ゲリラ
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3部分:第三章
第三章
「嫌に思っているな」
「はい」
オーグルは実際に顔にそれを出して述べた。
「否定しません」
「そうだな。それはわかる」
「戦争では人が死にます」
あえてだった。当然のことを述べるオーグルだった。
「それはわかっています」
「そうだな」
「しかし。それでもです」
「こうした場所で。こうして人が死ぬのはか」
「納得できません」
そうだとだ。彼は言うのだった。その無惨な骸を見ながらだ。
「それもこうした事態になるとは」
「私もだ」
そしてだった。アーカスもまた辛い声を出すのだった。
「私もこうした状況はだ。見たくない」
「中佐もまた」
「戦場で人が死ぬのならともかくだ」
オーグルと同じ言葉だった。彼も言うのだった。
「こうしたことはな」
「フランス軍も。そしてゲリラ達もですね」
「お互いにこうして殺し合っている」
「これは戦争ではありません」
オーグルは言った。苦さをこのうえなく出しながら。
「何と言うべきか。私にはわかりません」
「いや、戦争だ」
しかしだった。アーカスはそのオーグルにこう話した。
「これもまた戦争なのだ」
「戦争だというのですか、これが」
「武器を手にしてお互いに殺し合っている」
シンプルな言葉だった。しかしそれはまさにその通りだった。真実そのものだった。
「それを戦争と言わずして何という」
「ですが」
「それにだ」
アーカスはここではオーグルの言葉を遮ってだ。自分の言葉を出した。
「このゲリラによりだ」
「ゲリラにより」
「そうだ、フランス軍がゲリラに襲われる」
まずはそこからなのだった。
「それを受けてフランス軍はゲリラを攻撃し殺戮していく」
「ゲリラでない者まで」
「それがいいのだ。そうすればスペイン人達はフランス軍を憎むな」
「そしてゲリラがさらに増えます」
「その増えたゲリラがフランス軍をさらに攻撃する」
循環だった。まさにそれだった。
「そしてフランス軍は報復を行いそれがまた」
「遂にはなのですね」
「フランス軍をスペインより追い出すことになるのだ。戦略としては最高のものだ」
「ですがそれは」
オーグルの言葉が苦いものになる。それを自覚したうえでの言葉だった。
「あまりにも痛ましい事態が。実際にこうして」
「しかしフランス軍を確実に痛めつけ追い詰めている」
アーカスはここでもオーグルの言葉を遮って己の言葉を告げた。
「それは事実だ」
「フランス軍をですか」
「既に二十万のフランス軍がスペインにいる」
ナポレオンはそれだけの大軍を送り込んだのだ。そうしてそのうえでスペインを何とか平定し己のものとしようとしているのである。
「だがその二十万のフランス軍がだ」
「追い詰められている」
「だからいいのだ。フランス軍を戦場で破るのは困難だ」
実際にイギリス軍もフランス軍に対しては戦場ではまともに勝ててはいなかった。ナポレオンの水際立った戦術指揮だけでなくだ。フランス軍自体も精強だったからだ。
「だが。こうすればだ」
「勝てますか」
「戦局は我々に傾いてきている」
これもその通りだった。フランス軍はスペインの至るところで憎まれ攻撃されている。その消耗を激しくさせていたのである。
それを見てだ。アーカスは言うのだった。
「このまま進めていけばいいのだ」
「フランス軍もゲリラ達もこうしたことを繰り返してもですか」
「そこに本来のスペイン軍も入るな」
彼等もだというのだ。一応ナポレオンの下になっている。
「彼等も次第に我々の方に来ているな」
「だからこそ効果があるというのですね」
「我々は勝てるのだ」
言い切った。まさにといった口調で。
「これでナポレオンにだ」
「あの男に」
「ナポレオンに敗れたいか」
オーグルの戸惑う目を見て問う。
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