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ニネヴェ

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3部分:第三章


第三章

 その大規模な焚き火は続いた。何日もかけてだ。するとだ。
「おい、城壁が」
「あ、ああ」
「何だ?脆くなってきてないか?」
「そうだな」
 アッシリアの将兵達がそれに気付いたのだ。
「このままではだ」
「城壁が」
「まずいぞ」
 メソポタミアの城壁は土を干乾させた煉瓦によって造られている。そこに熱を与え続ければどうなるか。連合軍はそれを知っていたのだ。
「土は乾かす」
「そうすれば脆くなる」
「成程、それでか」
「そういうことか」
「そうだ。これならいける」
 こうだ。バビロニアの将軍の一人が言った。
「あっシリアの城壁もだ」
「あの高く厚い城壁もだな」
「これで脆くなり」
「そして破ることができる」
「そしてだ」
 重要なのは城壁を破ってからだった。まさにそれからだった。
「アッシリア人達を一人残さずだ」
「ああ、殺す」
「今までの怨み晴らしてくれる」
「そうしてやるぞ」
「絶対に」
 彼等は復讐と殺意に燃えていた。それが彼等を戦わせていたと言っていい。
 そしてだった。遂に城壁が壊れた。
 その瞬間にだった。連合軍は動いた。
「全軍攻撃だ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
 最早それは命令ではなかった。
「アッシリア人を殺せ!」
「今までのことを思い出せ!」
「許すな!何があろうとも!」
「滅ぼせ!」
「この地上から消し去れ!」 
 こう叫んでだった。剣を手にして一斉に斬り込む。こうしてだった。
 ニネヴェは殺戮の場と化した。アッシリア人達は兵士も市民も次々に殺されていく。しかもその殺され方はあまりにも凄惨なものだった。
 ばらばらにされる者、柱にくくりつけられ弓矢の的にされる者、業火の中に投げ込まれる者、皮を剥がれる者、実に様々だった。
「奴等がしてきたことをそのまましろ!」
「いいか、容赦するな!」
「皆殺しにしろ!」
 こうした言葉を合言葉にしてだ。殺戮を続け。
 ニネヴェは燃え続けた。何週間も。そうして完全に廃墟になったところでだ。
 チグリス河の流れを変えてニネヴェの廃墟のところに流してだ。街の跡を何もかも洗い流したのである。そうしてしまったのだ。
 河の流れが元に戻りそこにあったのは。ただの荒地だった。それを見て連合軍の者達は言うのだった。
「これでいいな」
「ああ、アッシリアを滅ぼし」
「街を消してやった」
「奴等が今までしてきたことを」
「我等がやり返してやった」
「こうしてだ」
 こう話すのだった。
「これでいいな」
「そうだ、アッシリアを消した」
「街も何もかも」
「我等がされてきたことをしてやった」
「復讐が今完全に終わった」
 彼等はこのことを心から喜ぶのだった。
 後にクセノフォンがニネヴェの跡地に来た。しかしだった。
 そこには何もなく通り過ぎただけだった。彼がそこがニネヴェだと知ったのは後になってからだ。
 これがアッシリアの最期である。この国は怨みを買い復讐によってこの世から消えた。アッシリア人自体は存在している。何とアメリカにまだ約三万人の末裔達が存在している。他の国々にも残ってはいる。しかし彼等は祖先達のあまりもの残酷さはない。そして世界帝国を築くことは今に至るまでない。そうした意味において。アッシリアは完全に歴史から消え去ってしまったのである。復讐を受けてだ。


ニネヴェ   完


                2010・12・31
 
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