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真田十勇士

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巻ノ五 三好清海入道その四

「ここは」
「そうか、しかしな」
「それはですな」
「わしに勝ってのことじゃ」
 あくまでだ、そのうえでのことだというのだ。
「それからじゃ」
「ですな」
「さて、わしは仕掛けておるが貴殿は仕掛けて来ぬ」 
 ただ凌いでいるだけだ、今は。
「それをどうするか」
「その時になれば」
「仕掛ける、しかしわしは待たぬ」
 清海は笑って述べた。
「待つ位なら攻めるわ」
「ではここは」
「仕掛けさせてもらう」
 こう言ってだ、清海は幸村の身体を掴みにかかった。今度は肩と脚をだ。  
 そうして全力で投げようとする、しかし。
 幸村は前から来た清海に対してだ、ここで。
 清海が来たその瞬間だった、身体を前に出して。 
 清海が掴もうとするその力を彼自身に使わせた、幸村は瞬時に屈んだ。すると清海は。
 幸村を掴むその勢いでかえって自分がだった。
 幸村は手を使っていないのにそれでもだった、投げ飛ばされてしまった。行司は清海が土俵の外にまで派手に転がったのを見て軍配を上げた。
 皆幸村に喝采を浴びせた、彼の勝ちに。
「何と鮮やかな」
「あの技は一体何じゃ」
「手を使わず屈んだぞ」
「そのまま飛ばしたぞ」
「屈んだだけでな」
「何という技じゃ」
「まさに神技じゃ」
 その域まで至るというのだ、こう言ってだった。
 幸村に喝采を浴びせるのだった、そして。 
 起き上がりだ、土俵に戻った清海も言うのだった。
「今の技は相撲の技ではないな」
「柔術の技でござる」
「柔術、しかし」
「秘奥義の一つ空気投げでござる」
「空気投げとな」
「相手が向かって来るその力を使い自らは手を使わずに」
 今しがた幸村がした様にというのだ。
「投げる技でござる」
「それが空気投げとな」
「はい、相手の動き特に力の強さと向きを見て」
 そして見極めてというのだ。
「それを使っての技でござる」
「恐ろしい技じゃ」
「拙者にとってもまさに切り札」
 彼が身に着けている柔術の技の中でもというのだ。
「これを実際に使ったのははじめてでござる」
「わしがか」
「はい、これまではこの技を使わずに済みました」
 彼がこれまで闘ってきた相手ではというのだ。
「いや、まことに」
「左様でござるか、では」
「はい、それでは」
「それがし確かに破戒僧なれど約束は守りまする」
 漢としてというのだ。
「さすれば」
「拙者の家臣になって頂けますな」
「喜んで、これからお願い申す」
「さすれば」
 こうしてだった、三好清海入道は土俵を降りてから幸村の前に膝をついたのだった。土俵の上では膝はつけないからだ。負けた時以外は。
 清海も入れて五人となった一行は幸村が優勝したことで手に入れた餅と酒を楽しんで、そこで清海は言うのだった。一行は既に褌から普段の服に着替えている。清海は坊主の服だ。ただしそれは僧兵のもので袈裟もない。
 その清海がだ、餅を喰らいつつ言った。 
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