。ただ、生息地が遠かった事を覚えている。
「失礼」
「ーーであるから...ん? なんだね、Mr.オルフェウス。私の貴重な受講時間を無駄にす」
「ただの質問だ。38頁の薬草について、幾つか質問したい」
「......ふむ、何かね?」
俺の口調が気に食わないのか少々不貞腐れていたが、そんな生徒から質問された事に喜んでいるようにも見える。無駄にプライドの高い教師はあまり好かない。相手をするのは面倒だ。
「とある薬を処方中である事はご存知だと思うが、この苦味を消す効果のある薬草は効果的であると思えるか?」
「んん? “シムガニ藻草”かね。この薬草は確かに苦味を消す効果があるが、調合される薬草によっては強い酸味を出す。そもそも、ホグワーツには生息しておらんよ。因みにーー」
生息云々は分かっている。効果があるかどうかを聞いているのだ。答えは簡潔に済ませてもらいたい。
長話が始まる前に早々と切り上げ「先生、流石ですね」と心にも無い事を言葉にする。
その言葉を間に受けたらしく、教師は機嫌良く受講に戻った。
はあ...疲れた。
この教師には、お礼としてこの間のカエルのイボの珍しいサンプルを渡しておく事にする。
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