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恋姫†袁紹♂伝

作者:masa3214
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第23話

 
前書き
~前回までのあらすじ~

部下「火ゾ」

張角()「皆で消すんだゾ!」

ふんどし&猫好き「やったぜ」

………
……


黄巾「馬鹿野郎お前(張角いなくても)俺等は勝つぞお前!!」

曹操「あ、待てい!(江戸っ子)」

大体あってる 

 
 他諸侯入れ乱れる官軍と、狂気の中で生を見出そうする黄巾賊の間に割って入ったのは華琳であった。いつもの彼女らしくない出で立ち、派手さを優先したような鎧に登場。これはまるで――

「むむむ……出遅れた!」

 袁紹の趣味趣向そのものであった。余りの事に皆が制止しているうちに彼女の軍、曹操軍はまるで官軍と黄巾賊、両者と対峙する様に華琳を中心に円陣を組んだ。

「張角が討たれた今、これ以上の争いは無益! 双方武器を収めよ!!」

 そして再び要求を繰り返す。呆気にとられた両軍であったが従う者は居なかった。

「……武器を収めてどうするだ?」

 やがて黄巾賊の一人が呟く、それを合図にするように彼等は声を上げ始めた。


「どうせ死罪だろ!」

「オラは死にたくねぇ……」

「そうだ! 死罪になるくらいなら此処で――」

 再び彼等が狂気に包まれようとしている。それを感じた華琳は声を張り上げる。

「武器を捨て、降伏するのであれば――貴方達の助命、この曹孟徳が保障する!」

『!?』

 彼女の言葉に両軍は目を見開く、黄巾達は驚きと共に希望が生まれたことに、諸侯達には疑惑と猜疑心が生まれた。
 朝廷の勅旨は黄巾の『討伐』である。捕虜の類をとる指示は受けていない。第一いまの大陸には――否、今のどの諸侯達には万を越える人数を抱える余裕が無かった。

 黄巾は殲滅させる――それが諸侯達の暗黙の了解である。

「……曹操殿、そのような勝手は許されませんぞ」

 諸侯の中から一人が皆を代表して喰って掛かる。兵を圧力にした言葉だったが華琳には通用しなかった。

「…………勝手?」

「そうであろう。朝廷の命は黄巾の『討伐』『保護』では無い」

「張角が討たれた今、此処に居るのは唯の『難民』よ、そうでしょう?」

「な!? 詭弁だ!! そのような勝手通るはずが――」

「通る・わ、必ずね……そうでしょう? 『袁紹様』」

『!?』

 華琳が最後に呼んだ名に彼女に噛み付いた男は絶句し――その視線の先に居る人物に目を向けた。そこには金色に輝く鎧を身に纏った袁紹の、この地における最大兵力を有する彼の姿があった。

(ほぉ……我を利用するか、華琳)

 自分を利用しようとする彼女の考えに気が付いたが、袁紹には特に不快感は無い。むしろ人命を救うことも視野に入れていた彼にとって、彼女の言葉は渡りに船だった。

「うむ、彼女の言うとおり此処にいるは難民。黄巾などもはや存在せん」

「う……ぐぅ」

 袁紹の言葉に渋々引き下がる。彼を敵に回す度胸を持つものはこの場にいなかった。

 その様子に黄巾達は騒然とし出す。先の華琳の言に今の袁紹の言葉――自分達は本当に助かる道があるのではないか、既に狂気が消えた彼等は武器を下げ始めた。もう一押し。もう一押しあれば彼等を降伏させることが出来る。
 そして華琳は用意していた言葉を――

「華琳様!!」

「っ!?」

 飛来する矢を見て夏侯惇が叫ぶ、矢は吸い込まれるように華琳の鎧を貫き肩に突き刺さった。
 それを見て黄巾達は血の気が引く、矢は彼等の方角から飛んできたのだ。それも――自分達を助命しようとしてくれている人物にである。

「っ~~貴様等ぁぁ!」

「ヒッ!?」

 華琳の安否を確認した夏侯惇が憤慨する。黄巾達を救おうとした敬愛する主が、その黄巾に負傷させられたのだ。無理も無い。

「大事無いわ、これは流れ矢よ……いいわね?」

「で、ですが華琳様」

「二度も言わせないでちょうだい……春蘭」

「……ハッ」

 華琳の言葉に大人しく怒気を収める。その様子に皆が唖然とする中、肩に矢が刺さったままの彼女は息を深く吸い込み、まるで広宗全域に轟かせようとするように声を張り上げた。

「行く当ての無いものは私と共に来ると良い。貴方達を虐げる事は――『天』が許してもこの曹孟徳が許さない!」

『!?』

 最後の言葉は黄巾達の脳に響いた。『天』この地に住む者達からすればそれは『天子』にあたる。今まで自分達を虐げてきた漢王朝そのものだ。彼女はそれを許さないと言った。
 
 あくまで比喩表現で直接言ったわけではないが――漢王朝の意向よりも自分達を優先すると言ったのである。それも漢王朝の忠臣であるはずの太守がだ。

 彼女の言葉を受け、黄巾達は手に持っていた武器を地面に落としだす。そして自然と跪き頭を垂れた。

「……」

 華琳は己が策の成就に頬を緩める。そんな彼女と黄巾達とは対照的に、他諸侯は今にも曹操軍に襲い掛かりそうだった。彼女の言――抽象的であっても朝廷に対する侮辱に他ならない。
 ここで黄巾ごと潰してしまえる大義名分が彼等には出来ていた。そしていくら曹操軍が精鋭だろうと正規軍の集まりには敵わない……たとえ黄巾と結託してもだ。

 しかし彼等は攻撃の合図を出さない――否、出せなかった。彼等の目線は一様に袁紹、そして恋に注がれていた。





「あらら、そういうことですか~、稟ちゃんもやってくれますね」

「ほう。何かに気付いたのですか? フフ」

 遠目で様子を窺っていた風と郭嘉。笑顔で惚ける郭嘉に対して、風は不機嫌そうに目を細めた。
 先ほど華琳の策に主が使われたのはまだ良い。解っていて使われたのだから、それは袁紹の意思に他ならない。だが――

「……む~!」

 知らない内に策に組み込まれているのでは話が別だ!

 曹操軍には始めから張角の首に関心が無かった。弱小した賊長の首で手に入る名声。恩賞などたかが知れている。それよりも黄巾の兵力――花よりも実に注目した。

 そのために色んな工作をして来た。諸侯の動きを黄巾達が一ヶ所に集まるように誘導したり、なるべく確保できる兵力を増やすために彼等の被害は最小限に――広宗に辿り着いてからは他の諸侯に怪しまれないよう。適度に攻城戦を仕掛けもした。
 放っておいても張角は討たれる。集まった諸侯の目には花しか映っていないのだから、だが黄巾達を説得するにあたり大きな問題が生じた。彼等の心を華琳で満たした最後の言葉だ。

 一歩間違えれば王朝に反旗を翻しているとも取れる言葉。だからこそ黄巾達の心を掴めるのだが――だからこそ諸侯達に自分達を攻撃させる大義名分を与える事になる。
 本来であれば使わなくても良い言葉だった。自分達の他に実兵力を狙う好敵手など存在しないのだから、黄巾達の助命を約束するだけで良い―――だが異変が生じた。

 袁紹軍イレギュラーの参戦だ。孫呉の周瑜と同じく内政に集中すると見ていた彼女達にも、寝耳に水な出来事だった。彼等の狙いはわからないが――彼が黄巾達の殲滅に黙っていないことは理解していた。この実を取り込む為に準備してきたのだ。今更譲れはしない。

 黄巾達の助命だけでは手ぬるい。だから危険を顧みず矢を『受けた』のだ――矢じりは潰してあったが、放った夏侯淵はしばらく食事が喉を通らなかったと言う。そして袁紹の入り込む隙間を埋める――『天』を敵に回す覚悟があると発言する必要があった。しかしそれでは諸侯を敵に回す可能性が高い。事実彼等にとって曹操はポッと出の太守にすぎない。
 功名心に逸った彼等が何を考えるかなど、火を見るよりも明らかだった。

 郭嘉はそれを防ぐ為の策を華琳に授けた―――総大将の天幕は陣営深くに設置するものである。
 だが彼女、華琳の天幕はわざと諸侯から良く見える位置に設置された。華琳は良くも悪くも注目を集める存在だ。そんな彼女の天幕に、日が沈んでから訪ねる人物がいた。そう。袁紹である。

 この地に集まったどの諸侯よりも格式高い家柄、強大な勢力、本来なら挨拶に来た者を出迎える立場にある。
 そんな彼が夜更けに自分の足を運んで―――邪推するなという方が無理な話だ。たとえ誤解しなくても袁紹と華琳が旧知の仲であることは明白である。






 そこで話を現在の状況に戻そう。もし曹操軍を攻撃した場合だ。彼女と旧知の仲、あるいはそれ以上の間柄かもしれない場合。『大勢力』袁紹はどうでるだろうか、考えるまでも無かった。
 苦戦は免れないが曹操軍だけなら、或いは黄巾と曹操軍でも勝算は十分ある。だがそこに袁紹が入るのであれば話は別だ。彼の連れてきた兵力はどの諸侯よりも数が多い。そして武はあの化け物呂布までいる始末。手が出せる筈も無い。

 そして袁紹も手詰まりだ。彼も華琳と同じく実を、というより花張角と実兵力を狙っていたわけだが、黄巾達の心は既に華琳の言葉により埋め尽くされている。
 ここでどのような言葉を投げかけても所詮は二番煎じ。彼女以上の効果は出せないだろう。又、そのような情け無い役を演じるほど自分を捨ててはいない。

 唯一彼に出来る事と言えば華琳と郭嘉の策、自分という異変イレギュラーをも利用してみせた彼女達を天晴れと褒め称えるくらいしか―――

「――とでも思っているのだろう? 華琳」

「……」

「フハハハハハ! 笑止!! 我は誰の範疇にも収まらぬ、それこそが『我』故に」

 そこで大人しく見ているが良い――そう言葉を残し袁紹は、華琳の言葉で満たされた黄巾達の前に出た。







 
 
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