戦国異伝
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第二百十五話 母子の和その十二
「返しの茶は」
「わかったか」
「私めが」
「そうしてくれるか」
「はい」
こう答えるしかなかった、東の方は。
「それでは」
「その様にな」
「しかし。妾は」
東の方は頷きはした、だがそれと共に信長にこうも言ったのだった。
「一度」
「梵天をじゃな」
「はい」
「聞いておる」
それも既にとだ、信長は答えた。
「それはな」
「左様ですか」
「しかし伊達家のことはもう決めた」
「梵天殿がですか」
「小次郎は分家とした」
東の方にもだ、信長はこのことを告げた。
「左様にな」
「分家にですか」
「そうした、もうお家騒動は起きぬ」
もっと言えば起こさせない、そう言うのだ。
「決してな」
「そうですか」
「ことは済んだ、後はじゃ」
互いの淹れた茶を飲み、というのだ。
「これからもそうせよ」
「では」
利休も双方に進めた、そうしてだった。
まずは政宗が茶を淹れた、彼は茶を己が母にも出してだった。そのうえでこう言った。
「では母上」
「はい」
「お飲み下さい」
「さすれば」
東の方も受ける、そして。
その茶を飲みだ、こう我が子に言った。
「よい味がします」
「いえ」
「優しい味が」
こう言うのだった。
「します」
「優しいですか」
「心が入っています」
他ならぬ政宗のそれがというのだ。
「ですから」
「そう言って頂けますか」
「では次は」
東の方は茶を飲み終えた、そしてだ。
今度は彼女が茶を淹れた、そしてだった。
その茶を政宗に差し出す、政宗はその茶を飲んで母に言った。
「美味いです」
「左様ですか」
「奇麗な味です」
それが東の方の淹れた茶の味だというのだ。
「これ以上はないまでに。それに」
「それにですか」
「これ以上にない味は」
また言うのだった。
「味わったことはありませぬ、ですから」
「それで、なのですか」
「これからも頂きたいのですが」
隻眼で母を見ての言葉だ。
「宜しいでしょうか」
「妾もです」
東の方も畏まって政宗に返す。
「貴方のお茶をです」
「これからもですか」
「頂きたいです」
「では」
こう二人で話す、そして。
ここまで話してだ、二人が一旦言葉を止めたところで信長があらためて二人に対して告げた。
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