僕のサーヴァントは魔力が「EX」です。
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僕のサーヴァントは幸運が「E」です。
「何このでっかい蛇……それとも龍……?」
「というより『ヒュドラ』だろ、アレ」
子供のサーヴァントがいた所に現れた龍を見てアヴェンジャーと僕が思わず呆けたように呟く。
ヒュドラ。神代と呼ばれた遥か昔の地球に生きていたという「幻想種」の中で最上位の「龍種」と呼ばれるものの一体で、一つの胴体に無数の頭を持つと伝えられている。
ギリシャの大英雄ヘラクレスが挑んだ十二の試練の一つにもヒュドラを退治するという試練があり、そのヒュドラは山のような巨体に百以上の頭を持っているだけでなく、神ですら殺す毒に首を切り落とされてもすぐに新しい頭が生えてくる冗談のような再生能力もあったと伝説では語られている。……正直言って無理ゲーとしか言い様のない怪物だ。
そしてそんな無理ゲーとしか言い様のない怪物が今僕達の目の前にいたのだった。
「……ええっと、さ? マスター? 私達ってばいつ勇者の使命を背負っちゃったのかな?」
「さあ、いつだろうな? 不味いな。僕達、王様から勇者の剣なんて貰ってないぞ?」
強張った顔をしたアヴェンジャーに僕も強張った顔となって答える。お互い馬鹿なことを言っているのは分かっているのだが、いきなり目の前にヒュドラがいるなんてこの状況、そんな馬鹿なことを言わないとやってられなかった。
「■■■■■ーーーーーーー!!」
「「っ!?」」
僕とアヴェンジャーが現実逃避をしているとヒュドラが周囲の大気を震わせるほどの咆哮をあげ、身構えた僕達に襲いかかろうとしたその時……。
ガカッ!
僕達とヒュドラの間に光の壁が現れた。これは一回戦の時も見たSE.RA.PHの障壁だよな。
「あらあら。……アリーナではこの様な光の壁が出るのですね? 私、知りませんでした」
障壁の向こう側でフローラがヒュドラの体の影から現れた。彼女の表情は相変わらず聖杯戦争とは似つかわしくない穏やかな笑みだったが、どこか憔悴しているようにも見えた。……どうしたんだ?
「……申し訳ありませんけど私達、ここで戻らせてもらいます。今度会ったらまた坊やと遊んでくださいね? ……帰りましょう、坊や」
フローラはそう言うとリターンクリスタルを使ってヒュドラと一緒にアリーナから姿を消した。
☆
「……あのヒュドラがフローラのサーヴァントが変身した姿、であっているんだよな?」
「……うん。私もそうだと思う。SE.RA.PHが障壁を出してくれなかったら正直危なかった」
アリーナから逃げるようにマイルームに戻って漸く一息ついた僕が言うと、向かい側に座るアヴェンジャーが疲れきったという顔で頷いた。確かにあの時障壁がなかったら僕達、今頃はあのヒュドラとなったサーヴァントに食べられていたかもしれないな。
「それにしても助かった僕達が言うのもなんだけど、SE.RA.PHはどうして急に障壁を出したんだ? それにフローラのサーヴァントのクラス名も言っていたし」
フローラのサーヴァントがヒュドラに変身する時、SE.RA.PHの放送は間違いなく「バーサーカー」と言っていた。サーヴァントの情報はそのサーヴァントとマスターにとって最も重要な秘密のはずなのに、それを全ての参加者に公平であるはずのSE.RA.PHがばらすなんて不自然だと思う。
「多分、あの子供のサーヴァント、バーサーカーの変身はSE.RA.PHにとっても予想外だったんだと思う。あのアリーナの障壁だって、あのまま戦ったら不味いことになるってSE.RA.PHが慌てて出したじゃないかな?」
SE.RA.PHが慌てるだなんてどれだけヤバイ存在だよ、あのヒュドラになったバーサーカーは?
「色々と無茶苦茶なサーヴァントだな。……というよりあのバーサーカーは何を考えているんだ? 結局のところアイツのやったことは自分達の手札を全てこちらに見せただけじゃないか」
「……多分だけどバーサーカーは『私達を倒すこと』しか考えていないんじゃないかな? 私達サーヴァントは外見の年齢と実際の……『死んだ年齢』が一致していないのがほとんどだけど、あのバーサーカーはあれが実際の年齢で、駆け引きとか自分の宝具を使った時のSE.RA.PHの反応とか難しいことは全く考えていなかったんじゃない?」
「……なるほどな」
アヴェンジャーの予想が当たっていると考えればあのバーサーカーの行動も辻褄が合う。
バーサーカーとフローラ。
見た目通りの子供だが強力すぎる宝具を持つサーヴァントと、そのサーヴァントを自分の子供と思い込んで暴走を止めようとしないマスター。
一歩間違えば聖杯戦争のルールを大きく逸脱する危険すぎるチームだ。正に「狂戦士」といったところだな。初めて会った時はただの主婦と子供にしか見えなかったのに、まさかあそこまでヤバイ相手だったとはな。
……というか。
「なあ、アヴェンジャー?」
「何、マスター?」
「……一回戦の相手は天使で、二回戦の相手はヒュドラ。僕達の相手って、何だか強すぎない?」
いや、ホントに僕達の相手って強すぎるって。ゲームだったらボス級のサーヴァントが二回続けて相手だなんて、他のマスターだってもう少し自分達と力量が似通ってる相手と戦っているぞ。
「あー……、確かにそうだよね。私達ってば少し……ううん、かなり運が悪いよねって……あっ」
苦い顔をして頷くアヴェンジャーが何かに気づき、同時に僕もあることに気づいた。そういえばアヴェンジャーって……。
「アヴェンジャー? 君って幸運何ランクだったけ?」
「……幸運……『E』ランク」
「「……………」」
何とも言えない空気がマイルームを支配した。
「なんか……ゴメンね。マスター……」
「……いや、僕の方こそゴメン……」
僕のサーヴァントは幸運が「E」です。
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