書かれないこと
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2部分:第二章
第二章
「帝をですか」
「何の不都合がある?」
女は平然として彼に言葉を返してきた。
「若し帝に対して何もしなければ」
「その時は」
「我等がやられる」
そうなるというのである。
「そして帝がおられなければ」
「だからですか」
「ならば答えは一つしかない」
こう言うのである。
「そうじゃな」
「しかしです」
初老の男は怪訝な声で言う。部屋の中は暗くその顔はどれもはっきりとは見えない。しかし三人共互いがよくわかっていた。
「それをされては」
「どうだというのか」
若い男が彼に問うた。
「それで」
「まず何を言われるかわかりません」
周囲の評判を気にしての言葉である。
「それに」
「それに?」
「後世で何を言われるか」
彼はこのことも気にしているのだった。声にそれがはっきりと出ている。
「そうしたことを考えますと」
「できぬというのだな」
「ここは少し柔らかにすべきです」
「柔らかというのか」
「そうです」
そうするべきというのである。
「帝の魚警戒を解かれそのうえで時を見て譲位を得られれば」
「駄目だ」
「それはもうだ」
しかしであった。彼の言葉は二人によってすぐに否定された。
「その時ではない」
「最早動くしかない」
二人はこう言うのである。
「だからこそ」
「剣だ」
「左様ですか」
「そなたには今までの地位を与える」
「そなたの一族もだ」
二人は初老の男に対してこうも告げた。
「わかたな、これで」
「それでよいな」
「わかりました」
初老の男もここで遂に頷くのだった。
「それでは。その様に」
「よし、これで決まりじゃな」
「はい」
若い男は女の言葉に頷いた。
「それではその様に」
「そなたには私の手伝いをしてもらう」
「御意」
こうして話は終わった。この密談の後で帝は狩の獲物であった猪を御覧になられた。その時にふとこう仰ったのである。
「よい猪だな」
「はい、確かに」
「見事な大きさです」
側近達も帝の御言葉に頷いた。
「では召し上がられますか」
「この猪を」
「そうさせてもらう。だが」
ここでだ。帝はある二人のことを思い出された。そうしてそのうえでこうしたことを仰られたのであった。
「しかしだ」
「どうされたのですか?」
「一体」
「この猪の首は何時でも斬ることができる」
その猪の首を見ての御言葉である。
「しかし斬りたい者の首を斬れればな」
「帝、それは」
「その御言葉は」
側近達は慌てて帝の御言葉を止められた。
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