契約書
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4部分:第四章
第四章
「さて、どうしてくれようか」
「只では済ません」
「我等の怨み晴らさせてもらう」
「何処までもな」
その顔にはサディスティックでかつ醜悪な笑みがあった。その笑みのまま彼等はこれからのことに思いを馳せていたのだ。どうするかをだ。
「殺す」
「そうだ、殺す」
「それもできるだけ惨たらしくだ」
このことは決まっていた。しかもである。
「枢機卿様からの御言葉もある」
「そうか、リシュリュー様からか」
「それでは」
「あの男を消せとのことだ」
このことも言い添えられたのである。
「それも惨たらしくだ」
「それではです」
ここでまたミニョンが涼しい顔で述べた。
「これを出しましょう」
「これは」
「契約書か」
「悪魔との契約書です」
見ればそこには錚錚たる魔神達の名前が書き連ねられていた。ベルゼブブにアスタロト、アスモデウスといった顔ぶれである。それは当時のフランス、欧州社会において邪悪だとされる魔神達の名前が全て書かれているといってよかった。
そこにグランディエの名前もある。ミニョンはここでまた言うのだった。
この契約書を出せばあの男は終わりです」
「完全な止めか」
「まさに」
「はい、最早言い逃れはできません」
そこまでの力があるというのだ。
「例え言い逃れをしても誰も認めません」
「よし、それではだ」
「そえを見せよう」
こうしてであった。グランディエを逮捕した。そのうえで彼を怒り狂う群衆の中に立たせてである。そのうえで彼にその契約書を突きつけたのである。
「ここに名前があるがどういうことか」
ミニョンはそのことを問うたのである。
「これはだ。魔神達との契約のサインではないのか」
「そうだ、間違いない」
「それこそまさにだ」
「悪魔との契約書だ!」
「そうだ、間違いない!」
またしても群衆達の中から声がしてきた。
「やはり悪魔だったのか!」
「悪魔グランディエ!」
「地獄に戻れ!」
「死ね!殺せ1」
その声に煽られた群衆達が次々に言ってである。そうしてだった。
ミニョンがここでだ。このことを言った。
「ではそれではこれより取り調べる」
「はい、それでは」
「魔女裁判を」
それを行うというのだ。欧州におけるまさに絶対の恐怖であった。この裁判と取調べにおいては実質的にどんな捏造や惨たらしい拷問も許される。グランディエを今その拷問にかけるというのだ。無論これも彼等の目的の一環であった。
拷問は酸鼻を極めた。吊り上げられ焼いたヤットコで抓られた。
その間誰もが口を極めて問い詰める。
「さあ言え!」
「悪魔と契約したな!」
「罪を認めるのだ!」
だがグランディエは何も言わない。あくまで口を閉ざす。そのうえで何も喋ろうとしないのだった。
しかしそれで拷問は終わらなかった。彼等はさらに拷問を行った。
ジョウゴを口の中に押し込んでそのうえで水を注ぎ込んだ。腹が膨れ上がると人がその上に乗って踏み付ける。すると水だけでなく胃液や血まで吐き出す。恐ろしい苦しみを彼に与えるのだった。
しかしそれでもだった。グランディエはまだ何も言わない。もっともそれは彼等の嗜虐をさらに高めさせるだけでしかなかった。
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