宝物とは
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1部分:第一章
第一章
宝物とは
イタリアの旧家ゴンガーザ家。かつては公爵の位にあり一つの街を代々に渡って治めていたこともある。
ハプスブルク家と血縁関係であったりメディチ家から嫁を貰ったりしかもブルボン家の血を引いていたり後はフッガー家だのボルジア家だのの縁者でもあった。とりあえずイタリアの名門だったことは確かだ。
今でもそれなりに裕福で財産も多い。豪奢な宮殿を思わせる家に住みその家具も庭もどれも見事なものだ。北イタリアで有名なブティックのオーナーであり数多くの店を持っている。ついでにレストランも経営していてそちらでの収入も多い。簡単に言えば金持ちだ。そのゴンガーザ家で今一つの騒動が起こっていたのだ。
「新たな財産がわかった!?」
「はい」
主のカルロ=デル=ゴンガーザに対して息子のジュゼッペ=デル=ゴンガーザが話していた。カルロはハンプティ=ダンプティを思わせる小太りで座り心地のよさそうな初老の男であり愛嬌のある顔をしている。それに対してジュゼッペは気品のあるスマートな長身の男だ。顔は引き締まっている。二人並んで立つと数字の10になってしまう。そんな好対照な親子が今自分達の屋敷の一室で話をしているのである。
「この前資産のチェックをしていましたら」
「わかったのか」
「十一世紀頃の話です」
ジュゼッペはこうカルロに告げた。
「その時に何か買ったらしいのです」
「何かか」
「それも途方もない値段で」
こう語ったところでジュゼッペの目が鋭く光った。
「当時のゴンガーザ家の資産を半分程使って購入しています」
「半分か」
「はい、半分です」
答えるその声も真剣さを増していく。
「半分も。一つの街を治めていた先祖がです」
「その頃の当主というと」
カルロは安楽椅子に座っていたがそこから身を起こして腕を組んでいた。その姿勢で考え込みつつ記憶を辿り言うのであった。
「確かロレンツォ三世だった」
「確かそうだったかと」
ジュゼッペも父の言葉に答える。
「記録では三世が買ったものになっています」
「我が家が中世で最も裕福だった時だな」
その時彼が治めていた街はこの上なく繁栄していたのだ。それこそ後世のミラノやフィレンツェもかくやという程の。それだけに資産もかなりのものだったのだ。
「その時に資産の半分か」
「何でしょうか」
「わからん。だが相当な価値のあるものなのは確かだ」
それだけははっきりとわかるのだった。
「それで何なのかわかるか?」
「いえ、そこまでは」
父の問いに残念そうに首を横に振る息子だった。
「申し訳ありません」
「そうか」
カルロはそれを聞いてあらためて考える顔になった。そのまま暫く考え込んでいたがやがてゆっくりと、かつ確かな口調で口を開いたのだった。
「それではだ」
「何か考えが」
「宝物庫を調べてみよう」
「あそこをですか」
「時代はわかっているのだな」
また年代について尋ねてきた。
「それは。そうだな」
「はい、それは」
このことに関してはもう返答は先程に述べた通りであった。ジュゼッペの声にも淀みがない。
「既に」
「なら話は簡単だ。十一世紀の宝物庫だ」
「そこを調べるのですか」
「わからないのはそれだけだな」
「はい」
このことも既に答えが出ていた。本当にそれだけだったのだ。
「他はもう。何を入手したのかは」
「全てわかっている。では話は解決したも同然だ」
素っ気無くとさえ聞こえるまでにあっさりと言ったカルロであった。そしてまた言う。
「それではだ」
「では早速宝物庫を」
「そうだ。家の者で今暇な者を集めよう」
決断すればもう行動は速かった。この迅速さが彼の売りであり今までこれで多くの財を為してきているのである。彼にはそれなり以上の才覚があるのだ。
「いいな。それで」
「はい、わかりました」
ジュゼッペも父の言葉に頷く。こうしてすぐにその当時の宝物庫が大々的に調べられた。やがてその中から一つの黒い箱が出て来た。鉄の大きな箱であった。
「これみたいですね」
「これか」
「ええ、間違いありません」
ジュゼッペとカルロがあちこちに蜘蛛の巣があり埃っぽい部屋の中で箱を前にして話し合っていた。二人の後ろには数人の家の者達がおり二人も彼等も埃にまみれていた。そして彼等の周りには様々な壺や宝石や剣やそういった宝で一杯だった。まさに宝物庫であった。
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