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ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか

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食料庫終幕

 
前書き
更新待っててくれた人、ありがとう! 夏期講習がいそがしかったんだよ!

なんと今回は文字数最多!
一万越えてしまった!!ほんと申し訳ない!やめどきがわからず、一気に書いてまいました!
 

 
「蹴散らせ」

オリヴァスのその命に従うように、巨大花が動き出す。
かなりの重量持つ巨大花は今までの食人花のように首を高くもたげることができないようで、蚯蚓のように地を這った。

ただ、その動くだけの行為がすでに人を殺すだけの威力を秘めていた。

「クソッタレ!!」

怪魔も戦車もまだ残っている。
怪魔には産まれてくる食人花の相手をさせ、俺は戦車の手綱を振るって真正面から突っ込ませる。

遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)ォオオ!!」

雷を纏わせ、疾走。
神牛(ゴッド・ブル)が吠え声を轟かせ、渾身の突撃をその巨躯にぶちかます。

「チィッ!!」

だが、浅い。雷は巨大花を焼くもののまだまだ致命傷には程遠く、二頭の神牛(ゴッド・ブル)による突撃もその体を少しのけ反らせるだけに止まった。
そもそもの重量が違いすぎるのだ。

「ッ!?」

そのまま戦車で駆け、その場を離脱する。
その数秒後、巨大花の長大な蔦の触手が先程までいた場所に襲いかかっていた。

「こっちの攻撃、効くのか、コレ!?」

どうやら蔦は俺だけでなく、後ろの方にも襲いかかっているようだった。
ルルネと呼ばれていた少女の喚く声が聞こえた。
戦車を旋回させ、直行する。
【ヘルメス・ファミリア】の少女が、逃げ惑いながら『魔剣』ーー所謂、魔法を射出する剣のことーーを振るって炎刃を浴びせるがほとんどダメージを与えていない。
のけぞっていた体勢も元に戻し、再び蛇行を始める。

「糞がッ!!」

跳躍したローガが巨大花に向けて上空から蹴りを放つ。
何かの魔法を吸収したのか、威力を増したメタルブーツによる強烈な一撃。
が、体の一部が大きく爆ぜ、モンスターが苦しむ素振りを見せるものの、致命打には遠かった。

俺がとれる攻撃手段は二つ。
さっきのゴルディアス・ホイールによる突撃か、怪魔による物量の攻撃だ。
手綱と本で両手が塞がっている今、武器による攻撃は出来ない。

「やれっ!!」

食人花の足止めをさせていた怪魔のいくらかを巨大花にあてがった。
計十体の怪魔が蛸のような触手を伸ばし、つい先程ローガの攻撃を喰らって痙攣していたモンスターを拘束しにかかった。

「無駄だ!! 巨大花(ヴィスクム)!!」

しかし巨大花は拘束されても尚動きを止めない。せいぜい鈍くなった程度だ。
Lv2のモンスターを相手取れる怪魔達をずるずると引きずり、ついには鬱陶しいとばかりに蔦で怪魔を潰した。

「クソッ、規模が違いすぎたか……っ!」

潰された側から再生する怪魔であるが、対人戦ならともかく、こんな巨大モンスター相手だと、この場に召喚している怪魔全て向かわせないと意味が無さそうだ。

「ふははははははははははっ!? 行け巨大花(ヴィスクム)、この神聖なる空間に足を踏み入れた冒険者どもを根絶やしにしろ!! ゴフッ!?」

戦場を傍観するオリヴァスの高笑いが響くが、直ぐに吐血する。あれだけ見ればギャグにしかみえん

だが、このモンスターがあと二体も控えているのだ。傷は治らないものの、体力だけでも回復させようとするオリヴァスの余裕は微塵も崩れていない。

はっきり言おう。ウゼェエエエエエエエ!!

「【秘剣(トランプ)】!! その御者台にはあと何人乗れますか!?」

「十人はいける! それがどうした!?」

巨大花の蔦を凌ぐ中、アンドロメダの問いに俺は叫んで答えた。

「なら、魔導師を乗せてくださいっ! そこでなら詠唱もできるはずです!!」

後方を確認すれば、敵の攻勢で詠唱もできない魔導師達の姿が伺われた。

「ええいっ! クソッタレ!! どうにでもなれ!!」

なんか、最近人をのせることが多くなっている気がする。何故だ。
だが、こればかりは仕方ないと割りきり、前線をアンドロメダに任せて俺は戦車で後衛に向かう。

「魔法が使えるやつは乗り込め!! 早くしろ!」

雷で迫り来る蔦を焼き払い、急ぐようにと怒声を飛ばした。
その声に反応した幾人かが御者台へと飛び込んでくるのを確認し、直ぐに戦車を走らせた。

狙ってくる蔦を何度も雷で迎撃して駆ける。後ろでは魔導師達が魔法円(マジックサークル)を展開させ、詠唱に入っていた。中には、レフィーヤの姿もある。
流石にこの状況で攻撃を仕掛けるわけにもいかず、ひたすら巨大花の蔦を回避するか雷で迎撃するしかない。

待つこと数分くらいだろうか?
いやに長く感じたが、どうやら詠唱が完了したようで、魔導師達が次々に魔法を放つ。
炎が氷が雷が光が。
凄まじい音とともに巨大花の体が削られ、抉られ、焼かれ、爆煙をあげた。

「や、やりましたっ!」

小人族(パルゥム)の少女がその様子を見て喜びの声をあげる。
高威力の魔法をいくつもまともに喰らったのだ。普通の階層主でも倒れるレベルだ。

警戒を解かずに、尚も戦車を駆って様子を見守る。
すると煙の奥で、緑の巨大ななにかが動いた。間違いない。奴はまだ生きている

「そ、そんな……」

「あれ喰らってまだ生きてんのかよ……」

煙が晴れて姿を現したモンスターは体のあちこちが焼け爛れ、触手や体の一部を損傷させてボロボロになっているもののまだ蠢いていた。マジでキモい

「『魔石』狙うしか無さそうだな……」

「そうですね……」

いつのまにか隣にいたレフィーヤが同意の声を漏らした。
魔石さえ破壊すればあれは間違いなく灰の山となる。
このままズルズルと戦闘が長引けば泥沼化の一途を辿り、こちらが不利となる。
早急に勝負を決めるなら、魔石を狙うしか方法がない。

俺は戦車でモンスターの周りを駆けながら、なんとか方法はないかと考える。
前線を任せたアンドロメダを見るに、同じようなことを考えていそうだ。

ローガの渾身の回し蹴りが巨大花の進路を変えるのを目にしながら、俺は巨大花の巨体に視線を走らせた。
体の中央、もしくは他の食人花と同じく先端の花頭か。
いずれにしてもあの分厚い肉皮を貫通しなければならない。

「……無駄だ」

そんな中、オリヴァスが口の血を拭いながらも不気味に笑った。
巨大花攻略の糸口が見つけられない内に勝負に出るつもりなのだろう。オリヴァスはその黄緑色の目を細め、片腕を上げようとした。
一体目を呼び出す時と同じ仕草だ。
冗談じゃない。あんなのもう一匹とかふざけている

手綱を握りしめ、俺がオリヴァスを憎々しげに見た。まさにその時だった。

大空洞の壁面の一角が、爆発する。

『!?』

いきなりの破砕音に大空洞にいる全ての者が視線を向けた。
何筋もの煙を引いて飛び出してきたのは、赤髪のナイスグラマーな女だった。
……おっと、余計なのが入った

吹き飛ばされてきたのか、凄まじい勢いで壁を破壊した彼女は、背中から叩きつけられ、ガガガガッと地面を削っていく。
勢いよく進む彼女は、巨大花が暴れる戦場から離れた地点で止まった。

「ぐッッ……!?」

呻き声をあげた彼女は剣身が折れた紅剣を放り捨てると、体中を傷まみれにしながら、消耗を物語るようにその場で片膝をついた。

「はっ、はぁッ……!?」

女が粉砕した壁面から次に現れたのは、金髪金眼の少女ーーアイズだ。
彼女もまた全身に裂傷を負いながら、盛大に肩で息をしている。

「レヴィス!?」

「アイズさん!?」

オリヴァスと、俺の隣でレフィーヤが同時に叫んだ。
てことは、あの赤い女はオリヴァスの仲間か。つまり敵。

サーベルを提げ大空洞に踏み込んできたアイズは、周囲の光景、そして俺達の姿に驚いた顔を見せたが、直ぐに自分は大丈夫だと言うように頷いて見せた。

心なしか、周りの雰囲気がよくなった。あのローガでさえ、一笑を浮かべているほどだ。

どちらも疲弊しているが、状況から見るに、アイズのほうが少し優勢といったところか。

「……口だけか、レヴィス。情けない」

オリヴァスの声が響いた。
レヴィスと呼ばれた女はオリヴァスと同じ黄緑色の瞳を彼に向ける。

「この小娘が『アリア』などと……認められるものではないが、いいだろう。『彼女』が望むというのなら」

アイズへの嫉妬によるものなのか、言葉の端々に敵愾心を窺わせ、体の傷による痛みも相まって顔を醜く歪めたオリヴァスは片手を真上に上げた。

巨大花(ヴィスクム)

二体目の巨大花が柱から体皮を引き剥がしながら地面に倒れこむとその花頭をアイズに向ける。

「アイズさん!? 式さん! 急いで!」

「わかってらぁ! お前ら! どっかにしがみついとけよぉ!!」

アイズの救援を求めるレフィーヤの声に、俺も手綱を振るって応えた。
だが、行かせないとばかりに巨大花が行く手を阻み、長大な蔦の触手で攻撃してくる。
俺はそれを舌打ちを打って雷で焼き、やむなく戦車を旋回させた。

「すまん、レフィーヤ。これ以上は……!」

「そんな……! アイズさん!?」

レフィーヤが悲痛な叫びをあげる

「持ち帰るのは… グッ…死骸でも構うまい…」

手首から先のない右手をダラリと下げ、左手で腹を押さえているオリヴァスはそれでもなお、疲弊しているアイズを殺すのは容易いと思ったのか悪辣な笑みを浮かべた。

「おい、止めろ」

「フンッ、貴様の手に負えない片付けてやる」

レヴィスという女の呼び掛けにオリヴァスは取り合わない。

俺達が事の行く末を見守る中、アイズは静かに銀の剣を構えた。

「死ね、【剣姫】!!」

巨大花が一気に加速し、地面を抉りながら真正面から突撃した。

「【目覚めよ(テンペスト)】」

直後、一閃

風の渦が周囲の空気を押し退け、剣に付与された暴風。
大薙ぎされた斬撃が巨大花の首を切断した。

……うそん


切断された首が上空を飛翔する。
鮮血を撒き散らすモンスターの花頭は弧を描き、やがて轟音を放って地に落ちた。

『ーーーーーーーーーーーーァァァッ!!』

大主柱に寄生する宝玉の胎児が叫喚した。


「一撃……」

ポツリ、と俺は独り言を溢した。

あの超巨大モンスターを一振りで。

剣技、ステイタスもあるが、最大の要因はあの付与魔法だろう。
風王結界(インビジブル・エア)かよ、と思った俺は仕方のないことだと思う。

胎児の叫びが響くなか、誰もが言葉を失っていた。

同じLv6。けれども、この差はなんだ。
一方は手こずって、もう一方は一撃。

「……ハハ」

思わず、乾いた笑いが溢れた


「なっ、なぁっ……!?」

オリヴァスが肌の白い顔を一層白くさせる。
先程の余裕はどこへいったのか、今や体に負わされた傷のことも忘れて後退りした。

ヒュンと、アイズがサーベルを構える

「ヴィ、食人花(ヴィオラス)ーーッ!?」

咄嗟に手を振り上げたオリヴァスが、悲鳴を上げるように叫んだ。
その命に従い、残っていた食人花が怪魔を無視してアイズの元に進路をとった。

「っ! 怪魔!!」

だが、そうは問屋が卸さない。
自身の元から離れようとする食人花を怪魔が己の触手で拘束して逃がさない。
巨大モンスターには力不足だが、こいつら一匹一匹に対してなら十分抑えられる。

「アイズ! 構わねえ!! 丸ごとやっちまえ!!」

「……っ!!」

風を味方につけた剣士が動き出す。
それは一方的な殲滅戦だった。

剣を振るうアイズはまさに嵐そのもの。先程巨大花を切断した一閃が、複数の食人花の頭を切り落とし、瞬殺していく。
もちろん、拘束している怪魔も一緒に瞬殺なのだが、倒した側から再生するので何ら問題はない。
その様子を見ていたアイズは少し驚いたような顔をしていた……ような気がした。

「おい、さっさと片付けるぞ!?」

突如、ローガの声が響いた。
俺達を足止めする巨大花に対し、周囲へ声を張ったのだ。

アイズの姿に士気を上げた冒険者達。それは戦車に乗せた魔導師も変わらない。
前衛の冒険者が優秀な連携を繋げ始め、魔導師達も詠唱を唱える。

「みんな、『魔石』があるのはやっぱり頭の方だ! 花の部分を狙え!」

アイズが斬り飛ばした巨大花の頭部を調べ終えたルルネという少女が情報を伝えてくれた。

「聞いたな。頭を狙えよ!」

巨大花の蔦が率先して魔導師達を狙ってくるため、俺はそれの迎撃に力を注ぐ。

「クッソダリィ!!」

襲いかかる触手を雷で焼き、手綱を操って戦場を駆ける。
今俺がやるべきなのはこいつらに魔法を撃たせてやることだ。それまで耐えねばなるまいて。

「気張れよ、相棒!!」

『ヴヴォオオオオオオオオオオオッ!!!!』

二頭の神牛(ゴッド・ブル)の吠え声が辺りに轟く。
駆けて駆けて駆けて、そして、ようやく、その時がきた

「【アルクス・レイ】!!」

レフィーヤを筆頭とした魔導師による砲撃が開始される。
花頭目掛けて放たれた魔法は見事にその頭を粉砕し、核である魔石を破壊する。

直後、断末魔を上げた巨大花が大量の灰となって崩れ落ちた。


「ありえんっ、負けるなど、屈するなどっーーありえるものかァ!?」

ボロボロになっている体に鞭打って、オリヴァスはアイズに向かって駆けた。
死角を突いたら奇襲。治ることのない傷を負いながらも、『魔石』が与える人智を越えた怪力で少女を絞め殺そうとする。

が、瞬く間に銀の剣が閃き、神速の斬撃が繰り出された。

「~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」

オリヴァスに無数の斬閃が刻まれる。
俺が負わした傷のさらに上から打ち込まれた斬撃は、オリヴァスの体が繋がっているのが不思議なほど、全身から血飛沫を散らせた
全身をズタズタにされたオリヴァスが仰向けに倒れ込む。

「嘘だ……種を超越した私が、『彼女』に選ばれたこの私がぁ……!?」

「ーーとんだ茶番だな」

アイズがオリヴァスに歩み寄ろうとしたその時。
突風のような速度でレヴィスと呼ばれた女がオリヴァスを助け出した。
彼の服をつかみ、そのまま距離を取って退避する。
石英(クオーツ)の大主柱付近で止まったレヴィスは、そのままオリヴァスを地面に放った。

皆の視線が二人に集まる

「す、すまない、レヴィス……」

「……」

息も切れ切れで膝をつくオリヴァス。流血を無視して呼吸を整えようとする彼にレヴィスは無言だ。
ローガやアンドロメダが半円を作って周囲を囲む。もちろん、俺もそれに続いて戦車を進ませ、輪に加わった。乗っていた魔導師達も降りて加わる。

女がオリヴァスに手を伸ばした。
オリヴァスを立たせるかのように服の襟を掴み、片手で持ち上げる、
そして、次には

手刀を、オリヴァスの胸部に突き刺した

『!?』

「な、マジかッ!?」

その行動に俺達は驚愕した。
オリヴァスの体から更に血液が流れ出る。
レヴィスは顔色一つ変えずに、更に手を押し込んでいく
その状況は、オリヴァス本人のほうが何が起きたか分かっていないようだ。

「レ、レヴィスッ、何を……!?」

「その目で周りをよくみろ」

俺達の視線を受けたレヴィスという女はその赤い髪を揺らした。

「より力が必要になった。それだけだ」

食人花(モンスター)どもではいくら喰っても大した血肉(たし)にならん」

……え? 今こいつ、なんていった?

いくら喰っても?

「まさか、よせ!? 私はお前と同じ、『彼女』に選ばれた人間……!?」

「選ばれた……? お前はアレが女神にでも見えているのか?」

「……ッ!?」

「お前も、そして私も、アレの触手に過ぎん」

……なんだこれは……?

目の前で繰り広げられているこの光景が俺にはあまり理解ができない。
つまりはあれか? 仲間割れか?

「た、たった一人の同胞を殺す気か!?」

手の残った左手でレヴィスの細腕を握りしめるオリヴァス。だがそれよ、レヴィスが胸部に突き刺した手刀に力を込めると、それに反比例するようにオリヴァスの体から力が抜けていき、ついには握りしめていた左手も、だらり、と下げてしまった。

「私がいなければ、『彼女』を守ることはーー!?」

そして、その腕を引き抜いた。
手の中にあるのは極彩色の『魔石』。
核を引き抜かれたオリヴァスは、モンスターと同じく、あっかなく灰となって崩れ落ちた。

「勘違いするな」

足元の灰に吐き捨てるように呟いたレヴィスはこちらに振り向いた。
惨憺たる光景に驚きを隠せない俺達。真っ直ぐ見据える。

「アレは私が守ってきた。これからもな」

そして、彼女はオリヴァスから引き抜いた『魔石』を




噛み砕いた(、、、、、)

「はっ?」

直後、レヴィスは地面を粉砕し、アイズへ砲弾の如く爆走し、剛拳を叩き込んだ。

「っっ!?」

「なっ!?」

他の奴らが反応できないなか、なんとか俺は反応できたものの、それをどうにかするまでには至らなかった。

真正面からの拳打にアイズは風の付与されたサーベルを構え、これ。防御。次には凄まじい勢いで弾き飛ばされた。

「くそったれめ!!」

ローガ達が漸く反応した頃には俺は手綱を握り、アイズの元に向かう。だが、その間にもアイズとレヴィスは激突していた。

「いけっ!!」

大空洞内に残っていた全怪魔を一斉に向かわせ、アイズの援護をさせる。

有利に立っていたアイズがいきなりの劣勢。これは恐らく、先程の行動と関係があるのだろう。
つまり、『魔石』の摂取。それから分かる答は一つ。

「あのアマッ! 『強化種』かっ!!」

魔石を摂取することで力を得るモンスターの理。
あれは人の形をした怪物だ。

「邪魔だ」

アイズの元へ行かさないとばかりに立ち塞がる怪魔の群れ。だが、レヴィスはお構いなしにその群れへと突っ込んだ。

一方的に蹂躙されていく怪魔の群れ。だがしかし、その数はいっこうに減らない。
これこそ、プレラーティーズ・スペルブックの真骨頂。
こと対人戦においてかなりのアドバンテージを誇るキャスターの宝具だ。
一気に殲滅されない限り、何度でも再生する怪魔。その相手をするだけで相手は消耗戦を強いられる。

「くっ、何だこいつらはっ……!」

いくらアイズを圧倒できる力があろうとも、騎士王でさえ苦戦したのだ。アイズのような風がない限り、脱出はほぼ不可能だろう。

「アイズ!! 乗れっ!!」

その間に戦車を走らせていた俺はアイズを御者台に乗り込ませると、直ぐにそこから離脱する。

「アイズ、あの女は何者だ!?」

「私にも、よくわか……」

「逃がすか」

「「!?」」

アイズが答えようとしたその直後

俺の視界に写ったのは赤髪の女ーーレヴィス

一瞬目を疑ってしまった。あの怪魔の群れを一体どうやって……


いつの間に用意したのか、レヴィスの手には紅の大剣が握られていた。
それが、御者台に向かって振るわれる。

「っ!? 雷ィッ!!」

させんとばかりに神牛(ゴッド・ブル)が吠え、最大出力の雷を浴びせにかかる。

「シッ!!」

だが彼女は、それが邪魔だとばかりに大剣を薙ぎ、雷を相殺した。

「はぁっ!? んな出鱈目なっ!?」

あの雷を掻き消す剣閃だ。防御膜でどうこうとかのもんだいじゃねぇっ!!

振り下ろされる大剣。左手には本があるため、武器は抜けない。
あれをまともに喰らえば、確実に死ぬ。

「くそったれがぁ!?」

一瞬の思考の後、俺は後ろのアイズの手を取り、御者台から離脱した。
そしてその瞬間

御者台が爆ぜた。

それにともない、ゴルディアス・ホイールの魔法が解除される。

「あのアマァ!! なんちゅーことしてくれとんじゃボケぇ!!」

幸い、あれは魔法で作り出し、呼び出しているものであるため、直ぐに召喚は無理なものの、時間さえ有ればまた再召喚は可能となっている。原理は知らん。流石ファンタジー
……とか言ってる場合じゃねぇ!!

「完全ではないが、十分に育った、エニュオに持っていけ!」

『ワカッタ』

レヴィスが何かを叫ぶと、不気味な声が響いた。だが、あちらの方を気にする余裕がない。
アイズが風を纏い、レヴィスと剣を打ち合う。

巨大花(ヴィスクム)!」

力任せの薙ぎ払いでアイズを弾き飛ばしたレヴィスは再び叫んだ。
残った巨大花へ命令する

「産み続けろ!! 枯れ果てるまで、力を絞り尽くせ!」

瞬間、大空洞が鳴動した。

大主柱に巻き付く巨大花が震え、何かを吸い上げるおぞましい音響を発した。
ビキリ、と結晶の柱にいくつもの亀裂が走る。
それにともない、巨大花の触手や太い根が、瘤のように膨れ上がり脈動する。

そして


天井、壁面、大空洞の全領域の蕾が、一斉に開花した。

視界を埋め尽くすほどの食人花の群れ。その数は俺が召喚している怪魔の数に勝るとも劣らない。

大主柱に巻き付いていた巨大花は急速に色素を失い、枯れた花頭かわガクリと折れる、
そして、その代わりだとでもいうように、開花した食人花が咆哮し、一斉に落下した。


ーー怪物の宴(モンスター・パーティー)!!

呆然とする冒険者を食人花の群れが襲う。

「無理無理無理っ、無理だってぇ!?」

「離れるなァ、潰されるぞ!?」

【ヘルメス・ファミリア】の面々が奮闘するが数が桁違いだ。
あちらではアイズがレヴィスと食人花の攻撃に苦戦し、こちらでは他の冒険者達が奮闘する。

戦車を失った今、これに対処できるのはもう怪魔しか残っていない。

「クソッタレめ……!!」

もう何度口にしたかわからない言葉を漏らした。




ーーーーーーーーーーーー



本を開く。

俺に残された魔力のほとんどをこれに託す。

「やってやらぁ……!」

今の俺なら大丈夫だ。ちゃんと制御はできるはず。
宝具の担い手であるキャスターでさえ制御不能の召喚術。

「バルドル様、ハーチェスさん。お許しを」

かつて、一度だけダンジョンで使ったことのある大魔術。
どれだけハーチェスさんとバルドル様に怒られたことか

もう二度と使わないようにと念を押されたものだが……まぁ、飯抜きくらいなら甘んじて受け入れようじゃないか

パラパラとページを捲り、魔力を流す。


食料庫(パントリー)でも入りきらないため、大きさを調整する必要がある。
これには少々のアレンジが加えられているためもはや原作の、とは言えないが、それでも大魔術には代わりない。
違う点と言えば、大きさと俺が飲み込まれずに顕在するというところか。

「巨大怪魔、召喚」

そして俺は言葉を紡いだ


ーーーーーーーーーーーー



突如、出現したそれに誰もが目を見開いた。

蠢く無数の触手はまるで蛸を思わせる。
が、その大きさが桁違いだった。

優にこの食料庫(パントリー)の天井に届くその大きさは先程の巨大花が可愛いくらいに思えてくる。
更に触手には無数の目がついていた。

見たものを恐怖させる。そんな巨大生物

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■っ!!!!』


「さぁ!! こっからが宴だぁぁああ!!」


巨大生物が耳に障る音を発するその傍らで、一人の青年が雄叫びを上げた。



ーーーーーーーーーーーー



「やったれぇーー! ここは神様のおもちゃ箱だぁ!!」

どうも、只今完全にハイになっている式です。
どうも、これを使うと避けられないようだ、これは。

叫ぶ傍ら、必死に制御を行い、見方である冒険者達を狙わないように巨大怪魔を動かした。
ぶっちゃけかなりきつい

召喚されていた怪魔は全てこの巨大怪魔の召喚魔力に回したため、この場で蠢く怪魔はこいつだけ。
植物モンスターをひたすら巨大怪魔の触手で潰しにかかる。

「【秘剣(トランプ)】!? いったいこれはなんですか!?」

「安心しなぁ!! てめえらには攻撃しねえぇ!!」

「そうではなくて!!」

ああ!?もう、うっせえな!?

俺が植物モンスターを相手取るなか、レヴィスとアイズの方ではローガが加勢に加わっていた。

「アンドロメダ!! レフィーヤに魔法ブッパするように言ってこい!! こいつらは俺が抑える!!」

「っ! 分かりました。耐えてください!!」

「はんっ!! ほざけぇ!!」

レフィーヤたちのもとへ戻るアンドロメダを横目に、俺は辺りを見回した。

「ヒャッハァァァァァ!! 駆逐駆逐ぅっ!!」

大空洞の通路から現れた巨大な植物モンスターを触手の叩きつけで潰し、他のモンスターも薙ぎ払う。

皆が皆のやるべきことをやっている。
レフィーヤは必死に詠唱を紡ぎ、ローガは弾き飛ばされた剣を取りに離脱したアイズに代わってレヴィスを相手取っている。

あいつら頑張ってんのに、ここでLv6(おれが)頑張らなきゃ合わせる顔がねぇだろうが!!

「やったれやぁぁぁぁぁ!!」

『■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!』


『【レア・ラーヴァテイン】!!』


瞬間、大空洞が紅の炎に染まった。
巨大怪魔の攻撃を逃れていたモンスター達が次々に焼き付くされていく。
むろん、大空洞のど真ん中に位地取っていた巨大怪魔も例外ではなく、その体を炎が襲う。

「ハァッ……ハァ……こんなものか……」

俺はその様子を見て、本を消した。すると、今まで存在していた巨大怪魔も姿を消す。


ヤバイ、主に精神力的な問題で立つのが辛かったりする。

「怪我人には手を!! 荷物は捨て置きなさい、脱出が最優先です!!」

アンドロメダが何かを叫んでいる。何かと思えば、どうやらここ、もうすぐ崩壊するとかなんとか
……ヤバイじゃん!?

くそったれめと思いながら重い体に鞭打って出口へ急ぐ。
ローガもどこか怪我しているようだが、まぁあいつだ。問題はないだろう。

こんなときにこそ戦車があればと思ったが後の祭りだ。

「おい、【剣姫】!」

「アイズ、急げ!」

後ろの声を耳にしながら、俺達は崩壊する大空洞から退避した。







この日、二十四階層の食料庫(パントリー)は崩落した。
冒険者の一行は、何とか脱出することに成功したのだった







 
 

 
後書き
これでオラトリア三巻はお仕舞いです!また次は原作の方に戻ります。
……今回、色々やらかしちゃったけど、大丈夫だよねっ!うん、なんとかなるなる(白目)

まだバルドル・ファミリアの面々が活躍することを祈っておきます!!俺が書くんだけど!


(尚、只今のニシュラは七時間かけて書き上げたことでハイになっております。ああ、仕方ないなと思って温かい目で見てやってください) 
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