DIGIMONSTORY CYBERSLEUTH ~我が身は誰かの為に~
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オープニング
Story2:デジモンとの遭遇 vsクリサリモン
前書き
大変遅くなってすいません。そしてまだ中編です。
ほんとはイーター戦の後までやりたかったんですが…思った以上に書いてしまったので、やめました。次回こそ、次回こそはイーター戦まで!
白峰をガラクタ公園に置いて、クーロンの奥地へと進む。EDENの表舞台―――エントランスやコミュニティエリアとは全く違った雰囲気のある場所だ。
暗く、整理されていないような何とも言えないこの感じ、なんだろうか…嫌な予感は感じているが、別の感情も感じられる……
まぁとりあえず、気を付けるに越したことはない。最善の注意を払いつつ進むとしよう。
そう思って歩いてはいるのだが…やはり人の気配がない。曲がり角なども慎重に確認しながらやったが、あまり意味をなしていない。
このまま何も起きずに真田と合流できればいいな…
そう考えた、矢先だった。
「ッ、あれは…ッ!?」
丁度二手に分かれる道で、正面の先で壁がある場所。そこに誰かが立っていた。
しかし視認できたのもほんの一瞬、瞬く間にその誰かは姿を消してしまった。
何だったのだろう。なんだか白い服を着ていたような……
先程の誰かについて考えていると、何やら変な―――視線のような物を感じた。丁度二手に分かれる、右への道。正面とは違って、先がある道だ。
そちらの方へと体を向けた―――次の瞬間、身体(アバター)に、脳に、嫌な音と共にノイズが走る。
まさしく声を上げる瞬間もなく、俺は頭を抑えながら倒れた。そして何が何だかわからないまま、意識がブラックアウトした。
目線を上げると、そこは先程までいたEDEN―――いや、違う。何かが。
そして正面には、白い服の、白い髪の少年。体中には、電脳空間特有のノイズがあった。
誰だ、こいつは。そう思った瞬間、視界にノイズが走り彼は目の前に現れた。そしてまたノイズが、彼は先程の位置に。
何だ、一体何なんだ。そう叫ぼうにも口が動かない。それどころか視界が天を仰いだ。仰向けに倒れようとしているようだ。
視界は一瞬の内に、再びブラックアウト。しかし再びノイズが走ると共に視界は戻った。
すると目の前には先程の彼の顔が。近い、先程よりもかなり。そう思った瞬間、彼は俺の目の前へと手のひらを翳した。
次の瞬間、三度俺の視界は暗い世界へと入った。
【――――『********』が刻まれた…】
気がつくと、俺はEDENに立っていた。
最初に倒れた場所と同じ、丁度二手に分かれる場所だ。
正直、何が起きたのか全く分からない。一体何だったのだろうか、先程の青年は一体…?
なんだか普通のアバターのようには見えなかった。しかしなんだろう…この胸の奥の方でジクジクする感じは。何か…欠けている気が…?
…取りあえず、今の出来事は置いておいて当初の目的である真田との合流を続けよう。早く行かないと、白峰が可哀そうだ。
そう思ったその時、目の前の道から人影が迫ってきていた。ここに来て、白峰や真田以外の他の人。流石にこれには驚いた。
灰色染みたジーンズ、モフモフな毛がついた白い長そでのシャツ。極め付けには白髪の頭だ。
俺の目の前までやってきて腰に手を当て立つのは、先程ノイズの視界の中で見た青年に酷似した青年だった。
「どうした? まるで“幽霊”でも見たような顔だ」
現れた青年は俺の表情を見て、そう発言してきた。……そんなに驚いた表情をしているだろうか?
「い、いや…さっきお前そっくりの、ノイズの走った―――言うなれば幽霊を見たんだ。居たと思ったら、パッといなくなったし…」
「僕そっくりの幽霊? それなら…その幽霊は僕かもしれないな。僕を“EDENに棲みついた幽鬼”と呼ぶものもいるぐらいだからね。この世のものではない、と…」
「…お前、頭大丈夫か?」
顎に手を当てて考える青年。いや、どんなことをすればそんな風に呼ばれるんだよ。
「失礼だな、君は。ただまぁ、真相は…僕がただ“神出鬼没”なだけ、なんだけどな」
「そんなもんか?」
「ふふ…安心するといい、僕は幽霊じゃない。このEDENに、ちゃんと実在しているよ。―――君のような“迷い子”を導く為にね」
「“迷い子”? 俺がか?」
俺がそう青年に質問すると、彼は小さく笑みを浮かべて頷いた。
「君は、ハッカーの証であるプログラム―――『デジモン・キャプチャー』を手に入れたばかり……言わば、『ハッカーの雛鳥』だ」
「何…?」
青年の言い放った言葉に、俺は眉を寄せた。
こいつ……なんで俺が“『デジモン・キャプチャー』を手に入れている”事を知っているんだ?
まさか、こいつが? ……試してみるか。
「お前、まさか『ナビットくん』か?」
「……? 何のことだい? 僕は見ての通り、あのマスコットキャラクターじゃないよ」
……白か? それとも誤魔化しているだけか?
こいつの思惑はわからないが、取りあえず話を聞いてみるか。そう思って「続けていいかい?」という彼の言葉に頷いた。
「EDEN(ここ)には、様々な目的を持ったハッカーがいる。
セキュリティ・ホールを見つけて報告する、義賊的な者。他人の財産や個人情報を狙い、アカウントを強奪する者。自分の技術を磨き、ただ力を試したい者。
本当に色々だ……君は、どんなハッカーになりたい?」
「………」
どんなハッカーになりたい、か……
「……悪いが、その質問には答えらんねぇわ」
「…というと?」
「俺が『デジモン・キャプチャー』を手に入れたからって、必ずハッカーにならなきゃいけない訳じゃないだろ? 別にハッキング行為を行わなければ、一般的にはハッカー扱いはされない」
「…ふむ、確かに」
「だから俺は、今のところハッカーになるつもりはない。だからどんなハッカーを目指すか、なんて質問には答えられないんだわ」
俺がそう言うと、彼は再び顎に手を当てて目を瞑った。
「なるほど、君はそう言う道を選ぶのか。確かに、間違った選択ではない。決めるのは君の自由だ。
だが、経緯はどうあれ、君はハッカーに興味を抱いてここまで来て、その結果『デジモン・キャプチャー』を手にした……そうだろう?」
「…確かにそうだな。無理矢理感は半端ねぇけど」
「だったら、試してみるといい―――『デジモン』と呼ばれるプログラムの、驚くべき力を」
なん、だと…!? と俺は彼の発言に、両目を大きく見開いて驚いた。
青年は俺のあからさまな反応を嬉しく思ってか、再び小さな笑みを浮かべて笑った。そして俺の背後を指差し、俺の意識を誘導する。
「未来のハッカーの誕生を祝して…君に、記念すべき一体目のデジモンを進呈しよう」
だからハッカーになるつもりは、と思ったが、その後の言葉によって俺は彼の思うがままに、その方向へと視線を移した。
そこにいたのは…
「あそこにいる…あれが『デジモン・プログラム』だ」
クーロンの、そのままに放置されたブロックの隙間や背後から顔を出したのは、三体のデジモン。
大きい耳を器用に動かしてアピールしている、愛くるしい表情が目を引く、ワクチン種の獣型デジモン―――テリアモン。
頭の上にある大きな花や蔦のような足で、光合成や養分を吸い取る、データ種の植物型デジモン―――パルモン。
身体全体が歯車のような姿をしており、常に体内の歯車が回転している、ウィルス種のマシーン型デジモン―――ハグルモン。
彼らは俺に対してだろうか、はたまた後ろにいる青年にだろうか、何やら嬉しそうにアピールしていた。
―――だが、今気にすることはそんなことではない…!
「三体の内、選べるのはい―――」
「すげぇ! マジすげぇ! テリアモンにパルモン、ハグルモンだ! おいおいマジかよ、本当にデジモンだぁ!!」
今はこの興奮をどうにかしないと収まらないッ!!
だってデジモンだぜ!? あれだけ憧れた、羨ましく思った、懐かしくもあるあのデジモンだぜ!?
彼らのような冒険をどれだけ望んだことか! 彼らのような出会いをどれだけ追い求めたことか! 彼らのような情熱をどれだけ探し続けたことか!
それでもやはりあれは作られた物語の中の話だと、どれだけ現実を突きつけられたか……
そんな羨望と苦汁を経て、ようやく…ようやく俺は、デジモン(かれら)と出会えた! なんと嬉しいことだろうか…ッ!!
「おい、三体とももらってもいいのか!? いいよな!」
「……君は人の話を聞いていないんだな。進呈するのは“一体”だけだ」
「なんでだよ!? 三体もいるんだから三体共もらってもいいだろ!?」
「…君、キャラ変わってないか?」
そんな事、知ったことか! お前なんかに俺の想いがわかってたまるか!
そう思った俺はこの興奮をそのままに、彼らを目一杯視界に取り込んだ。これが今の“現実”なんだと、身体にわからせるように。
―――――この時、タクミは気づいていない。
彼の後ろにいる、未だ名乗らない白い服の彼が…先程タクミに見せた、面白味から出た笑みではなく……
もっと純粋な感情によって生まれた―――柔らかい笑みを浮かべていた事に。
……よし、堪能した!
「…もういいかい?」
「あぁ、悪いな話の腰を折っちまって」
構わないさ、と俺の謝罪に応える青年。いやいや、中々に興奮していたな。軽くデジモン達が引いているように見えるのは、気のせいだと思いたいな。
「とにかく、君に進呈できるデジモンは一体だけだ。―――君は、どのデジモンを選ぶ?」
そうか、やっぱり一体だけか……仕方ないな……
「…俺は彼ら全員を選ぶ!」
「やっぱり君は何もわかってないな!? 仕方ないって思ったんじゃないのかい!?」
だって…だってこいつらの中から一体だけなんて、やっぱり無理だ! せ、せめて二体にしてもらえるように…!
そう思って交渉しようとしたその時、突如何者かの“雄叫び”が響き渡った。その咆哮に俺達二人だけでなく、後ろにいるデジモン達も体を震わせた。
その後一瞬の間もなく現れたのは、硬い外皮と背部から伸びる六本の触手を持つ、蛹のようなデジモン―――クリサリモンだった。
クリサリモンが現れたと同時に、三体のデジモンの表情が変わった。そして奴から逃げるようにクーロンの奥地へと走り去ってしまう。クリサリモンはそんな三体を標的として考えているのか、彼らを追う様に同じくクーロンの奥地へと向かって行った。
「…せっかく用意したデジモンに、逃げられてしまったな」
そんな彼らの様子を見て、青年はそう言い放った。それはどこか冷めた、冷酷な言い方だった。
「何、デジモンならいくらでもいる。すぐに代わりを見つけよう…少し待っていてくれ」
「…なんだと?」
「しかし、驚いたよ。このエリアに、あんな強力なデジモンが出現するとはね。程度の低いハッカーが悪ふざけで放したか…あるいは、僕に敵対する者の仕業かもしれない」
彼の冷酷な言葉に、俺は腸が煮えくり返る思いだった。
「…追いかけなくて、いいのかよ…ッ!」
「追いかける? あの強力なデジモンが欲しいのか? いや、あれはまだ君の手には負えない…やめておけ」
「―――違う、あの三体のデジモンを、助けなくていいのかって言ってるんだ!」
「…物好きだな。だが、それこそ放っておくべきだ。単なるプログラム同士の小競り合いに首を突っ込んで“怪我”でもしたら、君が莫迦を見るだけだからね」
……莫迦を見る? 怪我をする? 単なる“プログラム同士”の小競り合い?
本当にそうか? あいつらは本当に、単なる“プログラム”なのか? クリサリモンを見たその瞬間の、彼らの表情…恐怖の表情に染まったそれは、本当に“プログラム”の機能の一つなのだろうか?
―――否、絶対に違う! あんな表情を、単なる“プログラム”ができる訳がないッ!
「ふざけるな…ッ!」
「…ん?」
「あいつらを…放っておける訳ねぇだろうがッ!」
そう叫んだ俺は、青年の制止を振り切って彼らを追いかけた。
クーロンの奥地へと、彼らを追いかけて行ったが…
そこにいたのは、襲い掛かってきたクリサリモンと……白い体のテリアモンだけだった。
何故テリアモンだけ? 一瞬そう考えたが、クリサリモンが攻撃行動に入った瞬間、俺は走り出した。
間に合え、間に合え…!
「間に合えぇぇぇぇぇぇッ!」
「「ッ!?」」
クリサリモンの触手がテリアモンに襲い掛かろうとしたその時、俺は両足を踏ん張り飛び出す。目標は怯えているテリアモン!
見事にテリアモンを両手で抱えると、そのままの勢いで転がりクリサリモンの触手の攻撃範囲から脱出する。
「はぁ、はぁ、はぁ…だ、大丈夫か?」
「き、君は…!」
怪我はないか確認の為声をかける。対しテリアモンは、大きな目を更に大きくして驚いていた。
…見たところ、怪我はないようだな。と内心で安堵する。
「他の二体は?」
「か、彼らなら別の方向に…僕は逃げきれなくて…」
「そうか……―――ッ!!」
次の瞬間、背後から殺気を感じた俺は、テリアモンを抱えたまま横に飛ぶ。先程までいたその場所に、六本の触手が突き刺さった。
早い、少しでも遅れていたら……そう考えるとヒヤリと寒気がした。
EDENで使われるアバターは、通常通り使っていれば基本的に壊れることはない。しかし外部からによる“通常死んでしまう程の衝撃”を受けると、安全装置が作動し強制的にログアウトされる。
基本的に、人間とデジモンでは衝撃(パワー)が違う。今の攻撃でもログアウトされる可能性がある。更に言えば、そもそもデータの塊である筈のデジモンだ。データを破壊する攻撃だって存在する。そうなればログアウトどころではなく、アバターにしている自身の精神データまで破壊されてしまう恐れがある。
そうなってしまえば、ジ・エンド。テリアモンを守る存在が居なくなり、こいつにやられてしまう。
かと言って、今の俺に奴を倒す手段は……
「―――まったく、とんでもない“卵”だな。デジタル“モンスター”相手に、策もなく挑むつまりか?」
その時聞こえてきたのは、先程まで話をしていた青年の声。しかもそれがすぐ後ろから聞こえてきたのだ。
慌てて振り返ると、やはり彼がそこにいた。こいつ、本当に神出鬼没なのか?
「本当に物好きだよ、君は。…いや、ただのお人好し、か。―――奇遇だな…僕もそれなりに物好きで、お人好しなんだ。特別に、力を貸そう」
「力を貸すって、お前…」
「まぁ君は何もしなくてもいい、ただ見てればいい。誇り高きハッカーの力をね」
青年はそう言うと、ポケットから携帯型のデジヴァイスを取り出し、操作する。
すると青年のすぐ側に、巨大なデジモンが現れた。全身全てをフルメタルの機械になっている、数あるデジモンの中でも強力な力を持つ“究極体”に属する、ウィルス種のマシーン型デジモン―――
「ムゲン…ドラモン…!」
「さぁ、殲滅の時間だ…ムゲンドラモン」
現れたデジモンに驚愕していると、青年はムゲンドラモンに指示を出し、ムゲンドラモンもそれに従って前へと出る。
成熟期のクリサリモンと、究極体のムゲンドラモン。勝敗は既に決まっているも同然、クリサリモンもムゲンドラモンを見て怖気づいてしまっている。
だが……このまま見てるだけなんて、我慢できる訳がない…!
「…ねぇ、君」
「ッ…テリアモン」
「僕も、戦う! このままやられっぱなしは嫌だ! だから…力を、貸してくれる?」
目の前の状況に無我夢中で、テリアモンを腕に抱えていた事すら忘れていたが、突然そのテリアモンが俺にそう言ってきた。
そんなの…願ったり叶ったりだ。俺は二つ返事で頷き、それを見たテリアモンも頷いた。そして俺の腕から飛び降り、ムゲンドラモンの横へと陣取った。
「……どうやら、そのデジモンも君も、見てるだけなのは嫌みたいだね」
「あぁ、悪いが参加させてもらうぞ」
「フッ、いいさ。随分と手順は狂ったが、そのデジモンは君のものだ。しっかり指示を出して、プログラムを使いこなせ」
「…嫌だ」
「何…?」
「俺はこいつをただの“プログラム”だとは思わない。こいつは俺の―――“相棒”だ」
そう言うと、前にいるテリアモンが驚きながら振り返ってきた。しかしすぐに笑みを浮かべて、クリサリモンに向かって構えた。
「………さぁ、来るぞ」
「あぁ! テリアモン、左へ避けて!」
「うん!」
青年はしばらく押し黙っていたが、クリサリモンが動いたことで口を開いた。俺もすぐにテリアモンに対し回避を指示。伸びてきた触手をテリアモンは指示通りに避け、ムゲンドラモンはその場に留まったままそれを受けた。
しかしムゲンドラモンは全く動じない。フルメタルなその体には、傷一つしていない。やはり究極体は別格のようだ。
さて、どうするか。攻撃したいが、まずテリアモンの攻撃方法について知らないと、うまく指示が出せない……
そう思っているのが顔に出ていたのか、青年は俺を見ると俺の頭の上にあるゴーグル型のデジヴァイスを指差した。
「デジモン・キャプチャーには、確認したいデジモンのデータを調べる機能が存在している。それを使うといい」
「マジか! よし、それなら…」
青年の指摘を受けて、俺はゴーグル型のデジヴァイスを装着する。その状態で前でクリサリモンと距離を取るテリアモンを視認する。
するとデジヴァイスの画面に、テリアモンの一般的な情報(データ)と、個体能力について書かれたウィンドウが出現する。
……思っていたよりも技が多いな。“ヴォルケナパーム”に“ヒール”、“スピードチャージ”…と。
「なんだ、“ヴォルケナパーム”ってのは?」
「それは“継承技”。各デジモン固有の“得意技”や“必殺技”と違って、進化・退化しても覚え続ける技だ。進化して強くなっていくと、その威力や能力が高くなっていくんだ」
「ほ~、へ~」
それじゃあ、取りあえず…!
「テリアモン、“ヴォルケナパーム”だ!」
「ッ―――“ヴォルケナパーム”!」
クリサリモンが攻撃し、触手を戻す瞬間、俺はテリアモンに指示を出す。
テリアモンが手のひらを突き出すと、拳大の火の玉が出現しクリサリモンに命中した。
おぉ…すげぇ、やっぱりすげぇな…!
そう感心するものの、やはりクリサリモンはその外皮のおかげか、目立ったダメージはなさそうだ。
「ムゲンドラモン、“サンダーウォール”」
そう思っていると、青年は静かにそう言い放った。すると今まで動かなかったムゲンドラモンが、いきなり大きな咆哮を上げた。
そしてそれと同時に上空から数多の雷が、クリサリモンへと降り注ぐ。ある程度の速度を持つクリサリモンといえど、これ程の雷を無傷で抜ける事は叶わず、何発か被弾する。
しかし数発当たっただけなのに、クリーンヒットしたテリアモンの時よりも明らかにダメージが入っている様子がうかがえた。やはり成長期と究極体、その間にある差は計り知れないものだ。
そう思って青年と見ていると、彼はフッと小さく笑みを浮かべた。
「初の戦闘なんだ、止めは君に任せるとしよう」
「あ、あぁ…一応ありがとうな」
先程の笑みはちょっと気に食わなかったが、どうやら今の攻撃はお膳立てだったようだ。なら、それをありがたく使わせてもらおう。
「テリアモン、“プチツイスター”!」
「たぁーッ!」
俺が指示を出すと、テリアモンは両耳をプロペラのように回転させ、小型の竜巻を作り上げた。
そして出来上がった竜巻をクリサリモンへとぶつけた。これがテリアモンの得意技“プチツイスター”だ。
竜巻をぶつけられたクリサリモンは、ダメージもあって後退。その隙に、俺は新たな指示を出す。
「“スピードチャージ”!」
俺の指示を聞いて、テリアモンは体に力を込める。後ろでは青年が「ほぅ…」と感心したような声を出していた。
“スピードチャージ”、これは先程確認した“継承技”の一つで、個の速さを上げる効果があるようだ。これでテリアモン自身のスピードは、先程よりも速くなった。
その間に体勢を立て直したクリサリモン。六本の触手の先に紫色の光が灯る。
やはり、奴も必殺技で来たか。あの触手で相手の構築データを破壊する、奴の必殺技“データクラッシャー”!
クリサリモンは必殺技を放つ為に、テリアモンへと接近する。だが、必殺技の事もこの行動も、既に読んでいる。後は……
指示を出す―――タイミング!
「今だ、テリアモン! “前へ”!」
「ッ!」
クリサリモンが接近し、テリアモンへと触手を伸ばそうとしたその瞬間、俺の指示でテリアモンは前に飛び出した。
先程よりも速さを上げたテリアモンが、接近してくるクリサリモンへ向かって飛べばどうなるか。テリアモンは攻撃しようとするクリサリモンの懐へと、簡単に入り込む。
対しクリサリモンの触手は先程までテリアモンがいた場所へと向かっている、今更それを変更し防御や攻撃に回すことはできない!
―――さぁ、仕上げ(フィニッシュ)だ!
「いけぇぇぇぇッ!!」
「“ブレイジングファイア”!」
懐へと入り込んだテリアモンは、自身の必殺技―――高温の熱気弾を放つ“ブレイジングファイア”を、クリサリモンへと繰り出した。
防御のできないクリサリモンは、その攻撃をもろに受け、クーロンの障壁にぶち当たるまで吹き飛んだ。
しかしクリサリモンが誇る硬い外皮のおかげか、消滅することはなかった。が、流石にダメージの受け過ぎで戦意を喪失したのだろう。そのまま俺達から逃げるように遠ざかって行った。
「……やった、勝った…!」
「うん、僕達の勝ちだね!」
「あ、あぁ…! ありがとうテリアモン、お前のおかげだ」
「ううん、お礼を言うのは僕の方だよ。君のおかげで、僕は助かったんだしクリサリモンにも勝てた! ありがとう!」
テリアモンは嬉しそうにそう言うと、俺の胸に飛び込んできた。俺は少し驚くが、すぐに飛び込んできたテリアモンの頭を撫でた。撫でられるテリアモンは顔を上げ、俺と目が合うと「えへへ…!」と笑って見せた。
そんな光景を後ろから見ていた青年は、二人の様子に驚いていた。
「…デジモン・キャプチャーのスキャンを介さずに、デジモンが手に入ることは稀だ。ましてや、プログラムが人に懐いたりなど……それに、先程の指示の出し方、技の選択…初めての戦闘の筈なのに、あれだけの力を発揮するとは……」
「……あのな、もう一度言うぞ。こいつはただのプログラムじゃない、俺の“相棒”だ。これ以上“相棒”を貶すような発言は止めて欲しいんだが」
「……その考え方も含めて、君はハッカーの中でも相当“規格外(イレギュラー)”な存在になるだろう。ともかく、卵は孵った…この先は、君次第だよ」
そう言った彼は「そろそろ消えるとしよう」と、俺に背を向けた。
その時、あることを思いだした。俺が白峰を残して、クーロンの先へやってきた理由を。
「そうだ! あんた、真田―――じゃなかった、え~っと…目つきが悪くて、フード付きの服を着た奴を見なかったか?」
「ふむ…あぁ、“もう一人のイレギュラー”の、彼か」
「ッ、知ってるのか!?」
俺の言葉に、彼は背中を向けたまま一回頷いた。そしてクーロンの…更に奥へと続く道を眺めた後、こちらを向いてから再び言葉を紡いだ。
「彼なら、先のエリアへ向かった。そこはかつて、EDENのエントランスだった旧(ふる)いエリアだ。創世記の遺物、忘れられた過去の残滓さ。その証拠に、初期タイプの『ログアウトゾーン』も残されたままだ」
「ログアウトゾーン! それを使えば…!」
「だが今はプロテクトでロックされていて、使用はできないよ。まぁあの程度のロック、ハッカーであればどうという事はないが…」
そこまで言うと、青年は手を顎に当てて数瞬思考する素振りを見せた後、また話し始めた。
「…そうだな、ここから帰りたくなったら、そのログアウトゾーンを使うといい。目つきの悪い彼なら、問題なく解除できる筈だ。…彼の“腕”が落ちていなければね」
「…? それって、どういう…」
「……まさか、彼から何も聞かされていないのか?」
「あ、あぁ…聞いたのは精々名前くらいだ」
それを聞いた青年は、少し困った表情へ変えた。
「…なら、僕から言うべき事はない。本人に直接聞いてくれ」
「何か、プライベートな事なのか?」
「どうだろう、知っている人なら知っているだろうが…本人の守秘義務というのもあるから」
なるほど、あまり公言したくはない秘密か…それなら仕方ないな。
青年はもう言い残す事はないのか、「それじゃあ、これで」と言って再び背を向けた。
「…名前と言えば、まだ名乗ってなかったな」
「…? あ、お前の名前か」
しかし、そのままその場を離れることはなく、再び踵を返してから口を開いた。
「僕は『ユーゴ』―――チーム『ザクソン』のユーゴだ」
「ッ! ザクソンって、あの…!」
「フフ…君が誇り高きハッカーを目指すのであれば、我らザクソンを訪れるといい。―――扉はいつでも開いている」
青年―――ユーゴはそう言うと、驚く俺を置いたまま去っていってしまった。
まさか、ザクソンのメンバーだったとは。エントランスにもいたが、胸にエンブレムがないから違うのかと思っていた。
しかし最後の言葉は、何だったのだろうか。意味合いとしては、おそらく勧誘なんだろうな。いつでも来い、って感じだろう。
そう深く思考していると、シャツの裾が引っ張られるのを感じた。下を見ると、テリアモンがキラキラした目をして俺を見ていた。
「そう言えば、僕も君の名前聞いてなかったよね!」
「…あぁ、そう言えば」
出会いがゴタゴタしてしまって、自己紹介なんてする暇もなかったな。
それじゃあ、改めて……
「俺は『相羽タクミ』、これからよろしくな…“相棒”」
「…うんッ!」
俺は自分の名前を言って、テリアモンに手を差し伸べた。対してテリアモンは嬉しそうに笑って、俺の手を耳で掴んだ。……やっぱりそっちで握手するんだな。
取りあえず、真田の行方は分かった。先に『旧いログアウトゾーン』があるらしいし、ユーゴの話だと真田と一緒ならログアウトできるらしい。
だったら白峰と一緒に真田の下へ行き、彼女を早めにログアウトさせるのが吉だろう。彼女は結構、この場所を怖がっていたし、少しでも精神的負担を減らした方が彼女の為だ。
「ねぇねぇ、これからどうするの?」
「置いてきた知り合いを拾って、それから奥に進む。付いてきてくれるか?」
「も~ちろ~ん!」
そう判断した俺は白峰を連れてくる為、テリアモンと共に来た道を戻ることにした。
しっかし…白峰の奴、何事もなく無事ならいいんだが……変な予感がするのは、何故だろう…?
―――この時、俺は気づいていなかった。
白峰の下へ戻る俺らを―――否、その前のクリサリモンとの戦闘の一部始終を見ていた、二つの影がいたことに。
「あいつ…あいつらなら…!」
「うん、強そうだったね…」
後書き
『********』:デジ文字で書かれた何か。こいつが意外と後で役に立つ(ネタバレ)
“継承・得意・必殺技”:デジモンの攻撃方法。ただ打撃を与える方法もあるが、基本的にこちらの方がダメージを与えられる。今回はゲームでは使われなかった“得意技”の定義も使用していきます。なのでテリアモンの“プチツイスター”は“得意技”に、“必殺技”を“ブレイジングファイア”へと変更。
クリサリモンの逃走:現在登場デジモンを消去(デリート)するか生かすか、結構迷ってます。殺さずって、意外とカッコよくないですか?
テリアモンの握手:やっぱりテリアモンは耳で握手でしょ(笑)
変な予感:彼女の…変な方向性の感性がバレてしまう予感。
二つの影:露骨な伏線である。出番はまだ先。
―――という訳で、最初のデジモンはテリアモンに決定しました~(パチパチ~)
今回は戦闘描写に自信あり。結構カッコよく書けている気がします。
取りあえずまたライダーの方を数話書いた後、後編に入ります。今度こそイーター戦後まで!
では誤字脱字の指摘、ご感想等お待ちしています。
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