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戦国異伝

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第二百十六話 慶次と闇その二

「すぐにです」
「具足を着槍を持ち馬に乗り」
「すぐさま出陣します」
「一番槍となりましょう」
「それはよいが何故政に入ろうとせぬ」
 平手が言うのはこのことだった、ここで彼は女達に部屋を去らせた。そして三人だけになったところでだった。
 輿を下ろしてだ、自分の前に来た二人にあらためて言った。
「御主達も万石取りの大名であろう、大名となれば」
「一万石程ですが」
「それでもでござるか」
「そうじゃ、大名ならばじゃ」
 その立場ならというのだ。
「武辺者ではなくじゃ」
「政も備えよと」
「その様に」
「又左を見よ」
 平手はあえて前田の名前を出した。
「内蔵助もじゃが」
「叔父御のことを出しますか」
「そうじゃ、かつては槍だけの者じゃったが」
 それが今はというのだ。
「しっかりと政もしておるわ」
「いや、叔父御も見事ですな」
「あの傾奇者が出来たのじゃぞ」
 それならというのだ。
「御主達もじゃ」
「いやいや、我等は」
「政はどうも」
 まだ笑って言う二人だった。
「興味がござらぬ」
「好きになれませぬ」
「だからです」
「どうにも」
「全く、そう言ってばかりじゃな」
 平手は二人の返事に口をへの字にさせて言うばかりだった。その口に彼の考えがそのまま出ていた。それもかなり強く。
「御主達は、天下が泰平になればどうする」
「はい、その時はです」
「こうして過ごします」
 平気な顔で答える二人だった。
「酒に女、遊びにと」
「それで過ごします」
「いや、その時が楽しみですな」
「全くでござる」
「泰平の世を楽しもうと」
「今から楽しみでござる」
「それがいかんのだ」
 平手は笑って言う二人に怒って返した。
「御主達は学問もする、ならば政もじゃ」
「いや、学問もまた遊び」
「好きだからしておりまする」
 これが二人の学問だ、歌もそれも全てそうなのだ。
 だからだ、学問と言われてもこう言うのだ。
「ですから政も」
「遊びなら別ですが」
「いや、そちらはどうも」
「関心がありませぬ故」
「ですから普通の時はでござる」
「こうしているでござる」
「不便者というのじゃな」
 慶次がいつも言っていることもだ、平手はあえて言った。
「そうじゃな」
「ははは、大不便者でありますぞ」
 慶次は笑って平手に返した。
「泰平になった後のそれがしは」
「それがしもまた」
 可児も笑って慶次に続く。
「大不便者として遊んで暮らしまする」
「いや、それもまたよいかと」
「我等は思っていますが」
「だからならんと言っておる、只でさえ人が足らぬのじゃ」
 天下の政にだ。 
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