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防空壕

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1部分:第一章


第一章

                    防空壕
 一堂良太の遊び場所は大抵そこだった。公園にある深い穴であった。彼はいつもそこで仲間達と楽しく遊んでいたのであった。
「何かここっていいのね」
「夏は涼しいし冬はあったかい」
 それが最大の理由だったがそれだけではない。
「それに誰にも見つからないし」
「いいアジトだよね」
 子供の頃は誰でもアジトというものを欲しがるものだ。この穴はそれを考えれば格好の場所なのだ。それでいつもここに集まるのであった。
「そういえばさ」
「何なの?」
「ここって昔は防空壕だったらしいよ」
 仲間の一人がその穴の中で良太に対して言うのであった。
「防空壕って?」
「戦争の時に逃げ込む穴だったんだって」
 そう良太に教えるのであった。
「それがまだ残っていてそれがここだったんだ」
「そうだったんだ」
 それを聞いても良太には今一つピンとこないのであった。
「防空壕っていう場所だったんだ」
「何かそれを聞いてもよくわからないよね」
「そうだよね」
 彼等にとってみればそうである。子供にはあまり実感の湧かない話でもある。そもそも防空壕出せんそうだと言われても彼には全然わからないことであった。
「戦争って何時あったっけ」
 良太は仲間の一人に問う。暗い穴の中でも蝋燭の火でそれなりに明るい。アジトらしくしたいということであえて蝋燭の火を使っているのである。
「さあ。うちのお婆ちゃんが子供の頃らしいよ」
「うちのお爺ちゃんも小さい頃だよね」
 良太のお爺ちゃんはずっとこの街に住んでいる。そのこともふと思い出した。
「じゃあ大昔だよね」
「うちのお父さんもお母さんも知らないよね」
「そうだよね」
 良太は彼に言葉に頷く。
「結局のところは」
「お爺ちゃんにちょっと聞いてみようかな」
 良太はふとそう考えるのだった。
「それだと」
「このアジトのことだよね」
「そうだよ」
 それを仲間達にも言う。
「色々とね。このアジトについて」
「別にお化けが出るとかいった話はないよね」
 それについてはかなり不安な一同だった。そうしたことを怖がるのはやはり子供であると言えた。良太にしろ仲間達にしろだ。
「あるかも」
 それには少し不安になる良太であった。
「ひょっとしたら」
「おいおい、そんなのだったら」
「洒落にならないよ」
「とりあえずは聞いてみるよ」
 それでも何とか話を聞くことにするのだった。
「一応はね」
「怖い話はなしだよ」
「それは絶対にだよ」
「わかったよ」
 困った顔で彼等に応えるのだった。
「お爺ちゃんに。聞いてみるよ」
 こうして彼は自分の祖父に今自分達が拠点にしているアジトの話を聞くことにした。家に帰ると居間でお茶を飲んでいる祖父の源五郎に対して尋ねるのであった。
「おお、良太か」
「うん」
 源五郎はいつもこの今でテレビゲームをしているかお茶を飲んでいる。意外と気が若く趣味はテレビゲームなのだ。漫画も好きだ。銀髪を奇麗に後ろに撫で付けており皺も少なく外見は実際の年齢よりも遥かに若く見える老人である。良太をよく可愛がっていて良太も彼になついている。そうした祖父である。
「お菓子か?それなら」
「お菓子もいいけれど」
 まずは源五郎が差し出したマロングラッセを受け取る。見れば彼が飲んでいるのは紅茶である。こうしたところも中々洒落ているお爺ちゃんであった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「ゲームの攻略のことか?」
「ううん、それは後で」
 良太は源五郎の向かい側に座った。そうしてマロングラッセを食べながら話をするのだった。
「今はね。別の話題」
「では漫画か?」
「そうでもないんだ」
 それも否定するのだった。
「実はさ、公園の穴あるじゃない」
「公園のか」
「そう、大きな穴」
 それを今自分の祖父に対して言うのだった。
「そこのことを聞きたいんだけれど」
「ああ、防空壕か」
 源五郎はそれを聞いてわかったような顔を見せてきた。
「あそこのことか」
「その防空壕だけれどさ」
 良太はそれについて聞くのであった。
「何の為にあったの、あれって」
「何じゃ、知らんのか」
 源五郎は孫のその言葉を聞いて紅茶を飲む手を少し止めて彼に言ってきた。
「前に言ったと思うがな」
「聞いてないよ」
 本当に聞いていないのか覚えていないのか。とにかく源五郎は首を横に振るだけであった。
「戦争の時に逃げる場所だって聞いたけれど」
「その通りだ」
 孫の今の言葉に頷いてみせてきた。
「知っとるじゃないか」
「一応はね。けれど何で穴の中に逃げたの?」
「空から爆弾が落ちてきてな」
「爆弾が」
 これを聞いてもあまり実感がない顔であった。
 
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