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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【東方Project】編
  081 幻想郷でのとある1日


SIDE 升田 真人

シホの護衛として地上に置いていったミナから聞いた話だが、意外な事にシホは俺が姿を消しても──紫から俺が〝月〟で殿(しんがり)を務め挙げ句帰ってない事を聞いても、それほど取り乱しては居なかったらしい。……なんでもシホ曰く…

―ミナや幽香さんが側に居てくれたからそれほど淋しくは無かったかな。……ミナは〝真人(マスター)との〝パス〟は切れてないので真人(マスター)がご存命なのは間違いありません〟──とも言ってたしね―

──らしい。……終わった話は取り敢えず置いておき…

「いらっしゃい! 【満足亭】へようこそ」

突発的に起きた幽香と戦闘に引き分けたその時から、俺の近況に多少跳ばす。

……この幻想郷で手持ち無沙汰となった俺は、紅白少女──霊夢(名前で呼べと。)のツテで、幻想郷の人里にていつぞやの様に──云わば〝繋ぎ〟として定食屋を開いている。……とは云っても利潤の追求が目的ではないので、週2日、3日程度の頻度でしか開いてないが…。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「えっと、こんな感じか…?」

ある日の昼下がり、俺は自室──【満足亭】の二階に備え付けてある部屋で【PSYREN(サイレン】の単行本(コミック)を机上に広げて、それを教科書としつつPSI(サイ)の特訓をしていた。

〝PSI(サイ)〟。【PSYREN(サイレン】と云う漫画に登場した超能力で、大まかに分けると3つに区分出来る。

まず1つが、有名なところを云うなら、手を触れずに物体を動かす──〝念動力(テレキネシス)〟の様な、思念の力を外界へと発現させる──それが〝BURST(バースト)〟。

2つ目もまだ判りやすく、言葉を介せず会話出来る──〝念話(テレパシー)〟の様な、人間の精神に働きかける力──〝TRANCE(トランス)〟。

3つ目は多少首を傾げるかもしれないが、五感・運動神経・反射神経といった感覚機能を強化する能力を〝SENSE(センス)〟。筋力・耐久力・治癒力といった肉体的パワーを強化するライズを〝STRENGTH(ストレングス〟──これらの様に、身体能力を高める力を纏めて〝RISE(ライズ)〟と呼ぶ。

……他にも、他者を治療する〝CURE(キュア)〟や、他者のPSIを打ち消す──ないしは乱すなど、PSI自体に作用するPSI…〝A・P(アンチ・サイキック)〟などが在るが、基本的には〝BURST(バースト)〟、〝TRANCE(トランス)〟、〝RISE(ライズ)〟──これら3つさえ押さえて置けばどうにかなる。

(……懐かしいな…)

ふと、そう懐古する。数十年前も、ハルケギニアに転移する前はこうして必死に(?)技術を研鑽(けんさん)に精力的だったのを思い出した。……別に剣術や槍術、それに体術などは、今でも(いとま)を見付けてはちょくちょくと研鑽しているのだが、懐かしいものは懐かしい。

……こうして、幻想郷での穏やかな日々を過ごしている。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「やってますか?」

「いらっしゃい、やってるよ」

今日も今日とて呑気に【満足亭】を開店していると、手にカメラと手帳を携え、背には大きめなカラスの羽が生やしている──恰好からして天狗っぽい少女がやって来た。

「どうもここに≪英雄≫と名高き人が居る聞いてやって来たんですが。……取り敢えず熱燗とそのアテに今日の魚を塩焼きでお願いします」

「判りました」

「っ!?」

「はは、初見では皆驚きますからね」

注文を聞き、“別魅”の分身を厨房に向かわせると、目の前の少女は大層驚いた表情をした。……俺が苦笑いしながら目の前少女へと注釈を入れた通り、この風景を見た──所謂〝一見(いちげん)さん〟は驚きの表情を見せるので、この反応(リアクション)には慣れたものがある。

「ほへぇ~、そうなんですか。……あ、申し遅れました。(わたくし)、〝鴉天狗(からすてんぐ)〟の射命丸(しゃめいまる) (あや)と申します。そして、若輩ながら新聞記者を務めさせてもらってます。……あ、それと口調の方は気にしなくても大丈夫ですよ」

「……そいつはありがたい。俺は升田 真人。今はしがない〝現人神(あらひとがみ)〟をやってるよ。それと≪英雄≫、なんてこっ恥ずかしい名前より普通に呼んでくれるとありがたいかな」

〝射命丸 文〟──そう名乗った少女は慇懃(いんぎん)な態度で自己紹介をしてきたので、俺も相応の態度で返す。……ついでとばかりに≪英雄≫呼ばわりを止める様に言っておく。

……意外と──そう云ってはいけないのかもしれないが、この【満足亭】の客層の殆どが〝≪英雄≫見たさ〟な妖怪で、俺が〝月〟でやらかした事が今でも妖怪の間で語り継がれているのは驚いた。〝俺の主観〟とは違って、もう1300年以上も経過しているはずなのに、まるで風化せずほぼ事実が語り継がれている事を紫物申したい。

閑話休題。

「可も無く不可も無く──普通に美味しいですね」

「その反応もいつも通りだよ」

文は“別魅”な俺が運んで来た虹鱒(ニジマス)の塩焼きをつついて、開口一番にそう(のたま)った。……云うまでも無く俺の料理スキルは既に成長を止めてしまったらしい。

「ぷはぁ~っ! ……では、私はそろそろお(いとま)させて頂きましょう。……これは、お近づきの印です。新聞を購読する際は、ぜひこの新聞──【文々。(ぶんぶんまる)新聞】をご購読下さい」

「……か、考えておこうかな──って、もう行ったし」

そう〝お近づきの印〟──【文々。(ぶんぶんまる)新聞】をテーブル置いた文は、俺の返事を聞かずして〝ぴゅー〟と、そんな効果音が付きそうな勢いで店から出ていった。

「射命丸 文…。なんか嵐みたいな女だったな。……って、無銭飲食…」

……独り店に取り残された俺は、呆気に取られるのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「へい、いらっしゃい!」

「おう、取り敢えず麦酒(ビール)を1杯貰おうか。アテは、何か適当に見繕ってくれ」

「ちょっと待ってくれ。……ほい。摘まむ物は適当に、な」

〝倉庫〟からキンキンに冷えたままであるアヒを取りだし、カウンターに座っていて絶賛対面中の来客──魔理沙の前にビール瓶とグラスを置く。ツマミは、手早く出せるもの──チーカマが有ったので、それを出した。

「……チーズ? チーズと言えば普通はワインなんだけどな。……むっ、これは…」

「……ビールの苦味とチーズの塩味──意外に悪くないだろう?」

〝意外〟と云った風の魔理沙。ビールとチーズはどちらも発酵モノ。合わない道理なんてあんまり無い。あたりめを出そうかとも思ったが、ここは敢えて──布教のためにもチーカマを出してみた。……ビール+チーカマ、もっと流行れば良いと思っている。

「……まぁまぁだぜ」

(〝ビーカマ党〟発足までの道程(みちのり)は遠そうだな…。……と云うより──そもそも魔理沙たちはいくつなんだ?)

ぱっと見、霊夢にしろ魔理沙にしろ14か15にしか思えない。それなのに真っ昼間から(ビール)を煽っている。……敢えて今までは気にしない様にしていた事だが、今になって気になってしまった。……とは云っても軽く想像は出来ている。

(……元服の年齢的に考えたらおかしくもない、か)

日本は──日本だけでも無いかもしれないが、男児は古来より15歳を成年としている風習があった。……そして──だからか、明治の風情が残っているこの幻想郷では、その辺りの規制が緩いのかもしれない。

……ならば、〝郷に入っては郷に従え〟精神で気にしない事した。

「……どうした? そんなまじまじ見て。私の顔に何かついてるか?」

「いや、大した事じゃない。敢えて云わば、どうやって〝ビーカマ党〟を発足させようかと悩んでいたところだな。……それで魔理沙のその様子じゃあ、まだまだ先は遠そうだな、と」

〝幻想郷に於ける元服〟について考察していたら、なんと無しに魔理沙を注視していた。そんな俺の視線に気付いたらしい魔理沙は胡乱気な表情をしながら、俺の視線の理由を問い質してきたので適当に──3秒程度で考えた理由で誤魔化した。

「ふうん。……あ、そうだ! 真人は〝外〟から来たんだよな? ……だったら〝携帯電話〟って持ってるか?」

「一応持ってるが…。……圏外だぞ?」

そう断りを入れ、魔理沙に〝平賀 才人〟だった頃に買った携帯を渡す。……云うまでも無い──そう言うべきなのか、〝幻想郷〟では圏外である。

「その〝けんがい〟って、何なんだ? お前以外の〝外の世界〟から奴にも聞いた事が有るんだがどうも〝電波が~〟云々で、要領を得ないんだが」

「……そう難しく考える事でも無いさ」

何やら、憤然としている魔理沙に俺が知っている携帯の──と云うよりかは電話の概要を掻い摘まんで説明してやる。

………。

……。

…。

「……えっと? つまりは携帯電話で遠くの人間と話す時は、〝その相手と繋いで貰う相手〟に繋がる必要が有るんだな。……で更に、その──〝その相手と繋いで貰う相手〟に繋げる為に電波が必要なんだな」

「……少なくとも、俺はそう覚えている。まぁ、他にもいろいろと有るんだが、今説明しても仕方ないだろうから──取り敢えず今は〝電話で遠くの人間と話すには電波が必要〟とでも覚えておいてくれ」

「じゃあ、ここ──幻想郷で電波が無いのは…」

「〝その相手と繋いで貰う相手〟に繋がらないからだな。……で、繋がらないその理由は、〝その相手と繋いで貰う相手〟が幻想郷には居ないから──そんなところかね、多分」

……〝その相手と繋いで貰う相手〟──電波を掛けるのに不可欠な、〝交換局〟が幻想郷には存在してないので〝ここ〟で電話を普及させるのは少々骨が折れるだろう。

〝ほへぇ〟と云う表情を浮かべている魔理沙を見て、ちょうど良い塩梅だと思った俺は説明を切り上げたのだった。

SIDE END 
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