真田十勇士
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巻ノ四 海野六郎その十
「かわされましたか」
「かなりの速さじゃったがな」
「それでもですか」
「うむ、御主の目を見るとな」
「目で拙者の攻めを見抜かれましたか」
「そうじゃ、御主が前に出て来るとわかった」
まさにそのことがというのだ。
「だからじゃ」
「右にかわされてですか」
「そのうえでな」
「張り手でそれがしの体勢を崩し」
「そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「足払いを仕掛けたのじゃ」
「ううむ、目を見られるとは」
「目を見なかったら動きを見抜けなかった」
穴山のそれをというのだ。
「拙者もな」
「しかし目を見られて負けた」
このことをだ、穴山は言うのだった。
「そのことは拙者の失態であります」
「目じゃな」
「はい、戦の時も気をつけまする」
「その様にな」
このことも話すのだった、そしてだった。
由利と海野、それに三好清海も勝ち進んだ。そこで。
幸村は今度は由利とぶつかった、由利の動きもまた素早くまさに風使いの名に相応しいものであった。しかし。
幸村は由利の動き先、そこに先回りしてだった。
背中を取り後ろから背を押して前のめりに倒した、そうして由利にも勝って試合の後で彼とも親しく話をした。
「鎌之助、御主は目で語ってはいなかったが」
「それでもですか」
「動く直前に癖がある」
「癖、でありますか」
「御主は右に動く時は右手首を動かしてじゃ」
そしてというのだ。
「左の時はな」
「左手首を」
「それが勝負の時にわかった」
まさにその時にというのだ。
「だからじゃ」
「拙者の癖から」
「動きがわかった、そしてじゃ」
「その動きを先読みされて」
「先回りしたのじゃ」
そうして背中に回ったというのだ。
「そうしたのじゃ」
「そうでしたか、いや癖があるとは」
「癖は己では気付かぬ」
「そういうことですな」
「しかしそれが相手に見抜かれるとじゃ」
「危ういですな」
「相撲ならよいが」
しかしというのだ。
「戦の場ではこうはいかぬぞ」
「はい、命を落とさぬ為にも」
「癖はなくしていこうぞ」
「そうします」
由利は幸村に神妙な顔で応えた、そしてだった。
幸村は決勝に進むことになった、だが。
ここでだ、目の前でもう一つの準決勝を行っている海野がだ。
三好清海に投げ飛ばされた、海野は受身を取り無事だったが勝負の後で主のところに戻って苦い顔で言った。
「いや、力比べを挑めば」
「負けたな」
「はい、やはり力では」
「あの入道殿には負けるな」
「勝てませぬ」
とてもというのだ。
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