ニネヴェ
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1部分:第一章
第一章
ニネヴェ
随分と惨いレリーフである。
戦いと虐殺。その二つから成っている。
首や手足がうず高く積まれそれを誇示するかの様だ。そのレリーフはアッシリアのものである。
この国は圧倒的な軍事力で以て大国となった。そしてだ。
その統治はあまりにも苛烈であった。恐怖で他民族を支配していた。
反逆者には容赦することなく手足を切り皮を剥いだ。そうして周辺民族を殺戮し街を消していった。その中にはバビロンもあった。
バビロンはアッシリアに二度攻められた。一度目は建物を全て破壊され二度目は川で流された。当然民は殺戮された。しかしであった。
彼等は諦めずにアッシリアへの反抗を続けていた。
「アッシリアを何時かは倒す」
「奴等を一人残らず殺してやる」
こう念じながらだ。彼等は戦っていた。そうしてだ。
アッシリアに対して攻勢に転じることができた。それは彼等だけではなかった。
これまでアッシリアの圧政、虐殺に苦しめられていた全ての者達がだ。立ち上がったのである。
メディアもいた。スキタイもだ。そしてその他の多くの国家や民族が集まっていた。皆アッシリアを滅ぼさんとしていた。
「アッシリアがいる限り我等に未来はない」
「殺されるよりもだ」
「殺せ!」
彼等はこう考え叫んでいた。
「奴等をこの世から消してしまえ!」
「そして我等に平和を!」
「安寧をだ!」
強大な軍事力を誇るアッシリアに対して向かいだ。その王都ニネヴェに向かって進軍していた。そして遂にその街を囲んだのであった。
街は城壁に覆われていた。まさに城塞都市である。
その広大な城塞都市をだ。今多くの国家の大軍が包囲していた。
「さて、それでだが」
「どうして攻める?」
「力攻めでいくか、まずは」
連合軍の将の一人がこう提案した。
「我等の数は圧倒的だしな」
「そうだな。如何にアッシリアといえどな」
「この大軍に勝てはしないな」
「それではだな」
こうして正攻法があっさりと決まった。そのうえでだった。
連合軍はとりわけ城壁が広く一直線の形になっている東側に戦力を集中させた。そこが最も攻めやすいからだ。そうしてであった。
大兵力で一気に攻める。しかしだ。
アッシリアは軍事力で大きくなった国だ。その守りは尋常なものではなかった。
攻めるとだ。当然迎撃が来た。それはかなりのものだった。
上から弓矢だけではなかった。煮えたぎった油や湯、それに石や木が落ちてくる。それを何とか凌いで城壁に近付いてもだ。
今度は剣で斬られ落とされる。その守りは憎たらしいまでであった。
「まずいな、力攻めは意味がないか」
「想像以上に守りが堅い」
「流石アッシリアと言うべきか」
「かなりの強さだな」
賞賛の声さえ出ていた。
「この街、攻め落とすのは容易ではないぞ」
「しかもだ」
ここでだ。彼等を焦られる案件があった。
「エジプトが来ているぞ」
「あの国がか」
「来ているのか」
「そうだ、来ている」
アッシリアの数少ない同盟国である。かつては敵対していたがそのバビロニアやメディアは伸張するに従い手を結んだのだ。そのエジプトがというのだ。
「我等の背を脅かしてきている」
「ではこのまま攻めあぐねていてはか」
「後ろからやられ」
「アッシリアは生き残る」
彼等にとってそれはまさに最悪の事態であった。
「奴等が生き残ればまた、だ」
「また殺され奪われる」
「地獄の日々がまた来るのだ」
「それだけは駄目だ」
「絶対にだ」
アッシリアへの恐怖は彼等の中に染み渡っていた。今回の連合も攻勢もだ。その恐怖への裏返しだった。そうなれば余計にであった。
彼等は自分達の安寧の為にアッシリアを滅ぼさなくてはならなかった。さもなければまた圧政と虐殺の日々だった。まさにそれだけはであった。
「あの街を早く陥落させるんだ」
「アッシリアを滅ぼせ」
「何があってもここで滅ぼすんだ」
「そうだ、ここでだ」
しかしだった。守りは堅い。彼等は真剣に最悪の事態を想定していた。
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