烏
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1部分:第一章
第一章
烏
残忍な男だった。そう言わざるを得なかった。
アルビジョワ十字軍において一人の男の名が知られている。その名をシモン=ド=モンフォールという。この男の名は知る者にとっては実に忌まわしいものである。
アルビジョワ十字軍とは所謂異端であるカタリ派への征伐である。実際のところは彼等が異端かどうかはどうでもよかった。南フランスに勢力を張る彼等を邪魔だとみなす勢力がある、これが問題であったのだ。
カトリックによる支配を目論む教皇、南フランスの完全掌握を狙うフランス王、彼等がいることが問題だった。そしてカタリ派の者達のその土地を狙う貴族達もいた。
彼がいるからだった。それが問題なのだった。そうして教皇インノケンティウス三世が言った。
「カタリ派を滅ぼせ」
まずは彼が言ったのであった。
「憎むべき異端を滅ぼすのだ」
教皇が異端と言えばそれで終わりであった。そして滅ぼせと言ったのである。こうしてアルビジョワ十字軍が編成され南フランスに雪崩れ込んだ。
彼等は元々異端の征伐なぞどうでもよかった。欲しいものは土地、それに略奪により得られる財産だ。その為戦いは凄惨なものとなった。
カタリ派かどうかはどうでもよくなかった。人々は次々に殺された。バチカンから派遣された僧侶はそれに対してこう告げた。
「全て殺すのだ!」
カタリ派かどうかはどうでもいいというのである。
「神がそれを見分けて下さる」
これが答えだった。彼等は次々と殺していった。僧侶の言葉と共にだ。
その殺戮をしていく者達の中にこのシモン=ド=モンフォールドもいたのだ。彼は残忍極まる人物だった。それはこの血生臭い十字軍の中でも傑出していた。
彼がブラムという城を攻めた時だった。彼等は瞬く間にその城を陥落させた。そしてそれと共に百人を超える捕虜を得たのである。
「その捕虜達を見てシモンは。周りの者達にまずはこう命じたのである。
「全員くくりつけよ」
「全員ですか」
「そうだ、木の柱を作りそこにくくりつけるのだ」
こう命じたのである。
「頭も顎もだ」
「それもですか」
「そうだ。全員くくりつけろ」
彼はまた命じた。
「わかったな」
「は、はい」
「それでしたら」
周りの者達は彼のその言葉に頷いた。そうしてそのうえで捕虜達を用意した柱にくくりつけた。そうしてそのうえでまた命じたのである。
「あれを持って来るのだ」
「はい」
モンフォールの側近が応えた。そうして実に奇妙な短剣を取って来たのである。それはスプーンに似た形をしていた。およそ戦いに使う為のものではなかった。
「これですね」
「そうだ、これだ」
まさにそれだと。モンフォールは邪悪そのものの笑みを浮かべて答えた。
「この短剣だ」
「ではこれですぐに」
「使え」
一言であった。
「すぐにだ」
「はい、それでは」
腹心の者達はすぐに捕虜達に向かった。モンフォールの同僚達はそれを見てまずは首を傾げさせた。
「一体何をするつもりだろう」
「さてな」
彼等にはわからないことだった。しかしシモンが酷薄な笑みを浮かべているのを見て何か恐ろしいことをやろうとしていることはわかった。それだけはわかったのである。
そのうえで、であった。何が行われるのか見守っていた。そしてそれは。
「な・・・・・・」
「何と・・・・・・」
「やれ」
モンフォールは冷酷に笑って告げたのであった。
「いいな」
するとだった。腹心の者達は捕虜の頭を後ろと左右から掴んで動けないようにしてそのうえで短剣を捕虜達の顔に近付け。そうしてであった。
短剣を眼球の脇から入れてそのうえでしゃくり取る。そうして捕虜達の目を次々とくり抜いていくのだった。何とその為の短剣だったのだ。
「何だと・・・・・・」
「捕虜の目を・・・・・・」
「目は一つだけでいい」
捕虜達の恐怖の声と絶叫が沸き起こる。モンフォールはその中で冷酷に告げたのである。
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