エターナルトラベラー
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第五十七話
「けほっけほっ…」
ひどい目にあった…
取り合えず外傷は無し、中はどうなっただろうか。そう思い直ぐに玉座の間へと戻る。
「……何?この惨状…」
入室した玉座の間はあちらこちらくり貫かれ崩落している。
「あ、アオ君…」
「なんて馬鹿威力…っそんなことよりヴィヴィオは?」
「この通りっ!」
そう言って見せたのはその腕に抱き上げたヴィヴィオだ。
「アオ…おにいちゃん?」
「ああ。ヴィヴィオ、久しぶりだ」
取り合えず出発前になのは達に渡した神酒を希釈したものを詰め込んだ小さな三角フラスコと同じものを一瓶取り出すとなのはさんに渡す。
「これは?」
渡されたフラスコを怪訝そうな目で見つめる。
「ポーション。今は一瓶しかないから二人で分けて飲んで」
双方ぼろぼろだ。
「ええ!?」
「大丈夫。効果は折り紙つきだ」
「わ…わかったよ」
しぶしぶといった感じで一口なのはさんが口に含む。
「こっこれは…」
その瞬間からだを襲っていた虚脱感から開放されたのか声に張りが戻った。
すぐに残りの半分をヴィヴィオに飲ませる。
「ぷはっ…からだがポカポカする。すごーい、疲れが吹っ飛んだよ」
ヴィヴィオの体にも生気が戻る。
ビーっビーっ
けたたましい警告音。
「な、何!?」
「ママっ…」
驚きの声を上げるなのはさんと、不安そうにぎゅっとなのはさんの服を握り締めるヴィヴィオ。
その後機械合成音による警告の後AMF濃度が魔力結合が不可能になるほどに上がる。
「くっ…」
たまらず膝を着きそうになったのを気合で持ちこたえたなのはさん。
「なのはママっ、大丈夫?」
「大丈夫だよ、ヴィヴィオ」
しかし、状況は悪い方へと傾いていく。
破壊されて開いていたはずの扉は見る見る内に簡易的な障壁で塞がれて行く。
「脱出しないとっ!レイジングハート」
ぎゅっとヴィヴィオを抱き返しながらなのはさんが一応飛行魔法を行使しようとしたようだが、魔力結合が出来ずに不発に終わる。
「なのはさん!このAMF下で魔法は使える!?」
「ごめん!無理みたい」
俺もこのAMF下では魔力結合が出来ない。なのはさんならとも思ったけれど、さすがに無理か。
…ならば俺が全員浮かせて引っ張っていくしかないか。
「なのはさん、こっちきて下さい」
「え?あ、うん」
ヴィヴィオを抱っこしたまま扉まで来てもらう。
えー、と。メガネの戦闘機人はレビテーションで浮かせておく。
「ソル」
『ロードオーラカートリッジ』
ガシュっと薬きょうが排出されてオーラが上乗せされる。
上乗せされたオーラもすべて右手に回して『硬』をした右手で目の前の扉を殴りつける。
破砕音とともに木っ端微塵になる扉。
「はやくっ!また塞がる前に」
「わっわかった!」
玉座の間を出ると直ぐに印を組んで影分身。
「あ、それってさっきの」
「しっかりヴィヴィオを抱っこしていて下さいね」
影分身がそれぞれなのはさんと気絶している戦闘機人を持ち上げて飛翔すると、出口めがけて脱出する。
「本当に便利なんだね、念って。魔法で出来ることはほとんど出来るの?」
そう問われても、エネルギーは同じだけど今使ってるのは別の技術なんだけど、教えないほうがいいか。
「皆が皆出来るわけじゃ無いですけどね」
「…そうなんだ」
さて、無駄話もそこまでにして俺たちは来た道を逆走する。
道すがらなのはさんが一撃のもとに降した戦闘機人と接触するルートだが、彼女に行使したバインドはいくら強固な物だったからといってもこのAMF下では解除されているだろう。
再戦の可能性も視野に入れていたが、接触してみるとすでに武装は解除されていた。
「どうして?」
なのはさんが問いかける。
「私達は負けたんだ。その子を助け出された瞬間に。それにいくらドクターの命令だったからと言ってそんな小さい子を利用するのはやっぱり気が引けたし…」
この人、自分がやっている事で悩んでいたんだ。悩みつつも創造主の命令には逆らえなかったか。
この彼女も連れて脱出しようと考えていると、前方からエンジン音を響かせて疾走して来る一台のバイクが現れる。
「なのはさーーーーん」
「スバル!ティアナ!」
「二人とも助けに来てくれたの?」
「はいっ!中のAMF濃度が魔法行使不可能な位まで上がったって報告を受けたので」
なのはさんの問いにスバルが答えた。
「…なのはとフェイトは?」
と、俺はティアナに問いかけた。二人と一緒だったはずだ。
「あの二人には引き続き地上のガジェットの殲滅をして貰っています。あたし達は彼女たちほど魔力が有りませんからこちらに回りました」
本当は二人ともこちらに来たかったようだったとティアナが答えた。
バイクに戦闘機人を二人乗せてもらい(気絶しているクアットロはスバルが固定した)なのはさんとヴィヴィオは俺が引き続き抱えて飛ぶ。
手の空いた俺の影分身は進路上の露払い。
未だに稼動しているガジェットを潰して行く。
ゆりかごからの出口に差し掛かるとティアナはおもむろに加速した。
加速?
そのまま空中に躍り出るとAMFから離れたことでスバルがウィングロードを使い空中に道を作りだす。
それに飛び乗って下へと降りていった。
「あ、アオ君。わたしももう大丈夫だから」
俺たちもAMFを抜けた事でなのはさんが飛行魔法を使えるようになったために俺は手を離した。
直ぐに飛行魔法を行使して抱えていたヴィヴィオを医療スタッフに診せるために急行した。
その後直ぐにもう一組、俺の影分身にやはりヴィータが抱えられながら飛び出してきた。
「もう大丈夫だから離しやがれ!」
俺の影分身の拘束から逃れようと暴れているヴィータ。
あれだけ文句が言えるなら大丈夫そうだな。
ヴィータに付いていた影分身を回収すると、それまでの影分身が得た情報が流れてくる。
どうやらヴィータは駆動炉の破壊に成功したようだ。
ヴィヴィオも救出したし、駆動炉も破壊した。
それでも飛行している目の前のゆりかごには脱帽するが、制御する人間はすでに居ない。
軌道上まで到達すると、あたりを一瞬閃光が包んだ。
後で聞いた話だが、遅れて到着した管理局の艦隊が艦大砲で消失させたらしい。
記憶にあるアルカンシェルみたいなものだろう。
その閃光を最後に今回の騒動は終結し、俺たちはアースラへと帰還した。
side 高町なのは
後にJ・S事件と言われる騒動から数日。
事件もようやく収束に向かい、やっと出来た休憩時間。
わたしはあの時のヴィヴィオの眼についてもう一度アオ君に話を聞こうとアースラ内をアオ君達の部屋へと向かっている。
手ぶらも失礼かなと思い、何か飲み物をと食堂に寄ると中からなのはちゃんとフェイトちゃんの声が聞こえてくる。
テーブルでお茶を飲みながら談笑するのが見える。
アオ君が何処にいるか彼女たちなら知ってるはず。何処にいるか聞こうとわたしは歩み寄り話しかける。
「こんにちは、なのはちゃん、フェイトちゃん」
「「こんにちは」」
「あの、アオ君って何処に居るかわかるかな?少し聞きたいことが有るんだけど」
わたしの問いに答えてくれたのはフェイトちゃんだった。
「アオなら部屋でソラと難しい話をしてます」
「難しい話?」
何だろう?
「それもここ数日寝る間も惜しんで何かしてる感じです」
そう、気遣わしげに言ったのはなのはちゃん。
その言葉にますますもって混乱するわたし。
帰還手段も手に入れたし、事件も解決した。後は何か問題が有るのだろうか?
「そっか、教えてくれてありがとうね。ちょっと行って見る」
「「はい」」
二人と別れてアオ君たちに割り振ってある部屋へと目指す。
扉の前に立ち、呼び鈴を鳴らすと数秒して中から返事が返ってきた。
side out
「ここをこうすると…」
「こっちの方がよくない?」
薄暗い室内にひそひそ声が響く。
「うーん、じゃあ、こっちをこう」
「うん、いい感じかも」
俺とソラが寝る間を惜しんで三日間も何をしていたかと言うと、今持てる技術を集めて万華鏡写輪眼の封印術式を構築している。
写輪眼ですら危ない能力だが、万華鏡はその上を行く。
しかも思兼とは…精神操作系の能力は幼い身には過度の能力だ。
それは余りにも利用価値が高すぎる能力であり、それに気が付いた大人に悪用されかねない。
だから封印する。誰かがもしヴィヴィオにその能力があると気が付いても使えないように。
「よし、出来た」
「うん、多分大丈夫じゃないかな」
術式が完成したところで来客を告げるチャイムが鳴り響いた。
「誰?」
「さあ?」
俺は重い腰を上げると扉に近づいて確認する。
「どちらさま?」
「あの、わたしです、高町なのはです」
ある意味グッドタイミングだ。俺も彼女に用がある。
扉を開けて中に入ってもらう。
「これ、飲み物。コーヒーだけど」
そういって差し出されたそれをありがたく頂く。
ふぃ、生き返った。
「それで?なのはさんは何の用で来たの?」
「あの…ヴィヴィオの眼について詳しく聞きたいなって…アオ君達は自分の技術を余り人に教えるような人じゃないってのは知ってるつもりだけど、ヴィヴィオの事だもの。わたしも引けない」
そう言ったなのはさんの目は力強い光が灯っていた。
「…俺からもヴィヴィオの事で話があります」
「え?そうなの?」
さて、どこまで話そうか。
長い話になるな。
結局、写輪眼についてほぼすべてを打ち明けることにした。
写輪眼がどういう類の能力か。
それに使うエネルギーについて。
ある特定の血族にのみ現れる特異体質であると。
その血族以外は反動が大きい物であること。
ヴィヴィオについてはなのはさんの話から聖王と竜王のハイブリッドである事を聞いていた、半分しか竜王の遺伝子が入っていないのならもしかしたら反動は大きいかもしれない。
そして開眼方法と失明の危険性。
さらには思兼の能力まで。
話し始めてどれだけ経っただろうか。ようやく俺の話が終わる。
「万華鏡写輪眼…そんな事をわたしに教えてもよかったの?」
「俺たちはもうすぐこの世界から去ります。だから、誰か一人くらい正確に知っていて欲しいんです。…それになのはさんはヴィヴィオを守ってくれるんでしょう?」
この言葉は少し意地が悪かったかな。
でも…
「もちろんだよっ!」
すぐにこう言えるなのはさんだからこそ信用できる。
…それにリオの事もあるしね。
リオと機動六課は少ないけれど縁と言う物ができた。もし、万が一にも万華鏡を開眼してしまった時に対処してくれるかもしれないし、ね。
さて、後は封印の実行だけだ。
なのはさんの協力で後日ヴィヴィオを病室から連れ出してもらった。
なのはとフェイトにはあたりの警戒をしてもらう。
あまり人に知られたくはないしね。
俺とソラは床に自身の血液で神字を書き記していく。
「ねぇ、なのはママ。これは何?」
ヴィヴィオが怪訝そうな顔でなのはさんを見上げて尋ねた。
「うーん。ヴィヴィオの能力が強すぎるからアオ君たちが制限を掛けてくれるんだよ。ヴィヴィオの体が壊れないようにね」
「そうなの?」
まあ、子供に言ったってわからないだろうけどね。
さて、あとは仕上げだ。
上半身裸になってもらい、神字を地肌に書き連ねていく。
「きゃっ!くすぐったいよっ」
「我慢して、ヴィヴィオ」
「うーうー」
集中力のなさは子供ゆえか。
「そっちは終わった?ソラ」
「今終わったところ」
さて、仕上げだ。
俺とソラがヴィヴィオを挟んで対極に立つ。
オーラを練り、印を組む。
「「封っ!」」
床に書いた神字が薄利してヴィヴィオの肌を上っていく。
それは左耳の付け根からすぐそばの頭皮へと集約する。
「あついっ!あついよっ、ママっ」
「ごめんね、ヴィヴィオ。もうちょっとだから我慢して」
叫ぶヴィヴィオを必死に抑えるなのはさん。
そして封印術が完成する。
毛髪にまぎれて分からないだろうが、頭皮に消せない痣のように擬態した封印術式が刻まれたのは許して欲しい。
少し、幼いヴィヴィオにはきつかったのか、術式が完了するころには気絶してしまった。
「大丈夫なの?」
「おそらくは…」
数分するとヴィヴィオは何事もなかったかのように目を開けた。
どうやら特に問題は無いらしい。
さて、これでこの世界でやるべきことは終わったかな。
その日の夜、明日この世界を発つとはやてさんに報告に行くと、挨拶が終わった後に俺を残してソラ達は退出するようにお願いされた。
どうやら重要な話があるとの事た。
ソラ達に退出してもらい、部隊長室のソファに座り話を聞くと、どうやら内容は闇の書事件の顛末だ。
そして渡されるひとつのストレージデバイス。
「これは?」
「残っていた闇の書の解析データから私が構築した防衛プログラムや。それを変質した防衛プログラムを取り除いたあとにインストールすればもしかしたらリインフォースは死ななくて良くなるかもしれへん」
…なるほどね。
「それで?これを俺に渡してどうしろと?」
「それはアオ君が決めることや」
「自分勝手ですね…」
「それは私のただの自己満足や。それがもたらす結果に私は責任はもてないし、知ることもできへん」
まあ、ね。
しかし、リインフォースを助けると言うことは…
「でもそれをすると…」
「分かってる。リインが生まれてこんようになる」
分かってたのか。
リインフォース・ツヴァイは初代が消えたからこそ生まれた存在だと先ほどはやてさんが自分で言っていた。
リインフォースを助けると言うことはその存在を消すという事。たとえ同じように作ったとしてもそれは俺の知るリインでは無い。
…まぁ、すでに俺やソラがなのは達とかかわった所為で未来はどうなるか分からないのだけれど。
だから、俺が例えリインフォースを見殺しにしたとしてもツヴァイが生まれるという保証はないし、生まれたとしてもこの世界で会った彼女と同一の存在になるとは思えないが…
「酷い人ですね」
すべての選択を俺に押し付けるはやてさんが。
「分かってる。自分がいやな人間だって事は十分に。だから少しそっちの世界の私がうらやましいかな」
「は?」
「なんでもあらへん。…過去の私の事、よろしゅうな」
それで話は終わりと退出させられた。
翌日。
ミッドチルダ外洋の周りに何も存在しない海の上に俺達は飛行魔法を行使して浮かんでいる。
大丈夫だとは思うけれど、何かあったときの被害を最小限にするためだ。
海の上故に見送りはなのはさんと彼女の掴まっているヴィヴィオ、フェイトさんにはやてさんとヴィータ、それとフリードに乗せてもらっているエリオをキャロとくらいなものだ。
他のメンバーとはそんなに仲良くなってないからね。一応挨拶は発つ前にしているけれど、そんなに多くは無かったな。
「それじゃ、お世話になりました」
「いや、私らも助かったし、おあいこや」
と、はやてさん。
「ばいばい、アオお兄ちゃん達」
「ばいばい」
ヴィヴィオの別れの挨拶。
「それじゃあ、元気でね」
「なのはさんも。ヴィヴィオの事は任せましたよ」
「うんっ!まっかせて」
ソラ達も各々挨拶をすませたようだ。
さて、後はグリード・アイランドから持ち出した指輪をはめて。
「ブック!」
聖騎士の首飾りを取り出して装着する。
リスキーダイスを取り出し、ここは大凶を引く可能性もあるが、成功率を大きく上げるために全員で一回ずつ振る。
どうにか全員大凶は引かなかった。
よし、後はトランスフォームで指定カードに擬態させていたアカンパニーとドリフトを聖騎士の首飾りの効果で元に戻す。
戻したドリフトは俺が持ち、アカンパニーをソラに渡す。
その後二十メートル以上離れてもらうことも忘れない。
「それじゃ、帰ろうか」
「「「うん!」」」
後はあの本の通りに魔法術式と忍術の複合技で時空に穴を開けてその中にくぐり…
「ドリフト・オン」
「アカンパニー・オン、アイオリア」
こうして俺達の長い未来滞在は幕を閉じた。
来た時と同じようにいびつな空間を何かに吸い寄せられるように飛んでいく。
後ろを見るとソラ達が俺を追うように飛んできているのが見える。とりあえず一安心だ。
落雷等はリスキーダイスが効いたのか自然と当たらない。
しばらくすると空間に切れ目を前方に発見する。どうやらそこへ向かっているようだ。
空間を潜るとそこは上も下も一面の青。
すぐに振り返りソラ達を確認すると閉じようとする空間からギリギリ全員抜け出せたようだ。
「わ、わわ!?」
「きゃっ」
「はわわっ」
すべてが青だと思っていたらどうやら俺たちは快晴の海上へと放り出されたようだ。
「おっと」
『スレイプニール』
ソルがすぐに飛行魔法を行使してくれた。
ソラ達もそれぞれ飛行魔法を行使してバランスを取っている。
そして俺たちは直ぐに戦闘態勢へと移行する。
なぜ戦闘かと言えば、飛び出してきた次元の裂け目の先には俺たちを未来へと送った張本人が居るからだ。
この可能性は、ドリフトを使う前にかなりの確率で有るのではないかと考えていた。
俺たちの移動は時空間を移動していた。だから、俺たちを吸い込むために開かれた裂け目をもう一度潜ることが出来れば目的の場所、同じ時間、場所に帰れる。
しかし、そうなると俺たちを飛ばした本人が居る訳で。
「なっ…?」
驚きの声が聞こえる。
しかし、その一瞬で俺たちはバインドを行使する。
「「ストラグルバインド」」
「クリスタルケージ」
いくつものバインドでぐるぐる巻きにした上で囲むようにピラミッド型の檻を展開する俺、ソラ、フェイトの三人。
「くっ!こんなものっ!」
憤るが、どう頑張っても脱出には2~30秒かかるだろう。その間に…
『スターライトブレイカー』
魔力素が流れ星を思わせるように光ながら、なのはの頭上へと吸い寄せられていく。
俺たちが作り出した時間はなのはの最大威力での一撃をチャージするだけの時間には十分だった。
なのはのチャージ中にクロノからの通信が入る。
『なにか虚数空間のようなものの中に吸い込まれたように見えたが大丈夫だったのか?』
彼からしたらおそらく一瞬の事だったのだろう。
「はい、まあ、なんとか」
そう言いつつ、四方一キロほどを結界を張って現実世界から隔離する。
なのはのスターライトブレイカーは角度的に海へ抜けるコース。
あの威力で割られた海が大量の津波を作って海岸へと押し寄せたらそれは死傷者が出るような被害が出るだろうと予測が出来る。
その被害を出さないための結界だ。
「うおおおおおおっ!」
エルグランドが吼える。
バインドが抜かれ、今にもクリスタルケージが破られそうになったが、どうやらなのはのチャージも完了したようだ。
「スターーーーライトォブレイカーーーーーーーーーーー」
ゴウッっとピンクの奔流がエルグランドを襲う。
余波が海を割り、海水が荒れ狂うようにうねる。
なのはの砲撃がやむと、空中に何とか浮いているエルグランドと、その上に浮遊しているジュエルシードを発見する。どうやら今の一撃で手元から離れたようだ。
エルグランドは四肢からは力が抜け、気絶しているようだったが、根性か、はたまた偶然か、その手に持ったデバイスだけは放していなかった。
まずいっ!
今の一撃でデバイスを吹き飛ばせなかったのは非常にまずい。
彼が転生者だとしたらデバイスは間違いなくインテリジェントデバイスだろう。
未だリンカーコアとリンクが解けていない状態のインテリジェントデバイス。これが意味する所は…
俺たちが行動するよりも速く、転送魔法陣がエルグランドの下に展開される。
そう、自己判断が出来るインテリジェントデバイスならば、魔法の行使が可能だと言うことだ。
俺たちはなのはの砲撃の余波に当てられないように距離を取っていた。今から小型のシューターを飛ばそうとも…
俺が放ったシューターが着弾するより速くエルグランドは転送魔法陣に消えていった。
「っ…クロノっ!」
通信ウィンドウのクロノに呼びかける。
『今追跡している。…エイミィ!』
俺の言わんとしている事を察したのだろう。すぐに指示を出すクロノ。
『…ごめん、クロノ君。ショート転移を繰り返されて見失ってしまったよ』
なんて事…
『すまない。未だに彼が行なった破壊で被害甚大で歓迎できる状態では無いのだが、アースラまで来てもらえるか?釈明と今後について』
エルグランドが俺たちを狙ったのは明白で、再度狙われる危険性もあるからとの事。
俺たちとしては直ぐに家に帰って母さん達に会いたかったのだが、俺たちの経験した時間も、この世界では流れていない。彼らからしたらほんの少し時間をくれと言っているだけだ。
…まあ、しょうがないか。俺たちはクロノの招待を受けることにした。
アースラに到着するとわりと被害の少なかった食堂へと案内された。
ほんの少し前に廃艦寸前のこの船に厄介になっていたと思うと感慨も深い。
席に着くとクロノが俺たちに謝った。
「すまなかった。君達に迷惑を掛けてしまった」
「いや、それは別に良いんだけど」
さて、クロノが話してくれた内容は、要約するとなんで彼があんな凶行に走ったのか分からないと言った所。
俺たちが関わったジュエルシード事件。それもしつこくフェイトやなのはの事を追求してくる彼に対しては何一つ答えなかったクロノ。
会った事は無いはずと、クロノも不審に思っていたらしい。
しかし、唯一つ。度重なる彼の妄言とも取れる事柄のなかで、ポロっと口にしてしまった、「そんな事にはなっていない」と言う言葉がきっかけで、取り乱し、ジュエルシードを強奪して転移したんだって。
「それで?そのエルグランドの事はこれからどうなるんだ?」
それに少々渋い顔をしてクロノが答える。
「彼は管理世界の人間だからね。本局に指名手配の要請をした後、僕たちが捜索、捕縛の任に当たると思うけれど…」
本格的に逃亡されたら何年も捕まえられないかもしれないと。それともう一度俺たちに接触してくる可能性があるから気をつけるように。
現れたら直ぐに連絡をくれと言った。
それに否は無いので了承して、俺たちは海鳴へと戻った。
side エルグランド
ちくしょうっ!
オリ主は俺のはずだろう!?
魔力量も俺のほうが圧倒的だったはずだ。
なのになんだ!?あのなのはとフェイトのそばに居るイレギュラーは!?
いや、分かっている。あれも俺と同じように転生者だろう。
なのは達のそばから排除しようとした結果は敗退。エクス(正式名称エクスカリバー)のおかげでどうにか逃げることには成功したが…
くそっ!
出るときにアースラぶっ壊してしまったからな…最悪犯罪者として指名手配か…
いや、フェイトやシグナム達だって犯罪行為に手を染めたが、管理局従事で事なきを得ている。
俺の魔力ランクはSSS。管理局ならのどから手が出るほど欲しいはずだ。
大丈夫。
だからとりあえず今後の事だ。
はやての所に転がり込むか?
いや、駄目だろう。
海鳴は奴等(アオ達)の領域だ。出くわす危険性が高い。
悔しいことに今の俺ではアイツらに勝てない。
強くなるには時間が足りない…
ふむ…これだけは取りたくなかったがスカリエッティの所で数の子ハーレムしかもう残ってないか?
もしsts編で管理局に捕まっても反省の態度を見せれば割と全員社会復帰していたしな。
いや、クイントさんを助けて中島家ルートも…いやいや、ティーダさんを助けてティアナルートも捨てがたい。
うーん、まずはミッドに行って見ないとどうにもならないか。
待ってろよ!俺の嫁達。
side out
久しぶりに俺たちの家の玄関を開ける。
ガチャ
「ただいま、母さん」
「ただいま戻りました」
「「ただいまー」」
中から母さんが顔を出す。
「あら、おかえりなさい。朝練は終わったの?」
その言葉を聴くのは懐かしく。また聴くことが出来てとてもうれしく感じた。
やっと…やっとだ。
やっと俺たちは帰ってこれたのだ。
「それで?今日の釣果は」
「「「「あ!?」」」」
俺たちの声が重なった。
後書き
sts編も終了です。
何とか無事に書き上げる事が出来ました。
とりあえずA’s編では、はのは達をすでに改変しまくってるから闇の書の暴走とかも無いかもですねぇ…多分長くはならないと思います。
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