万華鏡の連鎖
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宇宙戦艦ヤマト異伝
お母さん軍団の活躍
・太陽系第3惑星、水星中央総合病院にて
水星のすべての人々も女神によって記憶封鎖は解かれた。
あのガミラスとの戦いも既に記憶の一部と化し、既成事実として受け入れられている。
太陽系内で戦っているガミラス軍は、未だに意気軒昂ではあるが。
「エネミー」に寄生された無限艦隊の前には残念ながら、劣勢と言わざるを得なかった。
そんな中、嘗ての地球地下都市中央総合病院へ。
太陽系各戦線で負傷したガミラスや地球防衛軍の兵士達が、続々と搬送されて来ていた。
以前の確執は一切、残っておらぬ。
今となっては肌が青かろうが白かろうが、赤かろうが全く関係はなかった。
そして、地下都市中央総合病院前の大庭園には。
集合する女性の大軍団があった。
全員が三角巾とマスクを被り、純白のエプロンの胸には大きな赤十字マーク。
周りの女性達が準備したミカン箱に乗り、代表と思われる女性が大音声で話し始めた。
「皆さん、準備は良いですか?
此処で治療を受けている兵士の皆さんは、我らが太陽系の各戦線で負傷された方々です。
傷が早く治る為に是非とも、私達の手料理を食べて貰おうではありませんか!」
賛同する声の渦が轟き、代表の女性が合図すると同時に全員が大庭園の周りに散った。
空いた中央部にトレーラーが幾台も並び、サイド・ボンネットを大きく開口。
其処には一大キッチン・システムが小型化、合理化され詰め込まれていた。
次の車両には大鍋を搭載する大型コンロ群。
後続の車両には世界各地から搬送された米や小麦を始め、大量の食材が満載されている。
各地域の兵士が運び込まれる総ての病院に、妙齢の女性達が集合。
名称は異なるが水星の旧国別に婦人会が組織され、大軍団となっていた。
水星全体で団結した結果、大量の各種食材が中央総合病院に集積される。
此処、旧日本と呼ばれた地域でも同様であった。
トレーラーのサイド・ボンネットが開口されると同時に、一糸乱れぬ行動で集合する女性達。
「お母さん」達は各自の持ち場に就き、ベルト・コンベアーが敷設され電源車も到着。
中央総合病院の大庭園は一気に、喧噪に包まれた。
病院内からも数十人の女性達が現れ、エプロンを身に付け行動に加わる。
十数分で最初の御飯が炊きあがり、5分後には煮え滾った油鍋から程好く火の通った唐揚げが姿を現す。
更に煮染め、野菜の天ぷら等々、手で摘まんで食べられる品々が次々に出来上がった。
「おにぎりは、あんまり大きく握っちゃダメだよ。
ちょっと小さめに握るんだ。
怪我をしている方達の咽喉でも、通り易い様にね!
次の御飯はもう少し、柔らかめに炊こうね!」
湯気の立つ御飯は握ると、とても熱い筈であるが。
しかし、お母さん達はひるまない。
更に他の大鍋には味噌や牛蒡の良い香りが湧き立つ、暖かい豚汁が出来上がっていた。
調理を終えた料理は一食分ずつ使い捨ての皿、或いはどんぶりに盛られ食事搬送用動力車に乗り病院内へ搬送。
最初の30分で殆どの食材がトレーラーからなくなった頃、お母さん達も庭園から消え失せた。
運び込んだ食事と共に負傷した兵士の食事を介助する為、白衣の軍団が病院の内部を疾走。
病棟には並べられる限りの寝台が並び、通行の邪魔にならぬ廊下にも布団が敷かれ青色人の兵士が寝ている。
赤十字のエプロン姿の女性は病院のベッドがある所全てに、おにぎりや豚汁等を持って突入した。
血相を変えたのは、兵士達であった。
地球防衛軍の連絡将校として共に戦った地球人兵士達は、特に慌てる事は無なかったが。
ガミラス軍兵士達は憤怒とも取れる表情で突進してくる女性達に、遊星爆弾の怨みかと恐れ慄いた。
戦友の地球防衛軍兵士達は、ガミラス兵を宥め一緒に食事を勧める。
戸惑っていた兵士達も報復措置ではないと悟り、お母さん方が差し出す自慢の品を恐る恐る頬張った。
暖かい料理を咀嚼すると血の気が戻り、何とも言えない複雑な感情が薄れ柔らかい表情に変わる。
「美味しいだろう? もっとお食べ」
彼方此方から、無数の声が聞こえる。
重傷の兵士は起き上がれず、口から食べられないが。
優しく頭を膝枕され、脱脂綿に含まれた水を口に当てられ涙ぐんでいた。
またお母さん方も自分の息子や孫と同年代の負傷兵達に、涙を禁じ得なかった。
両手を吹き飛ばされた無残な姿の青色人、ガミラスの少年兵を含む負傷者達。
彼等は頭を撫でられながら、小さく千切ったおにぎりを口に運んで貰っていた。
ガミラス兵も泣いていたが、食事の介助をする女性も目を真っ赤にして泣いていた。
「元気になって、この戦争が終わったら、必ず家に来るんだ、わかったね?
必ず元気になるんだよ、そして、うちの子と一緒に御飯を食べておくれ」
そんな声が聞こえる一方では様々な電子機器に繋がれ、包帯で殆ど全身を覆われた重傷兵士の前にも。
「お母さん」は、来ていた。
口元にスプーンで掬った豚汁を寄せると、僅かに飲み込む。
何か言おうとするがガミラスの兵士は無情にも力は尽き、満足気な表情を見せ静かに息を引き取った。
青い肌の兵士の頭を胸に抱き、「お母さん」は号泣していた。
この場では国境や民族を越え、この一団はすべて「母」であった。
火星防衛軍司令官シュルツ、副官ガンツ以下10数名の志願者。
青色人《ブルー・マン》の宇宙戦士達は、砂の嵐に護られた惑星地下の秘密基地に篭城していた。
他に十数名が第1衛星ディモス内部に潜み、第2衛星フォボス地表の重火器を遠隔制御。
火星《ガミラス》地表の遠隔操作火力陣地と連携、協同で無限艦隊に立ち向かうが。
無限艦隊の誇る圧倒的な物量は効し難く、次第に押され直接砲撃を受ける反射衛星砲基地。
短距離射程の高出力熱線砲が火を噴き、至近距離迎撃用の大型電磁砲から青紫色の電光が閃く。
大気圏を持たぬ衛星を無限艦隊の砲撃が直撃、反射衛星砲の周辺に配置された偽装陣地を破壊。
対宇宙用迎撃火砲陣地群も次々に被弾、指令室《コントロール・ルーム》に非常警報が反響する。
「お前達、先に脱出しろ!」
「副司令官殿は?」
「最後に持ち場を離れる者は、最高責任者と決まっている!
火星防衛軍指令官シュルツ閣下の代理、ディモス反射衛星砲基地の指揮官は俺だ。
如何なる状況であれ、例外は無い!
お前達が地下要塞に着くまで、援護してやる。
俺は重いからな、非常用脱出艇の速度は少しでも上げた方が良いだろう。
事態は一刻を争う、口答えは許さん!
絶対真空仕様の戦車で後から脱出する、先に行け!!」
上官の言葉に理を認め、青色人戦士達は一斉に敬礼。
反射衛生砲の熟練兵達は唇を噛み締め、司令室の外へ走り去る。
宇宙戦士達が席を離れてから数分後、動力施設からの電力供給が途絶えた。
無限艦隊の砲撃を受け厳重に被覆、防護された導線も何処か破壊された模様。
非常用制御装置《エマージェンシー・コントローラー》は無効、異常信号の点滅は消えない。
大音量の非常警報《アラーム》が鳴り響き、耳に痛い。
「くそっ、動け!
火星と連携して、敵を片付けなけりゃならんのに!!」
思い付く限りの操作を試みるが、全く反応は無い。
操作盤《コンソール》を撲る拳から、鮮血が噴出した。
反射衛星砲の援護が消失すれば、火星は成す術も無く蹂躙される。
数百から数千の単位で敵艦を撃破した筈だが、焼け石に水か。
「シュルツ閣下!」
打つ手は無く、悔し涙が溢れた。
表示画面《スクリーン》に映る地表、火力陣地が被弾炎上。
このままでは地下要塞の崩壊、火星防衛軍の全滅も免れぬだろう。
背後から不意に手が伸び、鍵盤《キーボード》を操作。
水晶《クリスタル》の光輝《ライト》が煌き、緑色《グリーン》の表示《ランプ》が灯る。
人工合成音声の宣告が、反射衛星砲の制御室に響く。
「接続完了《アクセス・オープン》、動力供給回復《リカバリー・コンプリート》。
始動命令《スタート・コマンド》、正常完了《ノーマル・エンディッド》。
目標選定《アタック・セレクト》、自動追尾《ロック・オン》完了。
射撃準備完了、砲撃可能です」
予想外の事態に眼を見開き、背後を振り返る。
既に脱出した筈の部下達が揃って、驚愕の視線に見事な敬礼で応えた。
後書き
『かずき屋』様、想像を超える贈り物《プレゼント》に感謝致します。
文字数の都合で後半、別の話を補いました。
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