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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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1~2期/啓編
  K5 わたしだって…だから…


 地下鉄に降りる階段前。響ちゃんが未来ちゃんに電話してるのを、おれは横で聞いてた。

「ごめん。急な用事が入っちゃった。今晩の流れ星、一緒に観られないかも」

 あくまでいつもの調子で電話口に語りかける響ちゃん。

 他の誰が知らなくてもおれは分かる。響ちゃんの胸にどんだけデカい傷が出来たか。明るい声に見せかけて、その声がスカスカのカラッポだってことも。

 おれ一人でやる、つったのに。


 “啓が翼さんとケンカしちゃったら大変だからね”


 なんて、笑顔で言われちゃ逆らえねえじゃん。
 殴りてえ。あの風鳴サンか、オトナか、おれ自身か。よく分かんねえけど殴りてえ。


 ――響ちゃんとおれがシンフォギア装者になってから、1ヶ月が過ぎた。
 当然だが、風鳴サンはなーんも教えてくれねえの。指導も訓練もなーんも。一人でばっこばっこノイズをぶっ潰してんの。

 さらに当然だが、おれたち姉弟にそんなバトルセンスなんてない。

 響ちゃんは出撃の穴埋めで課題が忙しいらしいが、おれはまだ中坊。部活さえサボれば時間はそこそこ捻り出せる。その時間で、了子サンに、ホログラムのノイズと戦える部屋を貸してもらって、プリトウェンを使う練習をしたりした。

 出撃? もちろん響ちゃんとコンビでに決まってんじゃん。響ちゃんはつい最近までケンカもしたことがないような、か弱い女の子なんだ。おれが守ってやらんでどーするよ。……もっともほんっとーに盾しか出せねえから、ノイズにトドメ刺すのは響ちゃんだけど。

 あーもー! アーサー王ゆかりの聖遺物ならせめてエクスカリバーとか剣系がよかった!

「ありがとう――ごめんね」

 響ちゃんが電話を切った。

「話、終わった?」
「うん。もういいよ。行こう」

 二人で地下鉄への階段を見下ろした。溢れんばかりのノイズの群れ。


             「 ――Ezehyte Prytwen tron―― 」


 響ちゃんに続いてシンフォギアを装備してから、地下鉄に降りてった響ちゃんを追っかける。
 当然ノイズがわらわらおれに向かってくるわけで。

 おれが何も考えず突っ込んだと思うなら大間違いだぜ。

 まずは右。小さめの丸いバリア。そんで左にも同じの。

 ノイズが迫る。両手に持ったバリアをぉ――打ち合わせて挟む!
 おっしゃ! イメージ通り。シンバル見てて思いついた使い方。ノイズはバリアに左右から挟まれて炭化した。いいぞいいぞおれ。

 響ちゃんに追いついて背中合わせに並ぶ。

「啓ッ」
「大丈夫。何が来ても響ちゃんには指一本触れさせねえ」
「うん、お願い!」

 響ちゃんはモーションがでかい分、隙が出来やすい。そこを狙うノイズを阻むのがおれのポジション。
 バリアフィールドを展開して、響ちゃんを狙ったアイロン型ノイズを盾に突っ込ませる。アイロン型ノイズは炭化した。

 響ちゃんはシロウトだけど、おれ、ケンカは割とやってるほうだぜ?

 ブドウの房っぽいノイズが、その房から球をいくつも切り離した。切り離した球は、爆発した。天井から瓦礫が落ちる。
 させるかよ! プリトウェン、ドーム展開!

「ふぅ。ありがと」
「どういたしまして」

 了子サンから「絶対防御のシンフォギア」なんてお墨を付けてもらえたんだ。これで響ちゃん一人守れなかったらおれその場で腹切るわ。

 ドームを解いたら、わらわらおいでなさるぜ、雑魚ノイズの群れ。

「――たかった」

 響ちゃんが飛び出して、ノイズをめちゃくちゃ蹴った。

「流れ星見たかった! 未来と一緒に! 流れ星見たかったぁ!」

 なんかやられるノイズに同情したくなるくらい、響ちゃんの攻撃がどんどん凶暴になってく。
 けどなお前ら、そいつは自業自得ってやつなんだぜ? 響ちゃんと未来ちゃんの約束は世界でそんくらい重いんだって――最期に学習して炭化しな。

「ま、待ちなさい!」

 響ちゃんがブドウっぽいノイズを追いかける。やべ。おれも行かねえと。


 ホームに出ると、響ちゃんは上を見てた。あのブドウ野郎、穴開けて上に出やがったのか。……あ?

「流れ星……?」

 青い流星? ちがう。そんな可愛いもんじゃない。一度見ただけでも忘れねえ。一度は響ちゃんの命を奪おうとしたあの光を。

 プリトウェンを足下にサークル展開。反発力を限界まで高めて。

「響ちゃん、ちょっと掴まってて」

 響ちゃんは首を傾げたけど、おれの腰にしがみついた。うわ、背中にモロに柔らかいあれの感触が!

「飛ぉ――べえ!」

 プリトウェンの防御の反発力を利用して、一気に穴を抜けて跳んだ。
 どっかの自然公園っぽいとこに出た時には、カタがついてた。

 両断されたブドウ型ノイズと、ゆっくり空から降りてくる風鳴翼。

 ……ムカついてきた。何様なんだよこいつ。覚悟がないとか構えろとか響ちゃんに言っといて、自分は遅刻してボスだけ持ってくとか。てかあんた一人でいいじゃん。そしたら響ちゃんも未来ちゃんとの約束破らずにすんだのに。

 ああ、ああ、ああーーもぉお!!

「あんたいい加減にしろよ! 響ちゃんが今日ここで戦うために、どんだけ重いもんを引き換えにしたと思ってんだ! そんなにノイズ退治が好きなら一人でやれよ! 人に迷惑かけてる自覚ねえのか!」
「啓ッ!」

 響ちゃんが叫んだ。それだけで体が震えた。

「やめて…お願いだから…」
「でも、響ちゃん…」

 響ちゃんは目をきゅっと閉じて、大きく首を横に振った。響ちゃんにそんな顔されたら、おれなんかもう口利けないじゃんかよ。

「わたしだって、守りたいものがあるんです!」

 響ちゃんが風鳴サンに向けて口火を切った。

「だから! 分かってほしい。翼さんにもあると思う、大事な物があるように。わたしにだって守りたいものがあるんです。だから――」
「だから? んで、どうすんだよ」

 この声。おれたちの中の誰でもない、女の子らしい声。

 雲が晴れて月が出る。

 月光の下に現れたのは、全身を白スーツで覆ってて、上半身だけやたらとゴテゴテしたバトルスーツの女の子だった。 
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