エターナルトラベラー
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第五十三話【sts編その2】
持ち出すカードも決めた俺たちはこの世界を後にする。
「それじゃ、後で」
俺はこれからエレナさんの所に向かい、カードを選ばなければならない。
だからソラ達には先にゲームから出てもらう事にする。
「うん。わたし達は先に戻ってるね」
なのはが代表してそう答えた後、3人は離脱を使ってこの世界から脱出した。
グリード・アイランドに入ったときと同じような空間に一人の女性が此方を出迎えた。
知らなければ入場の彼女と同一人物かとも思うが良く見れば髪形等違う所が見受けられる。
「やっと来たか」
「お久しぶりですね、エレナさん」
「イータから聞いた時は本当に驚いたわよ。あ、ソラフィアとはさっき話したわ。彼女が島を出るときに少し干渉してこの場所に来てもらうようにしたからね」
「そうですか」
それから少しの間エレナさんと他愛の無い会話を続けた後、俺はカードを選びゲームをクリアした。
ゲーム機が保管されている部屋へと転送されたはずの俺。
しかし、出現したのは木が焼ける匂いがする地面。目の前には瓦礫の廃墟。
は?どこ?ここ。
どうやら火の手も上がっているようで、辺り一面煙が立ち込めている。
「なんだ!?」
驚きの声を上げるとそれに言葉が返ってきた。
「あ、アオ!戻ったんだ」
振り返るとゲーム機を側に置き、バリアジャケットを展開し、サークルプロテクションを発動して周りの煙から隔絶し、負傷している局員を治療魔法で簡単にだが治療しているフェイトの姿。
「どうなっている!?」
「私も良く分らないの!?私達が出てきたときには既にこうなってた」
こうと言うのは目の前の瓦礫の山か?
辺りの地形と合わせて見れば目の前の瓦礫は機動六課の隊舎でここは隊舎裏の林か?
「直ぐに私達はゲーム機本体を持って倒壊していた部屋を出たんだけど、ゲーム機の安全を確保したらソラとなのははもう一度中に入っていっちゃった。私はここで脱出途中で見つけた局員の保護と治療、あとはゲーム機の保管を頼まれたの」
なるほど。見ればシャーリーを始めとした何人かの局員の姿が見える。
しかし何故こんな事態になったのかは分らない。
「フェイト!俺も中へ行って来る。またここを頼めるか?」
「任せて!」
ソルを起動してバリアジャケットを纏い、六課隊舎へと突入する。
途中念話でソラとなのはに連絡を取るとそれぞれ要救護者を担いで林に向かっているとの事。
ソラが『円』で生命反応を確かめた所、未だあと一人取り残されているらしい。
直ぐに俺も『円』を広げて確認する。
いたっ!
このまま通路を真っ直ぐ行った所に一つ気配がする。
近づくと壁を背にして倒れこむように気絶しているヴァイスさんを発見する。
「ヴァイスさん!」
呼びかけるが反応が無い。
「くっ!」
辺りは今にも崩れ落ちそうだった。
俺はヴァイスさんを抱き起こすと直ぐに来た道を引き返した。
「アオ!」
「お兄ちゃん!」
戻ると先に戻っていたソラとフェイトの姿が見える。
「ヴァイスさんで最後?」
気遣わしげになのはが聞いてくる。
「後は生命反応は感じられなかった」
「まだです!?まだシャマルさんとザフィーラが正面玄関で戦ってくれていたはずです」
俺の言葉を聞いて錯乱しながらそう訴えたのはようやく意識を取り戻したシャーリーだ。
「それにヴィヴィオちゃんが…」
「ヴィヴィオがどうしたって!?」
「攫われたの…攫われちゃったの!うっうう…」
まだここ(機動六課)にやっかいになっていたと言うのか!
正面玄関付近で傷つき倒れていたシャマルとザフィーラを保護。さらに気絶しているエリオとフリード、さらに呆然としているキャロを保護し、救助部隊が駆けつけてくるまで待機する。
結局保護されたのは明け方だった。
重症者はそれと気づかれないように神酒を吹きかけて治療していたお陰でどうにか死傷者は無かった。
俺たちは六課隊員に付き添うように病院へと付いて行った。
隊員達の手術も無事終わり、命に別状はないらしい。
慌ただしかった病院も少しずつ落ち着きを取り戻してきて、すでに日は沈んでいる。
六課隊舎が壊滅してしまったことで行き場をなくしてしまった俺達。
何度かはやてさんに連絡を取ってもらおうと思ったが、俺たちに割く時間が取れないらしく、結局はやてさんとは会えずじまい。
部隊長の立場故に凄く忙しそうに駆けずり回っている。
まあ、なんかとんでもない事件が起こったのは明白だから邪魔にならないようにしているのだけど。
どうにか連絡のついたフェイトさんに話したら何とかホテルを取ってくれるとの事。
それまでの間になのは達はもう一度シャーリー達のお見舞いに行ってくるとの事。
俺も誘われたけれど、誘いを断ると病院の中庭で先に待っていると告げた。
星を見上げながらなのは達が来るのを待っていると、後ろから声を掛けられた。
「こんな所に居たんだ」
その声で振り返るとそこには表情には出ていないが若干憔悴していそうな感じのなのはさんの姿があった。
「どうした?忙しいんじゃないのか?」
「あの…あのねっ…」
何か言い辛い事があるのか、胸元でぎゅっと握っている右手が震えている。
「まかせてって…言ったのに…わたし…アオ君に任せてって…」
………
「やくそくっ…守れなかった…ヴィヴィオがっ…わたしっ!」
ついには泣き出してしまった。
「うあっ…うあああああぁぁぁぁぁぁっ」
ヴィヴィオについて、わずかばかりだが、病院のベッドで治療を終えたシャーリーから話は聞いていた。
なのはさんにとてもよく懐き、慕っていたと。
それ故に自分の手元から離すのを躊躇うくらいにはなのはさん自身もヴィヴィオの事が好きだったのだろう。
二人で手を繋いで歩くその姿は本当の親子のようだったとシャーリーは語った。
攫われたのならば殺す事は無いだろう。
どう言った理由で攫ったのかは分らないが、ヴィヴィオには利用価値があったのだろう。
ならば現状で命の危険は無いはずだ。
…命の危険だけは。
「それで?なのははどうするの?」
「どっ…どうって…?」
俺の言葉に嗚咽を抑えて問い返した。
「ヴィヴィオが攫われた。でもそれで、なのははどうするの?ただ泣いているだけ?」
「もちろん助けるよっ!絶対っ…何があっても助けて見せる」
「うん」
「その為にはやてちゃんが無理をしてわたし達が現場に行ける様に調整してくれている」
「うん」
「わたしははやてちゃんを信じてる。だから絶対ヴィヴィオを助けるチャンスはあると思うっ!」
「うん。だったら大丈夫だね」
「っえ?」
「大丈夫。きっとヴィヴィオを助けられる」
なのはさんに近づいて人差し指の甲で両頬を流れる涙を掬う。
「うぐっ…」
涙を掬われるのは恥ずかしかったのか、なのはさんの口からそんなかわいい声が漏れた。
「助ける力も、助ける機会もあるのなら、後は全力で頑張るだけ。大丈夫、なのはには助けてくれる仲間がいっぱいいる。絶対大丈夫だよ」
「………ありがとう」
うわー、我ながら臭い台詞だったわ…でもまあ、効果はあったか?
しばらくすると、自分の現状を確認できるくらいの精神状態を取り戻したらしいなのはさんが今度は真っ赤になってうろたえている。
「わわわっ!?わたし!?なんて事を!?まさか人前で泣いちゃうなんて!それに男の人に慰められちゃうなんて!?」
一通り騒いだ後どうにか落ち着きを取り戻したなのはさんは、どうにか忘れようとして話題を変える。
「そっ、そう言えば、アオ君達がここに居るって事は戻るために必要なアイテムは手に入ったって事?」
「そうだね。確実に帰れるとは言えないけれど、多分大丈夫じゃないかな」
竜王アイオリアが俺自身だった場合、俺自身がいつの日かあの本を記した事になる。となれば、彼は帰ったはずだ。あの、母さんが居る海鳴へ。
「そっか…いつ帰るの?」
「…そうだな。直ぐにでも…と言いたい所だけれど、まず俺たちを保護してくれたはやてさんにきちんと挨拶しなければならないし、今はこんな状況でなかなか余裕も無いだろうから、今すぐと言うわけにはいかないかな」
本当は今すぐに帰りたいのだけど。
「そうなんだ」
「とは言え、無一文だからね。ここで生きる気が無い以上、出来るだけ早く帰らなければならないね」
今は衣食住共はやてさん達に頼りっきりだ。
「…そうだね」
俺の言葉に少し表情が曇る。
「…寂しくなるね」
寂しいか…
とは言え、彼女らと過ごした時間はグリード・アイランドに居た時間よりも少ない。
ヴィヴィオとの邂逅なんてそれこそほんの一日だ。
だけど…
俺はたった一日だけ出会った少女の事をソラ達に打ち明け、相談する事にした。
後日、ようやく何とか時間が取れたようではやてさんが俺たちが滞在するホテルへと訪ねてくれた。
ホテルに備え付けのソファを勧め、俺たちはベッドに腰掛ける。
「ごめんな。もう少しはよう時間が取れたらよかったんやけど」
「いえ、今は大変な時期ですからね」
そう言ってもらえると助かると彼女は言った。
「それで、全員で帰ってきたゆうんは無事に帰還アイテムを取得できた言うことでええか?」
「はい」
「そうか。それでいつ帰るん?今私らこんな状況やから見送りとかはできへんけど。無事に帰れることを願ってるわ」
「そうですね…それはあなたに借りを返してからですかね」
「は?」
眉根を寄せていぶかしげな表情をするはやてさん。
「保護してもらって、衣食住の面倒も見てもらった。この世界で何も持っていなかった俺たちに差し伸べてくれた手は義務や同情などであっても俺達は感謝しているんです」
「いや、それはぜんぜんきにせぇへんでもええよ?当然の事をしたまでや」
その当然の事と言い切れるはやてさんは本当に優しい人だろうし、そうと分っていてもそれを実行できる人は少ない。
「まあ、邪魔だと言うならば直ぐに俺達は帰ります。…だけど、今の事件を解決するのに俺達の力を使ってみませんか?」
「はぁ?」
数日後、俺達はつい一月ほど前に乗艦した戦艦、アースラへと乗船している。
このアースラが機動六課の臨時本部兼住居だとはやてさんに言われたときは失礼ながら頭の螺子がいかれたのかと思ったけれど、実際、移動式の本部と言うのは中々にフットワークが軽いのではなかろうか?
この船が廃艦間際だという話を聞いて船内を見渡すと、やはりあちこちくたびれた様子がうかがえる。
この世界に来て初めて時間の流れをうかがわせる物に感慨を感じる。
なのはさんとかは、まぁ驚きの方が先に来て感慨とか感じる暇がなかったからねぇ。
先日のはやてさんとのやり取り。
その結果俺達はまだこの時代に居る。ヴィヴィオを助けるために。
ヴィヴィオを助ける。ただそれだけだが、そう単純には行かない。
俺達に出来るのは戦力の供給だけ。
まあ、昔取った杵柄で潜入や諜報も出来ないわけじゃないけど、今は必要ないだろう。
管理局地上本部の襲撃という大きな事件になっているのだし、メンツを賭けて事態の鎮圧に向かうだろう。
一種の権力の誇示だ。そこに部外者は立ち入れない。
だから正規の手段でヴィヴィオを助けるために俺たちは今はやてさんの好意で『嘱託魔導師試験前見習い所属』と、かなりグレーゾーン…いや、アウトだけど今の混乱に乗じてはやてさんの直属で六課に協力できる戦力としての立場を手に入れた。
この事ではやてさんにはいらない苦労をかけるし、俺達が帰った後にも迷惑を掛けてしまう。しかしそんな俺達の頼みを嫌な顔しないで引き受けてくれた。
戦力が足りないという現状に打算的な思惑があったとしても、俺はそれに感謝している。
ヴィヴィオを助けるために何かしたい。それは俺の我がままなのだから。
アースラ内、訓練室にて。
今、目の前でなのはとエリオの模擬戦が行われている。
「はぁっ!」
エリオが手に持ったストラーダを横なぎに振るう。
それをバックステップで回避したなのはは着地し足で踏み込んでレイジングハートでチャージ。
「ふっ」
模擬戦なのでバリアジャケットを抜くような事はしない。
「がぁっ!」
ズザザザーーッ
両足で地面を擦って衝撃に耐えるエリオ。
「横なぎをかわされた後に若干硬直時間がある。なのはに反撃されて分っただろうが強者相手にその隙は命取りだ。相手が機械ならば尚更だ」
「はいっ」
俺の叱咤の声に負けじと返事を返すエリオ。
何故なのはとエリオが模擬戦をしているかと言うと、エリオに頼まれたからだ。
この間の撃墜で思うことが有ったらしい。
最初は俺にお願いしてきたのだが、デバイス同士での魔導師戦では同じ長物が武器のなのはの方が得るものが大きいだろうとなのはに頼んで変わってもらった。
最初は女の子であるなのはに遠慮するようにストラーダを振っていたが、その攻撃が全く通用しないと分るとがむしゃらに当たる様になった。
「もう一度お願いします!」
「うん」
なのはもエリオの真摯さに手加減はするが真剣に対応している。
エリオは年齢にしたらその技術は高い方だ。電気への魔力変換資質にも恵まれ、高機動戦闘やその突破力は凄まじい物があるだろう。
しかし、まだまだ経験が足りていない。
「ストラーダ!」
エリオが吼える。
『ヤヴォール』
ストラーダから力強く魔力が噴出する。
「ああああぁぁぁぁぁっ!」
気合と共になのはに向かって飛びかかる。
ブーストされたストラーダに振り回されるように自身を回転させた後、何故か回転を活かすわけでもなく、回転方向に振り上げたストラーダを逆方向に戻すように振り下ろす。
「はぁっ!」
その攻撃をあえて前に突っ込むように動き、槍のリーチを活かせない懐にもぐりこみ、レイジングハートを片手で持ち、開いた右の掌手を当てて吹き飛ばすなのは。
「わあああぁぁぁぁああっ」
吹き飛ばされて背中から地面に叩きつけられたようだが、バリアジャケットのお陰でそれほどダメージは無いようで、直ぐに立ち上がった。
「まだまだストラーダの威力を制御できていないみたいだね」
そう俺は結論づけた。
「…はい…すみません」
とは言え、ほんの数日前に成長のために施しておいたデバイスリミット、それのファイナルリミットを解除したばかりようなので仕方ないといえば仕方ない。
しかし現場では仕方ないでは済まされないので今、時間のあるうちにモノにしようとエリオは励んでいるし、俺達もそれを手伝っている。
まあ、基本はそんなに変わっていないだろうからそんなに時間は掛からないだろうが。
「わわっ!大丈夫?ちょっとふっ飛ばしすぎちゃったかな?」
自分で吹き飛ばしておいて心配しているなのは。
「いえ、大丈夫です」
「そう?それよりわたしなんかが練習相手でいいの?」
「はい、いろいろ勉強になってます。さっきのデバイスではなくて掌手による一撃なんて考え付きませんでした」
「まあ、エリオ君なら電気変換資質もあるから、纏わせて、例えガードされても叩きいれるだけでもダメージがあると思うよ」
「はいっ!」
ビーーッビーーッ
その後もしばらくの間エリオの習熟に付き合っていると突然アラートが鳴り響く。
その音で俺達は訓練室から作戦会議室へと移動する。
会議室へと到着するとそこにはモニタに各所の映像が流れていた。
地上の守りの要たるアインヘリヤル。
…巨大砲塔を全て無効化されてしまったようだ。
すると、映像データを此方へと流してきたのだろうか。敵側からの映像が流れてきた。
玉座のような物に座らされ、さらに拘束されている。
『ママ…ママッ…こわいよぉ…ママーっ』
「ヴィヴィオっ!」
先に部屋に居たなのはさんが映像を見て叫んだ。
映像からヴィヴィオの叫び声が流れる。
その光景をさまざま見せ付けるように送ってくる敵に俺も心底怒りの感情が高ぶる。
あれは此方を煽っている…いや、もしかするとあざ笑っているのか?
「……っ…」
なのはさんが息を呑み、体を震えさせてその映像を受け止めている。
その体から血の気が引き、今にも倒れそうだったが、そこは気丈にも倒れる事は無かった。
その震える手を取り、そっと握り締める。
「っ…アオ…くん?」
「大丈夫」
俺の言葉で少しだけ、ほんの少しだけだけど震えが弱まった。
「…うん」
今は多くのものを守る立場に居る彼女。しかし、そんな彼女を守ってやれる人は多くない。
そんな彼女をほんの一瞬でも守ってやれたのならいいな。
後書き
六課協力がかなり強引な形になりました…が、見逃してください…
正直、帰る手段を手に入れたのならさっさと帰れよ!と作者も思わなくありません。が、しかし、stsを話しに絡ませる以上ヴィヴィオ救出及びゆりかご撃破は外せないかと思い、かなり強引ですが話しをそちらに持って行かせていただきました。
六課参入理由がご都合主義すぎて稚拙すぎるとの批判は受け付けませんので悪しからず。
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