ソードアート・オンライン ーEverlasting oathー
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Twenty one episode 光の偽者
「今、冷静になって考えてみればさ、くだらないよな………ゲーム如きでこんなに必死になるなんてよ」
俺はそれだけ言って逃げる様にウィンドウを開き、ログアウトボタンを押そうとした。
けれど、押すことが出来なかった。
腕はログアウトボタンまで伸び、指先で突けばいいだけなのだが、
セイがそれを阻止するかの様にアルヴヘイム・オンライン上で用意された俺のアバターの服を掴んでいた。
「………おかーさんは……?」
俺は何も答えなかった。
無言でログアウトボタンを押し、俺はログアウトした。
本当は話さなければいけない事だった。
でも辛い現実から逃げたい。
逃げる事で必死だった。
「はぁ………」
俺はログアウトし、ベッドの上で横になっている状態で意識を覚醒させた。
「俺は何でこんな事してんだ?」
そのまま意識を閉ざし、闇の中へと消えていった。
ーーー翌日ーーー
ゆ………く………
ゆぅ…………君…………
「ん………なんだ………?」
聞き覚えのある声が聞こえ、声の元は俺の体をひたすら揺すっていた。
俺は目を開け、声の元の方を見た。
「おはよ…………ゆぅ君」
「おはよ……琴葉…………」
俺はそう言って掛け布団の中へと頭を突っ込んでいった。
すると、琴葉は全力で阻止する為に掛け布団を取ろうとした。
「あ、こら!さみーんだよ!ねみーんだよ!勘弁してください琴葉姉ぇ!」
「叔父様がご飯出来たって言ってる………」
「あーそう………」
琴葉が掛け布団を引っ張っている手の力を緩めたので俺も力を緩め、琴葉の方を一度だけ見ると、
再び布団の中へと潜っていった。
「駄目…………ゆぅ君…………!」
「え、ちょ、は、はぁぁぁぁあああああああああ!!??」
俺は驚かざるをえなかった。
俺が布団に潜ると、琴葉が潜らせない様に抱きつき、引っ張り出そうとしたのだ。
やべ………こいつめっちゃ良い匂いする…………
俺の心拍数は上がっていった。
琴葉の匂いと微かに膨らんだ胸が俺の腕に当たり…………
「おーーーーおーーーー!!てめぇえええええらあぁぁぁぁああああ!!朝からお盛んじゃぁあございやせんかぁぁぁああああ!?」
「待て!叔父さん!これは誤解だ!!」
俺は誤解だと言うが、叔父は何も聞いてくれなかった。
誤解も何も、見る限り他人からすれば朝からお盛んにしている様にしか見えない。
琴葉はまだパジャマ姿で、そのまま俺の布団に潜り混んでいるのだから。
「優也!」
「ひゃい!?」
俺は叱られると思っていた。
叔父さんの目は本気で怒っている様に見えた。
「今日の朝ご飯は特別に豪華だぞ」
「分かったから出てけ」
俺がそう言うと叔父はそのまま俺の部屋から出て行った。
「さーーってと………」
俺はベッドから起き上がろうとしたが。
「ぎゃああああああ!!お前何やってんだ!?早く着ろっつーの!!」
「………?」
服が淫らになり、チラチラとパジャマの中の胸の谷間が見えるにも関わらず、琴葉は頭の上に疑問符を浮かべていた。
俺にとっては、今の琴葉の存在自体が十八禁になっていた。
こ、こいつ………極度の天然野郎なのか!?
俺は深呼吸をし、冷静そのものを見に纏い、琴葉のパジャマを正そうと琴葉に手をかけた。
俺が琴葉の肩に手をかけると音速を超えているんじゃないと言う勢いで平手打ちが飛んできた。
「痛ってええええええぇぇぇぇええええええっっっ!!!」
「行って来ます…………」
「はいよー、車とかに気ぃつけろよー」
俺は右頬に真っ赤な平手打ちマークをつけながら玄関でずっと叔父と琴葉のやり取りを見ていた。
「優也もだぞ?特に女の子に気をつけろよー」
「やかましい」
俺と琴葉は玄関の扉を開け、学校へと向かって行った。
「ゆぅ君………」
「何だ?」
「昨日………」
「………何だよ」
「あの子………悲しそうにしてた」
「お前には関係無いだろ」
お前には関係無い。
これだけでこの会話を終わらせることが出来た。
実際に、琴葉は全く関係無い。
また"逃げる"事が出来た。
「もう、それ以上は追求しないでくれるか?」
「………ごめん」
俺は琴葉と少し距離を置いて、琴葉の前を歩いて行った。
この仕事が終われば、時が流れて、季節が流れて、段々と忘れて行く。
忘れて行くんだ。
学校 ーーー教室ーーー
「おーっす」
「照か………」
「俺の顔は見たくも無いってか?」
「別にそういうわけじゃねーよ」
「昨日はすまなかったな」
「気にしてねーよ。それにお前は何も悪く無いだろ」
照はフッと鼻で笑うと、暗い話にピリオドを打つ様に別の話を切り出した。
「そういや、今日って転校生が来るらしいぜ旦那」
「へぇ………」
「何でもさ、相当な美女らしいんだよ。この学校の奴ら殆どが見たらしいんだけど、めっちゃ可愛いらしいぜ旦那」
「旦那やめい。それで周りが騒がしいわけか」
教室中とは言わず、学校の中全体が騒がしかった。
別に俺は興味が無かったんだけどな。
「しかもだぜ?このクラスに来るんだってよ!テンション上がるぜえぇぇぇぇぇぇえぇえイェアアアアアアア!!」
「先生ー。此処に変態がいます」
勿論、空想の先生に言った。
まだホームルームではないから先生はいない。
「さぁて………腹減ったし、早弁早弁」
「お前なぁ………って、は?」
照が早弁と言って出したのはニートやゲーマーの相棒であるカップ麺。
ごつ盛り(ワンタン醤油)であった。
「お湯、どうすんの」
「どうすると思う?ねぇ、どうすると思う?」
「取り敢えずお前の顔面、砕いていいか?」
「ふっふっふ………ジャジャジャーーーーーーーン!」
最高の、輝かしい笑みを見せ、照は学校通学用のリュックから電気ポッドを出した。
「馬鹿だ」
こいつ、馬鹿だ。
ほら、周りを見ろ。
馬鹿だこいつって言う目で見てるぞ。
「こいつをだな………刺され!俺の最後の一撃!プラグイン!」
キーンコーンカーンコーン
ガラガラ………
「よーし、ホームルーム始めるぞー」
照がポッドの線を黒板の下の壁についているコンセントに刺すと同時に予鈴がなり、同時に先生がこんにちはして来た。
照と先生は目が合い、数秒間動くことが無かった。
先に言葉を発したのは照だった。
「や、やっほー」
「やっほー照、職員室行こうか」
「優也ァァァァァァアアアアアア!!」
照が俺に助けを求めて来たのだが、気のせいだ。
先生は照の頭をガシっと掴み頭を教室の外へ回し、そのまま連行して行った。
「ああ、君は入って皆に自己紹介しなさい」
廊下に誰かいるらしく、先生は誰かに声をかけると照と一緒に職員室に向かって行った
代わりに一人の女の子が教室に入って来た。
クラスの皆が女の子を見ると盛り上がり出したが、俺は興味なさそうに窓の方を向き、自由に空を駆け巡る鳥達を見ていた。
「初め……まして…………堀江琴葉……です」
ナンダナンダ
アノコカワイイナ
メッチャビジョヤン
コノクラスノイチバンハワタシデスノ
ピクッ。
俺の耳が何故か反応した。
あれー?そういや、何で朝、琴葉がうちの学校の制服来てたんだろぅなぁ?
此処ってSAO帰還者だけじゃないのかなぁ?
琴葉は人を探す様にキョロキョロとしだすと俺を見つけ、目を輝かしていた。
「ゆぅ君………!」
「お、オーッス………」
ガヤガヤガヤガヤ…………
当然の如く騒ぎ始めました。
美女が突然、俺に話しかけてくるんですもの。
お兄ちゃん困っちゃう。
「ま、ま、まさか………クラスの王子である優也に………王女が!?」
「くっ………ライバルが増えた……」
「殆どの女子があいつに惚れ込んでるって言うのに………!」
「優也君は渡しませんですの!」
自分でも思うんだが………
座ってる俺が立っている琴葉を見つめ、立っている琴葉が座っている俺を見つめている光景はアニメのワンシーンみたいになっていた。
「ひゃっはぁああああ!帰って来たぜぇ!」
「先生からの拷問は終わったのか?」
「縄で縛りつけられて、靴舐めさせられて、気持ちいぃですって言わされた」
「先生に言っ「調子乗りすぎました。すいません」」
帰って来た照は涙目で俺に抱きついて来た。
「暑ぐるしいはボケぇ!」
「授業サボって購買でもいこ〜ぜ〜優也〜」
「はぁ?お前なぁ……卒業出来なくなるぞ馬鹿」
「ゆぅ君……サボりダメ………」
「あ?誰だコイツ」
照は琴葉の存在に気付いていなかったらしく、突然話に入って来た琴葉に鋭い眼光を浴びせた。
けれども琴葉は怯える事は無かった。
照はずっと睨みつけていたが数秒すると睨むのをやめ、舌打ちをし、俺の方へ向き直した。
「優也の知り合いか?」
「ああ、琴葉って名前だよ」
「お前、こいつの事、好きか?」
「まぁ………好き、って言う訳じゃ無いが、嫌いって訳でもないな」
「へぇ…………」
「何か不満でもあんのか?」
「いやァ………たださァーーー」
照は琴葉を横目で見た後、俺に背中を見せ、教室を出ると同時に捨て台詞の様にこう言った。
「お前は何なんだろうなァ?」
俺はゾッとした。
今までの様な照とは違った。
俺に殺意を向けている様な………殺意は言い過ぎか。
怒りと言ったところだろうか。
照の変わり様には皆気付いていた。
さっきまで俺を茶化していた奴らが黙り込み、冷や汗をかいていた。
照は元々、皆には好かれているほうでは無かった。
嫌い、苦手、キモい、ウザいと言った類で好かれて無い訳では無い。
俺は入院から解放され、学校に来れる様になった時、真っ先に話し掛け、案内してくれたのは照だ。
照に学校を案内されている時に一人の生徒に言われた事がある。
しかも、顔面蒼白、恐怖を覚え、震えた声で。
「殺されるなよ…………」
生徒はそれだけ言ってすぐに逃げて言ったのだ。
照は背中を見せながら付け加える様に、先程とは違う明るい声で話し掛けて来た。
「後で一緒に購買いこーな!」
「あ、ああ………」
照はそれだけ言うと教室から出て行った。
きっと向かうのは屋上だろう。
照がいなくなると縛られる様な感覚が解けたのか、皆が溜息を吐いた。
俺が、どうしたんだ?という顔をしながらキョロキョロしていると一人の女生徒が近寄って来た。
「藤林照。あの殿方は光の勇者である貴方と同じく、有名なのですわ」
「君は?」
「申し遅れましたわ。貴方のクラスメイトの最上智花と申しますわ」
「は、はぁ………それで、何で照が有名なんだ?」
「それでは説明致しますわ」
最上智花と呼ばれる女の子は、コホンと咳払いをすると真面目な顔で俺を見てきた。
「彼は人殺し………と言うのは知っています?」
「ああ、直接本人から聞いたよ」
「なら話が早いですわ。ソードアート・オンラインでのあの殿方の異名………殺人名はご存知ですの?」
「いや、人を殺したって事しか………」
「………あの方の殺人名は《Cartain death》。皆は"確実な死"とも呼びますわ」
「聞いた事無いな………ラフィンコフィンって呼ばれるギルドのリーダーであるPoHとかしか………」
「………PoH。あの方も確かに有名ですわ………確か、黒の剣士と呼ばれる殿方にギルドは崩壊させられましたわね」
「ああ…………キリト………」
「ですが、ラフィンコフィンのギルドリーダーはPoHでは無いのですわ」
「はい?」
「彼は代役。本当のギルドリーダーは《Cartain death》と呼ばれる男。藤林照ですの」
「なんだって………いや、待てよ。俺が聞いたのは犯罪を犯したプレイヤーを殺す人殺しだって………」
「そうですわ。藤林照は人殺しを殺す人殺し。PoHは藤林照の弟子の様な存在だったらしいですわ。藤林照はギルドを作ったものの、個人でギルド活動をしていた。ですから団体での行動をする為のリーダーが居なく、代役としてPoHがなったのですわ。そして………ギルドは唯の人殺し集団となって行ったのですわ」
「でも……あいつ、一人のギルドだって………」
「藤林照はラフィンコフィンを放置し、一人でずっと行動していたのですわ。だからそう言ったのだと思いますの」
「………でもよ…………」
俺が言葉を途中で切り、俯いた。
すると智花は悲しそうに話出した。
「私の執事………クルスは藤林照に殺されましたの…………」
俺はそれを聞いた途端、驚いた。
照は人殺しを殺す人殺しであると自分で言っていた。
なのに無実の人を殺したと言うのだろうか。
俺は頭の中が混乱した。
「クルスは私の執事ですの………執事でも私より二つだけ歳が上ってだけですの………クルスにはまだ未来があったのですわ……………………」
「……………………!!!!!!!!」
俺は教室を飛び出し、屋上へと走り出した。
真実を確かめる為に。
「ゆぅ君……………世界は残酷だよ…………」
琴葉は意味有り気に呟いた。
ーーー屋上ーーー
俺が屋上に着くと、鉄パイプの手すりに寄りかかっている見慣れた男がいた。
俺は歯をギリッと鳴らし、照に叫んだ。
「おい!!!!!!!」
俺が屋上に来ていた事に最初から気付いていたらしく、清々しい綺麗な顔で俺の方へ振り返った。
「おいおい、なんだよ。何怒ってんだ?」
「お前……無実の人を殺してんじゃねぇかよ。何が人殺しを殺す人殺しだよ!正義面してんじゃねぇよ!!」
「正義面?」
照はハッと小さく笑うと俺に近寄って来た。
「ーーーーガッ!?」
照は突然、俺の首を片手で思い切り掴んで来た。
俺の目の前の男の瞳には怒りが宿っていた。
「あのよォ………正義面ってなんだよ?………正義面してんのはテメェじゃねぇのか?え?何か言ってみろよ。現実から逃げてる糞野郎が」
「くぁ…………はな……せ……………」
「それに言っただろうが。俺は人殺しを殺す人殺しだってよ。お前は人を信じれないのか?あ?なぁーー」
「ーーーユウキを失った勇者さんよォ」
「…………………!」
俺は首を掴んでいる照の右腕を両手で掴み、引き剥がそうとした。
今すぐコイツの顔面に拳を入れてやりたかった。
「へぇ………掛かってこいよ。此処はゲームの世界とは違う。光の勇者なんて呼ばれていたのはゲームの中だけだ。俺が現実を見せてやるよ現実逃避野郎が」
「てんめぇ!!!!」
照が俺の首から手を離すと同時に俺は殴り掛かった。
しかし、俺に右拳は照の顔面には当たらず、空気を切る様な音だけして空振った。
「これが現実なんだよ。現実世界じゃテメェの拳なんて簡単に避けれる。現実から逃げ続けて楽しいか?どうせ、お前は心配されたいだけだろ?お前は実際には光の勇者なんて大層なものなんかじゃ無い。なんせお前が人殺しって言う男にこれから殴られるんだからな」
照は右拳を力強く握り締めた。
そして、そのまま俺の顔面へと拳を向かわせた。
「ウグッ!!?!」
俺は雑魚キャラの悲鳴の様な鈍い声をあげ、そのまま倒れ込んだ。
顔面からは大量の鼻血が出てきた。
目からは痛さによる涙。
目の前にはご立派に立っている照がいた。
「お前はソードアート・オンラインの最後、不思議な力を持って茅場晶彦を倒したんだってな。この世界には。現実にはそんな物は存在しない。お前はゲーム内で特別な力を持っただけでつけあがり、自分の本当の力だと思い込み、この世界でも自分はやれるんだと勝手に思い、勝手に正義面してたんだよ」
「ち………ちが…「違わねぇよ」……」
「お前はあの世界でたまたま特別な力に恵まれただけなんだよ。お前はまだその力があると思ってる。更には現実逃避をしてるミルク臭いガキだ。少しでも時間がずれてたら、その特別な力はそこらへんのオッサンに恵まれてたかもな」
照は倒れ込みながら鼻を抑えている俺の髪を無理矢理引っ張り、顔を近付けて来た。
「現実見たらどうなんですか?」
照は俺の髪を離した。
そして、教室の時と同じ様に背中を見せ、屋上から下へと向かう扉へと歩いて行った。
俺は怒りのお陰でアドレナリンが効き、さっきまでは大丈夫だった痛みが一気に襲い掛かってきた。
俺は疲れてその場で寝込み、意識を閉ざして行った。
照は屋上の扉の目の前に着き、ドアノブに手をかけると立ち止まった。
「頼むからさ…………現実と向かい合ってくれよ…………なぁ優也…………」
そして、照は去り際に悲しげにボソっと無意識にこう呟いた。
「人殺しの俺みたいに腐らないでくれよ」
照は学校指定の制服の下ズボンのポケットに両手を突っ込み、階段を降りて行った。
階段を静かに降りて行くその背中は現実へと向かっているが、その先を望んで無い様に見えた。
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