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惨女

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2部分:第二章


第二章

「あの四人の老人ですか」
「はい、あの方々です」
 彼が言うのはその老人達のことだったのだ。后の予想は当たった。
「あの方々を太子の下に置くのです」
「太子のですか。ですが」
 ここで后は少し難しい顔になるのだった。
「あの方々は陛下のお誘いもお断りし今も隠棲しています。そうした方々が果たしてでて来られるでしょうか」
「はい、大丈夫です」
 しかし彼は平然として呂后の懸念に述べるのだった。
「それにつきましては御心配なく」
「それは何故ですか?」
「あの方々が出て来られないのは陛下をお好きではないからです」
「陛下をですか」
「確かに陛下には人を惹きつけてやまないものがあります」
 それで天下を取ったと言っても過言ではない。劉邦という男は遊び人だった頃から不思議な魅力があり何かというと周りに人が集まってきた。この呂后にしろ張良にしろその中の一人であるのだ。
「しかし。そう出ない人もいます」
「そうでない人もですか」
「相性というものがあります」
 彼が次に話を出したのはこのことだった。
「それによりあの方々は陛下のお誘いに出られなかったのです」
「だからですか」
「しかし太子に対しては違います」
 張良はまた言うのだった。
「陛下と太子は違うお方。あの方々は太子のお誘いなら必ず出て来られることでしょう」
「その方々を太子につければですね」
「太子はただ天下の賢人を四人手に入れられるだけではありません」
 張良の言葉は続く。
「皇帝の位もまた手に入れることができます」
「わかりました。それではすぐに」
「はい。そのように」
 張良は最後にあらためて一礼するのだった。こうして呂后の取るべきことは決まった。すぐに太子にその四人の賢者を集めさせると張良の言葉通りやって来た。そして劉邦が催す宴の場において太子の後ろに四人並んで立つと。それを見た劉邦が言うのだった。
「これで決まった」
「決まったとは?」
「太子はこのまま太子だ」
 まずはこう周りの者に告げるのだった。
「そして皇帝になる」
「では廃されないのですね」
「このまま太子として」
「そうだ。最早太子を替えることはない」
 周りの者の問いに断言で返した。周りの者達も劉邦が太子のことで考えていたのを知っていたのだ。
「あの四人の賢者は朕の誘いには従わなかった」
「ええ、それは確かに」
「その通りです」
「しかし太子の誘いには従った。それが何よりの証拠だ」
 彼は言うのだった。
「あれには翼が生え揃った」
 こうも言った。
「必ずやよき皇帝としてこの国を治めていくだろう。最早何の憂いもない」
 張良の策通りの結果になった。こうして太子は定まり夫人の願いは断ち切られた。暫くして劉邦が亡くなり太子が皇帝となった。漢の孝恵帝である。
 太子が皇帝になった。これで話が終わりかというとそうではなかった。全てが幸福な結末で終わることはない、今がまさにそれであった。
 呂后は覚えていた。戚夫人が何を考えていたかを。そしてそれが実現すれば自分も息子もどうなっていたかを。それを思うと取るべきことは一つであった。
「戚夫人を捕らえなさい」
 まずはこう命じたのだった。夫人はすぐに捕らえられ臼をひかされた。まずはこれで彼女を貶めそのうえで趙王になっていた如意を迎えようとしていた。そのうえで暗殺するつもりだったのだ。
 だが彼の宰相周昌は聡明な人物だった。かつて劉邦にも反発したことのある骨がある男でもあり主を護る為に呂后の招きを色々と口実をもうけて退けたのである。
「行けば王は殺されてしまう」
 彼ははっきりとわかっていたのだった。
「そう、必ずな」
 朝廷の者達も夫人に野心があったのを知っていたのかそれとも呂后が恐ろしかったのか動こうとはしない。確かに彼は頑張ったがそれは一人だけであった。彼だけで止められるものではなかった。
 
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