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バーチスティラントの魔導師達

作者:書架
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猫目

 
前書き
新規登場人物

ウィリアム=マシュー=バリー
"ハイヴァン"魔導師。黒猫ルルーをいつも連れている。 

 
"ダリスティン"の少女が保護された、その約1か月後。一部の魔導師たちが集まり古書店で話し合いが行われると伝達があった。元祖"バルニフィカス"を創造したフルビアリス家も例外なく、その集まりに出席することになった。いつもなら司書とその娘なのだが、今回は娘はお留守番のようである。
「珍しいね、母さんが姉さんを置いてくなんて。」
「ええ。…それほど重要なんじゃないかしら。」
「だよね………。姉さんはもう立派な魔導師かもしれないけど、大人ではないし。」
「それは皮肉なの、世間話なの!?」
2人しかいない非日常にもかかわらず普段通り書庫でやいやいと話していると、エントランス方面から扉が開けられる音がした。
「ん…?母様が帰ってくるには早すぎる気が………?」
「…僕が行ってくる。」
未来の司書に何かあったら、母親に何と言われることか。訪問者が人間でないことを祈りながら少年は階段を昇って行った。

「はーい、どちら様ですか………ん?」
確かに扉の開いた音がしたのだが、そこにいたのは1匹の黒猫だった。猫1匹が容易く開けられるほど、玄関の扉は軽くない。不審に思いながらしゃがみこんで手を伸ばすと、黒猫は優雅な歩調で近寄ってきた。すりすり、と少年の手に頭を撫でつけると膝に飛び乗る。
「………随分人慣れしてるね、君。」
ぐるる、と喉を鳴らす様子を見てぽつりと呟く。すると突然、首元辺りがくすぐったくなった。
「何!?ちょっ、まっ、やめてってば!!」
しっ、と首の後ろを手で払うと、頭の上に何かがちょこんと乗っかったような重量感を感じた。恐らく、ネズミやハムスター系の小動物だろう。
「これ、姉さんにどう説明すれば………。」
「フィアンセが遊びに来たぜ、って言えばいいのさ。」
声の聞こえたほうを向くと、2階から満面の笑みで顔を出す青年の姿があった。
「よーぅアレン、元気に執事やってっか?」
「………誰が誰の執事だと?」
「んなもん、鳥籠の中のお姫様のに決まってんだろー?」
「地下書庫は鳥籠じゃないよ………。」
いいから降りてこい、と目で伝えると青年は手すりから飛び降りた。あちこち跳ねた黒髪に、緑色の猫目。何となく少年の膝の上の黒猫に似ている。
「おー、ルルーに懐かれたか!こいつ可愛いだろ?」
「まあ、確かにね。ルルーって言うんだ?」
「正確には『ルルーシュ』だがな。」
そう言って青年はにやっと笑う。この後の少年の反応が楽しみだ、と言うように。
少年は軽く青年を睨みつけ、少し怒りを含んだ口調で言った。
「ウィル、その名前…『レリーシェ』の男性名でしょ………!」
「お、せいかーい!だって猫っぽいじゃん。」
「どの辺が!?」
「自由奔放、懐いた人には寄っていく、しゃーって怒る、エトセトラ・エトセトラ。」
ししっ、と笑う青年を鬱陶しげに見ていたが、その背後にとある気配を感じてほくそ笑む。
「悪い人には攻撃する、とかね。」
「あー猫パンチか!?あれ威力無いところがまた可愛いんだよなぁー!!」
うんうん、と頷く青年に………。

垂直に拳が下ろされた。

「い゛ってぇーーーーー!!!」
ごつっ、と鈍い音が聞こえた。青年の後ろにいたのは、地下書庫にいたはずの金髪の少女である。
青年はまだ笑顔だが、少女は青年を殴った方の手を涙目で振っている。
「レリー嬢、猫パンご馳走様でした!!手大丈夫っすか!?」
「う、うるさいうるさい!このくらい大丈夫だもん!!」
必死に後ずさる。無駄に敬語で接された分、警戒心が高まったようである。
「うう~………、さっさと帰りなさいよこの猫目…………!!」
「それは無いぜれりにゃん!これでも客人だぜ!?」
「誰が『にゃん』よ!?あなたに出す紅茶なんて1滴も無いわ!!!」
「んな堅いこと言うなって~!フィアンセが遊びに来たから照れてんのは分かってるからさ~!」
「照れてないし婚約もしてない!!近寄らないで!!」
全力で後ずさったのち、少年の後ろに隠れる。若干少年の方が身長が高いので、少女にとっては絶好の壁になるのだ。
壁にされた少年は困った様子で、青年に話しかける。
「その辺にしといてください。あと妄想も程々に。」
「妄想扱いとはひでーな…。あれか、傅けばいいのか?」
「そういう問題じゃないと思いますが?」
そんな掛け合いをしていると、外で馬の嘶きが聞こえた。それが何かの合図だったらしく、青年は途端にまじめな顔つきになる。
「やべ、イライヤさん帰ってきたみたいだな。そろそろ行かないと。」
この青年、勝手に屋敷に侵入している上に人の娘を婚約者扱いしているのである。何を言われても雷を落とされても文句は言えない。それに、青年自身あの司書の女性は苦手なのだ。
「あの人、頭いいのは分かるけどさ…。いまいち、人っぽくないよな。」
「…どういうことかしら。」
むっとした様子で少年から離れた少女が尋ねる。すると青年は逆に問いかけた。
「レリー、毎日が楽しいか?」
「え………。別に不満とかは無いけど…。」
その少女の答えに、青年は困った顔をした。しかし笑って、
「なら知る必要は無いぜ。………なぁ?」
少年の方を向いた。
「さーて、無駄話してる時間はいよいよ無くなった。じゃ、また今度!」
そうにこやかに駆け出し、思案顔の少年の脇を通る時。
「お前は、どうだかな。」
そう、聞こえた。どういうこと、と振り返ると扉は開け放たれ、馬に乗った青年が森に消えていくところだった。
「もうっ、本当にしつこいんだからあいつ!」
「……………そ、そうだね…。」
先程の言葉の意味を考えつつ、少年と少女は地下書庫へ戻っていった。 
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