ソードアート・オンライン 瑠璃色を持つ者たち
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第九話 従兄妹
前書き
どーもー、はらずしです。
前回の告知では「何になるんだろうね?」
みたいな形で締めさせていただきましたが、
やはり、少しこのまま進めていきます。
では、前話の続きをお楽しみください
どうぞ!
『『『いとこぉぉ!?』』』
「おう、まあな」
第十一層主街区《タフト》の酒場にて男共の野太い素っ頓狂な声が響く。
リュウヤはその大きすぎる音量に耳をふさいで渋い顔をしながら頷いた。
「つっても年近いからなぁ、ほとんど妹みたいなもんだ」
さすがにいくつ離れているかを教えるわけには行かない。いくら身内の友人とはいえ完全に個人情報だし、引くべき線の位置は考えるべきだ。
「妹」と聞いてピクリと反応した面子に、リュウヤは「兄」として笑みを浮かべた。
「ところでお前らぁ、その我が愛すべき妹分に手ェ出したらーーー分かってるよな?」
『『『サーイエッサー!!』』』
もちろん単なる笑顔ではなく、その目は一切笑っていない。殺気すら感じられる域だ。
となれば、男たちは誰一人欠けることなくリュウヤの纏うオーラに冷や汗をかきながら最敬礼した。
その彼らの心中といえば、
(((シスコンか)))
「なんか言った?」
「なんでもありません!」
キリトが再度敬礼したところでリュウヤが破顔した。
「冗談だよ」とリュウヤが言い、純度百パーセントの安堵の息を漏らす面々。
そして穏やかな雰囲気が流れーーー始めなかった。
むしろキリトたちの視線にトゲトゲしさが増している。
誰だって、「あれこれするな」と注意した人がそれをやっていたら不快感を持つだろう。
つまりは、そういうことである。
「もぅバカバカっ。あんなこと言わなくてもいいじゃんっ」
「いやさ、大切な肉親だよ?そりゃあもう壊れ物のように優しく接するのが道理だと、俺は思うんだがねぇ」
「そっちじゃないっ」
「え〜?ボクナンノコトカサッパリワカラナイナー」
「にぃのバカぁ」
顔を真っ赤にしてかわいい罵倒を口にしながらポカポカとシスコンを殴る従妹。
サチがリュウヤに抗議しているのは、さっきリュウヤを路地裏に連れて行ったことについてどう説明しようかと悩んでいるスキに
「おいおい、そんな野暮なこと聞くかぁ?普通」
と、受け取り方を間違えればあらぬ誤解を取られかねない言い方をしたことについてだ。リュウヤはそれを狙って言ったのはさすがに口にはしなかった。
その言で、男たちは一斉に顔を逸らし、サチに至ってはうずくまって羞恥で悶絶していた。
逆にその反応がリュウヤのイタズラ心を刺激してしまい、サチにとっては負のスパイラル。それを見ているキリトたちは馬に蹴られるのではないかと思うまであった。
だが、ここまでの一連の流れを見ていると「もう勝手にやってろ」と思い始め、サチの怒りと羞恥が消えゆくまで男たちは傍観に徹し、リュウヤはサチの反応を心ゆくまで楽しんだ。
「ほんじゃ、俺は帰るな〜」
会話や食事に花を咲かせるのはそこそこに、リュウヤはそう言って席を立った。
フレンド登録を済ませた《月夜の黒猫団》のメンバーたちは全員笑顔で手を振って送ってくれた。その行為にリュウヤは人知れず苦笑する。こういうものはあまり慣れていないのだ。
食事代を出してから外へ出ると背後からドアが開く音がした。
ちらりと肩越しに見えたのは翻る黒いロングコート。揺れる裾は本人の迷いを表しているように見えた。
「なんだよキリトくん。見送りかい?」
「……なんで」
「なんでって、何が?」
「…………」
おいおい返事くらいしようぜ、と言いかけたが、さすがに今のキリトには刺激が強すぎるように思えた。
キリトの顔に浮かぶ困惑した表情。ぐっと握り締められた拳は宙をさまよっている。
「……単なるおせっかい、と言っといてやろうか」
このままではキリトは何も言わず、ただリュウヤが答えを言うまで黙っていそうで。
そんな無為な時間を取ろうとは思わない。
「たまには《ビーター》も休業しようや。お前みたいなガキが背負うには重すぎる重圧だろ?」
問いかけてもキリトは何も言わない。ただじっとリュウヤを見据えている。
返答が来るとは思っていないリュウヤはそのまま続けた。
「なあに、ギルド加入は休業手当だとでも思っとけ。せっかく俺も手伝ったんだ。有意義に過ごそうや」
言うと、固く握られたキリトの拳が柔らかくなって開いていく。全身にも力が入っていたのか、その力も抜いて雰囲気が柔らかくなっていく。
そんな彼にリュウヤも一安心した。
《月夜の黒猫団》との時間で、彼の心が少しでも癒されるだろうと思いつつ、
「ま、がんばんなさいな。我が弟子よ」
「……言ってろ」
背中越しに片手をひらひらさせて笑いながら、キリトのトゲのあるお礼を体に染み込ませてその場を去った。
「まさかキリトが《攻略組》の人の“弟子”とは思わなかったなぁ。でも、だからそのレベルでソロでも戦えるんだね」
「……まあ、しごかれたというか、鬼畜というか」
ケイタの称賛に、キリトは少々苦々しく答えた。
そこには“嘘”をついている罪悪感とリュウヤの弟子と言われるちょっとした屈辱感ともいうべきものが混ざっている。
攻略組であるリュウヤの弟子、キリト。
それが今のキリトの肩書きだった。
「不躾だけど、キリトのレベルはいくつくらい……?」
時は遡り、リュウヤが目の前の肉にガッついている時だ、ケイタがこう切り出したのは。
訊かれたキリトはもちろん焦った。
怖かったのだ。本当のレベルを言えば、自分が悪名高い《ビーター》だと言えば、彼らから侮蔑の視線を送られるのが。
もはや《ビーター》という孤独感に苛まれていたキリトに、この暖かすぎるアットホームな彼らの雰囲気は麻薬のようなものだった。
自分より格下の存在、憧れられる存在という優越感。弱者を守る騎士という力を持つものが故の快感。
一度知ってしまえば忘れることは出来ず、捨て去ることすら不可能。確かに、麻薬とは言い得て妙だ。
だから彼は刹那の迷いの後、彼らの平均レベルより三つ上ーーーそして自身の真のレベルの二十も下のレベルを口にした。
《月夜の黒猫団》のメンバーは、その実力でソロなんて、とキリトの言を信じ口々に称賛しキリトは苦笑せざるを得なかったが、嘘をついている罪悪感より、ただ一人そのレベルが偽りであると知っているプレイヤーの表情が気になって仕方なかった。
ハイペースで野菜や肉や魚をバキュームのように胃袋へ放り込んでいくリュウヤは何も言わず、だが笑みだけを送った。
キリトはそれを嘲笑だと受け取り、思わず視線を外した。けれど、それは早とちりだった。
「そいつは《攻略組》の俺が鍛えてやったからな。レベルは置いといて、戦闘技術だけは一人前だぜ」
さっきまで食事に集中し話には入ってこなかったリュウヤが、自然なタイミングで会話に入り込み、加えてキリトの偽りの立場を援助したのだ。
「そうなんだーーーって、リュウヤってあの《攻略組》だったの!?」
「おうよ。そのうわさを聞きつけたキリトがな、僕に剣術を教えてください! なんて頼んで来たもんだから、一応俺の弟子ってことになんのかね?」
「そっかぁ。すごいねキリト、攻略組の人の弟子だなんて」
「あ、うん……そんな大したことないけどな」
「ほんじゃちょっくら面白い話してやるよ。こいつが弟子入りしてきて三日たったくらいにな、先生もう無理です動けません〜、とか言い出しやがったもんだからーーー」
そこから披露した『師匠と弟子の裏話』に《月夜の黒猫団》一同は笑ったり、褒めたり、同情したりとリュウヤの話に夢中になっていった。
それだけでもリュウヤの語彙力と表現力はすごいと感じるが、加えてそのどれもが、“嘘”ではないのだ。
確かにキリトは槍を持つエネミーの対処法を学ぶためにリュウヤに何度か手解きしてもらったことはある。
その時の鬼畜っぷりと言えばなかったがーーーそれはどうでもよく、絶対に嘘はつかずにキリトの偽りを真実として信じさせるために口を動かすリュウヤに、キリトの頭の中は疑問符でいっぱいだった。
けれどさっきのリュウヤの言葉を聞いた今なら分かる。彼は分かっていたのだ、キリトがビーターと呼ばれることが、苦を通りこして痛みになっているのを。
それを察して、この少数ギルドの内輪にただの《キリト》としての席を作ってくれたのだろう。
いつもは人の心を読み取りからかってくる彼の鬱陶しい特技に、今は感謝していた。
そしてこの瞬間から、キリトは《攻略組》の《ビーター》キリトではなく、《月夜の黒猫団》の一員キリトとなった。
「で、なにか言うことは?」
「誠に申し訳ございませんでしたっっっっ!」
周囲からおおっ、と感嘆の声が聞こえた。
それはなにもアスナの冷え切った声にではなく、少女に対してなんの躊躇もなくピシッとした土下座を敢行し、完全な敬語で対応したリュウヤの心意気にである。
「そうやって謝るくらいなら、なんで初めからちゃんと出来ないの?」
「てへっ☆ーーー待って待ってごめんなさい申し訳ございません誠心誠意謝りますからどうかお仕置きはご勘弁をッ!?」
「ほんっっっとに人をおちょくるの大好きですねっ!」
「特技でぇ〜す☆」
「……私に怒られたいからそうしてるのか単にそういう性格なのか問い詰めたいんだけど」
「アスナさ〜ん?問い詰め方が物理的すぎるよ〜?」
言いながらアスナの手から閃くレイピアの切っ先を華麗にーーー否ウザったらしく躱していくリュウヤの様は、観客に笑いと苛立ちの両方を与えるという偉業(?)を成し遂げていた。
「まあまあアスナ君。それくらいにしたまえ」
ほわっとか、へいへいへい〜とか、ぷぎゃあとか言いながら躱しまくるリュウヤに、段々とアスナの中の怒りゲージが限界突破しそうになったちょうどその時、ヒースクリフが止めに入った。
「でもっ!」
「そうでないと、いつまで経っても攻略会議が始まらないのだよ」
見てごらんというようにヒースクリフは目線だけでアスナに訴えかける。
ちらっと見えた攻略組の面々は面白がっているものの、早く始まらないかなという表情をしていた。
「だからーーー」
だから早く切り上げて始めよう、とヒースクリフは言おうと口を開いたのだ。
だがしかし、
「でもっ!私はこの人を穴だらけにして串刺しにしないと気が済まないんです!」
「あの〜アスナさーん、それ俺死んじゃうからー。あとそんな物騒なこと言わないでくんない?可能性がリアルすぎて俺ガクブルだから」
アスナの限界はヒースクリフが止めに入った直後に突破してしまっていた。
リュウヤの言う通り、可能性が高すぎる彼女の望みに彼は本心から震え上がった。
残虐な殺し方を望んだアスナに野次馬たちの心胆も凍りそうになるが、ヒースクリフだけは冷静にアスナの怒りを沈ませようとした。
「落ち着きたまえアスナ君。それは後でいいから今は攻略会議だ。切り替えてくれるかな?」
「……はい、分かりました」
「ヒースクリフさーん?後でって何ですか後でって。アスナさんも渋々了解しないでくれません?お願いだから殺さないでね?」
リュウヤの抗議は華麗に無視され、ようやく今回の本題ーーー第二十四層攻略会議が始まった。
時は過ぎ、翌日の真昼ごろ。
《攻略組》と呼ばれるプレイヤーたちは、第二十四層ボスフロア前にいた。
昨日の会議で決まった立ち位置や作戦は皆頭の中に叩き込んである。
そして今回対ボスの主力を務めるのはーーー
「やあ〜、まさかヒースと組むなんてな」
「フフ、こう言っては何だが、楽しみだよ」
リュウヤとヒースクリフが楽しげに笑みを浮かべて笑っているのを、ハタから見ているもの達は苦笑していた。
今回の主役となるのはリュウヤとヒースクリフ。
これは今日、最終決定したことだった。
本当ならリュウヤの枠にキリトが入る予定だったのだが、昨日の会議に参加しておらず、今日の攻略戦ですら顔を出さない彼に代わって、彼と同等の火力を持つプレイヤーとしてリュウヤが入った。
その案が決まりかける際に、
「なんでキリトくんは来てないの?」
「おや?彼氏が来なくて寂しいのかい?」
「誰が彼氏ですって……?」
「王子が来なくて悲しいのは分かりますが、堪えてくだされ姫」
「……あなた一度死にたいのでしょうそうでしょう」
「嫉妬ほど醜いものはないと思われますよ、姫様」
「…………」
「ん〜、さすがに無言で攻撃してくるのはやめてもらえるッ!?」
という殺り取りがあったのは、言わずもがなというものだろう。
そして始まる第二十四層フロアボス攻略戦は、誰かさんたちの大立ち回りで呆気なく終了。
その誰かさん達は攻略戦に参加した全員から罵詈雑言と非難の嵐を身に受けたそうな。
加えて後日、攻略戦のことなど“なにも知らされていなかった”まっくろくろすけに散々に言われる運命を持つ者も現れたそうな。
攻略戦を終えたその日の夜、新たに開かれた転移門前に少女が立っていた。
少年というには大人びていて、青年というには幼い男はその少女にかけよったかと思えば手首を掴んで宿泊先と決めていた宿に強引に連れ込んだ。
部屋に入ると外の音は遮断され、彼と彼女の存在だけがその空間を支配する。
そして第一声。
「……ギュッとして?」
「……ああ」
言われるがままに彼は彼女を抱きしめる。
仄かな暖かさに身を任せ、癒しを求めるように彼女の体を抱き寄せる。
「……痛いよ」
「すまん」
「にいは優しいね」
「はっ、どこが」
「願いごと、いつも叶えてくれるから」
「そりゃ、妹だからな。兄貴としちゃそれが筋ってもんだろ」
「ふふっ……分かってるくせに」
「なんのことだか、分かんねえな」
どのくらいそうしていただろう。
気づいたら、立っているのが辛くなったのか彼と彼女はベッドに倒れ込んでいた。
彼女は顔を紅潮させて彼の胸に深く沈み、彼は彼女を大切に抱き込む。
いくばかの時間を過ごして彼と彼女は抱擁を解き、部屋を出て転移門前で別れた。
「ありがと」
彼女はそう言い残して転移する。
「あ〜、クソッタレめ……」
彼はそう吐き残して部屋で寝た。
後書き
はい、いかがでしたでしょうか。
後半からリュウヤくんがいつも通り
ウザくなってるのはご愛嬌で……
さて次回のお話ですが、
サチさんの出番……かな?
たぶんそうなるかと思いますが
もしかすると二十五層の話も入るかもです。
……さよならの前に一つ。
彼と彼女、ヤってませんからね!?
(ナニとは言わない)
それではまたお会いしましょう
See you!
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