ドリトル先生と森の狼達
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第四幕その十一
「困っていないんだね」
「特にね」
「いつも遊んで食べて暮らしてるよ」
「この森の中でね」
「とても楽しくね」
「それは何よりだよ、お猿さん達も平和みたいだね」
「いやいや、山犬かなあれは」
ここで若いお猿が言いました。
「怖いのがいるから」
「あれ犬かな」
「違うんじゃない?」
「犬じゃない?」
「うん、何かね」
「違う気もするんだ」
こう先生にもお話するのでした。
「何処かね」
「不思議とね」
「犬なんだけれど」
「犬じゃない?」
「そんな筈ないのに」
「犬じゃなかったら何だってことだけれど」
「ううん、おかしなことだね」
そのお話は先生から聞いても確かにおかしなお話です、それで先生も首を傾げさせてこうしたことを言ったのです。
「それは」
「そうだよね」
「まあ最近山犬も減ったけれどね」
「それはいいことだよ」
先生は山犬が減ったことはよしとしました。
「それには理由があるからね」
「ああ、山犬はあれですよね」
ここでトミーはどうして先生が山犬が減ったことはいいことと言ったのか理解しました。そうして先生に答えました。
「山に捨てられた犬が野生化したものなので」
「そうした犬が減っていることはね」
「いいことですよね」
「うん、どんな動物でも飼っているのならね」
先生はこのことは厳しく言うのでした。
「捨てたりしたらいけないよ」
「それは人間として当然のことですね」
「最後まで愛情を持って一緒に暮らす」
「そうしないと駄目ですよね」
「うん、誰だって捨てられたりしたら嫌だよ」
先生は本当に何時になく厳しい口調です。
「そうした思いやりを忘れない」
「人として絶対のことですね」
「全く以てね、けれどね」
「そうした人が日本で少なくなってきている」
「このことはいいことだよ」
先生はこう言うのでした。
「本当にね」
「そうですね、山犬が減っていることは」
「うん、それでも気になることはね」
「山犬じゃないかも知れない」
「僕達の気のせいかも知れないよ」
お猿さんのうちの一匹が言いました。
「そのことはね」
「ううん、犬じゃないとすると」
「狼だったりしてね」
王子が笑って冗談めいた口調で言いました。
「ひょっとして」
「いや、ニホンオオカミは」
「絶滅しているから」
「いないよ」
こう言うのでした。
「多分山犬だよ」
「うん、多分ね」
「僕達もそうだと思うよ」
「ただそんな気がするだけで」
「山犬だよ」
「やっぱりね」
お猿さん達もこう言うのでした、自分達の気のせいだとです。
そうしたお話をです、お猿さんとしてでした。
先生は森のさらに奥に向かいました、そして夜になって休むのでした。
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