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番外編 リリカルなのは If
前書き
この作品は以前にじファン様にてエイプリルフール記念で一日のみ掲載していた物です。
その後、にじファン閉鎖に伴い掲載しました。
設定に関しては現行版よりも以前に書いた物であり、アオ達の能力が若干変わっています。(万華鏡写輪眼が『天照』『月読』等)
さらに、原作組への酷いアンチ表現があり、作者も書き上げてから「これは違う…」と思い、現行版へと大幅に改編いたしました。
その点を留意してお読みになられるようお願いします。
最近不破士郎が暫くこの海鳴市で仕事があり滞在すると、我が家を訪ねて挨拶をしにやって来た。
生まれてから3年ちょっと、初めて見る不破親子。
その日は挨拶だけで帰ったのだが、母さんが士郎さんに俺に一度だけでも訓練を付けてくれるように頼み、仕事が終り暇を見て俺に稽古を付けてくれるそうだ。
しかしぶっちゃけ思うに今の母さんの方が士郎さんよりも強いと思うよ?と母さんに言ったら。
「私が教えれるのは『御神正統』だけ。どうせならば士郎さんから『御神不破』も盗んじゃいなさい」
との事…
母さん自身は裏である不破流を詳しくは知らないとの事。
それならば仕方ないと思い、俺はそれを承諾するのだった。
さて、そうした日々を過ごしていたのだが、最近不破士郎が高町桃子と結婚するらしいと言う情報が母親からもたらされた。
ああそうそう、御神不破流の稽古は母さんが士郎さんに頼んで一回全部技を見せてもらったので総てコピーしました。
コピーした技を母さんと久遠とで反復練習して段々物にしていっている最中だ。
そんな話はさて置き。結婚式は高町家の親族だけで行ってもらい、俺達親子は出席を拒否する方向で話がまとまった。
結婚式にはいい思い出が無い為に出席しない事に決めたらしい。
しかし取り合えずは良かった。
俺がここに居るというバタフライ効果でもしかしたら結婚フラグが発生しないことも有り得る。
そういった場合「高町なのは」は生まれない。
いや、すでに原作とはかけ離れているのだ。無事に妊娠したとしてもそれが原作の「高町なのは」と同一人物なのかどうかなど誰にも保障できない。
しかし歴史の修正力なのか士郎さんたちは原作通りこの海鳴に居を構える事になった。
俺達の家から直線距離で15キロほど離れた所にあった小民家を改装して暮らすそうだ。
士郎さんも「不破」の苗字は捨て「高町」になるとの事。
このまま行けば俺は原作キャラの幼馴染と言うテンプレな状況に…
後は無事に「高町なのは」さえ生まれてくれれば…
俺の御神流の修行に関しては、士郎さんも自分が指導すると申し出てくれたが俺は母さんから習うと言い張り丁寧に断った。
いやぶっちゃけ念を使わないのならば母さんよりも2人の方が強いのだけれども、念で強化された状態では確実に母さんの方が数倍上だ、それに俺達の修行は裏技(影分身や写輪眼など)を使いまくっているので見られるわけにも行かないのも理由だ。
そんな日々が過ぎて俺が生まれて5年経った3月の事。
妊娠していた桃子さんが女児を出産した。
新しく生まれたその子供の名前は「高町なのは」と言うらしい。
どうやら無事に主人公は誕生したようだ。
さて、なのはが無事に生まれてから3年と少し。
途中士郎さんが仕事で大怪我を負うと言う事件もあったが無事に回復。
変わり映えの無い日々を送っていた俺達に一本の訃報が届く。
御神一族の中で俺達と一緒に生き残った不破大地さんが交通事故で亡くなってしまったと言う連絡を士郎さん経由で受けた。
あのテロ以来会ったことは無い人に俺自身は何の感慨も浮かばなかったが、問題は大地さんの子供。
死因は交通事故だったらしいが、夫婦で出かけていた所トラックに突っ込まれたようだった。
日中の出来事だったので保育園に預けられていた女の子が一人だけになってしまった。
しかし、母方の親類縁者には連絡が取れず、大地さんの両親などはこの前のテロでこの世を去っている。
そこに来てようやく不破家つながりで士郎さんに連絡があり大地さんの訃報を知る事となった。
その話を聞いた母さんが士郎さんと話し合い、自分が引き取る事になった。
年齢は俺の一つ下らしい。
そして顔合わせの日。
つまり女の子が家に来る日。
母さんが連れてきた女の子は…
「ソラ!?」
「アオ!」
一直線に俺へと抱きついてきた女の子を抱きとめる。
「ソラなのか?」
「うん」
ソラは泣きながら俺の胸にうずくまる。
「よかったよ。無事に出会えた」
「うん」
それから俺達は暫くの間抱き合っていた。
そして空気を読んだのか声を出さずに待機していたルナをソラに手渡す。
「ルナ!」
『お久しぶりです。マスター』
「気が付いて辺りを探しても見つからなかったから凄く心配したよ」
自分の相棒が手元に帰ってきた事に安心するソラ。
「あの~、あーちゃん。説明して欲しいんだけど」
「くぅん」
母さんと久遠が状況が掴めないとばかりに固まってしまっていた。
どうやら不破大地さんの子供と言うのがソラだったらしい。
今生の名前を『不破(ふわ) 穹(そら)』と言うそうだ。
困惑していた母さん達に事情を説明。
母さんには以前に話してあった俺の探し人だと告げた。
すこし戸惑っていたけれど母さんはソラを受け入れてくれた。
その後はわりと平和な時間が流れる。
とは言っても御神流の修行にソラも加わる事になり賑やかさが増したりもしたが。
そうそう、やはりと言うか何と言うか、ソラにもリンカーコアがある模様。
魔力量は俺と同じか少し多いくらい。
その後順調に技術を吸収していくソラ。
たまに結界を張って三人でガチバトルする事もしばしば、その時には地形が変わるほどです…
さてそろそろ原作開始の時期である。
しかし俺はこれっぽっちも動く気は有りません。
何もしなければ良い様にいく物をわざわざ改変する必要もあるまいて。
と言うわけで傍観傍観。
飛来するジュエルシード。
それから暫くして聞こえてきた広域念話。
まあ無視したけどね、ソラも。
トリステインの時は主人公の側で推移を見守っていたから余計な事でいろいろ損益を出したんだ。
だから今回はしらん。
大好きな作品ではあったが、だからこそ関わるべきではない。
数ヶ月に一・二度、親戚のお兄さんとしてなのはに会えるだけで十分さ。
しかし俺はこの時しっかり情報収集すべきだったと後になって後悔する。
木枯らしが吹きすさぶ12月。
俺はソラと一緒に久遠を連れて夕飯の食材の買出しに商店街へと来ていた。
買い物を終えた帰り道、いつものように歩いていると行き成り世界が反転した。
「結界」
「そうみたいだ」
行き成り世界の色が奪われたかのような空間に俺達は閉じ込められた。
周囲をうかがうと前方にこちらに向けて飛行してくる人影が。
良く見るとバリアジャケットを着て手にはアームドデバイスを持っているのが見て取れる。
魔導師だ。
更に観察するとその背丈から小学校低学年ほどだろうと言うのが見て取れる。
すると男子が此方に武器を向けたかと思うと行き成り魔力砲を飛ばしてきた。
「っソラ!久遠!」
俺は叫んで一瞬の後にその場を離れ、すぐさまソルに手を掛ける。
「ソル!」
『スタンバイレディ・セットアップ』
直ぐにバリアジャケットを展開し身構える。
ソラもバリアジャケットを展開し終えたようだ。
するとすかさず第二射が放たれる。
それも避けてソラと久遠と落ち合わせる。
「一体何?」
「俺達が狙われる理由はないな」
「どう…する?」
心配げに久遠が聞いてくる。
「逃げたいが、この結界を破らないと逃げる事は出来なさそうだ」
「破れると思う?」
「ブレイカー級の攻撃なら可能だろう。逆に言えばそれで破壊できなければ俺達では突破する事は出来ないと言う事だ」
「そうだね、じゃあ私がやるから援護頼んで良い?」
「任せろ」
「久遠は?」
「久遠はソラを守ってやって」
「分かった」
カードリッジをロードして準備に取り掛かるソラ。
大威力攻撃には多少の準備時間が要る。
その時間を稼ぐのが俺の役目だ。
飛来する敵に俺も迎撃に出る。
撃ち出される砲撃をかわしながら近づいて此方も砲撃を撃ち出しながらも話しかける。
「お前は誰で、何故俺達を狙っている」
「あんたらは知る必要も無いことだ」
帰ってきた言葉は子供とは言えないような感じを受ける。
取り付く島も無い。
何だろう。
自分の行いが絶対正義だと言わんばかりの表情だ。
さらに悪い事に、相対している敵はどうやらSSSを超える魔力量を持っていると推察される。
一撃に込められる魔力量は半端無い。
かわしてはいるが、シールドで受け止めようものなら受け止めた上から落とされてしまいそうだ。
自身はAAと、それなりにあるつもりだったが、これは想定外だ。
幸い魔力量は多いが未だ戦闘技術は未熟な物が有るので被弾することなく避けられるのだけれど。
「ソル」
『ロードカードリッジ』
「はぁっ」
炸裂した魔力を纏わせて力の限り相手に叩きつける。
「くぅっ!」
当然障壁を張るが、予想以上の威力に押されて踏みとどまれずに吹き飛ばされたようだ。
俺はその隙を突いて降りぬいた勢いのまますぐさまソラのところまで下がる。
ソラの方はそろそろチャージが完成して撃つだけと言った所だ。
「ルナティックオーバーライトーーーー、ブレイっかはっ」
「がはっ」
上方へと後一歩で射出すると言う時に俺とソラの胸元を背後から突き抜けて伸びる一本の腕。
それは俺達のアストラルの内側にあったリンカーコアを握り体外へと抜き出していた。
「アオ!ソラ!」
何が起きたのか分からずに驚愕する久遠。
『蒐集』
どこか合成音のような声でそう聞こえたかと思うと、行き成り体の総てが食い荒らされるような痛みが襲った。
「きゃああああああ」
「ぐあああああああ」
蒐集。
その言葉と今現在の状況と俺の前世の知識から、これが闇の書による蒐集行為ではないかと言う答えが導き出された。
しかしそれを行なう人物に至っては全く思い至らない。
記憶の中に蒐集を行なう小学校低学年の男子なんて…
…いや、記憶には無いが該当する者がある。
転生オリ主…
闇の書の守護騎士達と仲良くなり、色々なパターンが在るが、自身のエゴで蒐集を手伝っている本来いないはずのイレギュラー。
知識にある収集行為はリンカーコアから魔力を奪いはするがちゃんと回復できるはずのもの。
だが、それは俺達には当てはまらなかったようだ。
どうやら俺達の場合、体よりアストラル…魂に直結しているようだ。
それは転生を繰り返す俺達が得た技術を次の生でも使えていた事に対する一つの答えだ。
それを抜き取られあまつさえ吸い取られているという事は俺達の魂を傷付けている事と同義。
「あっ…あ……」
次第に声も絶え絶えになっていくソラ。
何とかしなければ、恐らく俺達は死んでしまう。
大魔力行使していた分だけソラの方が俺よりもダメージが大きい。
俺は何とか気力を振り絞りソルを握り直し状況を打破しようと逡巡するが、現実はいつも無情だ。
「あ……お…ごめ…もぅ…」
その言葉を最後まで言い切るより早くソラは光の粒子にになり霧散した。
「そ…ら?」
「ソラ?」
何処か遠くのほうで「な、何で?」なんて聞こえた気がするがそんな事はどうでもいい。
その光景を見て俺は一瞬の呆然の後…切れた。
「ソラぁあぁぁぁぁぁああああ!」
俺の胸元から突き出されていた腕に向かい、念やら魔力やらで強化したソルを力の限り叩きつきる。
握っていた手の付け根部分から切り飛ばし、なにやら血が噴出しているが知った事ではない。
「殺す…殺してやる」
俺の心はどす黒いものに多い尽くされた。
「あ…あ…あああああああああああああああああ」
俺の感情の爆発を受けて久遠が暴走する。
あたり一面に自身の力量を遥かに上回る量の落雷が響き渡る。
埋め尽くされた落雷を障壁でガードする人影が二つ。
そう、襲撃者は二人居たのだ。
一人が大っぴらに戦闘をしている間に長距離からリンカーコアを直接狙う。
銃弾すら避ける自信がある俺達だが、空間をつなげられて距離をゼロにされれば流石にかわし様がない。
何故俺は索敵範囲を広げなかったのだろうか。
ソルの援護があればこの結界内くらいならば余裕でサーチできたはずなのに。
後悔してもソラが返ってくる訳ではない。
後悔は後。
今は先ず奴らを殺す。
総てはその後でもいい。
とは言っても俺の体も既に限界を迎えている。
闇の書の蒐集された時に負った魂へのダメージはそう簡単に癒えはしない。
もって数分か。
だが、その数分あればいい。
その間に奴らは必ず殺してやる。
万華鏡写輪眼が開眼し、目に付くものが次々に黒い炎が燃え上がっている。
天照。
その視界にさっきまで俺と切り結んでいたガキを視界に納めた瞬間に発火。
瞬間、殺気を感じたのかギリギリで避けてその体総てを燃やす事は出来なかったが左腕を掠めた天照の炎は消される事も無く燃え広がっていく。
「ぐああああああ、熱い。な…何だよこれは!な、何で中和出来ないんだ?コレは魔法じゃないのか」
驚愕した表情の中絶望を味わえ。
俺の怒りはそんな物では収まらない。
俺は一瞬でそいつとの距離を詰める。
「熱いか?天照の炎は総てを燃えつくすまで消えはしないぞ」
「ぐぅうううううう。天照…だと?お前も転生者か?」
「さあ?そんな事はどうでもいい事だ。そら、腕を切り離さないと体総てに燃え広がるぞ?手伝ってやる」
そう言って俺はソルを振り下ろす。
「ぐああああああ、いたい、いたいよぉ」
切られた左腕から大量の血が噴出して俺の体を染め上げる。
「なんで俺がこんな目にあわなければならないんだよ」
「それはお前達がソラを殺したからだ」
そう言って俺は更にソルを振るい、左足を切り離す。
「あああああああっぅぅぅうう」
俺はそのみすぼらしくなった少年へと近づきソルを一閃。
少年は俺が最初に切った左腕をどうにか止血したようで顔色は悪いがどうにか此方にデバイスを向けて障壁をはった。
SSSランクオーバーが渾身の力を込めて張った障壁は容易に突破できるものではなかったが、俺は俺の魂が傷つくのも構わずにリンカーコアから魔力を搾り出し、更に念で強化して力任せに切り伏せる。
吹き飛ばされていく少年。
「あ…ああ…」
自分の魔力量に 自信があったのか、まさか破られるとは思わなかったのだろう。
その顔面は恐怖に染まっている。
すぐさま駆け寄り先ず俺は厄介なデバイスを持っている右腕を何の躊躇いも無くソルで切り落とそうとするが、少年は呆然としていてもそのデバイスはインテリジェントデバイスだったのか勝手に主の魔力を吸い上げて障壁を展開。
しかし、俺の怒りに任せた力任せの、ソルへのダメージをかえりみない一撃によって突破され、デバイスを握っていた腕ごと何処かにちぎり飛ばされた。
「あああああああああっ」
余りの痛みに絶叫する少年。
俺は飛ばされていったデバイスを睨みつけてアマテラスの炎で包み込む。
切り離されて握ったままデバイスと一緒に飛んで行った右腕も一緒に燃え上がった。
両腕をなくしてもまだ立ち上がり逃げようとしたそれを俺は躊躇い無く踏み抜きその足を使えなくさせる。
「ああああああああああっ」
またも絶叫。
「お前達は俺の大事な者を傷つけ、殺した。ただで死ねると思うなよ、その身に恐怖と苦痛を刻み込んでから殺してやる」
「や、やめ…」
止めるわけが無い。
息も絶え絶えな少年に遠慮無しに月読を使用。
無限に引き伸ばされた幻覚の中の時間の中で奴らは死の恐怖を何回、何千回、何万回と繰り返しその精神を崩壊まで追い込む。
その後、身のうちにあるリンカーコアを摘出し、万力の力を込めて握りつぶす。
「あああああああああ」
精神の崩壊はしていたが、痛覚が無いわけではないので余りの激痛に叫び声を上げた。
俺の掌にあるリンカーコアの残滓が夜風に揺れて消えていく。
リンカーコアを無くしてその身が生きていけるのかは分からないが、自分たちがやった事の代償としてはまずまずだ。
後はこいつの息の根を完全に止め…もう一人を、
と、そこまで考えたところで俺の体から力が急激に抜けていく。
いくらか凪いだ俺の心に呼応するかのように暴走状態から抜け出した久遠が俺の側に走り寄ってくる。
「アオ!」
倒れそうになった俺の体を人間形体になった久遠が抱きかかえるようにして止めた。
リンカーコアを握りつぶして魔力の供給源が無くなった所為か、結界が破られ現実世界に帰還する。
「くっ」
すると人がごった返す道の真ん中に行き成り猟奇殺人なみの殺人現場が出来上がる。
久遠はそれを悟ってか、俺を担ぎ上げてすぐさま瞬身の術でビルの屋上へと移動した。
「悪いな、久遠。どうやら限界だ」
「アオ…」
俺の体も既にあちこち分解されて光の粒子になって消えて行っている。
久遠は俺の使い魔で、今は俺からの魔力供給を糧として生きている。
俺が死に、それが無くなると言うことはその身の消滅を意味する。
どうするか考え、俺は自分の体から今生で得たリンカーコアを摘出する。
「アオ!?」
やはりと言うか、これは俺のアストラルと深く融合していたようで分離させようとしただけでも激痛が走る。
この痛みは体が感じているのではなく、魂が傷つけられている痛みだろうか。
物凄く痛い。
「くっ…はぁ…」
なんとか分離したそれを久遠の体内に移植を試みる。
「アオ、止め…」
「動くな」
ビクッっと痙攣したかのように俺の命令に逆らえない久遠は硬直したかのようにその場を動けない。
「記憶を少し改竄して置くよ」
そう言って俺は久遠の頭に手を置いた。
「俺やソラの事を厳重に記憶の奥底に封印」
「アオ、止めて…」
俺達の後を追わないように。
コレで久遠は初めから俺達とは出会っていない。
封印を解いた母さんに懐いて山を降りた事にする。
「母さんの事を頼むよ。出来れば俺達のことを忘れて幸せになって欲しいけど、ね」
直接言えないのが口惜しい。
記憶の封印処理と同時に進めていたリンカーコアの欠片の移植もどうにか上手く行ったようで、久遠の体内で魔力の生成が始まったようだ。
その移植手術の途中で久遠は記憶の封印処置の反動か、手術の反動かは分からないがショックで意識を失ったようだ。
「あー、ちくしょう。何を間違えたのかな」
独り言のように呟く。
「ソルも悪いな。無理させてしまって」
握っているソルはその全身に亀裂が入り既にボロボロだ。
『いいえ、問題ありません。私は、マスターの杖なのだから』
「そっか」
そして沈黙。
「平穏無事に生きたかっただけなんだけどね」
しかし世界はそれを許してはくれなかったようだ。
「転生…できるかな」
今までは実際に死んだと言う認識も無いままに気が付いたら別の世界に生れ落ちていた。
だから今現在の俺の体が粒子になって消えて行く現状が転生の準備段階なのかどうなのかの判断すらつかない。
しかし所謂『死ぬ』という事象と異なる事は分かっている。
普通死んでも肉体は現世に残るものだ。
光の粒子に分解されて塵一つ残さないなんて聞いたことは……物語では度々あるな…
なんて馬鹿な事を考えているととうとうタイムアップが来たようだ。
そろそろ思考を続けるのも億劫だ。
俺はもう一度その場に気を失っている久遠を見やる。
「悪かったな、久遠」
そしてその後空を見上げて、
「ソラ…」
その呟きを最後に俺は意識を手放した。
ふと意識が覚醒する。
眼を開いてまだ覚醒し切れていない頭で辺りの様子を伺う。
どこだ…ここ。
自分の周りには何か得体の知れない溶液で満たされていて、呼吸は口元を覆うように設置されている酸素マスクのようなもので空気を取り入れている。
自身が入っている培養カプセルのような物の外には、同じように培養カプセルが幾つか並んでいるのが見て取れた。
視線を下に向ける。
体の大きさはおよそ6歳程度。
その体を覆っている物はない。
さらに視線を下げていくと、そこに有るべき物が無い。
…
…
…
ええええええぇぇぇっぇえぇ!?
いや、まてまて。気のせいだ。
俺は一度目を瞑り、呼吸を整えてからもう一度目を開けて確認する。
…やっぱりありません。
何度転生してきてもずっと俺と一緒に居てくれたアレがいっこうに見当たりません…
暫く呆然としていた俺だが、気を取り直して今の状況を確認する。
年齢はおよそ6歳ほど。
性別は…後にするとして。
目の前のガラスに映った自身の容貌を確認すると、肩に掛かるくらいの金髪に虹彩異色の眼球。
右目が翠で左目が赤か?
その顔立ちは将来絶世の美女になるだろう。
自身の記憶をたどるに、記憶が結構抜け落ちている感覚に襲われる。
死ぬ間際の事は覚えている、そこでの生活の事も。
母さんやソラ、久遠との生活の事も覚えている。
しかし、それ以外の記憶は無い。
知識の中で俺は何度もこう言った転生を繰り返していると知っている。
しかし、そこで生活していた記憶が無い。
だが、前世以前の世界で身に付けたと思しき技術に関する知識が存在するのはどう言った事か。
自分の事ながらアンバランスだと思う。
考えを一時中断させて俺は全身の精孔につまったしこりを押し流しオーラの通りをよくする。
うん、成功。
念は問題なく使えるようだ。
それから俺は纏ったオーラを限界まで広げる。
どうにもこの体が未だ幼児な上に培養層に入れられているような体が問題なのか思ったよりも『円』を広げられない。
およそ15メートルと言った所か。
円を広げて周囲を確認すると、生命反応、オーラの流れを感知するにこの無数に並ぶ生体ポッドの中にもう一人人間が居るようだ。
このオーラは…ソラか!?
すぐさま念話をソラに送ろうとして気づいた。
そう言えば俺って死ぬ前に自分のリンカーコアを抜き出して久遠にあげなかったか?
転生を繰り返してもその先天性技術までも持ったまま転生を繰り返していると知識にはあるが、失った物は付加されるだろうか?
取り合えずリンカーコアの有無を確かめなければ。
体内を意識して魔力運用の初歩を実行する事でリンカーコアの有無を確かめる。
すると胸の内側がなにやら暖かい。
どうやらリンカーコアは持っているようだ。
ならばと思い念話を繋げようとして、逆に向こうから此方にコンタクトを取られた。
【アオ?アオだよね】
【ソラか?】
【うん。…また転生かな?】
【だろうな。まあ、転生できただけ運が良い。目の前でソラが光になって消えたとき俺は…】
【アオ…。大丈夫だよ、私はいつも貴方の側にいるよ】
【…ありがとう】
【そんなことより、此処は何処?変なカプセルの中に人間を入れて置くなんて…SF映画じゃないんだから】
【まあ、な。それよりも俺は重大な問題が発生している】
【重大な問題?】
【ああ、それは『マスター』…ソルか?】
『はい』
行き成り俺達の念話に混戦してくる声はソルの物だった様だ。
どうやらソルもこの世界に転生?と言って良いか分からないが俺の近くにデバイスとして生れ落ちたようだ。
ルナも一緒に居たようで、念話の端でルナはソラと無事の確認をしている。
【そう言えばアオ、重大な問題って?】
今更ながら中断した質問を蒸し返してきた。
【あ…ああ。それは俺の体が…体がっ《ドガーンッ》】
またもや俺は総てを言う前に言葉を遮られた。
今度遮ったものは爆音。
何者かが入り口の壁をぶち抜いて侵入してきたようだ。
部屋に入ってきた人物は一通り部屋の中を見渡すと、なにやら呟いた。
「まさか…プロジェクトFの残滓?…人造魔導師…」
とか何とかいった後、なにやら辛そうな表情を浮かべたかと思うとその手に持った斧のような物で俺の入っていた生体ポッドをぶち壊した。
急に排出される羊水、浮遊感が消え重力に引かれ、今まで感じなかった体の重さを感じる。
「大丈夫?」
カプセルから出された俺を気遣わしげな表情で支えた後、
「少し待ってて」
そう言って恐らくソラの居る方の生体ポッドを破壊する。
俺と同じように助け出されたソラ。
ソラの方の姿を今生では始めて確認する。
年齢は俺と同じくらいの6歳児ほど。
銀色に輝く髪にやはり俺と同じ虹彩異色。
ただし、ソラは右目が紫で左目は蒼だ。
顔立ちは整っていて髪は俺よりも少し長いだろうか。
助け出されたソラが此方を向いた。
すると…
「え?…は?アオ?…え?ええええええええ?」
絶叫。
視界に移ったのはスッポンポンの俺の裸体。
隠す物が何も無いので必然的にそこも目に入るわけで。
「え?何?どうしたの?」
と、俺達をポッドから出した金髪ツインテールのお姉さんはソラの行き成りの絶叫に訳が分からないといった表情。
まあね、そりゃビックリもするよね。
男だと思っていた俺の姿が女の子だったら。
なにやら良く分からない内に俺達は保護と言う名目で良く分からない所に連れて行かされて、いつの間にか助けに来た金髪美少女が保護責任者とか言う物になってた。
フェイトさんと言うらしい。
あ、ソルとルナは施設を出る前に回収して今も俺達の首元に掛かっている。
記憶に関してはソラやソル達とすり合わせをおこなった。
ソラも記憶に混乱が生じているようだった。
此処からは俺の推測になるが、転生前に魂が傷つけられた事による反動ではないかと思う。
まあ、確証が有るわけではないのだけれど。
それから二年、俺達は管理局本局とか言う所で保護される事となる。
なにやら詳しくは教えてくれないので偶々耳に入った事柄から推測すると、どうやら俺達は違法研究の末に生み出された存在らしい。
この世界は魔法技術が発展した世界で、その資質の有無はリンカーコアの質による所が大きい。
それを人工的に大きな魔力運用が出来るように生み出されたのが俺達。
そのために今生でも俺の体にリンカーコアが有ったのだ。
そのため何処かに人間としての欠陥が無いか調べる為にかなりの間留め置かれた。
その間は割りと不便だったが、まあ、生きていくには十分な環境は提供してくれていたので大人しく代わり映えの無い日々を送っていた。
その間に調べた情報によると、この世界では次元空間内にある幾つ物異世界との移動が割りと簡単に出来、世界間の交流は盛んらしい。
幾つもある世界を調べていく内に俺達が前世で住んでいた所と同じだと思われる世界を発見した。
97管理外世界。
それを見つけた時の俺は物凄い郷愁の念に襲われた。
「現地呼称『地球』……母さん…久遠」
「アオ…」
「まあ、アレからどれ位経ったのか分からないし、本当に俺達が居た地球かも分からないし。それに……この姿じゃ母さんの前には帰れない…かな」
その言葉にソラは少し考えてから、
「………私は帰りたい。母さんに、久遠に会いたい」
「ソラ?」
「それに母さんなら案外受け入れてくれると思う」
ソラの言葉は少なかったがそれは俺の心に響いた。
「……そうだね」
それから俺達はどうにか地球に永住出来ないかと四苦八苦。
永住できなくとも一度でも行けない物かと。
しかしどうにも生まれの所為か他世界へ渡るのは難しいようだ。
まあ、今の年齢で地球に行けて、運良く永住できたとしても生活できる基盤を獲得する事が出来ないのだが…
苦心する事二年。
漸く転機が訪れる。
「部隊への勧誘ですか?」
「うん」
久しぶりに会いに来てくれたフェイトさんが今度新しく立ち上げる部隊の勧誘に訪れた。
「アオ達は以前から他の世界に行ってみたいって言っているのを聞いた事がるんだけど、本当?」
「そうですね」
「…でも生まれの特殊さからそれは許可されていない…けれど、今度立ち上げる部隊に協力してくれたら多少なりとも規制が緩むと思うの」
フェイトさんが持ってきた話はこうだ。
今度集める部隊で魔道資質の高い人材を集めている。
徴用期間は一年間、それが終わればその働きに免じて多少の行動規制を緩くしてくれるように上に掛け合ってくれるらしい。
現状手詰まりの俺達はその話に食いついたが、…こんな年端も行かない子供を戦闘行為の跋扈する所に引き抜こうとするフェイトさん達の思考はどうなのかね?
どうやらこの世界は就業年齢が低いらしく、個人に見合った能力があるのなら低年齢でも仕事につくのが一般的なようだ。
まあ、そんな世界の風潮は俺達には手出しのしようが無いところなので置いておくとして、漸く俺達は目標への第一歩を踏み出すことに成功した。
そして部隊の顔合わせの日。
なにやら俺達と同年代の子供が二人ほどいるようだ。
そんな中部隊長である八神はやてが隊員の前で挨拶をしてこの俺達が世話になる部隊、機動六課が発足した。
挨拶が終わると、俺達が配属された前線部隊、それの平隊員である俺達を含めた6人の簡単な自己紹介とスキルの確認を行った。
俺達と同じくらいの男女の名前が男の子がエリオで女の子がキャロ、少し年上の二人組みの女性はスバルとティアナと言うらしい。
その後、教導官の高町なのはに連れられて俺達は六課の廊下を歩いて付いていっている。
しかし『高町なのは』か…
生まれ変わる前の俺達の親戚がこんな所で会えるとは…
世界は狭い。
しかし今の俺達は初対面。
母さんがどうなったのか聞きたいが、それを確認するには俺達の素性を打ち明けなければなら無い。
しかし、それは躊躇を覚える。
そんな事を考えている内に俺達は六課の敷地にある訓練場にたどり着いた。
たどり着いた先でデバイスマスターのシャーリーを紹介された。
そして始まる戦闘訓練。
レイヤー建造物の道路の上に現れるガジェットドローンと言われる自動機械が12体。
「ソル」
『スタンバイレディ・セットアップ』
とは言ってもバリアジャケットの展開は許可されていないので今回はデバイスだけ。
さて久しぶりの実戦。
前衛のエリオとスバル。
後衛のキャロとティアナ。
空が飛べる俺達は遊撃を担当。
スバルが逃げるガジェットを追いながら攻撃するも攻撃を外す、その先で待っていたエリオが魔力刃で切りつけるもかわされる。
「前衛二人、分散し過ぎ、ちょっとは後ろのあたしたちの事もちゃんと考えて!」
ビルの上で戦況を見ていたティアナから叱責の声が上がる。
その場でティアなは射撃魔法を撃ちガジェットを撃ち落さんと迫るが…直撃の寸前何故か魔力がかき消されたかのように霧散した。
「魔力が消された!?」
その声はスバルだったが各々が驚きの声を上げる。
その後AMFの説明がなのはさんから通信で届けられる。
対抗する方法は幾つか有るから。どうすれば良いか、素早く考えて、素早く動けと。
そう言ったなのはさんの言葉に何か思いついたのかティアナがスバルに指示を送る。
【あなた達…えっとアオとソラだったかしら?あなた達は漏れた奴の処理をお願い】
【了解】
その後8体までは四人で如何にかしたが、やはり撃ちもらした物が4体。
「さて、俺達の番かな」
「そうだね」
残った四体に向って降下して近づく。
【どうするの?】
ティアナから念話が入る。
【どうって…斬るんです】
【斬るぅ?】
【でもあいつらかなり速くて当たらないよ?】
その念話を聞いていたスバルが会話に割り込んでくる。
【大丈夫です】
追った先で二手に別れたガジェット。
「ソラ」
「わかった」
阿吽の呼吸で二手に分かれて追う。
数秒で追いついた俺はソルを片手にガジェットへと肉薄。
振り上げたソルに魔力を纏わせて振り下ろす。
一瞬の内に二体のガジェットを屠る。
まあ、こんなもんか。
速いとは言ってもプログラムされた行動しかしないなら先を読むことは容易だ。
ソラの方も片付けたようで此方に歩いてくる。
「はーい、訓練終了。皆良く頑張ったね。わたし達の任務にはこの敵との戦闘する事も多いと思うから、これからもっと上手く自分の実力を十分に発揮できるように訓練していこうね」
なのはさんから摸擬戦終了の合図とがんばって行こうねの激励。
「「「「はい!」」」」
息も絶え絶えの筈だったのに元気に返事をするフォワード陣の四人。
その後、なのはさんからのアドバイスを各人が受ける。
「アオちゃんとソラちゃんは接近戦以外にも射撃の訓練も平行してやっていこ」
全員に一言ずつアドバイスを言って訓練終了かと思いきや、そうは問屋が卸さなかった。
「それじゃ回避行動の基礎からやってみようか」
そう言ってその日は日が落ちるまで訓練が終わることは無かった。
side なのは
「新人達、手ごたえどう?」
隊舎の私室で休んでいると相部屋のフェイトちゃんが今日の訓練の様子を聞いてきた。
「うん、皆元気でいい感じ」
「そう」
うん、本当に皆凄い素質を持っていると思う。
だけど…
「…でも」
「でも?」
わたしの呟きを聞き逃さなかったフェイトちゃんがその続きを促す。
「…アオちゃんとソラちゃん。この二人が少し…ね」
「あの二人がどうかした?」
「うーん。何ていうか戦いなれしていると言うか何と言うか」
今までこれでも数多くの訓練生を見てきたから感じる違和感。
「そう、あれは完成しているって感じ」
「完成してる?」
フェイトちゃんがどう言う事と言った表情で此方を見た。
「今日の訓練も総てをそつなくこなした上、息一つ乱してないの。フェイトちゃん、あの子達に戦闘訓練をつけたりした?」
「ううん。して無いよ。施設でもおとなしくしていたし…魔法の訓練と言ってもそんなにたいした事を教えたって言う報告は受けてないけど…」
「そうだよね…」
でもほんの少しでも垣間見えたあの子達の片鱗。
その技量はどう見ても他のフォワード陣を頭2個も3個も抜きん出ている。
まあ、悪い事じゃないんだけど。
「クローン元の記憶を受け継いでいるのかな」
自分の過去を思い出したのかフェイトちゃんは少しつらそうにそう言った。
そう、あの子達は違法研究の施設で保護された人造魔導師。
フェイトちゃんが突入した施設で保護したと聞いている。
「記憶と経験は別物だと思うけどね…知識があったって普通は訓練して漸く身に付けるものだし…だけど」
だけどあの子達はさも当然のようにこなしている。
「そういえば、あの子達の名前ってフェイトちゃんがつけたの?」
「え?ああ、ちがうよ。あの子達が最初からそう名乗った」
「ファミリーネームも?」
それは変じゃない?
「そうだね、最初はファミリーネームは名乗っていなかったけれど、無いと不便だからって思って、私のテスタロッサの姓をあげようかと思ったんだけどね。断られちゃった。その時自分たちで付けたみたいだよ」
「そうなんだ」
アオ・ミカミにソラ・フワ
まさか…ね。
side out
「おわったー」
「つかれたー」
そんな事を言いながら隊舎の方へと帰っていく四人を見送る。
さて、誰も居なくなったのを見て俺とソラは人気の無い隊舎の裏にある林へと移動する。
「さて、と。此処からが本番かな」
「そうだね」
ソラとルナを起動して相対する。
「施設に預けられてからは監視の目もあって中々訓練できなかったからな」
「本当。纏と練の訓練くらいしか出来なかったからね」
本局に居た頃は流石に訓練施設で大ぴらに戦闘訓練をするわけにも行かなかったし。
「念についてはそれで良かったけれど、剣術の稽古が出来なかったのは辛いな。今の体との整合性も考えないとだし…昔の勘を取り戻すのにどれほど掛かるか…」
「練習あるのみだね」
「そうか、…それじゃ」
「うん」
二人ともデバイスを構える。
月夜の中で俺達の剣戟の音が響き渡った。
入隊から二週間、俺達は朝から晩までなのはさんの訓練を終えると隊舎の裏で秘密の訓練。
影分身を駆使したそれでどうにか前世の勘を取り戻しつつある。
そんな感じで取り合えず今日の訓練の総仕上げ。
シュートイベーション。
自身のデバイスを呼び、自分の体の周りにアクセルシューターを多数展開する。
なのはさんの攻撃を五分間被弾無しで回避しきるか、クリーンヒットを入れればクリア。誰か一人でも被弾したら最初から最初からやり直しらしい。
「このボロボロな状態でなのはさんの攻撃を五分間捌き切る自信ある…人も居るわね」
ティアナが汗もかかず息も乱していない俺達をジト目で睨む。
「けど、あたし達には恐らく無理。だから何とか一発入れる方向でいくわよ」
「おう!」
「「はい」」
元気のいい返事をするスバル、エリオ、キャロ。
「よし。行くよエリオ」
「はい!スバルさん」
「準備はOKだね。それじゃ、レディーーーゴー」
此方の戦闘準備が整った所を見て取って待機状態だったアクセルシューターを此方に放ってきた。
それをすんでの所で全員回避。
スバルがなのはさんにウィングロードを駆使して空中で接近戦に持ち込む。
リボルバーナックルで殴りかかったスバルの拳をバリアで受け止めて弾き飛ばす。
さらにシューターに追われたスバルをティアナが援護射撃でシューターを相殺。
俺とソラもなのはさんが操っているシューターにフォトンランサーをあてて相殺して数を減らして援護。
その隙にキャロのブースト魔法を受けて突貫。
その一撃がなのはさんのバリアジャケットを抜いてヒットした事で今日の訓練が終了。
訓練が終了した時に酷使し続けた所為か、スバルとティアナのデバイスが逝ってしまったようだ。
訓練が終わると全員汗を流すためにシャワールームへと移動するのだが…俺はこの時間が苦手だ。
転生してから4年。
だんだん女らしくなっていく体を見るとため息が出る。
昔取った杵柄でトランスセクシャルは可能なのだが…なぜ俺は最初に保護された時に女性体だったのだろうと己の不運を恨んだ。
あの時流されるままにただ流されるだけでなく、未来を見据えてちゃんと男性体になっておけば…
あの時のどさくさで俺の性別は女で登録されてしまった。
監視されていると解っていたので普段から男に戻る事すらできず…
はぁ…よそう。
かしましくシャワールームの中で会話が弾むスバルたちの会話を聞き流して俺は必要最低限だけですぐにシャワールームを後にした。
その後なにやらティアナとスバルの新デバイスの授与や、エリオ、キャロの出力リミッターの解除などがあったんだけど、俺達の関係なかったので割愛。
その時に隊長格の人たちは自信のリンカーコアに出力リミッターを掛けて部隊保持魔力の上限に収まるように誤魔化しているという話を聞いた。
その時俺が感じた事は「自身の能力を抑えて戦闘現場に行くとかってどうよ」とか思ったが口にはださない。
ひと段落した時に行き成りアラートが響き渡る。
俺達が所属してから始めての出動と相成った。
ヘリコプターで移送されて現場の上空へと送られた。
「新デバイスでぶっつけ本番になっちゃったけど、練習通りで大丈夫だからね」
「はい」
「がんばります」
ティアナが頷きスバルが気張る。
「エリオにキャロ、フリードもしっかりですよ」
俺達の分隊の隊長のリイン曹長が激励する。
「はい」
「危ない時はわたしやフェイト隊長、リインがちゃんとフォローするからおっかなびっくりじゃなくて思いっきりやってみよう」
「「「「はい!」」」」
「うん。…ってアオとソラ、反応薄いよ?もうちょっとやる気を出して」
やる気を出せと言われても…
新型デバイスでぶっつけ本番でやれと言ったあんたに呆れているんです…
しかももしかして俺達って線路を走るリニアに上空から飛び降りて接岸しろと?
俺やソラは兎も角他の四人は浮遊は出来ても飛行できないんじゃ?
時速70キロで走る列車に高高度から飛び降りて接岸とか…
おーい、…まぁいいや。うん出来るんでしょ、飛び降り。
接岸をミスったら何処まで落ちていく事か…
まあ、その時はなのはさんが助けるか。
なんて考えていたらどうやらなのはさんは空中のガジェットの掃討に当たるらしい。
「ヴァイス君、わたしも出るよ。フェイト隊長と二人で空を抑える」
え?ちょ!助けるとか言っといてもしかして俺達放置ですか?
「うす!なのはさん。おねがいします」
「じゃ、ちょっと出てくるけど、皆もがんばってずばっとやっつけちゃおう」
ずばっと…やっつける。
そのあほな言葉に放心していると、隣りでなにやら桃色な雰囲気でキャロに話しかけてたなのはさん。
何を話してたかは放心してて聞いてなかったからわからないけど、なにやらキャロを勇気付けたようだ。
キャロが持ち直したのをみたなのはさんはヘリポートの開いた登場口からそのまま身投げ。
っておい!これから戦闘に行くんだよね!?
なのにバリアジャケットを展開せずに行っちゃった。
空中で変身してたけどさ…
「任務は二つ。ガジェットを逃走させずに全機破壊する事そしてレリックを安全に確保する事ですからスターズ分隊とライトニング分隊が二人ずつのコンビでガジェットを破壊しながら車両前後から中央にむかうです」
それから、とリイン曹長はウィンドウを開いて列車の映像を出して。
「レリックはここ。七両目の重要貨物室」
「「「「はい」」」」
「で、ブリーズ(そよ風)分隊は外部に逃走したガジェットの破壊が任務です」
俺達の分隊長のリイン曹長はそう締めくくった。
「…了解」
「…はい」
「さて新人ども。隊長さん達が空をおさえていてくれるお陰で安全無事に降下ポイントに到着だ。準備はいいかぁ!」
…やっぱり飛び降りるんだ。
結構高いんだけど…
「スターズ3、スバル・ナカジマ」
「スターズ4、ティアナ・ランスター」
「「行きます」」
って、あんたらもセットアップ前に飛び降りるんかよ!
「アオ…この部隊って大丈夫かな…」
「きくな…」
そして次はライトニングの番。
「次!ライトニング。チビども、気ぃつけてな」
ヴァイス陸曹の激励。
「ライトニング3、エリオ・モンディアル」
「ライトニング4、キャロ・ル・ルシエ、フリードリヒ」
「「行きます」」
やっぱりセットアップしないで飛び降り。
「最後は譲ちゃん達だぜ」
「……はぁ」
「何でため息?」
「ヴァイス陸曹…いえ、この部隊のアホさ加減に頭が痛いだけです」
「はぁ?」
「だってそうでしょう?浮遊魔法しか出来ないような奴らに高高度から飛び降りで接岸させたり、武装をセットアップしないで戦闘空域に飛び出したり…今だってそう、普通武装してからヘリに搭乗するでしょうに…」
「…そりゃぁ…まあな…」
「だいたい守ると言った側から俺達の側を離れるとか…」
「………」
あ、ヴァイス陸曹が黙った。
「辞めていいですかね…いや、それも無理か」
目的の為には一年間我慢しなければ。
「アオ」
「…頭が痛いけどお仕事はしようか」
「うん」
「ソル」
「ルナ」
『『スタンバイレディ・セットアップ』』
一瞬の後バリアジャケットに身を包む俺達。
「行きますか…」
「…しょうがないしね」
ひょいっとヘリの開いた登場口から身を躍らせる。
空中で待機しながら併走しながら列車に付いて行く。
戦況を眺めていると早速ライトニングがピンチに。
新型のガジェットと接敵。
AMFにじゃまをされてエリオとキャロの魔法がキャンセルされた。
魔法をキャンセルされたエリオは苦戦を強いられ新型のガジェットドローンの触手でぽいっと列車外に投げ出された。
投げ出されたエリオを追ってキャロも崖下へと身投げ。
即座に追いつきキャロがエリオを抱きかかえる。
ああ、もう!
「ソラ!」
以心伝心。
俺達は急加速してエリオとキャロに追いつき回収。
「っアオさん、ソラさん」
「大丈夫か?」
「あ、はい」
「浮遊魔法は使えるよね?」
「あ、はい」
「それじゃ後よろしく」
「え?…え?」
驚いているキャロを支えていた手を離す。
「わ、わわわ」
と、少し驚いてはいるが、慌てて浮遊魔法を使用。
何とか落下速度を軽減する事に成功したようだ。
さて、と。
俺は意識を列車の屋根の上へと出てきた新型のガジェットへと向ける。
「アレをどうにかしようかね」
「うん」
ガジェットは俺達を敵と見なしたのか、その体から大量の電気コードを伸ばして此方を攻撃してきた。
先ほど見ていた感じだとかなり強力なAMFが展開されているな。
……、まあ関係ないか。
俺は列車の天井の外壁へと着地。
迫り来るコードを体捌き一つで避けながら近づく。
「よっと」
後ろからソラがAMF対策を施した魔力で出来た飛針でけん制してくれているので本体にたどり着くのも容易だった。
『ロードカートリッジ』
カシュッっと薬きょうが排出される。
とは言ってもコレはフェイク。
強力なAMFでかき消されても何の問題も無い。
「はぁっ!」
俺は『周』を使って強化したソルの刀身で新型ガジェットを一刀両断に切り裂いた。
さてと、大物が終わったら後は列車内の掃討かな。
【ソラは外をお願い。俺は中に行くわ。リイン隊長聞いてますか?許可が欲しいんですけど】
【聞いてますよ!もう。わかりました、許可するです】
【了解しました。ブリーズ3、突入します】
やり取りを終えて俺は列車の中へ。
中に入った俺は取り合えず小型のガジェットを潰しながら重要貨物室へと向う。
貨物室へとたどり着くとどうやら既にスターズの二人が先に到着していた様だ。
「レリックの回収は終わりました?」
「あなた外で待機じゃなかったの?」
「ライトニングにトラブルがあって、その代わりです」
「そう。でも、まレリックはたった今無事に回収したわよ」
と、ティアナ。
「リイン隊長がもう直ぐこの列車止めてくれるって」
スバルがリインに連絡したのか、念話を受けて俺達に伝えてくれた。
「わかった」
これにてこの事件は取り合えず無事終了。
その後ヘリに回収されて無事に六課へともどった。
初出動は波乱含みの物だった。
この部隊の危うさが浮き彫りにされた感じだ。
まだ始まったばかりの部隊だが、俺達はやって行けるのか心配になる。
その後、訓練に個別スキルの訓練が加わった。
ライトニングの二人はフェイト隊長。
ティアナはなのはさん、スバルはヴィータさんの教導を受けている。
さて、俺達はと言うと…
「シグナムさんですか…」
「ああ、悪いな。他に剣を使う訓練相手が居なかったからな。必然的に私がお前達の相手だ」
練習場の端っこで俺とソラに相対しているシグナム。
「私は他の奴らと違って教える事には向いていない…だから」
と、シグナムはデバイスを此方に向けた。
「実戦形式だ。アオから掛かってこい」
「は?」
いやいや、なんか違わない?
「ボケッとするな」
間合いを詰めてきたシグナムが俺へと切りかかる。
手加減しているのだろうその太刀筋は読みやすく、難なくその一撃をかわす。
「そら、次だ」
返す刀で俺にまたもや切りかかるのを俺はソルで受け止める。
キィン
甲高い音が響いて刀身同士がぶつかり合う。
それから切りあう事数合。
「ふむ。やはりな…」
「なんですか?行き成り止まったりして」
「いや、やはり私には教える事が無いと思ってな」
「は?」
「お前の剣技はすでに完成している。ならば後は場数を踏んで戦闘経験を積ませればいい。それには私は良い訓練相手だろう…だが」
一拍置いてシグナムは言う。
「剣をまじあわせれば分かる。だが、それはおかしい。データでは誰かに師事した記録はない。しかし、その太刀筋は完成している。しかもそこまでの域に達するには最低でも10年は掛かろうものだ。…だが」
「俺達は生まれて四年しか経っていない」
「ああ。それは余りにもアンバランスだ」
「そうかもしれません」
「お前達には元になった人物の記憶があるのか?」
「いいえ」
「ならば更に不可思議だ。…だが、そんな事は今はどうでもいい」
「へ?」
どうでも良いってどゆこと?
「お前は今、私に対して手加減しているだろう」
息を呑む。
「馬鹿にするなよ。私もコレでも一端の騎士だ。それ位は容易に分かる」
「…そうですか」
「何を思って手加減しているのかわからんが、騎士にそれは侮蔑だ。全力で来い!」
そう言ったシグナムは先ほどとは打って変わったようにその剣戟に鋭さがました。
迫り来る刃をかわし、俺もソルを握り直す。
全力でと言われた俺は一度距離を置き、腰に携えてあった鞘を左手で掴む。
『ツインソード』
手に取った鞘が一瞬で刀身に変わる。
「ほう、二刀流か。それが本気か?」
「まあ、先ほどよりは」
「そうか」
「一つ約束してください」
「なんだ?」
「ここから先は皆にはないしょって事で」
シグナムは少し考えた後、
「良かろう」
そう返した。
ならば、俺も少々本気になろう。
…本気といってもそれは試合の域をでない。
殺し合いとは違うのだ。
…殺し合いなら…面と向った瞬間に終わってるな。
月読で一発だろう。
どうやらこの世界では幻術と言えば虚像のことであり精神攻撃ではない為にそれへの対応は皆無だ。
さて、それじゃ行きますか。
俺は写輪眼を発動。
脳内のリミッターを外して神速を発動。
一瞬でシグナムの懐に入り一閃。
キィンと甲高い音が鳴り響いた。
「な!…かはっ」
今俺が放った一撃は幾ら騎士とは言え、反応できる物ではなかった。
だが、殆ど直感で俺の一撃を防いだシグナム。
しかし、俺は『徹』を使用していたために防御の上から衝撃を通してシグナムは吹っ飛んだ。
「良く防ぎましたね」
「なんだ今のは…行動が見えなかった」
「別に瞬間移動したわけじゃ無いです。単純に高速で移動しただけ」
「バカな!」
「とは言え、この速度について来れなければ、俺に攻撃を当てる事は出来ませんよ?」
と、その言葉をいった後に瞬身の術でシグナムの背後に移動。
気配を悟ったのか、レヴァンティンを横に振りぬき、真後ろへと一閃。
「何!?」
しかしそこには既に俺はいない。
「御神流、奥技之六 『薙旋』」
高速の四連撃をその身に受けて吹き飛んでいく。
バリアジャケットは少し切れただけだが、その実『徹』によって内部へとダメージが通ったために恐らく立ち上がれまい。
切り飛ばした先を見ると、意識を失ったシグナムがそこに倒れている。
「アオ…やりすぎ」
ソラが俺を責めた。
「…すまん。たしかにやりすぎた…でも」
しかし、念で身体強化はしたし、写輪眼は使っていたけれど、ほぼ剣技のみでこの世界でも指折りの騎士に勝ててしまう御神流に脱帽。
「母さんは魔法を使った俺達と互角に戦っていたよね…」
「…うん」
母さんの化け物ぶりを思い出したのかソラも躊躇いがちに頷いた。
「うっ…」
暫くすると気絶していたシグナムが覚醒する。
「気づきましたか?」
よろよろと上半身を起こし立ち上がるシグナム。
「あ、ああ」
自身の状況を確認して気絶する前の状況を思い出したのだろう、シグナムは独り言のように呟いた。
「…負けた…か」
「はい」
俺は肯定した。
「リミッターが掛かっていた…いや、それは言い訳にすらならんな。すまん、すこし外してくれ」
何かを言いかけて自己完結してしまったようだ。
「ソラ、行こう」
一人で整理する時間も必要か。
「あ、うん」
「大丈夫かな?」
「さあ?興味ない」
ソラはそう言う所ドライだったよね、昔から。
「そっか」
さて、訓練時間は終わったし、隊舎に戻りますかね。
後日、アレからなんとか立ち直ったシグナムと俺達は度々剣戟の音を響かせている。
自身より剣技に優れた相手に嫉妬するよりも、自身のレベルアップの機会ととらえた様だ。
しかし、だからといって俺達に教えを請うわけでは無い。
「私の剣は自己流だが、今更コレを捨てる事は出来ん。なれば、技を更に昇華した方がいい」
だそうで、俺達との打ち合いで自分の限界の殻を突破する事を目標に、最近鍛え直しているらしい。
そして今度の任務。
内容はオークション会場の警護と来場者の護衛。
売買されるロストロギアをレリックと誤認してガジェットドローンが現れるかもしれないからそのための保険。
何も起きなければ楽で良いんだけど…やはりそうは行かなかった。
会場周辺にガジェットの反応が多数。
地下駐車場を警邏していた俺達にもシグナムからの通信が入る。
【お前達には私と一緒にガジェットの掃討に当たってもらう】
【【了解】】
ソルを起動して目的地に移動する。
ガジェット1型に加え、この前のリニアで出てきた丸っこい大きい物もチラホラ。
「さてと、お仕事がんばりますかね」
俺は誰に言うでもなく一人ごちる。
「よっはっ」
ザンッ
AMFが張れようが、大きさが大きかろうが硬度が足りない。
周で強化したソルで滅多切り。
「しゅーりょー」
近くに敵の反応は無し。
「こっちも終わった」
ソラの方も殲滅終了したようだ。
何か途中敵の動きがーとかなんとか通信が来てたけど、なんか変わった?
周囲の警戒でその場に待機していた俺達も、敵の殲滅終了の通信を貰いオークション会場へ。
戻ってみると何やら微妙な雰囲気。
何?この空気。
どよんと言うか何と言うかそんな感じだ。
発生源はティアナ。
そのティアナも一人になりたいのか、何やら理由を付けて何処かに行ってしまった。
その後スバルに聞いた所、ミスショットでフレンドリィファイアをしてしまう所だったと聞いた。
スバルにあたる所をギリギリでヴィータが間に合い弾を弾いた。
しかしそれに激怒したヴィータがティアナを叱ったとかそんな事があったようだ。
さて、ぶっ壊したガジェットの残骸処理は他の局員に押し付けて、俺達はオークションが終わると隊舎の方へと引き上げた。
今日も日が落ちるといつもの様に自主訓練。
「よっ」
「はぁっ」
バシッバシッっと竹刀がぶつかる音が辺りに響く。
「御神流、薙旋」
ソラの繰り出した高速の四連撃が俺に迫る。
「おっと」
ギリギリでソラの太刀筋に被せる様に俺も竹刀を打ち出す。
「御神流・裏、花菱」
「っ!」
迎え撃った俺の技に吹き飛ばされるソラ。
「私の負けか…」
「ギリギリだったけどね」
「まあ、でもそろそろブランクも埋まってきたかな?」
「だな」
さて、そろそろ時間もいい頃合だ。
「隊舎に戻ろうか」
「はーい」
隊舎の裏にある林を抜けようと歩き始めると遠くの方に人影が。
「あ、ティアナさんだ」
「本当だ」
「自主練かな」
「がんばってるね」
「よっぽど今日のミスショットが悔しかったんだろう」
「……でも、体壊さないといいけど」
その訓練は鬼気迫るものがる。
「まあな。だけどこう言う時は周りの忠告なんて自分が惨めになると思っているだろうから聞かないし」
「……そうなんだ」
「そう言うもんだ。だから俺達は見つからない内に退散しようか」
「…うん」
次の日からティアナの訓練にスバルが混じっているのを確認。
あー、アレはどうやらスバルの押しの強さに負けたようだな。
「接近戦のコンビ練習みたいだね」
気づかれないように気配を消して訓練を盗み見ていたソラが呟く。
「…スバルは良いとして、ティアナがな」
「ティアナさんがどうかした?」
「近接を師事する人が居ないから。自己流で危なっかしいね」
「…確かに」
そんな日が暫く続いて、今日の訓練はなのはとの摸擬戦。
第一試合はティアナとスバル。
俺達はレイヤー建造物のビルの上で二人の試合を見ている。
「お、クロスシフトだな」
ヴィータの呟き。
見ればティアナは地面から空中に居るなのはへ誘導弾で狙撃の準備をしている。
チャージに時間が掛かってはいるが、その時間を捻り出しているのがスバル。
中々いいコンビネーションだ。
しかしティアナに鬼気迫るものを感じる。
「しかし、この訓練…はぁ…」
「アオ…だめだよ。もうこの隊に期待しちゃ…」
うん。俺の気持ちを察してくれるソラに感謝。
空の飛べない二人が空戦をしている事。コレにどんな意味があるのだろう…
この世界に置いても空戦が出来るのはすごいアドバンテージだ。
それは凄い格差がある。
移動速度が違うのだ、走る車に人間は走っても追いつけない。
ティアナなんてモロそれだ。
どう足掻いても飛んでいるなのはに追いつくことは出来ない。
普通、飛べる敵には飛べる味方をあてがうだろう。
ならば訓練もそうあるべきだ。飛ばずに自分もしっかり地面に両足つけて。
まあ、それは無理か。なのはは空戦魔導師で飛んで戦う人だから、陸戦なんて出来もしない。
ならばきちんと指導できる人を用意すべきだ。
ドドドーーーン
訓練施設に爆音が鳴り響く。
見ると何やら三人の間で何かあったのか、ティアナを普段ならやらない筈の魔力ダメージで撃墜。
どうやら規定の攻撃でヒットさせるはずの訓練でティアナが危険行為に走ったようだ。
担架で運ばれていくティアナに、それに付き添うスバルが追いかける。
さて、次は俺達の番か。
なんか空気が悪いけど、これで訓練が中止になったらマジで見限るからね。
「じゃ、ブリーズの相手は私がするから。なのははちょっと休んでて」
「フェイトちゃん…」
「ね」
「……うん」
「それじゃ、二人とも、準備して」
フェイトさんに呼ばれて俺達は訓練場内部へと移動する。
「接近戦で私にバリアを張らせるか、魔力弾の直撃で撃墜扱いだから」
「はーい」
「私は魔力弾の直撃か、近接でバリアを抜いたらあなた達の負けだからね。一人撃墜された瞬間に終了。わかった?」
「了解しました」
「それじゃ、始めるよ」
ザッ
大地を蹴って飛行魔法を発動させて距離をとる。
「さて、フェイト隊長の実力はどんなもんかね」
『フォトンランサー』
「ファイヤ」
威力も速度も落としたフォトンランサーを牽制の為にフェイトへと射出。
「ふっ」
何の問題もないと、俺のフォトンランサーを避けて俺に飛び近づいてくる。
「はぁ!」
そのままバルディッシュを振り上げて振り下ろしてくる。
ふむ。
俺はそれをソルで受け流して、流れに逆らわずにフェイトから距離を置く。
反転の為に隙が出来た所にソラがフォトンランサーを射出。
かわして此方へ向って自身のフォトンランサーで俺達を牽制。
それを俺達は自身の弾で相殺しつつ、適当にわざとずらして相殺させなかったフォトンランサーをシールドで受ける。
またも切りかかってくるフェイトさんを今度は受けずに避けてかわし、後ろから追撃。
しかし、そこはやはり隊長。
後ろに目でも付いているかのように俺の弾を避けて飛び去っていく。
その後何回か撃ち合い、防御し、逃げ回る。
うん。フェイトの攻撃には気迫は有るけど殺気は無い。
まあ、訓練だからかも知れないけれど、それでも打ち合えばわかる。
なのはもだが彼女達の攻撃は綺麗すぎる。
恐らく本当の意味で人を傷つけた事が無いのだろう。
非殺傷設定だから、魔法を当てても死ぬ事は無い。
その意味ではシグナムの剣は感嘆の意を覚える。
あれは人を殺した事があるものの剣だ。
フェイトさんを見る。
さて、ここかな。
「はぁ!」
俺は振りかぶられたバルディッシュを弱めのバリアで受けとめる。
「くっ」
「ふっ!」
パリンと俺のバリアが破られ、俺にヒットする直前でバルディッシュが寸止めされた。
「………」
バルディッシュを突きつけたまま固まったように動かないフェイト。
「あの…」
俺の声で漸く我に返ったのか反応が返ってくる。
「…あ、ごめん。なんでもない。訓練はここまで、だね…」
なんか歯切れが悪いな…
まあいいか。
「あ、はい。ありがとうございました」
俺は訓練場を飛びのき外へ出る。
入れ替わりに今度はライトニングの番だ。
side フェイト
訓練場を出て行くアオとソラを見送りながら、今行われた訓練を思い返す。
今の訓練にはどこもおかしな所は無かった。
いや、無さすぎた。
それは一つの教本のような戦闘訓練。
最後の攻撃もわざと私の攻撃を受けて、バリアを割らせたように感じられる。
だとしたら最初から最後まで手加減されていたのは私の方…
そこまで考えて私はすぐさまその考えを振り払った。
それ以上考えてはだめだ。
しかし疑念は積もる。
アオ、ソラ。あなた達は一体…
side out
そんなこんなで夜。
俺達はいつものように自主練習をしていると急にアラームが鳴る。
ガジェットドローン2型が現れたようだ。
海上を飛び回る戦闘機。
出動待機で俺達は集まった。
しかし、今回はなのは、フェイト、ヴィータの三人で掃討に当たるようで、俺達は待機。
体調を考えて、待機からもティアナを外すと命令したなのはに当のティアナが反発。
何かに焦っているが、何かがティアナを追い詰めていて、今それが爆発したのだろう。
吼えるティアナをシグナムが殴って黙らせて、話を強制終了。
その間になにかを言いたいなのはをヴィータが無理やりヘリコプターに押し込んで、現場に飛んでいった。
しかし今度は殴ったシグナムにスバルが突っかかる。
なんで努力しているティアナを認めてくれないのかと。
すると後ろから事の推移を見ていたシャーリーが出張ってきた。
そして、なのはさんの教導の意味を教えると、俺達を連れてロビーへ移動した。
「昔ね、一人の女の子が居たの。その子は本当に普通の女の子で、魔法なんて知りもしなかったし、戦いなんてするような子じゃ無かった」
語り始めるシャーリー。
モニターではいつ撮ったのか、その頃のなのはのVTRが映る。
飛来したジュエルシード、それを回収するために助けを求められ、いつの間にか魔法の力を手にしていた。
後にP・T事件と言われる事件。
VTRの中で、何度も小さいフェイトとぶつかっている小さいなのは。
しかし、俺はそれを何処かで知っているような気がしていた。
どこか、記憶の奥底において来たようだ。
しかし、それとは別に俺の目に留まった者がある。
なのはの側に居たかと思うと、いつの間にかフェイトの側にいて、状況を引っ掻き回している餓鬼。
「……アオ」
「……ああ」
そう、俺達を襲ったあいつだ。
今にも蘇る殺意を胸の内にしまいこみ、俺はVTRを見る。
VTRはジュエルシード事件が終わり、闇の書事件へ。
その詳細はカットされているが、この事件に少年の姿は無い。
その後なのはさんの撃墜、そしてなのはさんの教導の意味などをシャーリーが語っていたが、俺はさっぱり聞いていなかった。
しばらくVTRを見ていて気が付いたキャロが訊ねる。
「あの、ジュエルシード事件で出ていた男の子は?」
それにはシグナム、シャーリーとも鎮痛の面持ちだ。
「彼の名前は八神翔(やがみしょう)」
そう言ってシャリーは手元のキーボードを操作してウィンドウにその少年のステータスを映し出す。
「なのはさんと一緒にジュエルシード事件を解決した現地の魔導師よ。八神部隊長の実の兄で、その当時の魔力ランクはすでにSSSオーバー」
「「「「SSS!?」」」」
「そ、そんな人が…」
「あれ?でも八神部隊長のお兄さんなんですよね?しかもSSSオーバーの魔導師。そんな方の噂なんて聞いたことないんですけど」
と、多少八神家の事に聞き知っているスバルが問う。
その質問に答えたのはシャーリーではなくシグナムだった。
「……奴は、詳しくは言えないんだが、我らと共に闇の書事件に深く関わっていた。しかし、その事件が公になる前に、何者かに打ち倒されて…な。一命は取り留めたが、リンカーコアの損傷が激しく、今も意識が戻っていない」
その言葉にフォワード陣は鎮痛の面持ちを浮かべるが、俺はその言葉に心の奥底にしまったドロッとした物があふれ出そうになるのを必死で押し込める。
「…生きて居る…だと?」
俺の呟きはどうやらスルーされたらしく、話が次に進む。
「彼が撃墜された時、私が一緒にいたわ。今でも信じられない…私達ヴォルケンリッター4人を相手に一人で圧倒した彼を再起不能に追い込む人が居たなんて」
「居た?」
「…ええ。…恐らく消失しているわ。少なくとも一人はね。彼らの命のともし火を奪ったのは私だもの」
俺はその言葉を聞いて遂に自身の衝動が抑えきれなくなった。
自分の体からオーラが吹き上がる。
オーラは見えなくても空気が変わったのを感じたのか全員が俺に視線を向けるが、その表情は一様に俺の念に当てられたのか、俺から滲み出ている殺気に当てられたのか表情に恐怖が浮かんでいる。
俺は一瞬の内に立ち上がり、目にも留まらぬ早業でシャマルに駆け寄ると右手にオーラを集めたこぶしで殴りかかろうとして、横合いから殴り飛ばされて壁に激突する。
激突した壁に無数のヒビが入るほどの衝撃。
瞬間的にオーラを背中に集めて防御したので激突でのダメージは無いが、殴られた右腹へのダメージは相当だ。
「カハッ」
俺の口から血が滴り落ちる。
「……ソラ…」
「アオ、ダメ。それはダメだよ、今は我慢しなきゃ…ね」
俺を力いっぱい殴り飛ばしたのはソラで、俺の暴走を力技で妨害したようだ。
「だが!?」
「ダメ…」
ソラの懇願で漸く俺も少し冷静さが戻ってきた。
「……分かったよ」
漸くおれが纏っていた雰囲気が解除されて動けるようになったのかシャマルが駆けつけてこようとする。
「た、大変!至急医務室に「来るなよ!」…え?」
「俺に近づくな、俺はあんたに近づかれたくない」
「な?そんな!でも傷の手当てを」
「必要ないわ」
なおも駆け寄ろうとしてくるシャマルを今度はソラが止める。
「…っ!」
ソラからあふれ出た殺気にその行動を無意識の内に止められる。
シャマルを制して俺に近づいてきたソラ。
「…もうちょっと手加減しろよ。俺じゃなかったら死んでる」
「ゴメン。タイミング的にギリギリだったから手加減できなかった」
「…まったく」
俺はソラの肩を借りて直ぐにこの場を立ち去るべく歩き出した。
騒然とした雰囲気のこの場を放置したままで。
部屋に戻ってきた俺は、直ぐにベッドに寝かされた。
「神酒のストックがあったね。直ぐに取ってくる。」
「ああ、頼むよ。実際肋骨が何本も内臓に突き刺さってて、既に限界なんだわ」
あの場で誰も俺に近づかなかったために体の怪我の状態を誰も察知できていないのは幸いだ。
ソラに頼んで治してもらっても俺が割りと平然と歩いて帰ってきたためにその症状が割と大怪我だった事は分かるまい。
「ん」
怪我が完治するやいなや俺はソラに抱きついた。
「アオ?」
「ゴメン、ソラ。俺この部隊に居たくないよ」
誰が好き好んで自身を死へと追いやった者の側に居たいと思う物か。
抱きついた俺を抱き返してくれたソラが優しく返す。
「アオ…ダメだよ。折角地球に戻れるかも知れないんだから…ね?」
「分かってる。分かってるんだ。でも、感情まではね」
「うん」
「アイツがソラを殺した奴だって思うと、殺してやりたくてたまらなくなる」
「私は生きているよ?」
「うん、それも分かっているんだ。でも…」
「我慢しよう、アオ。折角手に入れた地球に行けるチャンスなんだから」
「……うん」
side シグナム
シャーリーの先導で始まった高町の過去の話。
その話の中で、我らの心にも大きな傷を残す主の兄、八神翔の話が出た途端、アオとソラの雰囲気が変わった。
最初はほんの少しの変化、しかしそれが一変したのは、あの翔を再起不能にした相手魔導師を蒐集したのが自分だとシャマルが言った途端だ。
アオから得体も知れないプレッシャーが放たれ、次にそれはシャマルに対しての明確な殺意に変わった。
ヤバイ!と思ったが行動に移ったアオを、彼らのスピードに付いていけない私が止められるわけも無い。
しかしそれを止めたのはソラ。
その拳にどれだけの威力を込めたらあれほど飛ぶのだろうかと言うくらいの威力でアオが吹き飛ばされていく。
その後はシャマルを拒絶して、何も言わずにこの場を後にするアオとソラの姿が。
周りの様子を伺うと、非戦闘員のシャーリーは当然ながら、フォワード陣の4人も揃って気絶していた。
アレだけの殺気を初めてその身に感じて意識を保っていられるわけが無い。
この私ですら殺気にその動きを止められて、指一つ動かせなかったのだ。
「シグナム…私、あの子達に何かしたかしら…」
シャマルが声も絶え絶えに私に声を掛けてくる。
「あいつの雰囲気が変わったのがいつか分かるか?」
シャマルは先ほどのことを思い出すと、
「…翔君の話を始めた辺りからかしら…」
「そうだ、そして、お前が翔を倒した相手を消したと言った時にあいつは切れた」
「そんな!?…それじゃあの子達は彼らの知り合いなの?だったら…でも変よ!あの子達は生まれてから数年しか経っていないって押収した研究資料に載っているもの…」
「ああ。だが、明らかに彼らはお前に明確な殺意を持った。それだけは確かだ。今はソラが抑えているようだが…」
「………」
シャマルがあいつ等に会ったのはこの部隊が発足してから、それ以前に接点は無い。
あいつ等がどうしてシャマルに対して殺意を抱いたのか。
「そう言えばシャマル、翔が襲われたときの敵の映像は残っていないんだったな?」
「ええ…翔君のエクスカリバーは敵の魔法で炭化していたし、私のクラールヴィントは私の腕が切り飛ばされて、魔法が中断した時のバックファイヤでショートしちゃってたから、映像としては残って無いわ。それはシグナム、貴方も知っている事でしょう。当時の貴方は翔君を撃墜した彼らを血眼になって探していたじゃない」
「そいつらの特徴は覚えているか?」
「…覚えているわ。翔君をあんな目に合わせた彼らの姿を忘れた事はないわ」
あんな目…か。確かに翔の事だけ考えれば再起不能、それもほぼ植物人間状態に追いやった奴らの方が悪に感じる…が、実際はどうだろうか。
「バイザーで目元を覆いその顔は分からなかったけれど、二人とも恐らく同型の剣型のアームドデバイスだった…わ」
シャマルも気がついたか。
「そうだな、似ているな。私は聞いただけだが、あいつ等に」
主の為と言い訳をして無関係な人たちを巻き込んだ私たち。
確かに私たちは優しい主を悲しませない為に殺しはしないと誓った。
蒐集も命に別状がない程度に搾り取るはずだった。
しかし何事にも例外があったのだろう。
あの時の彼らは魔法生命体…いや、私たちに近い存在だったのか、蒐集に耐えられずに霧散したと聞いた。
なれば、本来裁かれるはずは我等…か。
「でも…ありえないわよ…ね?」
不安げな声で話すシャマルに私は答えを持ってはいなかった。
side out
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