真田十勇士
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巻ノ五 三好清海入道その十二
「そして兄上も」
「ひいては殿も」
「殿もですな」
「義を貫かれる」
「そうされますな」
「真田家は羽柴家に仕えることになろう、そうなればな」
まさにだ、その時はというのだ。
「拙者は羽柴家にお仕えするが秀吉殿が素晴らしき方なら」
「秀吉公に、ですか」
「義を貫かれますか」
「その為に生きて死ぬ」
「それが殿のお考えですな」
「天下は望まぬ、義を望む」
幸村は正面を見たままこうも言った。
「拙者はそうありたい」
「では我等も」
「義に生きて義に死にます」
「殿と共に」
「そうしましょうぞ」
「頼むぞ、我等は何処までも一緒じゃ」
それが幸村の主従だというのだ。
「苦楽も共にしようぞ」
「さすれば」
四人は幸村の言葉に笑顔で応えた、そしてだった。
一行は岐阜への道を進んでいった、その途中に一人の派手な芸人を思わせる女と会った。女は一行の顔を見てすぐに言った。
「ほう、これは」
「何かあったか」
「いえ、あっちは占い師でありんすが」
女は妙に艶やかな顔で幸村の顔を見つつ清海に話した。
「そちらのお侍様、実にいい顔でありんすな」
「?殿は確かに整ったお顔立ちじゃが」
清海は首を傾げさせつつ女に応えた。
「遊女の世辞ならお断りじゃぞ、余分な銭がない」
「いえいえ、あっちは遊女はしておりませぬ」
女は笑ってそれは否定した。
「占いと芸で充分飯を食えてますので」
「左様か」
「とにかく、そちらの方は素晴らしき相でありんすな」
幸村の顔を見つつ微笑んで話すのだった。
「天下に名を知られ、そして家臣にも恵まれた」
「拙者はそうした者になるか」
「あい」
そうだとだ、女は幸村自身にも微笑んで答えた。
「あっちは占いだけでなく人相見も確かでありんすから」
「ふむ、この者達のことじゃな」
「他にも集まるでありんすな、十人程」
「十人か」
「お侍様のお顔にはそう出ているでありんすよ」
「ふむ、では十人集めてから戻ることになるか」
上田にというのだ。
「それでは」
「左様でありんすな」
「うむ、ところで」
「ところで?」
「そなた、芸人とのことだが」
「あい」
「名は何という」
幸村は芸人にその名を尋ねた。
「一体」
「あっちの名でありんすか」
「左様、何というのじゃ」
「そうですな芸人で実は人形芝居もしますので」
だからとだ、芸人は笑いつつ答えた。
「人形とでも覚えておいて下さいまし」
「人形か」
「そうでありんす」
「わかった、では人形」
「あい」
「御主も旅をしておるな」
「気のままあちこちを歩いて銭を稼いでいるでありんす」
そうしているとだ、人形は幸村に答えた。
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