ソードアート・オンライン 瑠璃色を持つ者たち
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第十一話 鬼械
前書き
どうも、はらずしです。
連投行っちゃいます!といっても短いんですけどね〜
ではどうぞ!
いつの間にかリュウヤに置いてかれていたアルゴは目的地まで全力で走っていた。
リュウヤが血相変えて走り去っていく様を見ていたのもあるが、昨日リュウヤの話を聞いていたことも相まって、アルゴの顔にはリュウヤのと遜色ない焦りを滲ませている。
リュウヤに秘匿しろと言われたクエスト。初めは渋ったが、内容を聞くにつれそうせざるを得ないと思い始めた。
そのクエスト内容とは、簡単に言えば敵一体を屠ればクエストクリアという至極単純なものだ。
だが、その簡単なクエストの割に報酬が見合わない。報酬が足りないのではない。十分過ぎるほどにあった。
それが余計怪しかった。リスクとリターンがまるで噛み合っていない。もはや罠だと正々堂々言われているほどに。
けれどその話だけで秘匿を決行したわけではない。それだけで決定を下すくらいならアルゴは情報屋としてやっていけてはいない。
アルゴが秘匿した大きな一因は、リュウヤの発言によるものだった。
彼曰く、モンスターの強さはフィールドボス並み。攻略組のフルレイドでようやく倒せるくらいだそうだ。
攻略組の中でもキリトやアスナ、ヒースクリフといったトッププレイヤーに引けを取らないリュウヤがそう言ったのだ。
だからアルゴはリュウヤの要求を呑んだ。
リュウヤにしては珍しく、申し訳なさそうにしていたのが新鮮だった。
だが一つ気になることがあった。
どうしてリュウヤはモンスターの力量を測ることが出来たのか。
クエストボスとも言っていただけあって、クエストを受けなければ出現してこないはずだ。
まさか、彼はーーー
その思考がゴールにたどり着く前に、アルゴは目的地にたどり着いた。
そして一番初めにアルゴの目に映ったのはーーー
鬼……?
ーーー違う、リュウヤだ。
軍のプレイヤーたちを後退させ、しんがりを務めているリュウヤがアルゴの目に映ったのだ。
彼の倍はある体躯を持つモンスターの手で振るわれる戦鎚を紙一重で躱しながら、彼の槍が閃き敵を穿つ。
リュウヤのその行動から、必死になって被害が大きくなるのを食い止めようとしているのは分かる。
だけど、ナニカが違う。決定的に違う。
彼から感じられるナニカがアルゴにそう直感させていた。
なんの戦力にもならないアルゴはリュウヤの戦闘を遠巻きに見ながら負傷者の手当てを手伝った。
その間も休むことなく奮闘するリュウヤの姿が目の端に映るたび、アルゴは彼の姿に一つのイメージを重ねていった。
巨人に立ち向かう英雄ーーーではない。
巨人すら戦慄させる、《鬼》。
最小限の動きで敵の攻撃を躱し、いなす。
光芒を放つ槍は正確無比にダメージを与えていく。
さながら鬼のように。
さながら、機械のように。
さながらーーー《鬼械》のように。
イメージが彼の姿と重なった瞬間、
ゾクッ……!
本当にわずかな間、《鬼の機械》と目が合った。
その時間だけでも、身震いした。
ポーションを渡していた手すら止まってしまった。
この感覚にアルゴは覚えがある。
以前にもこの感覚を味わったことがある。
あの日、リュウヤと初めて相見えた時。
さっきのとほとんど変わらない悪寒に晒された。
そしてそれはある記憶を呼び覚ます。
アルゴが予感した、リュウヤの未来を。
それが完全に形になる寸前、リュウヤが敵に状態異常を発生させ、自身の体力ギリギリのところで離脱してきた。
つまり、撤退は成功。リュウヤが来てからの被害はゼロだ。
だが、その前にあった被害は、考えたくもない悲惨な現実を彼らに突きつける。
軍の主力プレイヤーの死。
それも一人ではなく多数。
かけられる言葉は無かった。
辛うじて生き残った軍のプレイヤーたちが地に膝をついて打ちひしがれている中、リュウヤはゆっくりとその足を動かし、リーダー格らしきプレイヤーの前で立ち止まった。
「おい」
一言。たった一言だ。
言葉として認識していいか分からない、ただの呼びかけ。
それだけで呼ばれたプレイヤーをすくませる。
「てめえが何するべきか、分かるよな」
特に声を張っているわけでもないリュウヤに、リーダー格らしきプレイヤーはコクコクと首を縦に振る。
その反応を見てリュウヤは、もう何も言うことはないと言うようにその場を去って行った。
「じゃあな、アルゴ」
去り際にかけられた言葉にアルゴは何も言い返せずにリュウヤの背を見送ることしかできなかった。
彼の目を見た瞬間、射竦められたのだ。彼自身にその気はなくとも、アルゴは目を見ただけで固まってしまった。
彼の目から見えた、血の通わない機械のようで、恐怖を体現する鬼のような冷たさに。
むしろそれは逆に良かったのだろう。
今声をかけてもリュウヤに言葉が届くとは思えない。むしろ神経を逆なでするような行為になりうる。
そして、この場にいる全員が目に焼き付けた。
一匹の《鬼》の姿を。
リュウヤはそこから二日間の記憶が曖昧だ。
憶えているのは、目の前で散っていくプレイヤーと、モンスターの得物が自らを捉えようとする光景。
その記憶はクエストの時のものか、はたまた翌日行われた二十五層のフロアボス戦のものか。
後で伝え聞いた話で、軍は最前線から離れたという。
クエストの件で元々あった亀裂が大きくなり内部分裂を起こし、それでヤケになったキバオウがボスのラストアタックボーナスに執心しすぎた結果主力プレイヤーの大半を失うことになった。
アルゴから聞いた、「軍が危惧している戦力不足」とやらの話も攻略組から去ることになった今、目にかける必要も、動く必要もなくなった。
その代わり、攻略組は軍という一大勢力の一つを失うという大損害を被った。
だというのに、リュウヤはまるで他人事のような気分だった。
一つ気になることと言えば、ボス戦の前にキリトが言っていたこと。
「第一層のフロアボス戦の時と同じ目してるぞ」
はて、自分はその時何か変だっただろうか。
そして今その目をしていることに、なんの意味があるのか。
そんな思考に答えを出すのもすでに億劫となっていたリュウヤは思考そのものを放棄し、宿のベッドで倒れていた。
ーーー思い出す。
ベッドで横になってから数分、コンコンと控えめなノックが聞こえてきたのだ。
「……お邪魔します」
カギをかけ忘れていたのか、ドアが開き女性が入ってきた。
カチャンとドアを閉めてカギをかけたその人はリュウヤの寝ているベッドに近づき座った。
「……サチ、か」
「ごめん、邪魔かな?」
「…………いや、いてくれ。……頼む」
「うん、分かった」
うなずいたサチはクツを脱いでベッドの上に寝転がり、背を向けるリュウヤにピタリとくっついた。
「大変、だったみたいだね」
「………」
「また、目の前でーーーだもんね」
「…………」
「でも、一人じゃないよ」
「……!」
「だって、私も一人じゃないから。にいがいるから」
「俺は……一人じゃ、ない、か……」
「うん、そうだよ」
いつの間にかサチの方へ体を向けていたリュウヤはサチをギュッと抱き寄せた。まるで抱き枕のような扱いにサチは嫌がることなく、むしろ嬉しそうにしていた。
「にい、私も寂しい……」
「そっか」
「だから、一緒」
「ああ、そうだな……」
リュウヤの目から雫が落ち、彼の目に暖かい暖炉の火が灯った。
そして兄妹は二人仲良く眠りに落ちた。
いつまでも、この絆は、この温もりは消えないから。
ーーーーーーピシッ……。
後書き
いかがでしたでしょうか。
いやあ本当に短い。いつもは五千文字とか
行くんですけど今回は三千未満!
かなり省いたんでそれもむべなるかなと
言ったところですかね。
さて、次回のお話ですが……
飛びます!超飛びます!
具体的には全層の四分の一飛び越えます!
次、たぶんみんなのアイドルが
出てくるのではないでしょうか
……たぶんね。
それではまたお会いしましょう。
See you!
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